第15話 試合ーその3
翌朝,彩華と琴弥は,元気よく目覚めた。しかも,気のパワーが共に,S級中期に達していた。
これは,ヒカルが一晩中,彼女らと双修を繰りかえした結果だった。1回の双修で,初級前期から中期に回復する。それを10回繰りかえしたことで,彩華と琴弥は,S級中期にまで達してしまった。
彩華「あら? いつの間にねてしまったのかしら。でも,元気百倍って感じだわ」
琴弥「わたしもそんな感じよ」
彩華「今日は,煉丹術の試合だけど,他の選手,参加できるかしら。ちょっと様子を見てくるね」
彩華は,股間に残っている粘液を気にせず,簡単にズボンとTシャツと道着を着て,宗主の元に出向いた。
しばらくして,彩華が戻ってきた。
彩華「どうも大変な状況になってしまったみたい。みんな,下痢は治ったようだけど,体力が大幅に減退してしまい,太刀の悪い風邪を引いてしまったわ。宿舎に泊まっている選手,全員に感染してしまったみたい。これでは,今回の試合,全部,わたしたち3名で試合を進めないとダメだわ」
琴弥「ええーー?」
彩華「琴弥は,煉丹術,符篆術,陣法・陣盤術の中で,できるものある?」
琴弥「いえ,ありません。ヒカル様に煉丹術の基礎的な本は読み聞かせたくらいです。ヒカル様も,たぶん,ド素人レベルです」
彩華「・・・」
彩華は,宗主と相談した内容を琴弥とヒカルに伝えた。
彩華「では,宗主の言葉を伝えます。煉丹術はわたしひとりで参加します。ボロ負けになってしまいますが,幸い,武術と剣術で,多少余裕があります。
問題は,明日の符篆術です。もうすぐ,符篆術の教官がここに来ます。彼から,即席で符篆術を習ってもらいます。符篆術は才能の勝負。あなたがたに才能があると信じて,徹夜で符篆術を習得してください。覚えることはそう多くありません。才能さえあれば,丸1日で基礎レベルを超えて初級レベルになることだって,夢ではありません」
琴弥「・・・」
ヒカル「・・・」
そう言って,彩華は試合に参加するために出ていった。折り返し,大きな機材を持って,符篆術の教官が入ってきた。
教官「彩華から話を聞いたと思う。今から,3ヶ月分の内容を丸1日で覚えてもらい,実践してもらう。一分,一秒も惜しい。すぐに説明する」
教官は,余っている机を移動させて,そこにヒカルと琴弥を座られて,ポイントポイントを説明していき,その都度,実践させていった。具体例として,通信符,着火符,着氷符,催眠符,催淫符,爆裂符,封気符などの図案を覚えさせて,練習用の紙と,筆を用いて,どんどんと書かせていった。その際,気を一定にして筆に注入させるのが最大のポイントだ。
実際の本番で書くときは,符篆筆に,猛獣の高レベルの『気』を宿した血を筆に吸わせて,さらに,安定した気の流量を筆に流して,慎重に符篆紙に図案を描いていく。1枚作成するのに,低レベルのものなら,15分,複雑なものなら1時間以上もかかってしまう。気の消費も甚だしい。上級レベルの生徒でも,1日に,2枚か3枚書いたら,気が枯渇してしまうほどだ。
だが,教官は,ヒカルや琴弥は,ともにS級,それも中期か後期レベルだと睨んでいる。ならば,気の枯渇など,さほど心配する必要はない。どんどんと練習させて,描かせていった。
・・・
一方,煉丹術の試合では,まず,煉丹用の炉を選ぶことから始まる。その炉は,剣流宗側が準備し,不公正にならないように,気覇宗の選手が先に選ぶようにしている。もっとも,彩華しか参加してないのだが。
でも,それは,決して,マイナスなことではない。一度に煉丹するのは10個で,気含石は,いくらでも使用できる。3個でも6個でも12個でもよい。多ければいいというものではない。それだけ,気の制御が煩雑になり,失敗する確率が大きくなる。
煉丹10個のうち,7個煉丹できたらゼロ点,8個で1点,9個で2点,10個で3点が与えられ,6個ではマイナス1点,5個ではマイナス2点と,マイナスが増えていく。だから,気覇宗は彩華しか出場させなかった。
下級レベルの丹薬1個でゼロ点,中級で1点,上級で2点となる。この試合で煉丹する丹薬は止血丹と相場が決まっている。止血丹なら,気含石3個だけでも,うまく気の制御ができれば,1,2個くらいは,上級止血丹を煉丹することが可能だ。そのため,煉丹師の力量を見るには,最適な課題内容となる。
煉丹に要する時間は,およそ4時間。最初の30分は,主催者側から提供された材料から最適な材料を選ぶということろから始まる。途中で,一度,煉丹が失敗しても,また,たとえ,煉丹できたとしても,点数が低いとわかれば,再度,やり直しがきく。再度,挑戦できる時間を与えている。
煉丹術の試験が終了した。
彩華は,気含石6個を使って煉丹した。その結果,10個すべて煉丹に成功したので,3点を獲得した。さらに,上級止血丹3個で6点,中級止血丹5個で5点,下級止血丹2個でゼロ点の合計14点を叩き出した。
気覇宗エースの面目躍如といった感じだ。
一方,剣流宗側の5名の選手は,成績のよい順番に,9点,8点,6点,6点,5点で,合計34点だった。その差,20点!
