第4話 立華,ヒカル,琴弥の旅立ち

 立華が,紹介料2割りを提供するという情報は,瞬く間に広がり,紹介合戦が始まり,多くの患者が絵師の住む長屋に集まった。


 事実,立華の気法術による治療は,かなりの効果を発揮した。市販で購入できる中級精力丹,市場価格で金貨15枚を支払うよりも,3分の1くらいの費用で済んでしまうし,効果がいいのだ。しかも,患者を紹介すれば,2割がバックする。


 瞬く間に,この城下町にその噂が広まった。


 絵師の玄関前に,列を作ってしまうので,已むなく,まだ完全に体調の戻らない元を受け付け係にして予約制を敷いた。


 元「えーと,患者の状況と,『気』を提供してくれる人のレベルを教えてください。あっ,それから紹介してくれた人の名前も教えてください」

 患者の父「うちの娘で8歳です。視力が著しく悪く,このままでは失明するかもれません。えーと,『気』の提供者は,わたしと妻の2名です。わたしは,中級中期で,妻は初級中期です。紹介者は,長屋の遍羅吉です」

 元「わかりました。えーと,治療費は,だいたい金貨4枚くらいになります。えーと,今ですと,まだ,予約が貯まっていませんので,7日後の午後2時に来てください。その日は,それで診療の打ち止めになります」

 患者「えー?そんなに待つんですか?」

 元「はい。別途,金貨2枚を追加すれば,2日ほど繰り上げ可能です。金貨5枚追加すれば,今日の午後3時から診察してあげれます」

 患者「・・・」


 患者は,追加の金貨5枚を出しても,中級精力丹を購入するよりも安いので,今日の3時に娘を見てもらうことにした。


 立華は,特に子どもの治療については,特別に留意する。彼女は,8歳の女の子の目の部分に気を流して,注意深く診察した。どうやら,視神経部分の気がかなり廃れてきていた。


 立華は,さらに女の子の全身の容体を診察した。立華が予想したように,腎臓も疲労していて,気がかなり低減していた。その他にも,各所で気の低減があった。とても,両親の気だけでは,治療が困難だ。


 立華「ご両親,残念ですが,この子を直すには,ご両親の気だけでは無理です。眼だけではなく,腎臓や,その他の部位にも気を流す必要があります。たぶん,上級精力丹を呑ませることができれば,少しは効果がありかもしれません」


 立華は,付箋を敷いた。上級精力丹は,市場ではなかなか買えず,買えても,金貨100枚(100万円相当)以上もしてしまう。


 患者の母「あの,,,そこをなんとかならないでしょうか?」

 立華「特別に,わたし自らの気を分ける方法があります。でも,それをしてしまうと,下手すれば,数日間,他の患者を診ることができなくなるかもしれません。

 でも,,,わたしとしても,なんとかしてみたいです。追加で,金貨20枚出してもらえるのであれば,わたしの気を分けましょう」


 患者の母と父は,お互いの顔を見合った。その意味は,たとえ追加で金貨20枚を支払ったとしても,上級精力丹を買うよりも,遙かに安いという判断だ。


 患者の父「はい,それでお願いします!お金は,間違いなく,持ってきます」

 立華「わかりました。お金を支払うまでは,母親はここで住んでもらいます。それまでは,私どもの仕事を手伝ってもらいます。半日で銀貨3枚ほど提供しましょう」

 患者の父「はい! ぜひ,それでお願いします!」


 患者の父親は,母親を人身御供にした。絵師の仕事も順調に推移しているので,人手がぜんぜん足りない状況だったので,ちょうどよかった。


 患者の女の子の治療を終えた立華は,父親と母親に伝えた。


 立華「病の根源である腎臓部分がかなり回復したと思います。あとは,栄養のあるものを食べさせることと,気の修練を開始するようにしてください。自分の気を,腎臓や目,さらに血管に隅々に行き渡るようにイメージするように指導してください。それと,時々は,母親に会いにここに来てもいいですよ」

 

