第14話 試合ーその2(剣術)
剣術の試合が始まるので,双方の宗主から選手リストが提出された。剣流宗側からは,先鋒は大将で上級中期,2番手は副将で上級前期,3番手は上級前期,4番手は中級後期,5番手は上級中期の選手だ。
気覇宗からの選手リストは,前回と同様のメンバーだ。
剣術の第1試合が始まった。剣流宗からの選手は,大将で上級中期レベル。かなりの強者だ。しかも,かなりの名剣を持っていた。
一方,彩華は素手だ。剣など振るったこともない。だけど,素手で試したいことがある。以前,霊体の斬四郎が,木製の体で剣技を振るった技だ。
彩華は,右手から,気を放出して気の剣を構築した。完璧な実体化まではできておらず,剣状にうすく光った状態だ。この程度のことは,上級レベルになれば容易にできる。問題は,その気の剣が実用レベルに達しているかどうかだ。
大将「気の剣とは,随分と舐められたものだ。果たしてどれほどの風刃が放てるかな?」
大将は,愛剣を高速に十字斬りして,剣風刃の20回連続攻撃を放った。
パシュー!ーー
それを見た彩華は,回避不可と判断,気の剣で同じく剣風刃の20回連続攻撃を放った。
大将と彩華の放った剣風刃が空中で衝突した。だが,大将の剣風刃の方が威力が僅かに勝っていて,やや威力を低減させて,彩華を襲った。
バシュー!ーー
大将の剣風刃は,彩華の構築した気の防御によって完全に防御された。
彩華『気の剣でも,ある程度の威力のある剣風刃が放てそうだわ。もっと気を『気の剣』に集めることができれば,もっと強力な気風刃を放てるはず』
大将の剣風刃が防がれたことで,彼は,少々意外だった。
大将「さすがは,宗主の直弟子だな。剣技も少しはできるようだ。今の剣風刃が防がれたのは,少々以外だった。だが,まだ,俺も本気ではない。では,次は本気でいく」
大将は,剣にどんどんと気を込めていった。彼は,自己の最大レベルの気を注ぎ込んでいった。これで一気に勝負をつけるためだ。
彩華も同様に『気の剣』に気を込めていった。
5分後,,,
パシュー!ーー
パシュー!ーー
大将と彩華が放った剣風刃20回連続攻撃はほぼ同時に放たれた。彩華は,剣風刃を放った後,すぐに,自分の周囲に気の防御を展開した。
両者の剣風刃が再度衝突した。前回と同様に大将のものが威力がやや強かった。そのため,彩華のそれを破壊して,彩華に向かった。しかし,威力が大幅に低下した剣風刃は彩華の気の防御で,またしても消滅させられた。
彩華は,2度も大将の攻撃を防いだ。
これには,剣流宗の観戦者も,かなりびっくりした。
「彩華!すごいぞ!そのまま大将の技を防いでくれー!」
「あいつをギャフンと言わせてくれー!」
「彩華!勝てなくてもいいから,負けないでくれー!」
大将は,自陣の観戦者に評判がよくなかった。
大将は,気を大幅に消費してしまい,片膝をついて,呼吸を整えだした。
それをみた彩華は,全然疲れていないのだが,彼と同じく疲れたポーズをして,片膝をついた。
彩華は,別にこの試合,勝つ必要はない。引き分けに持ち込めば御の字だ。後は,琴弥がなんとかしてくれるからだ。
10分後,,,
やっと大将が『気』力を少し取り戻した。でも,もう自己最大の剣風刃を放つことはできない。
大将は,自分の体の胴体の部分にだけ気を展開して,気の防御を展開した。彼は,彩華も大幅に気を消耗しているものと見て,気の放出技は出してこないと踏んだ。
ならば,接近戦で彩華を切り刻むのみ!
