第9話 水香VS禍乱

  水香は,ヒカルの遺体を抱いたまま,桜川城に向かった。ヒカルの重さなど,水香にとっては,大した重さではない。それに,触手で支えているので,ほとんど重さを感じない。


 お城までは,30分も歩けば着く距離だ。


 弓兵が全滅した知らせは,すぐに城主に届いた。しかも,水香がヒカルを抱いてお城に歩いて来るではないか!


 城主「なにーー?!! 弓兵100人全員が一瞬で殺されただと?! なにをバカな!」

 監視者「じ,事実でございます。まさに一瞬の出来事でした。そんなことよりも,人食い妖怪がこの城に近づいて来ます!ご判断を!」


 ご判断をと言われても,弓兵100名を一瞬で殺す大妖怪を,どうやって殺せばいいのか?


 城主「もう,こうなったら,軍隊と護衛兵,全員で迎え撃つしかない!」


 大将「御意!」

 護衛隊長「御意!」


 大将と護衛隊長は,「御意!」と言ったものの,逃げ足が早かった。大妖怪には太刀打ち不可能と判断し,すぐに逃げることにした。城主の命令などクソくらえだ! 


 すぐに部下に通達して,この城から逃げるように指示した。できるだけ,大妖怪から遠ざかるように命じた。


 だが,すでに遅かった。水香は,半径1kmの範囲で霊力の場を展開していた。走り去る者,すなわち,即,死だ。


 走り去る者の足場から,霊力の槍が伸びで,胸元に突き刺さった。

 バタバタバターーー!


 その死骸は,山のようになってしまった。 


 その光景を城の高台から見ていた大将と護衛隊長は,愕然とした。なんという化け物か!! 親衛隊200名。軍隊1000名が,この短時間でほぼ全滅してしまった。


 水香は,ふと,高台を見上げた。そこに2名の将らしき人物がいた。

 

 シュパー! シュパー!


 彼らは,首を落とされてその場で死亡した。


 水香は,城の中に入っていった。文官たちが,お互い抱きながら,震えていた。


 水香の視界に入った者たちは,即,死だ。ただし,女性は殺さなかった。


 シュパー!ーーー


 水香は,天守閣のある主城の全体を集中的に霊力で覆っていった。一番上の階に,3名ほど生存者がいた。たぶん,城主と彼を最後まで守る従者だろう。


 その階に上がるまでもなく,霊力の槍が地面から伸びて彼らを殺害した。


 主城が落ちた。その裏側には,後宮に相当する女性や子供たちの住む敷地があった。


 水香は,半径1kmの範囲で霊力を伸ばし,燃えるもの,すべて発火させた。


 ボボボーーー!!


 半径1km,直径にして2kmの範囲で火が噴いた。その炎は,その炎の円を徐々に拡大していった。


 水香は,霊力の羽を伸ばして,空中に舞い上がり,この城下町から離れて,適当な場所に着地した。その場所でヒカルの遺体も地面に置いた。


 城下町にある西門と東門から,住民が着の身着のまま,逃げ出す人でパニック状況になった。彼らを統率する役人はほぼ全滅した。


 ほぼ全滅,,,そう,ひとりだけ,生き残った人物がいた。ご意見番の管理者,剣上だ。


 剣上は,城下町の上空から,地面を見ていた。剣上の足元には,剣があった。剣が空を飛んでいた。


 剣上は,空飛ぶ剣を操作して,城下町の周囲を飛び回り,水香を発見した。


 彼は,水香から10メートルほど離れて,地表に降りた。


 剣上「大妖怪よ,派手にやってきれたな。まさか,ここまでの能力があるとは思わなかった。さすがの『剣上仙人』も,ここまでされては,看過できない」

 

 剣上は,自分のことを剣上仙人と称した。


 水香「剣上?仙人?」

 剣上「フフフ,巷に噂されている『仙人』とか『天女』と言われている存在だ。一般人に身を隠しているのさ」

 水香「じゃあ,蓮黒天女もそうなの?」

 剣上「彼女は,もういい歳だ。もうそろそろ弟子に2代目蓮黒天女を襲名させる時期だから,2代目の選定に余念がない」

 水香「え? わたし,蓮黒天女の直弟子ですよ」


 水香は,ウソをついた。だが,そのウソは,剣上仙人には通用しなかった。


 剣上「フフフ,それは絶対にない。お前ほどの異能者,蓮黒天女でさえも及ばないレベルだ。いったい,お前は,何の大妖怪だ?狐か?狸か?蛇か?」

 水香「・・・,わたし,,,人間です。妖怪じゃありません」

 剣上「ふん,そんなの誰が信じるものか。まあ,お前を殺せば,真の姿を顕すだろう」


 剣上は,自分の周囲に気を展開して,それをそのまま自分の背後に移動させて円形状の気の輪を形成した。それが旋回し始めた。それは,周囲の大気から気を吸収する『大気吸収環』だ。


