第13話 試合ーその1
気覇宗の宿泊施設は,男女別々の建物に分かれる。琴弥は,当然,他の女性の選手と一緒の部屋だ。女性陣にとって,琴弥を虐める恰好の機会だ。
気覇宗の女性選手は意外と多い。煉丹術では4名,符篆術では3名が女性選手だ。陣法・陣盤術は,ある意味,暇人の趣味のような学問なので,代々伝わる陣法や陣盤が受け継がれているようなボンボンかお嬢様が選択する。気覇宗の選手では,2名が女性選手だ。錬金術は力がものをいうので,すべて男性だ。
剣術と武道では共に2名が女性だ。
彩華は,2種類の試合の出場するので,女性の選手は10名いる。そこに琴弥が加わるので11名だ。
選手には個室が与えられていて,そこには,トイレ・バスが備えられている。女性選手の連絡役とリーダー役をしているのは,南峰峰主の直弟子をしている由衣だ。本来なら,彩華がすべきなのだが,そんな面倒いことは嫌いなので,由衣に押しつけた恰好だ。
由衣は就寝前に全員集合をかけた。
由衣「剣術の指導教官から,寝る前に熟眠剤を飲みなさいって言われたわ。気持ちが高ぶって眠れないと,明日の試合に影響するからだって。副作用はないから安心して飲んでいいわよ」
由衣は,その丹薬を全員に渡した。
由衣「これで解散するけど,琴弥はちょっと残ってちょうだい」
琴弥「はい,わかりました」
皆が「おやすみ」と言いながら去っていき,由衣と琴弥の2人だけになった。
由衣「琴弥,あなた,あの懇親会で服を脱ぐのは,ちょっとやり過ぎたわね。気覇宗の品位を疑うわ。それに,あなた,馭者役なんでしょう?なんで選手になっているのよ。これは,わたしが言っているんではなくて,みんなが言っているの。わたしはいいたくなかったんだけど,代表して言っているだけだから,悪く思わないでちょうだい」
琴弥「はい,わかっています。服を脱いだのは,ちょっとやり過ぎでした。でも,ほかに自慢できるものがなくて,,,ついついやってしまいました。ごめんなさい」
琴弥は,ペコリと頭を下げた。
由衣「わたしに謝ってもらっても困るけど,まあ,それで,他の女性門弟たちには納得してもらいましょう。それで,あなたの本当の身分はなんなの?馭者ではないのでしょう?」
琴弥「わたしの身分は,内緒にするように宗主様に言われています。もし,知りたかったら,宗主様に聞けばいいと思います。彩華さんは,宗主様の了解をもらって,わたしの身分を知っています」
由衣「なるほど,彩華は知っていたのね。どうりで,対応が変だと思ったわ。了解したわ。では,わたしも宗主に聞きます。じゃあ,ゆっくり休みなさい。あっ,そうそう,あなたにも薬わたしたけど,薬も飲む必要もないわよ。あなたは予備の選手だから,実際の出番はないから安心して」
琴弥はニコッと微笑んだ。
琴弥「はい,ではおやすみなさい。失礼します」
ふたたびペコリと頭を下げて,その場を去った。
琴弥が去ったあと,由衣は,自分が持っている丹薬を見た。
由衣は,この丹薬を飲むかどうか迷った。自分の罪の重さを自覚した。付き合っている剣術の指導教官のたっての依頼で,こんなことをした。でも,これがうまく行けば,婚約してもらえるという約束だ。
由衣は思い切って丹薬を飲むことにした。だって,強力な下剤と分かっているのだが,自分を罰するという意識があった。
ちなみに,彩華もこの丹薬を飲まなかった。彼女は来歴不明なものは飲まないという考えを持っている。たかが一晩眠れなくても大したことではないからだ。
一方,男性宿舎は,剣術指導教官が,家伝の熟眠丹だということで,希望者は,適当に飲んでくださいという感じで,丹薬を会合室に置いた。
ところが,ほとんどの男性選手はそれを飲んだ。飲まなかった選手はヒカルだけだ。彼は,どうせ選手として出場しないし,別に寝れなければ,瞑想してイメージトレーニングをすればいいだけのことだと考えていた。
ーーー