彩華は,大将が剣を振るって,接近戦を挑んできたのをみて,分が悪いと判断,すぐに後方に引き下がって,小さな火炎球を10発繰り出して彼に放った。
火炎球のメリットは,小さい炎でも着弾すれば,道着を着火させることができ,かつ,気のパワーをさほど消費しない点にある。
大将は,火炎球が放出されたので,回避できるものは回避し,回避できないものは,剣でなぎ払った。
彩華は,今度は,やや大きい火炎球を5発,彼の胴体と頭部目がけて放った。そして,本命の小さな白色炎の火炎球を彼のズボン目がけて放った。
大将は,目に見える火炎球を尽く剣で一刀両断していき,彩華に迫った。
しかし,白色の火炎球を見落としていた。白色の火炎球,この火炎球は,別に特別なものではない。赤色よりも気を何倍も消費してしまうので,普通は誰もしないだけだ。最も,その分,熱量も高い。
白色火炎球は,大将のズボンにヒットした。そこは気の防御が施されていない。ズボンも耐火性だが,白色火炎球は,ズボンを燃やしていった。
でも,大将は,慌てなかった。なけなしの気のパワーを使って,水を繰り出して消火を試みた。だが,彼の場合,捻出できる水量などせいぜいドンブリ1杯程度だった。それで十分に消火できると思った。
ジューー!
水の大部分は,火炎に直撃せず床に落ちてしまった。直撃できた水は,少量だったため消火に失敗して蒸発してしまった。
大将は,この時になってはじめて,酸欠する消火方法を思いついた。胴体の気の防御を捨てて,その気の防御をズボン全体を覆い,かつ,完全に大気と遮断させた。
シュー!
ズボンの白色火炎球は瞬時に消火した。
だが,彩華は大将に消火活動をしている間,待ってあげるほど,お人好しではなかった。胴体部分の防御が消滅したので,その部分に大きな赤色火炎球を放った。それは,防御のない上着に着火した。しかも,一瞬で火の勢いが服全体に及んで,髪の毛も着火した。
大将は,もはやこれまでと観念して,火だるま状態のまま場外に飛び降りた。
ズボーン!
大将は水槽に落ちて,やっと消火が成功した。
剣流宗の剣術教官は,顔が真っ青になった。もし,今回の剣術の試合で,気覇宗に負けるようなことになったら,確実に首だ。
剣術教官『でも彩華は,気の剣であそこまでの剣風刃を放出できるのか。上級中期,いや,もしかしたら,上級後期になっているかもしれん。しかもあの強力な火炎球を繰り出されては,どうしようもない』
そんなことを思っているとき,彼は早乙女宗主に呼び出された。
剣術教官「お呼びでしょうか?」
早乙女宗主「大将でも,あの彩華に負けてしまったわね。どう?このままで勝てると思う?」
剣術教官「・・・,正直言って,難しいかもしれません。あの彩華,もしかして,上級後期になっているかもしれません。剣風刃をあれだけ放出して,尚且つ,火炎球を,連続で放出できるのですから」
早乙女宗主「どう? わたしの後ろに控えている選手,副将の代わりに出場させてはどう?」
剣術教官「え?でも,選手リストは提出済みですよ」
早乙女宗主「それって,名前だけでしょう?彼の名前も副将と同じよ。問題ないわ」
剣術教官は,宗主の背後にいる少年を見た。確かに背恰好だけなら,15歳か16歳に見える。でも,なぜか,かなりの熟練者のような雰囲気を持っていた。
剣術教官「わかりました。副将の代わりに彼を出場させます」
彼は,この場所に副将を呼んで,同姓同名の彼と出場を代わってもらうことになったことを告げた。副将は,不満だったが,従うしかない。それに,同姓同名の人物なんて,同じ剣流宗にいなかったはずと思ったものの,“大人の事情”と思って,素直に従った。
2回戦が始まった。
新しい副将が競技場に立った。
「あれ?あんな奴,いたか?」
「いや,初めてみる」
「でも,なんか,手練れの雰囲気を感じるぞ」
「俺もそう思う。すでにS級に達しているんじゃなのか?」
「え? それって,ルール違反じゃないのか?」
「シーー! それは言ってはいけない。だって,S級が出場していけないことになっているが,それは暗黙のルールであって,明文化してしないって話だ」
「ということは,S級でも出場OKってこと?」
「まあ,,,そうなるかな?」
そんな雑談があちらこちらから聞こえた。