この程度の差は想定内だ。それでも,ここまでの総合点では,まだ気覇宗がかなり有利だ。
気覇宗の宗主は彩華を呼んだ。
宗主「彩華,さすがだな。よく差を20点に留めてくれた。次は,彩華は不得意かもしれんが,今から符篆術を練習しなさい。徹夜で頑張ってくれ。符篆術で差が大きく開かないところまでもっていけば,最後の陣法・陣盤術で大差で負けても,体勢に影響は少ない」
彩華は,宗主の顔まじまじと見た。
彩華「宗主,剣術の試合と武術の試合の合計で,20点以上も差が開きました。約束,覚えていますか?」
宗主「ああ,覚えている。この試合,すべての競技の合計で差が20点以上,上回ったらという約束だったな。うんうん。まだ結果はでていないぞ」
彩華「・・・」
彩華は,宗主の悪知恵に閉口した。今度,約束するときは,紙に書いて証拠を残さないとダメだと痛感した。
ヒカルや琴弥が,一生懸命する理由,それは,気覇宗への恩義があるという理由もあるが,もし,ほんとうに符篆術で才能があるなら,その制作で身を立てたいという希望がある。
普通の門弟なら,2枚,多くても3枚も練習してしまうと,気の枯渇をもたらすのに,琴弥やヒカルは,何十枚描こうが,まったく枯渇しなかった。これには,教官がびっくりしてしまった。
そんな疑問を思っているところに,彩華が参加した。彩華は,そこそこの基礎知識と実践経験があるので,新しく教えるようなことは必要ない。実践あるのみ。
この彩華も,10枚以上練習しても,まったく気が枯渇することはなかった。
教官『え?彩華にしても,いったい,こいつらは,化け物か?!』
一向に疲れることなく,普通なら30分かかるところを,ヒカルと琴弥は5分程度で描いてしまう。多少,雑なところはあるが,そこを注意していくと,みるみると上達していった。彩華も,ヒカルや琴弥が5分で描いているのを見て,自分も,その短時間で描く練習をした。気を極度に集中させた。
何度か失敗したものの,5回に1回,成功した。それを何度も練習することで,5回に2回,3回と,成功させる確率を多くさせていった。
かなりうまく描けるようになると,実際の筆と符篆紙で制作させる。なんせ,筆も,血も符篆紙も,大変貴重なものだ。絶対に失敗しないだろうというレベルになってから描かせた。
朝の3時頃,教官は,もう教えることはないと判断した。
ここで,教官は,気分転換に,符篆術の歴史について説明することにした。
教官「そのまま練習しながら聞いてほしい。今から話すことは,符篆術の歴史的な内容になる。
その昔,符篆術は存在しなかったと言われている。というのも,陣盤術があったからだ。昔は,陣盤術を用いて,気強化陣盤,催眠陣盤,人形陣盤,爆裂陣盤,封気陣盤,結界陣盤などが存在した。陣盤のメリット,それは,陣盤の中央に気含石を詰め込む量に応じて,初級,中級,上級と容易に区別することができる。
当時の武芸者は,気強化陣盤を胸にしっかりと縛りつけて,時分のレベルを,2段階,甚だしい場合には,3段階もレベルアップさせて,敵を倒したという。
その陣盤を巨大化して,戦争に応用するために発展したのが,陣法となる。大規模防御結界陣法,大規模時限爆裂陣法などが有名です。
陣盤は,そこそこ重たいので,もっと軽量化できないかとさまざまな検討がされた。そこで生まれたのが,陣盤の図案を,特殊な紙に移し換えて,かつ,より簡便にしたのが,符篆術の始まりと言われている。陣盤に描かれている図案は,篆書文字で書かれているので,符篆術と呼ばれるようになりました。
符篆術には,気含石を使用しない。そのため,符篆紙,血,さらに描かれた図案にも気のパワーを込めなければならない。そのため,上級レベルの符篆師でも,1枚制作するのに,15分から30分,下手すれば1時間もかかってしまう。
わたしたちが習得を目指しているのは,この符篆術です。でも,世の中には,符篆術をさらに進化させたものがあります。
それは,気篆術と呼ばれています。符篆紙を使わず,血も使いません。この大気中に,『気』のパワーだけで篆書文字を書いて,術を発動させるものです。しかも,その描く速度は,わずか1秒か2秒!」
彩華「ええーー!そんなことができるのですか?」
教官「できます。わたしは,一度,それを見せてもらったことがあります。仙人や天女でも位があると言われています。伝説に出てくるのは,すべて,われわれ下界で潜伏して,強者であることに優越感を感じて生活する『低級仙人・天女』だと言われています。