翌朝,,,9時,,,試合開始30分前,,
宗主の元に,大変な報告が来た。選手のほとんどが下痢に悩まされて,体力も大幅に落ちてしまっていて,とても試合などできない状況に陥ってしまい,健康状態を保っているのは,彩華,ヒカル,琴弥の3名だけとの報告だ。
宗主は,もしかしたら,懇親会で毒でも飲まされたかとも思ったが,もし,そうなら,管理側のスタッフもそのような症状になってもおかしくない。
この試合では,どんな理由であれ,延期とかはできないルールだ。不戦勝のルールが適用されるだけだ。
宗主は,原因を調べるように言い含めつつ,下痢止めを処方するように命じた。仮に,すぐに薬が効いたとしても,30分後に控えている武道の試合には間に合わない。
武道の試合,,,気覇宗としては,この武道の試合で,高得点を叩きだし,剣術の劣勢を相殺するという考えだ。このままでは,ボロ負けしてしまう。
不幸中の幸いなことに,武道での大将である彩華が温存できたことだ。宗主は,彩華を呼んだ。
宗主「状況は理解していると思う。武道で出場できるのは,彩華,ヒカル,琴弥だけだ。他,2名は,下痢状態でも,名前だけは適当に入れるが,闘技場に立つこともできまい。出場の順番はお前に任す。この劣勢をなんとかしてみろ」
彩華は,琴弥さえいえば,全勝出来ることは知っている。そこで,ニコッとして,宗主に逆提案をした。
彩華「もし,10点以上の差をつけて圧勝したら,褒美に聚気丹をいただけますか?」
聚気丹は,初級でも金貨200枚はする大変貴重なものだ。材料入手困難なので,ここまで跳ね上がっている。
宗主は,万一のことはあってはいけないので,もっと厳しいハードルをつけた。
宗主「わかった。では,20点差の圧勝で勝ったら聚気丹をあげよう」
彩華は,ニヤニヤした。彩華には20点の大差で勝てる算段がある。
彩華「はい!それでお願いします。約束,忘れないでくださいね」
彩華はそういいながら,その場を去った。
宗主は,なんら不安のない彩華の表情を見て,少々不安になった。
宗主『いったい,あのメンバーでどうやって20点差で勝てるというんだ?』
ー 剣流宗陣営 ー
早乙女宗主の元に,武道教官が気覇宗の選手の状況を報告しに来た。
武道教官「敵の選手は,大将の彩華,ビッコのヒカル,初級レベルの琴弥です。他2名は下痢状態でダミーで名前を出してくるでしょう。つまり彩華さえ倒せば,後は雑魚です」
早乙女宗主「大将の彩華が温存されたのは痛いわね。でも,彩華ひとりを倒せばいいから,なんとか時間を稼いで疲れさせて,なんとか2名で倒しなさい」
武道教官「はい,そうします。一番持久力のある選手を1番手にして,2番手を大将,3番手を副大将という感じにします。4番手,5番手は,だれでもいいので,新人にしておきましょう。経験を積ませます。もっとも,経験する機会はないと思いますが」
早乙女宗主「去年は,あの彩華に4名も負かされてしまったのよ。もうあんな失態はゴメンよ!」
武道教官「失態と言っても,もともと武術は捨てていたんでしょう?」
早乙女宗主はギロっと武道教官の顔を見た。武道教官は,慌てていま口にしたことを取り消した。
武道教官「まあ,なんですね,ともかく,この日のために,専門に武術訓練を積んできました。試合時間は30分,疲れさせるには十分の時間です」
早乙女宗主「まあ,いいわ。ここまでして上げたんだから,これで負けたら,あなた首よ」
武道教官「わかっております。もともとその契約でしたから。とにかく任せてください」
試合のルール上,不戦勝が一番点数がいいので,最強選手がトップに出場して,自陣の不戦勝の選手を多く残す作戦が基本戦略となる。
9時半になった。
双方から出場選手の順番リストが提出された。気覇宗からは,彩華,琴弥,ヒカルの順番で,あとは下痢中の2名だ。剣流宗からは,1番手が体力のある選手で中級後期の選手。2番手が副大将で上級前期レベル,3番手が大将で同じく上級前期レベルだ。