彩華も,対面している副将が,強者であることはすぐにわかった。
彩華『これはまずい。次の琴弥と同等,いや,それ以上の強者かもしれない。ならば,,,わたしとの戦いで,少しでも疲れさすしかないわ』
彩華は,小手調べとして,気の剣を構築して,剣風刃の10連撃を放った。
副将は,腰にぶら下げた笛を取りだして,そこに気を流した。その笛は剣状に変化した。
「ええ?笛が剣に変化したぞ?!」
「そんなバカな?!でも,すげーー!」
「いや,あり得る!もし,あの笛が仙器だったら,剣に変化することくらい屁でもねえ」
「仙器? それって,伝説じゃねえのか?」
「でも,伝説じゃなかったら?」
「うーーん?わからん」
観客は適当に好き勝手なことを言い合っていた。
副将は,その剣を軽やかに振って,彩華の剣風刃をすべて霧散させた。
彩華は,その際に,剣の形状が,少し変化したことを見逃さなかった。
彩華「あなたの剣,『気の剣』が進化したものね? 『気』でそこまで実体化できるなんて,すごいわね。S級でも無理だわ。ということは,,,あなた,,,せん,,」
副将「おっと,暴露話はそこまでにしてもらおう。その代わり,時間いっぱいまで,俺は受けに徹する。せいぜい頑張って攻撃するんだな」
彩華「嬉しい提案ね。こんな機会,めったにないわ。ではお言葉に甘えます」
攻撃してこないのがわかっているなら,防御に廻す『気』も必要がない。彩華は,火炎の矢を用いた火炎弾,氷結の矢,水流の矢を,それぞれ5分間ずつ,副将に向かって連続攻撃した。
そんな試合をみていた剣術教官は早乙女宗主にいろいろ質問と感想を述べた。
剣術教官「宗主,彼は,いったい誰なんですか?あの剣,『気の剣』ですよね。あそこまで実体化できるのは,もう仙人クラスですよ。え?まさか,伝説の笛吹仙人?」
早乙女宗主「そうよ。彼が笛吹仙人。先代の宗主よ」
剣術教官’「でも,先代は,仙人レベルになる前に宗主の座を譲ったはずではなかったのですか?それに,顔が若すぎますよ」
早乙女宗主「そうよ。彼は強者を求めて旅に出たのよ。そこで,3代目の笛吹仙人と遭遇したらしいわ。そこで,実力を買われて,4代目笛吹仙人となったのよ。その際に,仙人術も習得したらしいわ。そのひとつが,若返りの術! 1,2時間しかできないらしいけど,この剣術の試合を終了させるには充分な時間だわ」
剣術教官「なるほど,,,彼が先代の宗主でしたか。どうりで,どこか面影があると思っていました。でも,あの彩華,あれだけ,気の連続攻撃して,よく持ちますね。しかも,時間が経過するほどに,威力が増しているようだ」
早乙女宗主「そうね。あのような現象が生じるのは,レベルアップの兆候だわ。彩華,彼女,もしかして,上級後期からS級に変わるかもしれない」
剣術教官「え?彩華は,確かまだ17歳だったと思いますよ。それでS級ですか? なんとも,末恐ろしいですね。笛吹仙人を出場させることで,逆に,彩華のレベルアップを促してしまった感じですね。敵に塩を送るって,このことですよ,フフフ」
早乙女宗主「わたしも,今,思えば失敗したと思うわ。みすみす笛吹仙人の高度な技を相手に見せてしまうから。でも,勝利のためには,やむを得なかった判断だわ」
闘技場では,彩華が,火炎弾,氷結の矢,そして,水流の矢攻撃がちょうど終わったところだ。そのいずれも,副将,その実,4代目笛吹仙人の気の防御と,笛を媒体にした『気の剣』によって,ことごとく阻止された。
笛吹仙人「彩華,俺に防がれたとはいえ,見事な連続攻撃だ。上級レベルの選手だったら,この攻撃を受けて防ぎきれる者はいなかっただろう」
彩華「ふん,敵を倒せない攻撃なんて,意味がないわ。わたしもまだまだね。レベルアップしたような錯覚を覚えたけど,どうも違ったみたい」
笛吹仙人「いや,今の攻撃の最中,彩華は,S級前期にレベルアップした。俺が保障しよう。そう理解しないと,あれほどの連続攻撃をするのは不可能だ」
この言葉に,彩華の顔は,パッと微笑んだ。
彩華「え?ほんと?うれしい!!」
笛吹仙人「だが,敵に塩を送るのはここまでだ。では,この辺で,彩華には退場してもらおう」
笛吹仙人は,その場でパッと消えた。消えたように見えた。その次の瞬間,彼は彩華の真横に出現して,両手の掌打を放った。
ドーン!