彼らは,仙界で修行する機会がないため,気篆術を使えません。でも,仙界の武林できちんと修行した仙人や天女は,中級,甚だしい場合には,上級仙人・天女となります。彼らは,めったに下界に来ません。でも,彼らは,気篆術をすらすらと展開して術を発動させます。
わたしは,12年前,大妖怪が暴れた時があったのですが,低級仙人や低級天女でも討伐できなくて,上級仙人が出現したのです。その時,彼は,気篆術を発動させて,一瞬にして大妖怪を封印させてしまい,大妖怪を仙界へと連れていきました。
当時のわたしは,それを半死の状態でしたが,はっきりと目撃しました。感動でした。幻と言われた気篆術! それをこの眼で見れたのです。
いずれ,わたしも仙人レベルになって,仙界に行って,宗門を叩き,気篆術を習いたかった。
でも,,,残念ながら,わたしのレベルは,上級後期止まりでした。S級にさえ届いていません。
わたしの夢,,,もしかしたら,あなたたちの誰かが実現するかもしれません。符篆術を5分で描けるのでしたら,今後の修行次第では,もっと短縮させることができるでしょう。1分を切る時間で描けるようになれば,気篆術の入門の一歩手前くらいのレベルになっているのかもしれません」
彩華「ほんとに,そうなればいいですね。ところで,桜川城を倒壊したと噂されている大妖怪ですが,仙人は討伐に出向くと思いますか?」
教官「それは,間違いないと思います。歴史が証明しています。この世界は,10年か20年に一度,大妖怪が出現しています。その都度,仙人か天女が顕れて討伐,もしくは封印しています。今回も必ず出現するでしょう」
この話を聞いて,ヒカルは複雑な心境だった。自分は,いったい,どうしたいのか? 水香を助けたいのか,水香の討伐を手伝いたいのか,,,少なくとも,毒矢で助けられているのだから,その恩は返したい,,,
彩華「気篆術は別にして,符篆術を別方面で発展させている人たちはいるのですか?」
教官「いろいろありますよ。有名なところでは,蓮黒宗ですかね。壊滅した桜川城から南西100kmに位置する竹雲城,そこに蓮黒宗があります。蓮黒天女で有名ですが,そこは,矮小符篆術を得意としています。要は,小型の符篆術を得意とし,お守りや呪詛などに応用しています。商売用の符篆術といった感じでしょうか」
彩華「なるほど,,,教官に質問するのもあれですけど,煉丹術と符篆術,どちらが金儲けにいいと思いますか?」
教官「なんとも,ゲンキンな話ですね。需要があるのは圧倒的に煉丹師です。女性なら,まず煉丹師を目指すべきでしょう。基礎レベルでも初級レベルでも,薬問屋の煉丹師助手くらいにはなれます。そこで,さらに腕を磨けます。
男性で,武術,剣術に身を立てるなら,符篆術に精進するのがいいでしょう。符篆術は,攻撃の補助に有効ですから。
もっとも,本人の性に合っているかどうかが問題になりますけどね。
おっと,無駄話もこの辺にしましょう。もうそろそろ寝ます」
教官は,ベッドを借りて横になった。そして,それと同時に熟睡してしまった。
ヒカルは,この時を待っていた。極度に気を集中しすぎたので,気を発散する必要がある。寝ることなど不要だ。彩華も琴弥から母乳を分けてもらったので,寝るのは不要だ。
そして,,,彼らが気を発散するためにすること,,,うん,あれだ。
・・・
符篆術の試合が始まる1時間前,彩華に体を揺り起こされて,教官が目覚めた。まだ多少睡眠不足ではあるが,5時間ほど寝たので,そこそこ体調がいい。
彼は,朝の志度を済ませて,選手リストを作成して,気覇宗の宗主に提示した。
教官「宗主,ヒカルと琴弥は,徹夜で符篆術を習得しました。3ヶ月かかる内容を一晩で実践した感じです。基礎レベルを超えて,すでの初級に達しています。ときどき,中級レベルも成功しています。選手として出場していいレベルです。
彩華も,苦手意識を克服して,中級レベルに手が届くかどうかといった感じです」
宗主「そうか,,,よく一晩でそこまで到達したものだ。普通『気』は,そこまで持続できないだろう?」
教官「はい,まったくその通りです。その意味では,やつら3人は,まったく別次元のレベルです。なんか,化け物を見てる感じでした。記憶力のあまりよくないヒカルも,通信符,着火符,着氷符,爆裂符,催眠符,催淫符,封気符の7種類の図案,すべて完全に暗記できました。そこからの出題であれば,少なくとも下級符は問題ないと思います」
宗主「そうか,,,ヒカルと琴弥が元気でいてくれて,ほんと助かった。いなかったら,どうなっていたことか」
教官「ほんとそう思います。ボロ負けで,気含石を総取りされていたかもしれません」