最悪,この3番手の大将で,彩華を倒す戦略だ。4番手,5番手は,新人で中級中期レベルだ。新人といっても大変優秀な人材で,剣術ではなかなかの腕前だ。
もともと,剣流宗は剣術がメインなので,武術にはあまり力を入れない。でも,この試合のためだけに,武術教官を採用して,剣術を修練しながら,武術にも力を入れたい希望者を募って,武術を指導していている。
過去の試合では,武術では気覇宗の圧勝,剣術では剣流宗の圧勝だった。合わせて,イーブンくらいの感じだったので,釣り合いがとれていた。その釣り合いを崩すのが今回の作戦だ。
第1試合が始まった。
上級中期の彩華と中級後期の先鋒との戦いだ。試合時間は30分。闘技場から外に落ちると負けとなる。もしくは,負けを認めるか,試合継続不能となった場合も負けとなる。相手を謝って殺したとしても罪には問われない。試合中の事故として処理される。
彩華は,琴弥との実践形式で経験を積んできた。先日,ヒカルに気を奪われしまったものの,その後のヒカルとの双修によって気力が戻っただけでなく,以前よりも遙かに調子がいい。何かのきっかけでレベルアップしそうな状況だ。
彩華の戦闘スタイルは,カウンターによる攻撃だ。そのため,じっくりと相手がどのような攻撃をしてくるかを観察する。中級以上ともなると,炎弾や氷結弾などを発射できる。だが,試合形式の場では,それを使わないのが普通だ。それを使ってヒットすればいいが,たいていの場合,躱されて無駄になってしまう。その分,大幅に気を消費してしまい,気が続かずに負けてしまう場合が多い。
気は,体の強化に廻して,相手をキックなどの攻撃に廻すのが常套手段だ。
先鋒の役割は,彩華に勝つことではない。断続的に攻撃しては退くということを繰りかえし,彩華を疲れさすのが戦略だ。
30分後で勝負がつかないと,引き分けとなり,どちらも点数が入らない。それが,先鋒の理想的な試合運びとなる。
ヒュン!
先鋒のキックが彩華を襲った。しかし,そんな攻撃など,今の彩華にとっては,スローモーションのような動きだ。そんな動きだったら,わざわざ気を体に巡らして強化するほどのこともない。
彩華は,両手に大きな火炎球を構築して,先鋒の服に着火させた。
ボボボーーー!
先鋒「ギャーー!!」
その炎の熱量がかなりの威力だったため,耐火性の道着であっても,それを火の玉にしてしまい,彼を場外に追いやってしまった。
ドボーン!
彼は,場外に設置された水槽の中に飛び込んだ。過去の試合経験から,このような事態を想定して,水槽を準備するのは当然のことだ。
武術教官「な,,,なんと,,,ここまでの技量の差があったのか,,,彩華は上級中期レベルか??」
こんなことが起きる場合は,両者の実力差が激しい場合だ。両者の技量が接近している場合,攻撃を避けるか,防御することで精一杯になり,火炎球を繰り出す余裕など生まれるわけがない。
それに,衣服に着火しても,耐火性の道着を着ているので,すぐに全体に拡がることはないし,脱がれたら終わりだ。それが,一瞬で衣服全体に拡がったということは,かなり強力な火炎球だったことになる。上級の中期レベル以上でないと,そんな火炎球は繰り出せない。
武術教官は,2番手の副大将を呼びつけて,ある作戦を伝授した。副大将は不服だったが,しぶしぶ同意した。
第2試合が始まった。
勝ち抜き戦なので,彩華vs副大将の戦いだ。1分経過,,,5分経過,,,両者にまったく動きがない。
彩華は,敵が引き分け狙いで来る作戦だと理解した。でも,それでもいいと思った。あとの3人は琴弥に任せればいい。その場合,気覇宗側が27点,敵が4点なので,20点以上の差が生まれる。