 それを聞いて,父親があるお願いをした。


 父親「あの,ついでに娘をここに住まわせていただけませんか? 娘を掃除,選択など自由に使ってかまいません。お代もいただきません。なにとぞお願いします!」


 患者の母親や女の子も,頭を下げてお願いした。


 情にほだされやすい立華は,それに同意した。それに,立華は,妊娠中で,お腹が日に日に大きくなっていく。身の周りの世話をさせるにはちょうどいいと思った。


 かくして,立華はその依頼に同意して,女の子は立華の世話係になった。


 そのような,ハプニングはあったものの,立華は,順調に患者をこなしていった。絵師も,第3作目,第4作目と,立華のエロいポーズの版画を作製して,確実に評判を上げていった。


 そんな頃,ある長屋の紹介者が,とんでもない依頼を持ってきた。


 紹介者「加里様!大得意の患者が入りました!聞いてください!」


 立華の患者を診る時間帯は,午前9時から午後3時までと決めている。それ以外の時間帯は,費用の多さによって決まる。


 紹介者「梅山城の城主様が,気が奪われてしまい,上級精力丹でも,なかなか回復しないそうです。しかも,親衛隊や一部の軍人さんも気を奪われてしまい,ぜんぜん回復しません。今,城下町の有名な医師,煉丹師などを招集して,治療に当たらせていますが,どれもパッとしないとのことです。

 それで,わたしが,加里様の治療方法を紹介したところ,ぜひ,試してみたいとのことでした。もし,治療に効果があれば,かなりの需要が見込めます」

 立華「・・・」


 立華は,まさか,梅山城から話が来るとは思ってもみなかった。身分がバレたら,間違いなく殺されてしまう。


 でも,今のお腹の出っ張りや,化粧術から判断して,第4夫人だとバレる可能性はかなり低いだろうと思った。


 立華「では,特急料金その他ものの込みで,1日3名の患者を診ましょう。料金は,1日金貨200枚,午後4時から午後7時まで,かつ,気の提供者は,ひとりの患者につき3名を当ててください。上級レベルに限ります。上級レベルの方は,初級レベルにレベルダウンするのを了解してください。その条件でいいのなら,明日の午後4時に伺うとお伝えください」

 紹介者「了解でーす。ひとっぱしり,いってきやーす!」


 紹介者は,超ご機嫌だった。この仕事が成立すれば,紹介料1日金貨40枚が手に入る!


 この条件を聞いた梅山城側は,そもそも気を提供する上級レベルの連中を集めるのがかなり困難だと予想した。気のレベルが上級から初級に下がってしまうのだ。つまり,それ以降,仕事ができなくなる。回復するのに,2,3ヶ月はかかってしまう。


 そこで,梅山城側は,気の提供者に,特別手当金,金貨100枚を与え,もとのレベルに戻るまで,給与の補償および,特別休暇を与えるという条件とした。この条件でも,かなりリスクがあり,手を上げる者は10名ほどしかいなかった。もともと上級レベルの気の使い手は,梅山城でも30名いるかどうかという感じた。

 

 結局のところ,調整に時間を要してしまい,この話が正式に決まるまで1週間ほど要した。


 立華の治療を受けるのは3名のみ。その人選もいろいろごたごたがあったが,城主,城主の親衛隊隊長,後宮護衛隊隊長の3名だけとなった。


ーーー

 1週間後,立華は,ひとりで梅山城に出向いた。万一,身元がバレてしまうと,逃げるにしても,ひとりのほうがいい。


 ひとりで梅山城に向かって歩いていると,数人の男たちが彼女の跡をつけているのがわかった。


 立華は,約束の時間よりも30分以上も早く着くと思ったので,跡をつけている連中の相手をしてもいいと思い,少し,道を外れて,人気の人気のない空き地に向かった。


 人気のない空き地に来ると,跡をつけてきた連中も,姿を現した。10人ほどの大人数だった。その連中のボス格である小隊長が,数歩前に出て立華に声をかけた。


 小隊長「おい,お前,この版画のモデルは,お前だな?」


 そう言って,そのボスは,2枚の版画を立華に示した。それは,絵師が作成した初作と第2作目の版画だった。


 今の立華は,男装の姿をして,かつ,濃い化粧をしているので,版画のモデルではないと言っても,まったくおかしくないだろう。


 でも,今の姿をした立華にそのことを伝えたということは,かなり調べがついている可能性が高い。つまり,立華は,第4夫人で,城主たちの気を吸収した妖怪であることがバレたのではないのか? 