彩華は,彼が消える瞬間,気の防御を構築した。その防御ごと,掌打を受けて,場外に吹き飛ばされて,水槽に落ちた。
女性が落ちると,なぜか,衣服がまくれ上がってしまう。彩華も道着とTシャツ,さらに下着もろとも,完全にまくれ上がって,彼女のDカップの胸が露わになった。
「やったー!彩華のおっぱい,丸見え!!」
「これは,ご祝儀だ!副将!よくやったーー!」
「副将ーーばんざーーい!!」
救いは,この世界では,携帯や小型カメラがないことだ。もしあれば,撮影されて,彼らのあの行為のお供にされただろう。
カメラ機能を持つ仙器は,売られているのだが,一台金貨5千枚(5千万円相当)もするし,オークションでしか購入することができない。貧乏な選手が持っているはずもない。
剣術教官「さすがは笛吹仙人ですね。一瞬でけりがつきましたね」
早乙女宗主「当然の結果よ」
剣術教官「でも,気覇宗からクレームが来ませんかね?」
早乙女宗主「彩華がレベルアップしたって分かるから,クレームはできないでしょうね。それに,前の武術の試合で大勝ちしているから,この剣術の試合で連続して負けても,影響はほとんどないはずよ」
剣術教官「なるほど,,,確かに笛吹仙人と試合できる機会は貴重ですからね」
水槽に落ちた彩華は,観客の選手によって救い出された。彩華は,顔を真っ赤にした。上半身,丸裸同然な状況だったからだ。
大きなガウンを着せられて,彩華は,気覇宗の宗主のもとに行った。
彩華「宗主,あの副将,どうみても,仙人クラスです!ルール違反です!」
宗主「フフフ,でも,そのお陰で,お前,レベルアップしたのではないのか? S級前期,たいしたものだ。もしかしたら,琴弥もレベルアップするかもしれん。そんな貴重な試合,放棄する手はない」
彩華「そうかもしれませんが,,,20点差で勝つことができなくなります,,,」
宗主「まあ,それは絶対にない。もしそんなことがあったら,全裸でここを一周回ってやろう」
彩華「・・・」
第3試合が始まった。笛吹仙人と琴弥だ。
笛吹仙人は,もう遊びは終わりだと思い,さっさと勝負をつけることにした。彼は,その場で消えるようにして移動した。加速10倍速だ。
シュー!
笛吹仙人が,琴弥の真横に出現して,彼女の横っ腹に掌打を打とうとする時,琴弥も,その場から消えるように移動して,彼の掌打を回避した。
笛吹仙人「何?!」
笛吹仙人は驚愕した。この速度に反応する人物がいるとは?! 琴弥は,天女クラスか?
10倍速を躱すほどの加速になってしまうと,半端な放出系の攻撃など意味がなくなる。一瞬の気の緩みが,勝敗を分ける。
急に緊迫した試合運びになった。
琴弥は,時間を引き延ばすと,自分が,まだ上級後期レベルだとバレてしまう。まともに戦って勝てる相手ではない。
ともかく,今は,全神経を加速に集中して,敵の攻撃を躱すことにした。
笛吹仙人は,両手を旋回させて,大気の気を体内に取り込み始めた。だいたい,そんなことができるのは仙人クラスの特徴だ。
笛吹仙人は,無駄口は叩かず,速戦即決で行く。
笛吹仙人「では,参る!」
笛吹仙人は,その場で消えるようにして,琴弥を襲った。琴弥も,足の裏を気のスパイク状にして,確実に笛吹仙人の突きと蹴りの連続攻撃技を回避した。
その攻撃は,突きや蹴りと同時に,風刃が発射された。琴弥も,それは,十分に分かっていたので,回避と同時に,自分の周囲に気の防御を3重に構築した。
その3重の気の防御は,ことごく破壊されて,琴弥の体を襲った。
パシュー!