彩華も,何もせずに,副大将の動きを見ているだけで,なにも動かなかった。実力が肉薄しているレベルでは,引き分けにもっていこうとすると,それを勝ちに繋げることはかなり難しい。
10分経過,20分経過,,,30分経過,,,
審判「この勝負,引き分け!」
なんとも,まったく味気ない試合内容になってしまった。観戦側としては,同じ引き分けでも,少しは戦ってほしかった。だが,武道教官はそれを許さなかった。彩華のレベルは,少なくとも上級中期レベルになっていると踏んだ。それなら,また,強力な火炎球を浴びせられると,前の試合と同じ轍を踏んでしまう恐れがある。もしくは,他のカウンター攻撃を受ける可能性がある。
副大将は武道教官のところに来ておじきをした。
武道教官「すまない。辛い経験をさせてしまった。でも,お前の犠牲は決して無駄にはしない。これでも飲んで溜飲を下げろ」
武道教官は,中級精力丹を2粒を渡した。これは,市価金貨20万円もするものだ。
副大将「中級精力丹?! はい! ありがとうございます!」
彼は,思いっきり戦いたかった。そのためにこの一年,剣の修行を犠牲にしてまで武道を頑張ってきた。その努力が中級精力丹2粒,,,とても引き合わないが,已むなしだ。
一方,気覇宗の宗主は,顔が真っ青になった。彩華が何もせずに引き分けたのだ。通常なら,絶対にありあえない。なんとしても,敵と戦って勝ちを取りに行くはずだ。
宗主は,彩華を呼びつけてなんでこんなこをしたかを聞いた。
彩華「これは,やむを得ませんでした。敵は,引き分けを狙ってきました。無理に戦っても,結局は引き分けに持っていかれると判断しました。ならば,無駄な体力を消費するだけです」
宗主「そうかもしれんが,20点以上の点差をつけるんじゃななかったのか?」
彩華は,ニヤニヤした。
彩華「宗主,大丈夫ですよ。琴弥がなんとかします。大船に乗った気持ちで試合をみましょう」
宗主は何が大丈夫なのか,まったく分からなかった。だが,試合を見ればいいので,それ以上質問するのは止めた。
第3試合が始まった。
琴弥vs大将だ。琴弥は,自分が初級レベルと公言している。でも,ウソをついてはいけないというルールはないので,気にする必要などない。
琴弥は,この武道の試合で残りの3人に勝たないと,琴弥が強者であることを暴露すると脅迫されている。それは,まずい。質素に過ごすしたい。そのために,彩華の依頼に乗ることにした。
タタタターー!
試合が始まってすぐに,琴弥は,円形闘技場の周囲ぎりぎりの部分を駆け足で走った。
走るたびに,Fカップの巨乳が前後左右に揺れた。わざと揺れるようにした。言ってみれば,巨乳揺れ揺れショーのようなものだ。
「ワオーー!!」
「いいぞ!もっと走れ!もっと揺らせ!」
「サイコーー!」
「大将,攻撃は後でいいぞ!」
などなど,前回の試合がまったく味気ないものだから,その反動がどっと押し寄せた恰好だ。
2.3分走ったところで,大将が闘技場の中央で,なんら攻撃もせず,動こうともしないので,琴弥は,走りながら,1円玉くらいの小さい火炎球を繰り出して,背後の大将に向けて放った。
その火炎球は,なんら防御されることなく大将の着衣にヒットした。このくらい小さい火炎球から,耐火性の道着なので,着火することはない。だが,琴弥が放った火炎球は,彩華の火炎球と同様に通常の火炎球よりもかなりの高温だった。
ボアーー!
大将の着ている道着が着火してしまった。だが,幸いだったのは,火炎球がかなり小さかったため,燃え広がるにのに,少々時間を要した。
大将は,すぐに道着を脱いで,燃えている道着に手から水を捻出して,その炎を消そうとした。
ガクッ!
大将の両方の膝の部分を,背後から何かが強烈に打たれた感じとなり,尻餅をついてしまった。
大将「え?何?」
大将は,一瞬,何が起こったか,わからなかった。
ドン!
琴弥が放ったキックによって,大将は,場外に放り出された。
ドバーーン!