 ならば,逃げるか,もしくは,極端な方法で対処するか? いや,その前に,相手の意図をさぐるのが先決だ。


 立華は,問われた問いに返事した。


 立華「そうだと言ったら,どうなの?」

 小隊長「では,あなたが,第4夫人の立華様ですね? かつ,城主から気を奪った妖怪なのですね?」

 

 この問いに,立華は,ひとまず,否定することにした。


 立華「わたしの名前は,加里といいます。あなたの探している女性ではありません」

 小隊長「では,どうして,こんな空き地に来たのですか? あなたは,われわれにつけられていることを知っていた。知ってここに来た。つまり,われわれと戦って勝てると思っている。そうですね?」

 立華「・・・」 


 この小隊長は,かなり頭が回るやつだと思った。


 立華「そうよ。死人に口なしです。ここで死んでもらいます」

 小隊長「なるほど,,,ですが,すでに,お城にあなたのことは,数日前に城主様に報告済みです。版画のモデルは第4夫人の立華様の可能性が高いと報告しました。われわれを殺しても口封じにはなりません」

 立華「そうですか。では,なんで,つけてきたのですか?」

 小隊長「立華様は,今からお城に出向いて,城主様の治療に行かれるのでしょう? われわれは,立華様を陰ながら護衛するという,新しい任務を与えられました。あなたが,無事に城主様を治療してくださることを期待しています」

 

 立華「それって,城主は,わたしが立華だと知って,治療を受けるという意味ですか?」

 小隊長「そうではありません。建前上,あなたは,立華様ではない,ということになっています。確実な証拠がないからです。それに,われわれが報告した内容に,あなたは妊娠5ヶ月ほどのお腹をしているということも付け加えました。

 それをもって,城主様は,かつ,奥医師も,あなたを立華様ではないと断定しました」

 立華「なるほど。でも,あなたは,わたしが,立華だと思うのね?」

 小隊長「はい,わたしは,そう思っています。あなたは人間ではない。妖怪なら,妊娠期間は短いはず。なら,短期間でお腹が大きくなるのも自然なことです。でも,立華様,誤解しないでください。われわれは,戦いにきたのではありません。気法術治療師・加里様を陰ながら護衛にきたのです。城主様に安全に治療を受けてもらいたいのです」

 立華「そうですか,,,そこまで類推したのですか。城主様は,優秀な部下を持ったのですね。そうまで言われてしまっては,もう隠す必要はありませんね。そうです。わたしが立華です。あんたの予想通り,わたしは人間ではありません。あなたがたの云う妖怪です。でも,この事実は,内緒にしてください」


 小隊長「立華様,ご安心ください。わたしたちの任務は,数日前に,探索から,立華様の護衛に変わりました。護衛には,守秘義務も生じます。ここで知り得たことも内緒にします。ご安心ください。それに,立華様と戦ったところで,到底,勝てるとは思っていません。立華様の気のレベルは,すでにS級に達しているはずです。それも,おそらく,中期か後期レベル。われわれが束になっても勝てるような状況ではないです」

 

 立華「そこまで,予想していたのですか。見事です。わたしにも,あなたのような優秀な人材がほしかったわ」

 小隊長「お城は,逆方向です。ここからは,われわれが先導します。よろしいですか?」

 立華「そうね。それでお願いします」


 立華は,ちょっと残念だった。彼らを倒して気を奪う予定だったのに,それができなくなった。でも,無駄な争いは少ないほうがいいので,これでよしとするか?