符篆術の試験は,3種類の呪符を制作する。下級呪符で1点,中級で3点,上級で6点が与えられる。制作に失敗するとマイナス1点だ。制作時間は4時間で,使用できる符篆紙は9枚まで。猛獣の血もその分しか与えられない。
符篆符の試合が始まった。気覇宗からは,当然,彩華,琴弥,そして,ヒカルの3名が出場した。
出弾の内容が紹介された。通信符,爆裂符,そして催眠符の3種類だ。
試合が始まって20分後,,,
琴弥が席を立って,試合会場から去った。その後,ヒカルも席を立って去った。引き続き,彩華も席を立って後にした。
「え?やつら,試合を放棄したのか?」
「たぶん,そうだろう」
「やる気のないやつらだな」
などなど,くちぐちに批判していった。
試合が終わるまでは,提出用の呪符は誰にも見せることはできない。
一度,席をたってしまうと,もう席には戻れない。
彼ら3名は,また医務室に戻って,今度は,明日の陣法・陣盤術の講義を受けることになった。宿舎にもどると,風邪が移ってしまう懸念がある。医務室にいるほうが安全だ。
この講義では,陣眼を発見するための,基礎知識,注意すべき点などを勉強し,かつ,いくつかの基本的な陣法や陣盤術を暗記する必要がある。
やはり,3ヶ月で覚えるべき内容を,集中的に丸1日で習得,暗記する。
ヒカルは,このように集中的に勉強するのは,とても好きだった。今,この瞬間だけでも,無理しても暗記すればいいだけだ。
短期記憶でもいいから,暗記してしまえば,あと忘れてもいいという感覚は,ヒカルの性に合っていた。だらだら暗記するのは苦手だが,集中的に短時間で暗記するのは,決して不得手ではないこともわかってきた。人間,やる気になれば,意外と未知のパワーが発揮されるのかもしれない。
符篆術の試合が終了した。剣流宗側の5名は,もっとも高得点を出したのは,中級2枚と下級1枚を完成させた7点だった。あとは,5点が2名と3点が2名で,合計23点だった。
一方,気覇宗は,3名とも下級3枚を完成させて,合計9点だった。
この成績に,賛否両論が沸き起こった。
「え?下級3点をわずか20分で完成させた? それって,すごいのか?」
「いやー,俺,符篆術のこと,わからんから,すごいことなのか,どうかもわからん」
「でもよ,試合時間4時間なんだろう?20分で終わるのに,なんで4時間もかけるんだ? やっぱりすごいんじゃないのか?」
「でも,すべて下級レベルだぜ? あまりすごくないんじゃないのか?」
符篆術の常識を知らない連中は堂々巡りをしていた。
剣流宗の符篆術の教官は,開いた口が塞がらなかった。いったい,どんな裏技を使えば,3枚の呪符をわずか20分で完成させることができるのか? 下級レベルだとしても,超天才と言わざるを得ない。
早乙女宗主「教官,気覇宗の3名,なんで3枚の呪符をわず20分で完成させることができるのよ。教えてちょうだい!」
教官「はぁ,,,ちょっと,あの3名,ちょっと,,,異常な能力者だと思います。常識外です」
早乙女宗主「そんなどうでもいいコメント,不要だわ。それより,他の教官と相談して,彩華はどうでもいいから,ヒカルと琴弥,この2名を剣流宗に引き抜ける方法を相談してちょうだい。彼らがここを去るまでに方法を考えなさい!このままでは,あんた,もう首よ! 敵の教官は,わずか20分で3枚も描かせるほどの有能さなのよ。それに比べたら,,,もういいわ。さっさと行きなさい」
教官「はい!わかりました!」
符篆術の教官は,けんもほろろにその場から出ていった。
医務室で,陣法・陣盤術を教えている教官は,もう,喉がカラカラになってしまった。特にヒカルは,聞いて覚えるのが得意のようなので,教官は,徹底して言葉で説明していった。
翌日の朝4時,,,
教官「一通り,基礎,初級,さらに中級レベルの触りくらいは説明したつもりだ。重要な部分は,3回説明した。後は,実践で身につけなさい。わたしは,もう寝る。朝,8時になって,起きなかったら,起こしてほしい」
彩華「教官,了解でーす。しっかり寝てくださいねー」
彩華は,少し『ハイ』の状態になっていた。その後,彩華が昨日制作した下級催眠符を使って教官を完全に熟眠させた。その後,3名は,いつものあの行為で気分発散を行った。
・・・
陣法・陣盤術の試合内容は,団体戦となる。
陣法については,双方が,気含石20個を用いた半円球の防御結界を構築し,その後,相手が作成した防御結界の中に入り,防御結界が発動した後,その防御結界をできるだけ早く解除するのが試合方法だ。2回繰りかえし,その総合点で評価する。