大将は,場外の水槽の中に落ちた。
「ワオーー! 琴弥ちゃーーん! 最高!」
「ステキーー!! よくやったーー!」
「もっと,おっぱい振って!!」
なんと,剣流宗の男性門弟のすべてが,琴弥を応援した。
その応援に応えるように,琴弥は,ランニングを止めることなく,360度に展開している観客に手を振りながら胸の揺らしを誇示した。観客サービス満点だ。
武術教官は,両手を強く握った。爪が手の平の中に食い込むほどだった。
武術教官『なんで,あんな小さい火炎球が,耐火服に着火させるんだ? 相手は初級レベルでなかったのか? どうみても10歳か11歳だろ!』
武術教官は,4番手の新人Aを呼びつけた。
武術教官「いいか,琴弥が走るのなら走らせろ。ただし,絶対に目を離すな。あの火炎球は道着に着実に着火する。接近戦は,出来れば避けろ。もしかしたら,もっと大きな火炎球を構築できるかもしれん。あの火炎球の威力なら,琴弥の実力は,初級レベルではなく,中級レベル! しかも後期には達しているはずだ。お前たちよりもレベルが上とみて対処しなさい。
いいか,最悪,引き分けに持っていけ。無理に戦うな。しかし,ときどき,氷結弾などでけん制しなさい」
武術教官は,琴弥との直接対決を避けて,引き分けに持っているくことにした。とにかく,琴弥を退ければ,あとは,ほんとうに雑魚だけだ。大差にはならなくても,勝ちは確保できる。
第4試合が始まった。
琴弥は,相変わらず,闘技場の周囲を走っていた。走る速度をややゆっくり目にした。この速度なら,1時間でも2時間でも走れる。
それでも胸が十分に揺れるので,観客の応援を一身に浴びていた。琴弥は,もしかしたら,観られるのが好きな性分なのかもしれない。
4番手の新人Aは,闘技場の中央に陣取って,琴弥から目を離さずに,その地点から,360度回転していって,常に,自分の正面を琴弥に向けるようにした。
琴弥は,最初こそゆっくり走っていたが,5分が過ぎるころから,徐々に速度を上げていった。しかも,走る場所を少し外周から内側よりにした。そのため,一周廻るのに,10秒かかっていたのが,徐々に,8秒となり,6秒となり,4秒となっていった。
4秒で一周を廻り初めて1分後,琴弥は,急に,走る向きを反対方向にした。
新人A「え? 何? 体が,,,」
新人Aは,完全に目が廻っていることに気がつかなかった。琴弥に,背後を突かれて,まともに蹴りを受けて,場外に飛ばされた。
ドボーン!
新人Aは,まったく反撃ができずに沈没した。
「ワオーー! 琴弥ちゃーーん! 超,超,最高!」
「ステキーーよ!! よくやったぜーー! もっと応援するよーー」
「もっと,もっとおっぱい揺らして! もっとジャンプして揺らして!!」
相変わらず,剣流宗の男性門弟のすべてが,琴弥を応援した。
琴弥の勝利のランニングは続いた。ちょっと違うのは,走る方向が逆方向になった点だ。しかも,ゆっくり目に走っているので,さほど疲れていない。疲れる度合いは,歩いているのとさほど大差はない。
武術教官は,超険しい顔になった。次,負けたら,もしくは引き分けたら,剣流宗の負けが決定する。絶対に負けられない戦いだ。でも,選手にプレッシャーを与えると萎縮してしまう。彼は,最後の5番手,新人Bを呼びつけた。
武術教官「いいか,陣取る作戦はもう止めだ。陣取る以外なら,なんでもいい。自分の判断で攻撃しなさい。うん,仮に,お前が負けても恨まん。
お前が一緒に走ってもいい。接近戦にして,火炎球に気をつけて攻撃してもいい。自由に判断しなさい」
新人Bは,ちょっと考えた。
新人B「わかりました。ちょっと,自分で戦法を考えてみます」
武術教官「よし,別に緊張しなくていい。負けていいから,リラックスして戦ってこい」
新人Bは,軽く頭を下げて,闘技場に来た。そこでは,相変わらず,闘技場の周囲を胸を揺らしてスキップという感じで,歩くよりもちょっとだけ速い速度で駆けている琴弥がいた。
第5試合が始まった。