 ー 梅山城 ー


 立華は,男性の着物姿をして,かつ,厚化粧をしている。立華を知る者でも,立華を見て,本人だとは,まずわからない。


 立華は,小隊長たちの先導で,梅山城に出向いた。


 梅山城で対応するのは奥医師だ。立華は,もしかしたら,奥医師は,自分が妖怪の身分であることも見抜いているのかもしれないと思った。


 奥医師「あなたが,加里様ですか? お待ちしておりました」

 立華「加里です。よろしくお願いします。あの,,,大変失礼ですが,料金は,先払いになっています」

 奥医師「わかりました。少々お待ちください」


 奥医師は,準備した謝礼金を持ってきて,立華に渡した。


 立華「はい,確かに受けとりました。では,まず,気を提供してくださる方のところに案内してください」

 奥医師「では,どうぞ,こちらに来てください」

 

 奥医師は,立華を連れて診療室の隣の部屋に案内した。その道すがら,奥医師は,立華に質問した。


 奥医師「あの,わたし,どこかで加里様と会ったことはないでしょうか? どうも,誰かと雰囲気が似ている感じなんです」

 立華「そうでか? 世の中には,よく似た人が3名はいるって,よくいいますかね」

 

 立華は,さきほどもらった金貨10枚を取りだして,こっそりと奥医師の懐にねじ込んだ。


 奥医師「え? これは?」

 立華「気にしないでください。今回対応してくれたお礼とでも思ってください」

 

 奥医師は,この行為で,間違いなく『加里』は,立華,つまり,第4夫人だと判断した。つまり,今回の城主たちの気を吸収した大妖怪だ!


 そもそも,健康な連中の上級レベルの気を初級レベルに引き下げること事態,気を吸収しないとできない内容だ。


 でも,金貨10枚を捻じ込まれた以上,しばらくは黙ってあげようと思った。それに,そもそも殺人を犯してはいない。大妖怪ではあるけど,重罪人ではない。


 気を提供する連中が控えている部屋に来た。そこには10名の上級レベルの武官がいた。いずれも上級前期だ。一般人にとって,上級中期へのハードルがかなり高いことを物語っている。


 立華は,奥医師に2時間ほど時間がかかることを伝えた。彼は,作業が終わったら,隣の診療室に来るように立華に伝えて,その診療室に入った。


 立華は,カーテンを仕切ってある部屋にひとりずつ来てもらい,目を閉じてもらった。立華は,彼の唇にキスをして,気を吸収した。それと同時に,彼の胸に直接手を当てた。


 それは,気を吸収しすぎて,心臓部や肺部などの気が減少させてしまうのを避けるためだ。


 10分ほどかかると思ったが,5分程度で作業を終えた。その武官はすでに意識を失っていた。


 立華は,ほかの武官に彼を床に置くように依頼した。他の武官は心配そうだった。 立華は,30分ほどで意識が戻ることを説明し,かつ,しっかりと養生すれば,早くて1ヶ月もすれば,もとのレベルに回復することを説明した。


 そのことを聞いて,他の武官は,安心して立華の施術を受けた。


 1時間半後,作業は終了した。


 立華は,彼らから気を吸収したことで,何か,体に大きな変化が生じたことを感じた。


 大気の気が立華の周囲に集まる現象は以前にもあった。でも,今回は,それだけでなく,集まった気を,いくらでも体内に吸収できるようになった。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  


 立華はこころの中で思った。


 立華『え? この現象って,もしかして,レベルアップしたの? 天女レベルになったの?』


 立華は,大気の気をかなり自由に吸収できるようになったことに驚いた。立華は,内心,これが天女レベルなのだと思うことにした。


 立華は,30分ほど,自分のこの変化を楽しんだ後,隣の診療室に入った。


 そこには,ベッドがずらりと並んでいて,患者が横たわっていた。


 奥のカーテを仕切ってあるところから奥医師が顔を出した。

 

 奥医師「加里様,こちらです」


 立華は,カーテンで仕切られた部屋に入った。そこには,3人の患者が横たわっていた。その中に城主もいた。


 立華「では,治療を始めます。患者を裸にしてください。それと,患者には目隠しをしてください。変な気を起こさないためです」


 変な気とは,なんのことかわからなかったが,奥医師はその通りにすることにした。


 奥医師「了解しました」


 奥医師は,患者を裸にして目隠しをしていった。

 