琴弥の道着が刃物で切断されたかのように切られた。だが,その風刃は,ぎりぎり琴弥の皮膚によって遮られた。琴弥は,体表にも気の防御を構築していた。
彼らの連続攻撃を見ている観客は,彼らの動きが速すぎて,もう,肉眼では終えないレベルに達していた。
それでも,琴弥の道着が,徐々に切られていくのだけはわかった。
とうとう,道着がバラバラにされて,地に落ちた。だが,観客は琴弥の豊満なFカップの胸をしっかりと鑑賞する時間はなかった。
琴弥が止まって見えるようになるのは,ほんの0.5秒程度だ。次の瞬間,笛吹仙人の攻撃が来て,また,消えるように回避していくという攻防が続いた。
この攻防が3分ほど続いた。
笛吹仙人は,いったん,ここで攻撃を中止した。というのも,琴弥の回避行動が,だんだんと速くなっていくのがわかったからだ。
最初は,どんどんと道着を切断していったが,今では,まったく,琴弥の体にヒットしなくなってしまった。琴弥の加速は,笛吹仙人の速度を凌駕している証拠だ。
だが,彼は,どうして琴弥が攻撃してこないのか不思議だった。
彼は,速戦即決を諦めて,舌戦に変更することにした。
笛吹仙人「おい,琴弥とかいったな。お前,回避ばかりでは,俺を倒せんぞ。どうして攻撃しないんだ?」
琴弥は上半身が裸体だ。已むなく左腕でFカップの胸を隠しながら,笛吹仙人の言葉に返事した。
琴弥「攻撃してもヒットしないと思います。無駄な攻撃はしません。このまま,引き分けにします。これで,わたしたちの勝ちです。フフフ」
笛吹仙人「はあ? 次は,あのビッコだろう? 勝てるわけないだろう」
琴弥「へへへ,彼,たぶん,もうほとんど完治状態だと思います。ちょっとしたきっかけで,化けると思います。試合はやってみないとわかりません。わたしの役目は,あなたと引き分けにもっていくことです」
笛吹仙人「なるほど,理にかなっているが,それは難しいだろうな」
笛吹仙人は,笛を取りだして,笛を吹き始めた。
♪♪♪♪ーー
琴弥「え?ここはどこ? 闘技場でなかったの? え,そこにいるのは,ヒカル? え? 服脱げって? やーね,わたしを見たら,服を脱げって,そればっかり。え?今度は,自分でなにしろって?」
そういいつつ,琴弥は,その場で横になって,そして,,,自分でなにをしてしまう行為に及んだ。
このような幻覚は,琴弥だけではなかった。ほかの選手たちも口々に,「わたしの彼氏,奪わないでよ!あんた,殺されたいの?」とか,「父親の復讐をしてやるーー!」だの,潜在的に今,一番したいことを口に出していた。
笛を吹いている場所から近ければ近いほど,幻覚の効果は強い。
この仙器である笛は,ひとつ,大きな特徴,いや,欠点がある。笛を吹く術者にも幻覚を与えてしまうことだ。
彼は,笛を吹いているとき,彼が見た幻覚は,琴弥が徐々に服を脱いでいって,ひとりであの行為をしているというものだ。でも,それは,そのままずばり,現実だった。だから,笛吹仙人は,自分が幻覚にかかっているなど,夢にも思っていなかった。
笛吹仙人さえも,その欠点をよく理解していなかった。
笛を吹いて,しばらくしてから笛を吹くのを止めた。だが,笛吹仙人の幻覚は,すぐには解消されなかった。彼が今,一番したいこと,,,それは巨乳で超可愛い琴弥を抱くことだ。
笛吹仙人は,幻覚と現実の区別が曖昧になっていて,琴弥に近づいた。琴弥は,笛の音が止んだと同時に幻覚から目覚めた。でも,あの行為を途中で止めなかった。
そんなとき,笛吹仙人が近づいてきた。琴弥は,幻覚にかかっているふりをして彼に抱きついていった。笛吹仙人は,顔を赤くして琴弥を懐に受け入れた。
琴弥は,笛吹仙人をきつく抱いまま,その勢いのまま,彼と一緒に場外に飛び降りた。
ドボーン!