新人Bは,闘技場の中央から,すぐに闘技場の端に場所を変えた。すると,すぐに琴弥が駆けてきて,彼の方向と対峙した。
琴弥は,威力の弱い火炎球を繰り出して,彼に向けて放った。それと同時に,闘技場の中央に移動した。
火炎球は,どうしても空気抵抗を受けてしまうので,いくら高速で繰り出しても減速してしまう。新人Bは,それを容易に躱した。
火炎球が避けられるのは想定の範囲だ。中央部を陣取った琴弥は,最後の仕上げに入った。
琴弥は,両手を硬化して,突き技中心で彼を襲った。彼女は,初級レベルと公言しているが,そんなことはすでにどうでもいい。上級レベルの気を扱って,鋭い攻撃を続けた。端から見ても,琴弥が初級レベルの気の使い手だとは誰も思わなかった。
新人Bは,琴弥の鋭い突き技に,後ずさりしたかったが,後がない。そこで勢い,横方向に回避した。
しかし,琴弥が走り廻った場所には,琴弥の汗がびっしょりと落ちていて滑りやすい状況だった。
新人Bは,すでにそれに気がついていたが,琴弥の鋭い突き技に,足を滑られてしまって転倒した。
琴弥『ヤッター! これでわたしの勝ちー!』
琴弥は,そう思って,新人Bを場外に投げ飛ばすべく,思いっきりキックした。
ドン!
新人Bは,横腹をキックされて,場外への飛ばされた,,,と誰もが思った。
ところが,彼の体の8部は,確かに場外だった。しかし,彼の右手は,しっかりと倒れた場所に固定されていた。
新人Bは,滑りやすいのはよく分かっていて,倒れた時点で,キックされるのも,百も承知だった。そこで,手の平から気を流して,鋼鉄の矢を繰り出して,その箇所に穴を開けた。右手がしっかりと掴めるほどの穴だ。
案の定,琴弥は勝利を確信して新人Bを思いっきりキックした。すると,彼は,コンパスの中心点が右手に支えられているかのように,高速で360度回転してしまい,床面がすべりやすいことも相まって,一回転して,今度は,彼の体が,琴弥のキックしていない方の足にぶつかって,琴弥を転倒させて場外へと追いやってしまった。
琴弥は,自分の両足の裏には,冬山登山で使用するスパイク付きの登山靴のように,気で何本もの短いスパイク状のものを構築していた。両足の裏が床面に接触している限り,まったく滑ることはない。
でも,新人Bの体全体による,あたかも床面をすべって背後から回転して襲ってくるなど,まったく想定していなかった。
ドーン!
いくらスパイクをした足の裏であっても,琴弥は,転倒してしまい,そのままの勢いで場外に放り出されてしまった。
ドボーン!
琴弥は,水槽の中に放り込まれた。
その水槽は,透明な材料で構築されていた。枠部だけは,鉄製だが,側面のかなりの部分は,分厚いガラス製になっていた。
琴弥は,足から落ちてしまったので,道着の上着がめくれ上がり,かつ,サラシもめくれてしまい,琴弥のFカップの豊満で張りのある胸が丸見えになってしまった。
「わおーーー!!」
「おっぱい丸みえーー!!」
「琴弥ーー,超最高ーー!」
「結婚してーー!」
などなど,最高潮に群がった。
観客の男性たちは,その水槽に駆け寄って,水槽のガラス面に群がった。
・・・
さて,問題は,体の8部もの体が,場外に出て,手の支えで戻ったという場合,果たして,場外として負けになるのか,場外にならないのか,剣流宗側と気覇宗側の審判2名が,言い争いになった。
どちらも一歩も引かない構えだ。このようなことは前例がない。つまり,その前例を創るのが,この2名の役目だ。
結局,どちらも譲る気はまったくないので,この試合は無効とし,1時間の休息を経て,汗で濡れた会場整備と,床面に空いた穴の補修をして,再試合ということになった。
新人Bが,闘技場から降りて来るとき,観客から,
「よくやった!」
「お前は,剣流宗の誇りだ!」
「次の再試合は,もう負けていい。もう十分だ」
「えらい,えらい」
同僚からも,彼を騎馬戦の騎手のように担ぎ上げて,廻りを一周してあげた。