 立華は,まず城主から診断することにした。大気から吸収した気を手の平に集めて,内臓の気の具合を調べた。果たして,元で確認したように,心臓,肺,肝臓,腎臓,さらに,大動脈部分の気が大幅に減少していた。


 そこで,それらの部分の気を少しだけ補うことにした。大量に補うと,それらの臓器がびっくりして,異常活動を起こしてしまう可能性がある。もっとも,理由は,それだけではなく,気を与えるのがもったいないという理由もあるのだが,,,


 城主の治療は,わずか10分で終わった。同じく,他の2名の10分程度で終わった。


 立華「奥医師様,これで治療は終わりました」

 奥医師「え? もう終わったのですか?」

 立華「はい,あまり大量に気を注入すると,返って害になることがあるのです。

 患者の臓器がかなり弱っていましたので,補強させていただきました。これによって,精力丹を呑ませれば,その効果がある程度,発揮できるようになると思います。

 そうですね,1週間もすれば,内臓部分は,正常になると思います。それからは,気の回復も早いでしょう。みるみるともとの気のレベルに回復するはずです」


 奥医師「ということは,今からだと,2週間ほどで完治する感じですか?」

 立華「はい,精力丹を上手に処方すれば,もっと早く回復すると思います」

 

 その言葉を聞いて,奥医師は,ニコッと微笑んだ。


 奥医師「了解しました。では,そのように対処させていただきます。では,応接室まで案内させていただきます。そこで体を休めてからお戻りください」

 立華「ありがとうございます。そうさせていただきます」


 

 奥医師は,立華を応接室まで案内した。その間,立華の考える治療方針を,さらに詳しく奥医師に伝えた。彼は,立華の考える治療方針が的を得ているものだと思って関心しきりだった。


 立華を応接室まで案内した後,女中に,お菓子や飲み物を出させた後,彼は,ある人物を紹介したいと言って,部屋から出ていった。


 しばらくして,奥医師は,ある少女を連れて来た。


 奥医師「立華様,この少女を,立華様の身の周りの世話係にしていただけませんか?」

 

 それは,立華にとって寝耳に水だった。


 立華「え? どうしてですか?」

 奥医師「実は,,,」


 奥医師「この少女は,薬草採取に行った際に,偶然出会いました。3年ほど前のことです。道の迷ったと思って,家族の状況を聞くと,覚えていないのです。已むなく,我が家でしばらく面倒を見ることにしました。ところが,彼女は,いろいろと機敏に家事手伝いをしてくれました。妻は,この少女を大変気に入って,読み書きを教え,さらに,気の修行方法も教えました。

 最初は,なかなか覚えなかったそうですが,徐々に覚えが早くなり,読み書きは1年ほどで,専門書が読めるほどになりました。薬草や煉丹術に関する専門書も読むことができます。


 ですが,問題は,気の修行でした。この少女は,どんどんと気のレベルを上げていきました。彼女は,見かけ上10歳くらいなのですが,今では,上級前期レベルに達してしまいました」


 立華「あらまぁ,すごいこと。大変,結構なことではありませんか。でも,なんで,わたしに預けるのですか?」

 奥医師「実は,,,彼女は,加速もできるのです。しかも,たぶん5倍速には達しているでしょう」

 

 このことを聞いて,立華は大体の予想がついた。つまり,厄介払いをしたいだけのことだ。


 立華「つまり,彼女は,人間ばなれした能力を持っているので,わたしに預けたいという意味ですか?」

 

 奥医師は,ニヤニヤした。


 奥医師「ええ,まあ,そうです。この部屋には,他に誰もいませんので,正直にいいますが,『立華様』,あなた,人間ではありませんね? たぶん,この少女も人間ではないと思います。彼女を育てれるのは,もう立華様以外いないのです。立華様のことは,内緒にしておきますよ」

 