 水香は,霊力の場を展開しようとして,剣上の体を霊力で包み込もうとした。


 パシュー!バシュー!ーー


 剣上の指から気覇弾の連弾が,地面に這う気の層に向けて発射された。


 霊力の場が,斑状になって破壊された。

 

 水香「え? 敵は霊力が見えるの? 霊力の場が形成できない!」


 剣上は,霊力をエネルギー体として目視できる。霊力の周囲が薄く光っているように見えている。『気』を扱う上位者なら容易に判別できる。


 剣上の気覇弾は,霊力の場を破壊しただけでなく,水香を狙ってきた。だが,水香の周囲に霊力の防御結界を構築してそれを防いだ。


 剣上は,気覇弾の連射を止めた。剣上は,その場であぐら座りをした。両手を合わせて,大気からの気の吸収を何倍にも早くした。周囲からの風が彼の背後の『大気吸収環』に巻き込まれていった。


 水香は,その輪みたいなものが,大気からパワーを集めているのを感じた。


 水香は,このままでは,剣上からの無限攻撃が来ると思った。ならば,水香もエネルギー源を確保するだけだ。水香は,近くにいる避難民の方向に霊力の場を展開して,彼らを霊力の層で覆っていった。


 剣上は,合わせた手の平の先を水香に向けた。


 ボボボーーー!!


  両手の先から,気覇弾エネルギーが発射された。それは,連弾というものではなく,ビーム砲のように,連続的に発射されて,水香が自分の周囲に構築した5重の防御結界を次々に破壊していった。


 最後の1層になった時,急に新しく新しい防御層が構築された。その再構築速度は,破壊していく速度とほど同等!


 破壊されては,新しく構築されるというシーソーゲームに陥った。


 剣上「フフフ,大妖怪よ。お前は確かに強い! だが,俺の攻撃は,大気がある限り無尽蔵だ。お前の防御もすごいが,いずれ力尽きる。どうだ? 降参しないか? お前なら,おれの性奴隷くらいにはしてやろう」


 剣上が,そんなことを言っている間に,水香の後方にいる避難民たちは,ひとり,また,ひとりと,バタバタと倒れていき,ミイラ状態に変化していった。


 水香もまた,無尽蔵に近いエネルギー源を確保していた。


 剣上の必殺技,決して,誰にもマネの出来ない『無限気覇弾エネルギー砲』は,1分,5分,10分と,連続的に水香を攻撃していた。

 

 水香の防御結界は,最初こそ,5秒ごとに破壊されたが,徐々にその強度を増して,10秒間耐えることができ,その後は,20秒間と,徐々に,耐える時間を増していった。それによって,水香は,防御だけでなく,攻撃する余裕が生まれた。


 防御結界を構築しながら,霊力の触手の鎌刃が,剣上を襲った。


 カッキーーン!


 剣上の体の周囲は,黄金の気の層によって防御されていた。

 

 剣上「フフフ,そんななまくらな鎌ごとき,俺を切ることはできない」


 水香は,自分で考えて攻撃することを諦めた。このままでは,負けることはないにしても,勝つのは困難だ。


 触手を展開して,背負っているリュックを開けて,銀次の頭部を出した。そこの首部分に霊力の触手を接合させて,霊力のパワーを頭部に送った。


 銀次「うううー,俺を起こすのは誰だ?」

 水香「ご主人様,起きてください! 今,ピンチです!」

 

 それを見た剣上がびっくりして,思わず,攻撃が一時ストップしてしまった。


 剣上「な,なんだ?その生首は?!」

 

 そんな問いに返事することなく,水香は,自分の霊力の場攻撃や,触手の鎌刃攻撃が,相手に一切有効ではないことを伝えた。


 銀次「水香,お前,また,大量虐殺を行ったな?」

 水香「いえ,ちょっと,小さな町ひとつを壊滅させたくらいです。それに,敵が大気から無限のエネルギーを吸収できるので,それに対抗して,人柱のエネルギーを吸収しています」


 銀次「お前,そんなしょうもない弱い敵に手こずっているのか。お前の体は,そんな柔な体ではない。神にも通じる最強の体だぞ。お前は,自然とそれをセーブしている。まぁ,悪いことではないかもしれないが。

 まあ,とりあえず,あの男の背後の金色の輪を破壊する。


 霊力の触手,強度,ダイヤモンドの5倍! あの金色の輪を正面からぶつけろ!加速100倍!」


 水香「はい!ご主人様!」


 ヒュィーーン!