勝った方が10点獲得する。解除できた時間が,30分以内なら20点,1時間以内なら10点,2時間以内なら5点,3時間以内なら0点,3時間以降ならマイナス5点となる。
陣盤術についての試合はない。現在では,陣盤術は,古典的な技術なので,試合する意味合いは低いからだ。それに,陣法でも,陣盤が使われている場合があり,その知識も試せるので,無理に陣盤だけの試合を設定しなくてもよい。
陣法の試合が始まった。
気覇宗の大将である彩華と,剣流宗の大将が審判の近くに来て,ジャンケンを行った。彩華が勝った。そこで,彩華は,サイコロを振った。すると,3番が出た。彩華は3番の紙を取った。剣流宗の大将は,6番だったので,6番の紙を取った。
彩華は,自陣に戻って,その紙をヒカルと琴弥に見せた。
♦-♦-♦
『ここに構築するのは,夢想幻術小規模防御結界となります。作業を9時30分から開始してもらいます。それまでに,当該陣法用の陣盤セットを仮設の陣盤倉庫から選別してください。
相手チームに陣眼をみつけにくくするように,いろいろと工夫して設置すること。
陣眼を配置する時間は,11時00分とし,その時に陣眼を発動させること。その後,土を被せて分からなくして,11時10分までに『選手待機の間』に移動して,相手チームを待つこと。相手チームが来たら,すぐに,相手チームの構築した陣法の内部に移動しなさい。移動完了は,11時20分までとする。
防御結界が構築されたら,陣眼を見つけること。ただし,掘る作業は不要です。陣内に置いてある1番から10番の旗を使って,陣眼と思われる箇所に刺していきなさい。尚,刺した時の時間を旗に記載することも忘れないように。
陣法は,作動後,3時間後に作動を終了します。尚,状況に応じて,事前に陣眼を取りだして,終了させる場合があります。
尚,非攻撃性陣法の場合,陣内に試験官が入ることもあります』
♦-♦-♦
彩華は,記憶力のいい琴弥に聞いた。
彩華「夢想幻術小規模防御結界って,覚えている?」
琴弥「はーい,覚えていまーす」
彩華「OK,じゃあ,それ用の陣盤セット持ってきてちょうだい」
琴弥「了解でーす」
琴弥は,陣盤セットが置いてある倉庫に行き,そこで,夢想幻術小規模防御結界用のものを選別して持ってきた。ここで選別できないと,点数がはいらないことになる。
陣盤セットは,陣眼用の大型陣盤1個と,各支点用の小型陣盤6個からなる。小型陣盤の配置方法によって,陣眼の設置場所が大きく変わる。しかも,陣眼の設置場所をよりわからなくするためには,できるだけ大きな陣法で,変則型を構築する必要がある。小規模の陣法の場合,最大で直径30メートルだ。
作業は,単純にした。深く掘ることもなく,ちょこちょこと掘って,埋めるだけの作業だ。それよりも,どのように配置するかで,いろいろと考えを練った。
設置がほぼ完了して,陣眼の発動スイッチをいつでも入れれる状態で待機した。
11時00分になった。琴弥が陣眼のスイッチを入れて,土を被せて分からなくして,指定された『選手待機の間』に移動した。そこでは,ほぼ同時に相手選手が来た。そこで,相手選手の準備した陣内に移動した。旗が10旗あるので,その近くに居ればいいことになる。尚,ひとりの試験官も陣内に入って来た。このことから,この陣法は,攻撃性でないことがわかった。
陣法は,発動させてもすぐには有効にはならない。20分程度の予備時間が必要だ。
その後,約8分後くらいに,陣法が発動した。周囲に,ピンク色ががった透明の防御結界が構築された。それでも,中の様子は,外側からの観客席からよく見ることができた。
この試験官は,催淫結界の催淫を解消する丸薬を飲んでいる。そのため,催淫に抵抗があった。
一番影響を受けたのは彩華だった。彩華は隣にいたヒカルに迫った。ヒカルにはまったく催淫が効かなかったが,彩華に付き合って,淫らな行為に付き合ってあげた。その実,その行為はヒカルの望むことだった。
ヒカルは,愛がないとあの行為はしないという考えを持っていた。しかし,最近では,そんな考えは,どこかに飛んでしまった。なんともいい加減なやつだ。
琴弥にも催淫は効果がなかった。ひとりで,小型陣盤の場所を探していった。陣盤の近くに来ると,陣盤の中央に配置された気含石の反応が大きくなる。
琴弥は,気の反応に鋭敏だ。小型陣盤の場所をすぐに探しあてた。彼女は,その場所に4番の旗を立てた。時間もあるようなので,少しその場所を掘ってみた。50cmも掘ると小型陣盤が出てきた。折角なので,中央部に設置している気含石を取り除いた。
その後,結界の周囲を歩いて,気の波動が特に鋭くなる箇所に5番,6番,,,,10番の旗を立てた。全部で6旗の旗が立った。その都度,土を掘り越して,小型陣盤から気含石を取り除いた。