 立華「・・・」


 立華は,つまり,立華の素性を内緒にするから,この少女を引き取ってくれと云っていると理解した。


 立華「この子の名前は?」

 奥医師「わたしは,琴弥と名づけました」

 立華「そうですか。わかりました。本人がそれでいいなら,引きとりましょう」


 立華は,琴弥を引き取ることにした。


 その言葉を聞いて,琴弥は,立華に向かってペコッと頭をさげた。


 琴弥「立華様,わたし,琴弥です。よろしくお願いします!」

 立華「琴弥,あなた,わたしの云うことは,素直に聞くのですよ。いいですね?」

 琴弥「はい,心得ています!」


 奥医師にとっては,ちょっと寂しい気もするが,このまま傍に置いても,琴弥のためにならないという判断だ。

 

 立華は,奥医師に別れの挨拶をして,琴弥を連れて,長屋の絵師の家に戻った。


 立華は,すでに天女クラスになったと判断したので,治療師の看板を下げることして,長屋の連中にもそれを伝えた。すでに予約を取った患者については,治療を引き受けることにした。


 眼を患った少女も,2週間ほどで,ほとんど正常に回復し,母親もその間,仕事をしてくれたので,娘を連れて自宅に帰ってもらった。去り際に,母親と娘からは,最上級のお礼を云われた。


 そんなことがあると,立華としても,この仕事を続けてみようかとも思うのだが,ますます身重になるし,一部の人には,立華が妖怪であるとバレているので,そろそろ本格的に身を隠す時がきたと思った。


 立華は,絵師や元,旦に,別れの挨拶をした。彼らは,涙を流して悲しんだ。それはそうだろう。もう,豊満な胸を触ることができなくなってしまうのだ。


 絵師にとっては,立華のエロいポーズのデッサン画が豊富にあるので,当面の仕事には支障はきたさない。でも,やはり寂しい。


 立華は,琴弥を連れて,この城下町を去った。彼女らの行く先は,立華が以前お世話になった村だ。そこなら,彼女を受け入れていくれるし,城下町からもさほど遠くないので都合がいい。


 立華は見かけ12歳,琴弥は10歳くらいだ。ともに少女だ。琴弥は大きなリュックを背負っている。荷物運搬係だ。


 少女2人が夜道を歩くのは,どうぞ誘拐してくださいと云っているようなものだ。


 案の定,ひとりの男が,声をかけてきた。


 男「お嬢ちゃん,どこに行くの? 夜道はあぶないよ。わたしが一緒についていってあげようか?」

 

 この言葉に,立華は,有無をいわさず,蹴り飛ばして気絶させた。琴弥に財布を奪うように指示した。琴弥は,手際よく財布を奪い,リュックの中に収納した。その中には,すでに,金貨1000枚ほど貯まっていた。かなりの重さになるのだが,琴弥にとっては,こんな重さなど屁でもない。


 その後,同じ事が何度が起こって,その都度,お金が貯まっていった。


 立華は,途中からルートを変えて,山道に入って,人目につかないようにして,ふたつの山を越えて,人里から隔離されたような村にやっと着いた。


 立華は,村の村長に金貨200枚を渡した。そのこともあって,立華と琴弥は,大歓迎を受けて迎えられた。


 立華は,その後,まもなく可愛い赤ちゃんを産んだ。男の子だった。琴弥は,その赤ちゃんをかいがいしく世話した。立華は,その赤ちゃんにヒカルという名を付けた。


 立華は,ひまひまに琴弥に気の修行をつけた。その修行は,一風変わっていて,大気から集めた気を琴弥に吸収させるというものだ。今の琴弥にとっては,すぐに吸収できるものではないが,でも,呼吸するだけでも有益だった。


 ヒカルは,生まれた時から,ヒトの赤ちゃんの1歳くらいの様相を呈していた。その後の成長も異常に速く,生後1ヶ月後には,すでに3歳くらいに成長した。


 立華は,村長にお願いして,ヒカルに読み書きと武術を教える家庭教師をつけてもらった。武術では,琴弥も一緒に習うことにした。武術の達人になると,仮に気を扱えなくても,気の上級レベルを扱う連中に勝つことも可能だ。そのため,この村では,気法術を修行するよりも,武術を修行するのが奨励されている。