 水香の背後から,超高速の触手が剣上の黄金の輪にぶち当たって,その輪を木っ端微塵に砕いた。


 ヒューー(風の流れが急速に止んだ音)


 剣上「何? 何事だ? まさか!『大気吸収環』が破壊された?」


 そんな剣上の言葉などまったく無視して,銀次は,次に次と指示を出した。


 銀次「同じ触手攻撃で,敵の顔面と胸を正面攻撃せよ!」

 水香「はい!ご主人様!」


 水香の攻撃は,水を得た魚のようだ。彼女の攻撃は,スムーズ,かつ,的確に銀次の要望を100%実現した。

 

  ヒュィーーン! ヒュィーーン!


 水香の攻撃は,剣上の顔面と胸部を強襲した。剣上は,もちろん,気による防御を何倍にも強化して,それに対抗した。


 水香の攻撃は,正確無比,しかも,前回の攻撃よりも,何倍もの威力を増していた。 


 バニューン!バニューーン!


 それらの攻撃は,剣上の体表に構築された強固な気の防御層を完膚なきまでに破壊して,顔面と胸元にクリーンヒットした。


 ドーン! 


 彼は,何百メートルも吹き飛ばされてしまった。彼の生死はまったく不明だ。


 水香「ご主人様,彼の息の根を止めますか?」

 銀次「あんな弱者,ほっとけ。何十人こようが,水香の敵ではない」

 水香「はい,ご主人様」


 銀次は,いまだ次々に避難民たちが,倒れてミイラ化しているのを見た。


 銀次「水香,もういい,霊力の場をすべて撤収しなさい」

 水香「了解です。撤収します」


 水香は,霊力をの場を撤収した。


 銀次「俺の体になる生きのいい奴,発見したか?」

 水香「はい,ちょっと,毒矢でやられていますが,気覇術の初級後期まで収めています」

 銀次「毒矢でやられているのか,,,ちょっと気にくわないな。次の生きのいい肉体を見つけなさい。俺はまた寝る。しょうもないことでもう起こすな」

 水香「はい,でも,またあぶなったら起こしますね♥」

 銀次「・・・」


 水香は,銀次の首から触手を離した。銀次は,また仮死状態に戻った。


 パチパチパチ!


 拍手をする音が鳴った。


 その音がする方向を見ると,木陰から,ひとりの男が出てきた。彼は禍乱だった。


 禍乱「大妖怪さん,あなた,ほんとうに強いね。仙人を倒すんだから」

 水香「ありがとうございます」


 水香は,お礼を言ったものの,禍乱のオーラを見て,尋常ではない強さを感じた。


 水香は,すぐに再び銀次の頭部に触手を伸ばした。


 水香『ご主人様! 大変です。ほんとうの強者が現れました!』

 銀次『なんだ? おれ,もう疲れたぞ』

 

 銀次も禍乱を見た。


 銀次『やべえ! 彼のオーラ,半端ないわ』


 水香と銀次が念話している時,禍乱は,神の力を解放した。次の瞬間,禍乱の姿が消えた。そのように見えた。


 ドーーン!


 禍乱の掌打が,水香の豊満な胸部にヒットした。水香は,銀次の頭部と共に,20メートルほど吹き飛ばされてしまった。


 だが,吹き飛ばされている間にも,水香と銀次は念話を続けていた。


 銀次『水香,こんな念話をやりとりしている時間が惜しい!俺の思念を直接,水香の頭の中に投入させる! 水香は,その思念を実現することだけに集中しろ!』

 水香『了解!』


 水香が地面に叩きつけられたが,まったくの無傷だ。そもそも,掌打ごときでは,水香の体を傷つけることは不可能だ。


 水香は,再び霊力の場を展開して,避難民の複数の男どもを一遍にミイラ化することにした。パワーはいくらあってもいい!


 水香は,倒れた地面から,ゆっくりと体を起こした。今の水香は,銀次の思念によって動く完全なロボット状態だ。


 水香(銀次の思念)「てめえ,よくもやってくれたな。ただじゃおかねえぞ」

 禍乱「ほう? 男言葉か。さては,その頭からの命令かな?」

 水香(銀次の思念)「そうだ。今なら,まだ許してやる。さっさとここから去れ!」

 禍乱「大妖怪を生け捕りにして,俺に従わせる予定だったが,そうもいかなくなったようだ。しょうがない,ここで死ね!」


 ボボボーーー!