琴弥は,6旗の小型陣盤の場所から,3本の対角線を引いて,その交点を中心に,だいたいどの辺に陣眼があるかを予測した。その推定した場所をゆっくりと歩いた。後は,気を一番強く感じる場所に旗を立てるだけだ。
琴弥『あっ,ここだわ。気のパワーが一番強いわ』
琴弥は,その地面が確かに掘られた跡のあることがわかった。すぐに掘れそうだと思ったので,ちょっと掘ってみた。1メートルほど掘ると,大型陣盤が出てきた。
琴弥は,大型陣盤の中央に埋め込まれた気含石をすべて取り除き,自分の懐に入れた。
彩華は,1番旗をそこに立てて,今の時間を書いた。試験が始まって50分後だった。
彩華の催淫状態は,陣法が作動してから20分後には解消された。それは,その20分間で,琴弥がいくつかの小型陣盤から気含石を取り除いたため,効果が低減したためだ。
だが,観戦者に彩華の自慰する行為を,ビッコを引いているヒカルが、麻痺していない右手で,彩華のあの行為を助ける姿が,観客から喝采を受けた。だって,Dカップの胸をヒカルが観客に見えるようにわざわざ揉んであげたのだ。しかも,ピンク色の透明結界が,なんとも卑猥さをさらに強調した。
後で,意識を取り戻した彩華は,剣流宗門弟の観衆の前で,自分が何をしたかを知った。でも,彩華は,意外と図太かった。済んだことは仕方ないし,あの状況ではどうしようもなかった。
何事もなかったかのように振る舞った。でも,どうして,自分の淫らな行為を観客に見せるようにヒカルは促してしまったのか,後でしっかりととっちめてやろう。
彩華の淫らな姿を見た試験官は役得だと思った。
・・・
一方,剣流宗の選手は,全員,催眠に誘導されて,眠ってしまった。そのうちのひとりが,30分後に,なんとかその効果を打ち消して,仲間を睡眠状態から解消してあげた。5名の選手が完全に催眠状態から解放されたのは1時間後だった。それから,結界の周囲を探して,掘った後などから,小型陣盤の位置を推定して,その対角線上にあるであろう陣眼の位置を,10箇所ほど推定して,旗を10旗立てていった。
この試合では,時間の節約のため,穴を掘って確認することまでは必要ではない。
10旗の旗を立て終わったのは,試合が始まってから1時間50分後だった。この時点で,剣流宗側の試験官が,試合終了を宣言した。
琴弥が,その試験官に,3番目に立てた旗だ正解だと説明したので,試験官が,3番目の場所に埋めてある陣眼を取りだして,起動スイッチをオフにした。その結果,催眠作用も防御結界も消滅した。
双方の採点結果が出た。剣流宗の選手は,5点を獲得した。気覇宗の選手も,琴弥が立てた1番の旗が正解だったので,10点を獲得した。勝利したのは,彩華たちのチームなので,さらに10点追加となった。
その結果,1回戦では,剣流宗が5点,気覇宗が20点獲得した。
その後,陣盤をすべて回収して,2回戦が開始された。
また,双方の大将同士がジャンケンをして,サイコロを振って,その番号の紙を持って帰った。
彩華が持って帰った番号は1番。火炎攻撃小規模防御結界の陣法だ。
琴弥「はいはーい,わたし,どの陣盤か分かりまーす。これ,基本ですから」
彩華「そうね。基本だものね。琴弥,選定して持ってきてちょうだい」
琴弥「了解でーす」
琴弥は何の苦もなく,目的の陣盤セットを選定して持ってきた。
彩華「2回戦は,あまりヒネる必要はないわ。きちんと,正しく6角形の頂点に設置すればいいわ。埋設も土をちょっと被せるるくらいでいいわ。その方が,威力が数段高くなるんでしょう?」
琴弥「はい,教官がそう言っていました。埋設すればするほど,陣法は発見されなくなるけど,威力もその分だけ弱くなってしまうって,言っていました」
彩華「火炎攻撃を強力にすれば,敵はおいそれと,陣盤を発見できないはずよ。仮に発見されて,この試合負けても,総合的に見れば,影響はほとんどないわ。
彩華,正確に六芒星の典型的な配置でお願いね。それが,最大威力を生むから」
琴弥「了解でーす」
琴弥は,ひとりで,7個の陣盤を設置していった。作業は簡単なので,ひとりでも30分もかからなかった。
双方の陣法の設置が完了したので,双方の選手が場所を入れ替えた。前回と同じなら,試験官が陣内に入って監視するのだが,どちらの試験官も陣内には入らなかった。双方の陣法が,攻撃性のものだからだ。
双方の陣法が起動した。防御結界が発動して,陣内から出ることが阻止された。
剣流宗の5名の選手がいる陣法は,火炎攻撃の陣法だ。
パシュー!パシュー!