 ヒカルの成長は凄まじく,生後半年で12歳ほどの外見を呈した。すでに琴弥の身長をわずかに超えてしまった。


 立華は,もはや自分ではもうどうしようもないと思って,ある決断をした。


 立華は,ヒカルと琴弥を呼びつけた。彼女は,まず,琴弥から話を始めた。


 立華「琴弥,あなたは,すでに上級中期レベルになりました。加速も10倍速が使えるのでしょう? この蒼青大陸にあっては,十分に強者と云えるでしょう。ですが,いくら強者になっても,女性の場合,子どもを産み育てるという大事な役目があります。それを考えると,これ以上,強くなる必要はないでしょう。それよりも,煉丹術,符篆術,陣法,陣盤術などを習得するほうが,生計の足しになるはずです。

 琴弥,ここに,金貨500枚あります。これをあなたに渡します。これで,ここを出ていき,どこかの武林宗に入宗しなさい。そこで,煉丹術などの座学を修得しなさい」

 

 琴弥「立華様,わたし,ヒカル様の面倒を見なくていいのですか? ヒカル様は,まだ生後半年ですよ。まだまだ赤ちゃんです」

 立華「どういうわけか知りませんが,ヒカルは異常に成長が早いです。わたしも予想外です。それに,ヒカルは,すでに読み書きは少しはできます。武術もある程度できるし,気法術も初期後期レベルに達しています。もう琴弥の世話になる必要はりあません。琴弥は自分の道を進みなさい」


 琴弥は,ヒカルを一生面倒みたかった。でも,立華からそう云われた以上,従うしかない。


 琴弥「・・・,わかりました。その言葉に従います。ここからですと,桜川城に近い気覇宗か,梅山城に近い剣流宗のどちらかになりますが,,,」


 琴弥は,立華にどちらに行くべきかを決めさせた。


 立華「では,気覇宗にしなさい。剣流宗は梅山城に近すぎます。わたしが悪さをした梅山城の近くには行くべきではありまん。

 そのお金があれば,いくらでも裏口から入宗できるはずです。それと,琴弥,自分のレベルは隠しなさい。気法術は初級中期のレベルということで入宗しなさい」

 琴弥「はい,仰せのままに」


 立華は,琴弥のことを解決したので,次にヒカルに言った。


 立華「ヒカル,お前は,まだ生後半年ですが,これからは,生後12歳として生きていきなさい。お前の母親は,わたしですが,わたしのことは内緒にしなさい。ヒカルの父親は,特殊な事情があって,明かすことはできません。でも,どうしても説明することがあれば,梅山城の城主の名前を出してください。わたしは,そこで第4夫人でした」

 ヒカル「父親が梅山城の城主で,母親は,第4夫人?」

 立華「そうです」


 立華は,もっと詳しく話しをするほうがいいと思った。


 立華「少し,わたしの身の上話をしましょう」


 立華は,ちょっと,呼吸を整えてから話を続けた。


 立華「わたしは,人間ではないのよ。わたしは,ここから,300kmほど離れた場所にある三帝森林に棲む妖蛇女王と呼ばれた存在なの。


 あれは,もう10年も前もことだったわ。我が一族の墓が,人間どもに荒らされたのよ。それで,わたしは怒って,彼らに攻撃を仕掛けたわ。


 従者のひとりを殺したわ。当時,わたしの強さは,人間でいうS級中期に達していたと思う。だから,わたしの強さに対抗できたのは,その人間のパーティで,S級前期に達していた護衛だけだった。彼は,捨て身で,わたしに挑んできたわ。仲間を逃がすために,死ぬ覚悟だったのね。


 わたしは,彼の一太刀を躱し損ねて,重傷を負ってしまった。でも,彼は蛇毒によって,まもなく死亡したわ。


 わたしは,彼を丁重に埋葬した。今思えば,別に生死をかけて戦う必要はなかったのかもしれない。彼の身につけていた遺品を整理していたら,彼は,梅山城の後宮護衛隊隊長という身分だとわかったわ。


