第16話 ヒカル奴隷になる

 試合が終わって,その翌日,彩華,琴弥,ヒカルは,相変わらず医務室にいた。


 その医務室に,剣流宗側の剣術と符篆術の教官が来た。彼らは,医務室に入るなり,土下座した。


 剣術教官「ヒカル選手,大変,お忙しいとは思いますが,わたくしどもの早乙女宗主様にお目通りをお願いします。なにとぞ,この通りです」


 彼は,一冊の剣術の本をヒカルに渡した。それは,『剣術奥義書』と書かれていた。


 剣術教官「この書物は,S級レベル以上でないと習得は困難だと言われている奥義です。もしかしたらヒカル選手なら取得できるのではないかと思いまして,秘蔵書ではありますが,ヒカル選手に,しばらくの間,貸与させていただきます。これを謝礼として受けとっていただき,なにとぞ,早乙女宗主にお目通りをお願いします」


 今度は,符篆術の教官が,1冊の符篆術の本を琴弥に渡した。


 符篆教官「琴弥選手,その大変貴重な符篆術の書物を,琴弥選手にしばらく貸与させていただきます。それで,なにとぞ,ヒカル選手と同様に,早乙女宗主にお目通りをお願いします」


 この依頼に,一番腹が立ったのは彩華だ。


 彩華「ねえ,あなたたち,わたしには何もないの? わたしは,無視ってわけ?」


 剣術教官と符篆教官は,お互い,顔を見合わせた。已むなく,妥協案を出した。


 剣術教官「もちろん,彩華選手にも,早乙女宗主は,ぜひお目通りを望んでおられます」

 

 剣術教官は,腕バンドに装着している匕首を採りだして彩華に渡した。


 剣術教官「この匕首は,名工・雲山師匠が作成したものです。今回の試合では,錬金術の試合を行いませんでしたが,錬金術の選手なら,雲山師匠が作製した匕首だと言えば,垂涎ものです」


 彩華は,その匕首を見て微笑んだ。


 彩華「え?ほんと?そうなの?」

 剣術教官「もちろんです。彩華選手も早乙女宗主に会っていたけますね?」

 彩華「OK!ヒカルや琴弥も連れていくから安心してちょうだい」


 彩華は,すっかり上機嫌になって,テキパキとことを進めていった。


 かくして,余計な彩華が一名追加で加わってしまったが,彩華,ヒカル,琴弥の3名は,早乙女宗主と面談することになった。

 


 ー 剣流宗 宗主邸の応接室 ー


 早乙女宗主は,余計な彩華が来たものの,成り行き上,やむをなかったとの剣術教官から連絡を受けた。


 仕方がないので,彩華も引き抜きの対象とした。


 彩華たち3名が応接室で待っていると,早乙女宗主と彼女の女性秘書が来た。


 早乙女宗主「わたしが早乙女宗主です。隣にいるのは秘書の真里香です。あなたがたをここに招いたのは,あなた方をこの剣流宗に勧誘するためです。どうです? 気覇宗を辞めて,剣流宗に来ていただけませんか?」


 彩華「・・・,そうですね,,,うちの宗主は,最近,ウソばかり言って,少々気に食いません。でも,これまで育ててくれた恩義があります。そう簡単には換えることはできません」


 早乙女宗主「ええ,分かっています。ですが,あなた方は,先の陣法の試合で,わざと陣盤を地中に埋めないで,地表に設置して,最大威力が発揮するようにしたのでしょう? しかも,選手が防御するのは困難だと知っていて。それって,言い換えれば,殺人行為をしたことになります。ことを大げさにして,あなたたちを,厳罰に処することだってできるのですよ」


 彩華「確かに威力が増すのは知っていましたが,あそこまでの威力になるとは思ってもみませんでした」

 

 早乙女宗主「ことは,重大な決心を要求することになりますので,すぐに決めるのは困難でしょう。

 そこで,わたくしどもの人的被害の補填として,あなた方の宗主に,1ヶ月間,あなたたち3名を,ここに居てもらうように,宗主に依頼しました。あなた方の宗主は,本人が同意するならOKと返事をもらいました。

 もちろん,あなた方も同意してくれますね?」


 ヒカルや琴弥は,どうでもよかった。だが,彩華はごねた。


 彩華「ここに居てもいいですけど,何か,特別なメリットはないのですか?」

 早乙女宗主「では,毎日,豪華な料理を提供しましょう」

 彩華「それは,最低条件です。それ以外に,修行のプラスになることはないのですか?」

 早乙女宗主「彩華は,先の試合でS級前期にレベルアップしたのでしょう?ヒカルはS級での中期か後期ね?琴弥もそれくらいかな?」


 その実,ヒカルは仙人クラスになっていて,そのヒカルと,ここ数日間,双修をした彩華と琴弥は,S級中期に達していた。

 