動く物体に反応して火炎弾が発射される。動かないと,攻撃されない。でも,動かないと,陣眼を発見できない。
選手A「あれ?この火炎弾攻撃,威力がいつもより,数段増しているぞ。最大の気の防御でギリギリ躱せるかどうかというレベルだ。ちょっとヤバイぞ」
選手B「それって,気覇宗の連中も,こっそりと気含石を多く陣盤に詰め込んでズルしたってことですか?」
選手A「それはない。気含石はやつらは持っていないはずだ」
選手C「でも,動かないと,陣眼を発見できませんよ」
選手A「やむを得ん。2名と3名に分かれて,右回りと左回りに移動しよう。なんせ,動かなければ攻撃されないから,気を回復しつつ,移動するしかない」
その他の選手「了解!」
彼らは2名と3名に別れて,行動した。
パシュー!パシュー!ーー
埋設されていない陣法の火炎攻撃は,彼らが思っている以上にかなりの威力を持っていた。
琴弥は,前回の試合で奪った気含石がある。それを,今回の小型陣盤と大型陣盤に付け加えていった。それだけでも,威力が何倍にもなり,さらに地上に置いているだけなので,さらに威力を増す結果となった。
結界内の選手2名が動くと,2連発が発射され,3人が動くと,3連発が発射された。
そのため,彼らの気の防御1層で,1発目を相殺的に防御したとしても,2発目を阻止することができなかった。その結果,ひとりの選手が火達磨になって地表を転がった。その動きに乗じて,また火炎弾が発射された。火達磨になった選手は消し炭になってしまった。
また,しばらくして,別の選手が動いたので,攻撃されてしまった。彼の場合,気の防御が甘く,一発目の攻撃で,気の防御が破壊されて,そのまま道着に着火してしまった。そのあとは,推して知るべしだ。彼も,地表をぐるぐると回転して動いてしまったので,火炎弾の連続攻撃を受けて火達磨になって,消し炭になってしまった。
その繰り返しで,残り3名の選手は,遅い早いはあるものの,全員,消し炭になってその場から消滅した。完全に消滅するかのように死んでしまった。
「え?あれ? 選手が火達磨になって,そのまま消滅したわ。これって,どういうこと?」
「おかしいわね。その火炎弾攻撃,中級レベルの攻撃しかしないはずよ。十分に防御できるはずよ」
「でも,あの火達磨,,,どうみたって,火炎で殺されたとしか思えない」
などなど,観客は不安がった。試験官も,起きてしまったので,今さらどうしようもない。それに,陣法を止めるには,結界をくぐり抜けて,陣の内側に入って,陣眼を取り出さなければならない。つまり,強烈な火炎弾を受けることを意味する。そんなリスクを背負うことは到底できない。
一方,彩華たちは,風刃攻撃の陣法だった。しかも,その風刃の威力は,S級レベル! 普通の選手が防御できるようなレベルではない。
陣法を解除するのは琴弥の役目だ。琴弥が歩くと,シュパー!シュパー!ーー と超強力な風刃が襲った。
だが,そんな攻撃,琴弥の気の防御で軽くいなされた。
琴弥は,何も攻撃されていないかのように,小型陣盤を探した。地中から感じる気のパワーを強く感じる場所に旗を立てて,土を掘り起こし,小型陣盤から気含石を取り除いていく。その作業は前回となんら変わりはない。
ただ,前回よりも,のんびりと休み休み作業したので,すべての作業が終了するのに1時間半もかかってしまった。
琴弥は,1番の旗を立てて,大型陣盤から気含石を取り除いて,陣法の結界を消滅させた。
「あれ?また,結界が消滅したわよ。3時間以は持続するはずなのに?」
「そうなのよ。どうして,あの選手が1番の旗を立てたと同時に,結界が消えるのよ? ちょっとおかしいんじゃない?」
「それって,ずるってこと?」
「ズルじゃないと思うけど,でも,何か変な能力発動しているんじゃない?」
「え?でも気含石の気がなくなること以外,考えにくいわ」
「彼女,こっそり気含石を奪っているんじゃないの?」
「そうかもしれなしけど,そう考えないと,辻褄が合わないのよ」
「うーーん,,,」
琴弥は,相手チームの火炎攻撃小規模結界が消える時間いっぱいまで待つのはイヤだと言って,試験官の了解を得て,その結界内に入っていった。結界内に入るにも,少なくともS級中期レベルの気の防御が必要だ。
そんなことは,つゆも知らず,琴弥は難なく,その結界内に入り,火炎弾の攻撃を,涼しい顔で防御して,陣眼を取りだして,この陣法の動作を止めた。
この琴弥の行為に,誰もがポカーンとした。
「琴弥って,何? S級中期レベル?」
「あの防御結界をいとも簡単にすり抜けたのよ。S級中期,いや,後期かもしれないわ。もう宗主のレベルを超えているわよ」
「えーー! すっごーー!」
でも,男性陣からは,
「あのおちびちゃん,すげーー」
「うん,巨乳って,気法術と比例するんじゃね?」
「おれ,琴弥ちゃんにプロポーズする!」
「あほ!火炎攻撃を食わされて,陣法と同じく消し炭にされてしまうぞ!」
「そっか,やっぱり強者にならんとダメだな」
などなど,いろいろと言い合っていた。
剣流宗の陣営では,早乙女宗主が陣法・陣盤術の教官を呼んでいた。