 禍乱は,自分の背後に,10重にもなる大きな輪を形成して,大気の気を嵐が巻き起こるが如くにその中に吸収していった。その直後,何百発もの氷結の矢が,一斉に水香を襲った。


 その威力,仙人レベルを遥かに凌駕する。


 それを見た銀次は,それを真似て,同じように10重もの輪を形成して,そこから何百発もの爆裂弾を生成させて放った。


 ババババーー!ーー

 

 両者の攻撃は,もう,凡界で生じるレベルを遙かに超えてしまった。



 ー 仙界 ー

 仙界の仙王は,凡界で生じたこの異様なエネルギー波を機敏に感じ取っていた。


 仙王「この凡界から感じるこの膨大なエネルギー波は何だ?」

 

 仙王の秘書が,慌てて大きなモニター付き羅針盤を持ってきた。


 秘書「仙王様,これだけの波動があると,この羅針盤で,凡界の状況を見ることが可能だと思います。今,波動の場所に合わせます」


 秘書は,波動を合わせるのに成功して,その映像を映し出した。


 仙王「な,,,なんと!! あれは,神人ではないか! 神人と大妖怪?!」


 仙王は,大きく溜息をついた。


 仙王「秘書よ。もういい。見なくていい。それに,この事実は,他の仙人や天女は言うな。われわれ仙界のレベルを遙かに超えてしまった」

 秘書「え? でも,もし,大妖怪が,生き残ったら,他の仙人や天女たちは,その大妖怪に戦いを挑んでしまいますよ」


 仙王「返り討ちに遭うだろうが,死にはしないだろう。それに,折角,仙人や天女になって,有頂天になっている連中に,実は,ぜんぜん弱い存在なのだと,わざわざ言わなくてもいい。有頂天のまま,幸せに過ごさせてあげよう」

 秘書「・・・」


 一方,神界では,,,


 ー 神界 ー

 神界でも,その異様なエネルギー波を感じていた。


 天帝「この異様なエネルギー波の出所はどこだ?」

 

 天帝の娘である巫女がすぐに返事した。


 巫女「あれは,弟の禍乱の波動です。もう一方の波動は,未知のエネルギー波です。禍乱のエネルギー波に,まったくひけをとっていません。それよりも,どんどんと禍乱のエネルギー波を凌駕していっています」

 天帝「なんだと? では,禍乱が負けるとでもいうのか?」

 巫女「禍乱のこの全力の攻撃では,凡界では10分も持続しないでしょう。時間切れで,禍乱の負けは必死だと思います」

 

 天帝「なんと,,,大妖怪のパワーは,神人をも凌駕するのか?!」

 巫女「実は,,,大変,もうあげにくいのですが,,,」

 天帝「なんだ?」

 巫女「はい,昨日の占いで,禍乱が負けるのは予想していました」

 天帝「・・・」

 巫女「それだけではありません。まだ,未確定なのですが,その大妖怪,怒りを神界にまで向けて来るとの占いが出ました」

 天帝「なに?ーー!! この神界に向けて来るだと?」

 巫女「まだ,確定ではないのですが,,,また,折りを見て,占いをしてみます」


 天帝は,大きく溜息をついた。


 天帝「この神界は,平和ぼけしている。臨戦態勢を取るにしても,なんて説得したらいいものか,,,」



 ー 凡界,桜川城下町 ー


 仙界や神界の憂いはよそに,禍乱の無限多重輪氷結の矢攻撃と,水香・銀次による爆裂弾無限攻撃の衝突は,水香・銀次側に軍配があがった。


 もともとの爆裂弾の威力が高い上に,その爆裂弾を,禍乱の10重になっている輪を攻撃して,輪の数を徐々に削減させていった。一方,禍乱の無限多重輪氷結の矢は,水香たちが構築した強固な霊力による防御結界に尽く阻止されて,一発も水香の体にヒットしなった。


 徐々に劣勢に立たされた禍乱は悟った。


 禍乱「やべえ,,,もう神の力が持続しねえ! 30分持続すんじゃなかったのか?! くそ! ここまでかー!! くやしいー!!」


 禍乱は,最後の神の力を絞り出して,超加速で,その場から消えるように逃げた。


 周囲の大気が,台風並みの大嵐状態だったが,急激に平穏さを取り戻した。


 水香の霊力の場内にいる男どもがミイラにされた数は,優に1万人を越えてしまった。この戦闘状態では,同時に数十人もの男どもから,精力と寿命エネルギーを奪って,瞬時に霊力のパワーに変えさせられた。