 わたしは,その後,妖蛇王の身分を自分の娘に譲って,梅山城に行くことにしたの。人間に化けてね。もう,10年も前のことよ。


 どうして,そんなことをしたのか,,,自分でもよくわからない。復讐するという気持ちはまったくなかった。


 なんか,自分の命を顧みず,仲間を逃がすためにわたしと戦った彼のことを思うと,なんか,もっと人間社会のことを体験してみたいと思ったのかもしれない。


 でも,旅の途中で,いろんな人と知り合って,村々で生活をさせてもらったりしたら,あっという間に10年の歳月が経ってしまったわ。人間社会って,刺激があってとても面白かったわ。


 でも,さすがに,これではダメだと思って,8ヶ月ほど前に,やっと当初の目的地である梅山城に着いたの。


 そこで,わたしは梅山城の第2夫人・優魅様の女中として採用された。その後,毒入り食事をいろいろと食べさせられたけど,わたし,毒には耐性があって平気なの。毒では死ななかったの。そんなことがあったけど,そのうち,城主に見そめられて,第4夫人になったの。


 でも,わたしの女中たちは,毒入り食事の毒味をして死んでいったわ。毒殺を仕掛けてきたのは,もちろん第2夫人よ。


 わたしが,そのまま後宮に残ると,わたしの女中たちに迷惑がかかると思って,城から抜け出す決心をしたの。その時にね,ついでだから,城主たちから,気を奪ってやったわ。フフフ」


 ヒカルや琴弥は,何も返事をしないので,話を切り上げることにした。


 立華「ともかく,ヒカル,あなたの父親は城主で,母親は,第4夫人,つまり,わたしよ。それだけは,頭に入れておきなさい」

 ヒカル「・・・,はい,,,」


 立華は,ヒカルに金貨2枚だけを渡した。


 立華「ヒカル,このお金は当座の生活費です。そのお金で,身支度を整えて,どこかに就職しなさい」

 ヒカル「え? わたしは,どこかの武林宗に行かなくていいのですか?」

 立華「男は,お金を稼いで,愛する女性を守っていけばいいのです。ヒカルは,気法術では初級後期レベルです。仕事を選ばなければ,仕事はいくらでもあるでしょう。とにかく,仕事を見つけてそこで真面目に仕事をしていきなさい。それが男の道です」


 ヒカルは,ついこの間まで,立華の母乳を飲んでいた身だ。それが,急に,独り立ちをしなさいと云われても困ってしまう。でも,立華の命令は絶対だ。反抗したところで意味はない。


 ヒカル「お母様は,どうされるのですか?」

 立華「わたしは,真天宗に行くことにします。そこから,仙界に行って,さらに,その上を目指します。他に何か,最後に質問はありますか?」

 ヒカル「・・・」

 琴弥「・・・」


 ヒカルや琴弥にしても,何を質問していいかもわからない。真天宗? 仙界? その上? まったくわけがわからない。


 立華「質問は,ないようですね。では,これでお別れです。わたしは,村長に挨拶をしてから,そのままここを去ります。ヒカルも琴弥も,明日にはここを去りなさい」

 ヒカル「はい,,,わかりました」

 琴弥「はい,,,立華様,短い間でしたが,お世話になりました」


 琴弥は,立華に対して五体投地を行った。


 立華は,その後,村長に挨拶をしてからこの村を去った。


 琴弥は,翌日,リュックを背負って,この村を出ていった。気覇宗に行くためだ。


 ヒカルは琴弥を見送った。琴弥の後ろ姿は,どことなく寂しかった。少女のひとり旅になるが,琴弥は十分に強いので,その身を心配する必要はまったくない。


 ヒカルは,仕事を探さなければならない。でも,どうやって?


 ヒカルは,なんか,人生がいやになってきた。ままだだ母親に甘えたいのに,それができない。ヒカルは,行き当たりばったりで,適当に仕事を探すしかないと思った。


 ーーー 

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