 ヒカルは,隠してもあまり意味がないと思って,正直に話すことにした。


 ヒカル「わたしから言いましょう。わたしは,たぶん,仙人クラスになったと思います。琴弥と彩華はS級中期のレベルだと思います。

 尚,琴弥は,加速技に秀でています。そのため,今では20倍速を越えるレベルになっています」


 その早乙女宗主は,かなり驚いた。彩華や琴弥は想定内だが,ヒカルが仙人クラス?! うそーー!と思いたくなる! S級から仙人クラスのギャップは,半端ないギャップだ。

 

 ヒカル「われわれのレベルにとって,この剣流宗は,どのような方法で修行をつけてくれるのですか?」


 この質問は,早乙女宗主にとっては,かなりきつい質問だ。早乙女宗主は,S級中期のレベルだ。彼女のレベルでも指導することはかなり困難だ。


 早乙女宗主は,隣にいる秘書の真里香を見た。だが,彼女にだって答えは持っていない。でも,笛吹仙人が去り際の言葉が気になった。もしかしたら,そこに打開策があるのでは?


 秘書「実は,,,数日前,笛吹仙人様が,剣術の試合で,琴弥様と引き分けた直後だったかと思いますが,わたしに,変な言葉を言って,去って行きました」


 秘書は,意味深な言葉を言って,言葉を続けた。


 秘書「彼は,人の身で,加速10倍を超えることは,まず不可能だと言っていました。つまり,琴弥さんはヒトではない。

 そうなると,もしかしたら,多数のミイラ死体を生み出した桜川城を壊滅した大妖怪・水香の可能性があると云っていました。

 それを確かめるため,しばらく留守にすると去っていきました」

 琴弥「・・・」


 秘書「琴弥様,その意味がわかりますね? わたしたちは,琴弥様が,大妖怪・水香ではないと知っています。でも,その異様な能力がある以上,琴弥様が大妖怪・水香だと言えば,誰でもすぐに信じると思います。

 わたしとしては,この琴弥様は,大妖怪・水香ではないと大きな声でいいたのですが,,,」


 この言葉に,彩華が反応した。


 彩華は,自分たちが過大に要求できるような立場ではないことを理解した。


 彩華「わかりました。もう腹の探り合いは不要です。1ヶ月間,こちらでお世話になります。ただし,美味しい料理だけはよろしくお願いします」


 このことに早乙女宗主がニコニコとした。


 早乙女宗主「ご心配なく。最上級のもてなしをさせていただきます。それと,あなた方の身分は,わたしの直弟子という立場になっていただきます。いいですね?」


 この言葉に,初めてヒカルが言葉を発した。


 ヒカル「わたしは,ここでの1ヶ月間,符篆術をさらに深めたいと思っています。符篆術の指導教官の弟子にさせていただけないでしょうか?」

 

 この提案に,彩華や琴弥もまったく異論はなかった。彼女らも符篆術をさらに習得するのは望むところだ。


 早乙女宗主「わかりました。では,そのようにアレンジします。ですが,ひとつだけ条件があります。2日に一度は,われわれの門弟と,模範試合をしていただきたいと思います。あなたたちも,体がなまってはいけないでしょう?」

 彩華「ひとり1時間程度でしたら,協力させていただきます」

 

 かくして,この時点から,彩華,琴弥,ヒカルの3名は,剣流宗の符篆教官の弟子という立場になった。


 ・・・


 翌日の夕刻,慰労会が開催された。でも,宿舎にいる気覇宗の選手たちは,すでにほぼ回復しているのだが,病気の感染を広げることを恐れて参加しなかった。


 この慰労会で,彩華は,気覇宗の宗主にニコニコ顔で言った。


 彩華「宗主,わたしたち3名は,1ヶ月間,剣流宗に留まって,符篆術をさらに習得することにします。それは,いいのですが,宗主,あの約束,覚えていますね?」

 宗主「ああ,覚えている。20点以上の大差で勝ったらという話だったな」

 彩華「はい,そうですよ。聚気丹をくれるって約束でしたよね?」

 宗主「お前,陣法の試合で,相手選手を5名,致死に追いやったんだぞ。そのせいで,結局,気覇宗は,気含石200個を渡す決断をしてしまった。つまり,最終的に,勝敗の点数は,逆転してしまった」


 彩華「ええーー? そんなことになっていたのですか?」


 宗主「やむを得んかった。それで,なんとか,陣法の試合で,お前たちにお咎めなしということにしてもらった。彩華,その責任はどうやって償うんだ? 一生,お俺の性奴隷にでもなるか?」


 彩華「・・・,宗主,あの,,,ちょっと,別の急な用事を思い出しました。これで失礼します」


 彩華は,コソコソとその場を去っていった。


 宗主「フン!」


 宗主は,そう言ったものの,貴重な聚気丹を温存できたので,ちょっと嬉しかった。


 