その音が,意外と大きかったので,幻覚にかかっていた観客が,全員,意識を取り戻した。
「え?あれ?どうしたの?」
「俺たち,いったいどうしたんだ?」
「なんか,幻覚にかかっていたかも?」
「おい,見ろよ! 水槽に,2人が飛び降りたみたい」
「本当だ! 水槽の琴弥,超,セクシー!」
「おっぱい,丸見えー! 最高ーー!」
「琴弥ーー! 琴弥ーー!」
「ことよーー!最高ーー!」
やっと,我に返った観客たちは,水槽の中の琴弥を救い出した。
双方からの審判も幻覚にかかっていたため,勝敗が不明だった。琴弥と笛吹仙人の両方から話を伺って,両者同時に場外に出たものと判断し,引き分けとなった。
幻覚の後遺症があったため,1時間ほど休息とした。
この試合,笛の機能を完全に把握していなかった笛吹仙人の大失態だ。使い方によっては,とんでもない武器になるのだが,でも,今回のことで,笛吹仙人は,笛の機能がやっと理解できた。
その後,笛吹仙人は,早乙女宗主にも挨拶することなく,どこかに消えていった。
早乙女宗主「あの笛吹仙人,バツが悪くなって,逃げたな? フン,変な色気を出すからだ。これだから男は,,,」
剣術教官「でも,後は,ビッコのヒカルだけですよ。楽勝ですよ」
早乙女宗主「ほんとうにそうだといいけど。琴弥が笛吹仙人に言った言葉が気になるわ」
剣術教官「え?ヒカルが勝つかもしれないって,言ったことか? ないない。それに,毒にやられる前は,初級後期の実力っていったけど,確かに12歳でそれなら,秀才レベルと言ってもいいでしょう。でも,毒矢の毒をあまくみてはいけない。あれは複合毒だから,完全に解毒するのは不可能に近い。残念だけど,ヒカルは,今後,一生,麻痺した箇所が,まともに動くことはないでしょう」
早乙女宗主「・・・」
それでも早乙女宗主は,なんかいやな予感がした。
琴弥は,臨時に設けられた医務室で休息していた。ヒカルは琴弥を見舞うため医務室に行った。医務室内では,琴弥とヒカルだけということもあり,しょうこりもなく,ヒカルは,琴弥と双修の行為をしてしまった。
ヒカルは,この行為により,上級後期からS級前期を経て,さらに中期にまでレベルアップしてしてしまった。琴弥も,S級前期にレベルアップした。双方に良い結果をもたらした。
その後,彩華が琴弥とヒカルの様子を見に来た。ヒカルは,彩華をベッドに誘って,有無を言わさず,犯すかのように双修を行った。
ヒカルは,その行為でS級後期に到達してしまった。
ヒカルは,ここまで来てしまうと,仙人レベルを目指したくなった。そのためには,双修ではもう無理だ。キスによる強制的な気の吸収,気呑術をする決心をした。
ヒカルは,キスをする行為によって,彩華から気を奪い,さらに琴弥からも気を奪っていった。彩華と琴弥は,初級前期レベルにまでレベルダウンしてしまい意識を失った。
,,,その結果,ヒカルは,ついにS級の壁を越えて仙人クラスに到達してしまった。
急激なレベルアップは体の負担が大きい。だが,このレベルアップにヒカルの体は容易に耐えることができた。そもそもヒカルは,体の負担が大きいことなど,まったく意識してなかった。
ヒカルは,まだ自分が仙人クラスに到達した事実を知らない。ただ,琴弥と彩華の気をほとんど奪ってしまったので,かなりのレベルアップに繋がったのは理解した。
・・・
第3試合が始まった。
剣流宗の3番手は上級前期の実力者だ。剣を手に持っている。
一方,ヒカルは,松葉杖をついている。今では,ヒカルのトレードマークみたいなものだ。
3番手「あらら?よく棄権しなったな。えらいえらい。でも,痛い思いをしたくなったら,自ら場外に飛び降りたほうがいいぞ。剣風刃は,防御し損ねたら,大事故に繋がってしまうからな」
ヒカル「ご忠告,感謝します。ですが,心配無用です。この体ですので,防御だけは,一生懸命訓練しました。多少は自信があります」
3番手「ほうほう? そうか?では,遠慮なく攻撃させてもらう」
3番手は,得意の斜め十字斬り剣風刃を連続で放った。ヒカルは,気の防御でそれをなんなく防御した。しかし,それでは,実力がバレてしまうので,徐々に後退していって,場外すれすれの場所に移動した。