 霊力パワーのすさまじさを,まじまじと見せつけるものだった。


 銀次『水香,どうやら敵は去ったようだ。もう,男どもをミイラにしなくていい』

 水香『了解しました。霊力の場を解除します』

 銀次『水香,俺は,霊体のパワー・魂力を使い過ぎたようだ。ほんとうに,当分の間,起こすな』

 水香『了解です。首部を凍結します。おやすみなさい』 


 水香は,銀次の首部を凍結させて,それを樹皮製リュックに収納して背負った。


 水香は,ヒカルの遺体のところに移動した。埋葬してあげようかとも思ったが,今は,かなり疲れてしまっていて,それどころではない。それに,この場を一刻も離れる必要があると思った。


 水香「ヒカル様,ごめんなさい。新しい敵が現れました。わたしもご主人様も,あの敵をほっとくことは決してしません。

 それは,ヒカル様の弔いにも繋がります。見ててください。あの敵も,あの敵の家族一族,皆殺しにしてあげます!」


 水香は,ヒカルに深々と一礼して,そのに捨て置いた。


 水香は,燃えさかる城下町を背に,霊力の気球を展開して,上空に舞い上がって去っていった。


 ーーー

 数時間後,,,


 剣上仙人は,意識を取り戻した。


 剣上「え? 俺はまだ生きているのか? 息の根を止めなかったのか? そんな価値などないと思われたか。フフフ,なんとも情けない」

 

 剣上仙人は体の調息を行って,気を巡らして,怪我した部位を治癒していった。さらに数時間後,やっと動けるようになった。


 剣上「どうやら,気覇宗に報告しなければならないようだ」


 剣上は,そう思いながらも,飛翔剣が手もとにないのに気がついた。彼は,水香との戦いの場に戻ってきた。

 

 剣上「なんとも,500メートルも吹き飛ばされてしまったのか。ほんと,よく死ななかったものだ。おっと,飛翔剣があった。盗まれていたら大変だったところだ」


 剣上は,飛翔剣を発見した。ほっと一息だ。そこから,10メートルほど先に,若者の遺体が転がっていた。


 剣上「え? この若者,ヒカルではないか? そうか,毒矢にやられたのか。計画甲が失敗して,計画乙行したのか。かわいそうに。あんな大妖怪と知り合ったばったかりに,人質の駒にされてしまって。もっとも,それを立案したのは俺だがな。ちょっと悪いことをした」


 剣上は,ヒカルに同情して,せめて,地中に埋めてやろうと思って,彼の遺体を抱き上げた。


 剣上「なに? 暖かい? え? まさか?! まだ,生きているのか?」


 剣上は,慌てて,ヒカルの脈を診た。


 剣上「脈がある! 生きてる!奇跡だ!」


 剣上は,すぐにヒカルに気を流して,体力の回復を図った。


 剣上「まさか,あの大妖怪,ヒカルに刺さった毒矢の毒を解毒する術を心得ていたのか? いや,それはありえない。じゃあ,どうして生きている?」


 剣上は,クスクスと笑った。そんなこと,いくら考えてもわかるはずもないからだ。


 あの大妖怪,最初は,組みやすいと思ったが,徐々に対抗し出して,男の頭部を出してからは,一方的にやられてしまった。まだまだ,あの大妖怪の正体や能力について,充分にわかっていない。いくら推測したところで,正解などわかるはずもない。



 ・・・

 剣上が,ヒカルの体に気を流して数時間後,,,


 ヒカルの顔色にほんのりと赤みが増した。


 剣上「どうやら,安定してきたな。これなら,数日は持ちそうだ。解毒の専門家に見てもらうくらの時間はありそうだ」


 剣上は,ヒカルを気覇宗に連れていくことに決めた。せめてもの罪滅ぼした。


 剣上は,ヒカルを背負って,飛翔剣に乗り,低空飛行で,周囲の状況を見て廻った。女・子どもに死亡者はほとんどなかったが,男たちのほとんどは,地に倒れてミイラ状態にされていた。

 

 城内は,相変わらず火事の真っ最中だったが,剣上は,自分とヒカルの周囲に気の防御層を構築して,高熱の炎から守り,幸いにも延焼を免れた城内を旋回して廻った。


 城内の男どもの遺体には,槍のようなもので串刺しされた痕があったが,ミイラ状態にまではされていなかった。


 娼館街の路上では,首と胴体がバラバラになった弓隊の射手たちが死んでいた。


 剣上は,改めて大妖怪の残虐さ,その殺傷能力の高さに驚いた。せめてもの救いは,女・子どもに手を出していないことだ。


 剣上は,被害状況をほぼ確認した後,ヒカルを連れて気覇宗に向かった。


 ーーー


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