その状況をみた,早乙女宗主は武術教官を呼んだ。
早乙女宗主「教官,新人Bは,よく善戦しました。見事でした。あそこまで粘るとは思ってもみませんでした。でも,琴弥の技量は,明らかに初級ではなく,中級後期,もしかしたら,上級にまで達しているかもしれません。再試合しても,勝てる可能性はまずないでしょう。再試合はせず,不戦負を審判側に提案してください」
武術教官「え? でも,再試合しないと,負けが決定してしまいます。わたしも職を失いたくありません」
早乙女宗主「本来,場外とは,体が少しでも出たら負けというのが,その趣旨でした。その意味では,新人Bは負けだったのです。でも,ここまでいい試合をしてくれたのですから,このまま,いい印象を残して終了するほうがいいでしょう。あなたの解雇も,あと1年猶予を与えます」
武術教官「え? ほんとうですか? ありがとうございます!」
武術教官は深々と頭をさげた。かくして,その後,司会者側のアナウンスがあり,新人Bが再試合を放棄する提案があり,琴弥の不戦勝が決定した。
武術教官は,新人Bの感想を聞いた。
武術教官「あの琴弥と戦って,よく善戦した。うん,よかった,よかった。再試合を放棄させたが,再試合したら,勝てた気がするか?」
新人B「そうですね,,,たぶん,そこそこ頑張れる気はしますが,結局は負けていたと思います。
琴弥さんは,見た目は10くらいですが,戦ってみて,まったくそんな感じはありませんでんでした。なんか,長年人生を経験してきた女性のような感覚を覚えました。それに,わたしに撃ってきた突き技も,拳の硬度が半端ない硬さでした。わたしのレベルでは,あそこまでの硬度は出せません。琴弥さんは,たぶん,上級クラスの使い手だと思います。自分の実力を隠していると思います」
武術教官「やはり,そうか。琴弥は,身長が低いから10歳くらいに見えるが,実際はかなりの年齢なのかもしれん。琴弥が上級クラスというのも理解できる。
結局は,この武術では,われわれは大差で負けてしまった。でも,お前の最後の頑張りで,われわれ剣流宗のイメージは,大幅にアップした。これは,褒美だ受けとりなさい」
武術教官は,上級精力丹2粒を彼に与えた。
新人B「え?これは,上級精力丹? こんな高価なもの,頂いていいのですか?」
上級精力丹,市価金貨50枚ほどにもなるほど高価なものだ。それを2粒もだ。
武術教官「フフフ,お前のお陰で,俺も首が繋がった。それに比べたら安いものだ。遠慮無く受けとっとけ」
新人B「はい!」
一方,気覇宗の宗主は,彩華と話し合っていた。
彩華「宗主,うちが20点以上差をつけて勝ってしまいましたね。フフフ」
宗主「・・・,あの琴弥,雑役の初級レベルでなかったのか?一番成績が悪い者を指定したはずなんだが,,,どうして,上級レベルに匹敵する技量を持っているんだ?」
彩華「琴弥は,実力を隠していたんですよ。その理由は不明ですけどね。それに,年齢も見かけほど若くないと思います。たぶん,20歳以上にはなっているはずです。わたしの感ですけどね。そんなことより,約束の聚気,,,」
彩華は,右手を繰り出して,早くよこせポーズをした。
宗主「約束は約束だ。よし,剣術との総合点で,20点以上の大差だったな。では,次の剣術との試合,同じメンバーで,選手リストを準備しなさい」
彩華「え?」
宗主「他の選手の下痢症状がまだ収まらない。多分,今日は,無理だろう。次の剣術の試合も同じメンバーで頑張れ」
彩華「宗主,それはずるいですー!」
宗主「わたしが,そう言った以上は,そうなる。反論は許さん。聚気丹の条件は,総合点で20点以上の大差。まあ,それは無理だろうから,少なくとも剣術戦では全敗だけはするな。せめて引き分けをひとつでも確保しなさい。最低でも,総合点で敵と引き分けにもっていけ。それがお前の役目だ」
彩華「・・・」
ーーー
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