3番手は,あと一歩で彼を場外に押しやれると思って,さらに,最大レベルの気力を込めて,連続で剣風刃を放った。
だが,それらの剣風刃は,ことごとくヒカルの防御によって防がれた。
気をほとんど使い果たした3番手は,一気に片をつけるべく,ヒカルのところに駆け寄って,剣を真上から垂直に振り下ろした。
だが,一刀両断したはずのヒカルは,そこにいなかった。
あたかも消えたかのようだった。
3番手「え?あれ?ヒカルは?」
3番手が言葉を発したかと思うと,彼の背後にいたヒカルは,利き腕で彼の背中をちょいと押すことで,場外に落としてしまった。
これには,3番手もそうだが,観客が唖然とした。
「え?ヒカルが勝った。どうして?」
「あの回避技,見えた?」
「ぜんぜん見えなかった」
「ともなく,ヒカル,すげーー!」
「うん,ヒカル,やばい!」
あの防御と回避技だけで,ヒカルはS級に到達しているのは容易に想像がついた。
特に女性の門弟は,黄色い声を出した。
「ヒカルーー! わたしと結婚してーー!」
「ヒカル!わたし,一生,あなたの松葉杖になるーー!」
「ヒカルは,わたしのものよーー!」
ヒカルは,外見上12歳とまだ少年なのに,この実力だ。将来は間違いなく仙人レベルになると信じた。つまり,仙人の妻になれるのだ。
剣術教官「まさか,,,ヒカルがあそこまで強いとは,,,」
早乙女宗主「あのヒカル,たぶん,S級中級,いや,後期レベルかもしれないわ。あの加速,半端ない速度よ。わたしでも目で追えなかったわ」
剣術教官「え? そんなバカな! 12歳でS級? そんなの絶対あり得ませんよ」
早乙女宗主「世の中,絶対ってないのよ。あのヒカル,,,剣流宗にほしいわね。気覇宗に置いとくのもったいないわ。教官,なんとか,彼をわたしのもとに連れてきなさい。2,3日以内でお願い。それが出来たら,首は取り消し,あと一年,契約を延長しましょう」
剣術教官「はっ,はい! 必ずやそうさせていただきます!!」
第4試合,第5試合も,ヒカルが圧勝して勝った。
試合が終わるたびに,敵である剣流宗の観客が,男女問わず,歓声を挙げた。あたかもヒカルが剣流宗の選手であるかのようだった。
このように歓声を受けるのは悪くない。でも,ヒカルは,武術や剣術の道では,食べていくことはしないと決めている。強くなれば強くなるほど,危険な仕事が待ち受けているからだ。
琴弥や彩華を養うため,将来生まれるくるであろう子どものため,安定した仕事を身につけたい。だが,まだ,自分にあった分野を発見できていない。それが気がかりだった。
初日の試合は,こうして終了した。
気覇宗側の医務室となっている仮設テントでは,琴弥と彩華がまだ寝ている。ヒカルは,宗主に,見張り役をかねて,彼女らが起きるまで医務室で見張っていると伝えて了解を得た。
ほとんどの観客は去った。明日は,煉丹術の試合がある。気覇宗の宗主たちは,すでに明日の試合のことで頭がいっぱいだ。煉丹術の試合は勝ち抜き戦ではない。煉丹を成功させた成功率によって,点数化される。
下痢でダウンした選手たちは,夕刻になって,症状がやっと治まってきた。
しかし,体力・気力がぜんぜん戻っていない状況では,果たして,一晩寝て,どれだけ実力を発揮できるのか,はなはだ不安だ。
その実,宗主が一番気にしているのは,彩華との約束だ。総合で20点以上の大差で勝つと,聚気丹を彩華に渡す約束だ。しかも全裸でこの会場を一周すると豪語してしまった。
なんとか,うまく言い逃れしたい。
幸い,なぜか彩華が熟眠状態になっているので,今は,そのことに気を取られる心配はない。
気覇宗の宗主は,それにしても,琴弥やヒカルが,とんでもなく強者であることに驚いた。琴弥が引き分けにもっていった選手は,笛を吹いて幻覚を操った。もしかして,彼は伝説の笛吹仙人ではないのか?そんな彼と,加速でもほど同等,いや,それ以上の加速が使え,引き分けにもっていった。奇跡だ。
それに,ヒカルもそうだ。あの目でも追えない加速,琴弥と同等レベルの加速技だ。いったい,,,これはどう理解しればいいのか?
気覇宗の宗主は,いくら考えても理解不能だった。
ーーー
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