 ・・・


 その翌日,気覇宗一行は去っていった。彩華,琴弥,ヒカルを置いて,,,


 その日の午後,ヒカルは,ひとりで早乙女宗主邸を訪問した。



 ー 宗主邸の応接室 ー


 ヒカルは,ひとりで,早乙女宗主と秘書の真里香と面談を持った。


 早乙女宗主「やっぱりね。ヒカルひとりで来ると思っていたわ。フフフ」

 ヒカル「ボクがここに来ること,知っていましたね?」

 早乙女宗主「だいだいね。だって,わたしのところに,大妖怪・水香の情報があつまるからね。ヒカルは,その情報が知りたいんでしょう?」


 ヒカル「はい。ぜひ,教えてください。それは,ボクにとって大事なんです。今後,どのような立場で水香と接すればいいかの判断材料になりますから」

 早乙女宗主「ただでは教えないわ」

 ヒカル「宗主の死っていること,全部教えてください。そしたら,わたしの知っていること,すべて教えます」

 

 彼女はニコニコした。ヒカルを自分側の見方にできるとの判断だ。


 早乙女宗主「この国はね。表面的には争っているように見えるけど,情報共有機能は,徹底しているのよ。過去に大妖怪が何度も現れて,この国全体が壊滅の一歩手前に陥ったことが何度もあったからね。

 ここ数日,笛吹仙人は,桜川城の壊滅現場に赴いて,目撃情報がないか探ったのよ。そしたら,どうやら空飛ぶ剣を扱う仙人と大妖怪・水香が戦ったという目撃情報が多数入手できたわ。ほら,この文章を見て。笛吹仙人が伝書鳩で飛ばしてくれた情報よ」


 早乙女宗主は,薄い紙辺を数枚,ヒカルに見せた。そこには,細かい文字で,要点だけ書き込まれていた。


 早乙女宗主「つまり,剣上仙人と大妖怪・水香が戦ったってことよ。その結果,大妖怪・水香が勝った。でも,剣上仙人は殺されなかったの。それは,あなたが一番知っているでしょう? フフフ。剣上仙人は,気覇宗であなたを預けた後,情報共有のため,真天宗に向かったはずよ。だから,笛吹仙人も,真天宗に向かったわ」


 ヒカル「真天宗?」

 早乙女宗主「簡単に言うと,武林界の元締め的な存在ね。すべての情報は,真天宗に集まるのよ。そこからなら仙界にも行けるしね」

 ヒカル「つまり,大妖怪・水香は,そのうち,殺されてしまうのですか?」

 早乙女宗主「それは知らないわ。桜川城は壊滅したけど,その後,大妖怪・水香は,大人しくしているから。もっとも,先日,近くの盗賊団が壊滅させられたって話だけど,さほど大きな騒ぎになっていないようだしね」


 ヒカル「宗主,ぜひ,大妖怪・水香の情報,すべてを開示してください。お願いします」


 ヒカルは,頭を下げた。


 早乙女宗主「では,ヒカル,あなた,わたしの奴隷になりなさい。もっとも,期限付きで3ヶ月間にしてあげる。どう?いいでしょう? それと,特例として,わたしの命令を拒否する権利を3回与えてあげるわ。それで,ヒカル,あなた,真天宗の情報や,仙界の情報まで,入手できるのよ。絶対お得だと思うわ」

 

 ヒカルは,3ヶ月くらいなら,まあいいかと思って同意した。


 早乙女宗主「では,最初に命令します。今後は,わたしと一緒にベッドを共にしなさい。これについては,拒否権はありません。

 それと,まず,あなたが大妖怪・水香に会った経緯,彼女が持っている能力,そのすべてを詳細に説明しなさい。その後,わたしから,彼女の知っている情報を開示してあげるわ」


 ヒカル「わかりました。では,説明します」

 

 ヒカルは,大妖怪・水香に会った経緯と,彼女が持っているであろう能力について,推定も交えて詳細に語った。


 早乙女宗主は,ニヤニヤして,ヒカルの体をいやらし目で見た。


 でも,お楽しみは後だ。早乙女宗主は,仙人レベルのヒカルと交わることで,自分がさらにレベルアップすることを期待した。


 まあ,それは置いといて,ヒカルの話が終わったので,早乙女宗主は,これまで集めた情報のすべてを委細漏らさず,説明してあげた。自分が,ヒカルの見方であることを強くアピールするためだ。

 

 だが,彼女の説明は,仙人や仙界止まりで,禍乱や神界などの情報はまったく含まれていなかった。


 先の,水香と禍乱の戦いは,禍乱が展開した大爆風の影響もあってか,目撃されていなかった。


 とにもかくにも,ヒカルは,早乙女宗主の性奴隷にされてしまった。

 

ーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る