早乙女宗主「陣法の5名の選手,あれ,5名とも死んでしまったの?」
陣法・陣盤術の教官は,冷や汗をかきながら,言い訳をした。
教官「えーーと,その,,,はい,結果的にそうなったと言わざるを得ません」
早乙女宗主「どうしてそうなるの? 火炎弾の威力って,中級レベルだったんじゃないの?」
教官「はい,,,それで,わたしも疑問になって,現場を検証しました。その結果,,,」
早乙女宗主「その結果?」
教官「はい,,,その結果,本来埋めて使用されるはずの陣盤が埋められていませんでした。表面に薄く土が撒かれていた程度でした」
早乙女宗主「それがどうしたの?」
早乙女宗主は,陣法に関しては,ほとんど知識がなかった。
教官「はい,地表にそのまま置いておくと,地中に埋めるよりも,2倍,場合によって,3倍くらいの威力を発揮します。しかも,気覇宗の選手が配置したのは,完璧な六芒星の配置でした。もっとも強力な配置図です。つまり,地中に埋めるよりも,4,5倍ほどの強力な火炎攻撃となってしまいました。
それだけではありません。本来,設置されるべき気含石の倍量が入っていました。予想するに,あの選手は,前回の試合で小型と大型の陣盤から気含石を取り除き,それを今回の試合で付け足していったんだと思います。
それは,まったく想定していませんでした」
早乙女宗主「・・・,ということは,相手側は,気含石を倍量にして,かつ,地表で,かつ正六角形で配置すると,強力な火炎攻撃が期待できると見越していたわけね?」
教官「・・・,たぶん,はい,そうなるかと思います。それに,総合点で,気覇宗が有利なので,仮に負けたとしても,体勢に影響は少ないと思ったのでしょう。それで,通常では考えることのない方法を採ったのだと思います」
早乙女宗主「わかりました。5名の亡くなった選手の親御さん対応については,事務部で対応してもらいます。もう下がっていいです。ただし,あなたは,今日限りをもって首です。明日中に,ここを去りなさい」
この言葉は,十分に予想されたことだ。
教官「・・・,はい,,,責任は重々感じております。2年間,いろいろとお世話になり,ありがとうございました」
教官は,深々と頭を下げて,その場から去っていった。
2回戦の得点が発表された。剣流宗側は,陣眼を3時間以降になっても発見できなかったものとみなして,マイナス5点,気覇宗側は,勝利点の10点と,2時間以内での陣眼の発見で5点で,合計15点となった。
1回戦と2回戦の合計で,剣流宗側はゼロ点,気覇宗側は35点となった。
5種目の総合点では,武術,剣術,煉丹術,符篆術,陣法・陣盤術の順番に,剣流宗側は2+7+34+23+0=66点,気覇宗側は,29+23+14+9+35=110点となった。
この比率で,計算すると,『剣流宗:気覇宗=37.5:62.5=300:500』となり,両者に割り当てられる気含石の800個を振り分けると,ちょうど,剣流宗側に300個,気覇宗側に500個という結果になった。
気覇宗の宿舎で風邪でダウンしている生徒の状態を考慮して,試合が終わったものの,気覇宗に帰るのを,2日ほど延期することになった。
試合が終了した日は,陣法で5名が死亡したため,その事後処理などのため,この日に夜に予定されていた慰労会は2日後に延期となった。
今回の試合で,5名もの死者が出たことは予想外であり,後味の悪い試合だった。
試合終了した翌日とその次の日も,双方の宗主や峰主,指導教官側が出席して,今回の試合のレビューと反省点,さらに,来年の試合内容をどうするかという打ち合わせを行った。
今回の試合については,問題点が多々出てきた。下痢,風邪,選手の中に,上級を越えてS級レベルの者が混じったことなど,議論すべき点が,山ほどあった。とても2日ほどでは,来年の試合をどうするかということまでには至らなかった。
ただ,少なくとも,危険な陣法・陣盤術の試合は今後,中止することだけは決まった。
また,気覇宗は,今回の試合で800個のうち,500個を確保したものの,剣流宗に死者が出たということ,その原因の一端が彩華たちにあることは間違いないことなので,彩華たちに責任を押しつけないという条件下で,200個を剣流宗に渡した。死亡した選手1名に40個を割り振った恰好だ。
この結果,剣流宗側が500個,気覇宗が300個ということに落ち着いた。
このことを前例として,どんな場合であれ,相手選手が死亡した場合,ひとり40個を差し出すというルールを明文化することにした。
早乙女宗主から,物的補填は,それでいいとして,死人が出た原因の彩華たち3名の選手を,人的損失の補填として,1ヶ月ほど,剣流宗にいてもらい,彼らが臨時の指導教官として,剣流宗の門弟を指導してもらいたいという要望が出された。
この提案に,気覇宗の宗主もいやとは言えず,本人たちが同意する条件でOKを出した。
それ以外に,S級レベルの選手の参加を認めないというルールについては,明文化できなかった。まだ,各自の実力を正確に判定する方法がないからだ。
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