第5話 ヒカルの仕事
ヒカルは,とうとうひとりになった。
今のヒカルは,自称12歳で初級後期レベルだ。12歳にしてはかなりいい線いっているのかもしれない。でも,正直言って弱者だ。
ヒカルは,身支度を調えて村を出た。
・・・
しばらくあてのない道を歩いていくと,関所が出てきた。
それは,桜川城の役所が管理している関所ではない。寿影組と呼ばれる盗賊団が管理している関所だ。
門番「おい,小僧,ここを通りたければ,銅貨5枚(500円相当)だ」
ヒカル「え?お金をとるのですか?」
門番「当たり前だ。お前,いったい,どこから湧き出たんだ?」
ヒカル「ボク,,,一文無しで,,,あっ,そうだ。あの,ボクをここで雇ってください。なんでもします。ぜひ,ボクを採用してください」
ヒカルは,金貨2枚持っているが,一文無しを装うのがいいと思った。
門番「アホか!金がないなら,さっさとどっかいけ!迂回すれば,2,3日かかるが,桜川城下町には行ける」
ヒカル「・・・」
それも悪くないと思ったが,でも,もう少し粘れば,なんとかなりそうだと感じた。
ヒカル「あの,,,ボク,これでも,気の扱いは初級後期です。それなりに役に立ちと思います。ぜひ,ぜひ,採用してください!」
門番「小僧,お前,ほんとわかっていないな。門番の俺に訴えたって,なんの役にも立たんぞ」
ヒカル「でも,門番のあなたにしか,面識がないです。なんとか,採用してください。もし,話をつけてくれたら,最初の給与のすべてをあなたに差し上げます」
門番は,少し気持ちが動いた。
門番「では,3ヶ月分だ。3ヶ月分をよこせ。だったら,口をきかんでもない」
この言葉にヒカルは,心の中でヤッター!と思った。
門番「では,あと1時間ほどここで待て。交代の門番が来たら,小僧を副組長のところに案内してやる」
ヒカル「はい!お願いします!」
・・・
1時間後,その門番はヒカルを連れて,副組長の仁ところに連れていった。
仁は,実質,何も仕事しない。強いていえば,組長である禍乱の護衛的な存在だ。だって,金銭的に金欠な状況に陥っているので,禍乱の護衛も新規に採用できない状況だ。
門番は要件を副組長の仁に説明した。仁は,ヒカルをマジマジと見た。
仁「小僧,お前は何ができる?」
ヒカル「ボク,気の扱いでは,初級後期です。それと,文字の読み書きも少しなら出来ます。事務仕事もできると思います。はい」
仁「ほほう,文字の読み書きができるか。では,算術はどうだ?」
ヒカル「簡単な算術はできます」
仁「そうか。確か,秘書が簿記係をもうひとりほしいとか
言っていたな。じゃあ,少しの間,簿記係として様子をみるか」
ヒカル「はい! よろしくお願いします」
仁は,女性秘書を呼んで,ヒカルを簿気係として,試しに使ってみるように依頼した。
これが仁の,この寿影組の副組長になってからの初仕事だった。
女性秘書は,そう言われてはしょうがないので,ヒカルを,簿記担当の女性のもとに連れていった。
簿記係は,禍乱に殺された元組長の愛人だった志穂(22歳)が担当している。だが,組織がかなり大きくなってきており,1人では賄きれなくなった頃だった。
ヒカルは志穂に預けられた。彼女はヒカルをマジマジと見た。
志穂『なんて,可愛い子なの? 食べちゃいたいくらい』
志穂は,いいペットが出来たと思った。でも,まずは,仕事を覚えてもらうことが先決だ。ヒカルはソロバンが出来ないのを知って,ソロバンの基礎をまず教えることにした。
志穂は,手取り足取りして,自分のEカップの胸をヒカルに押しつけるようにしてソロバンを教えた。
志穂「ここはね,2を下げて5の玉を上げるのよ。わかった?」
志穂は,ヒカルの耳元を舐めるかのようにして説明した。
ヒカル「あの,,,どうして志穂様は,わたしに体を接してくるのですか? 暖かいのはいいのですが,ちょっと,作業に支障をきたす時もあるのですが,,,」
志穂「物事を教えるには,スキンシップが大事なのよ。物覚えが2倍にも3倍にも早くなのよ。理解しましたか?」
志穂はそう言いながら,自分の右手がヒカルの胸や腹,さらにその下部にまで及んでいった。
ヒカルは,志穂の性的攻撃を避けたいのだが,ここで仕事を失っては,寝泊まりするところも,食事もありつけない。ヒカルは,志穂の逆セクハラを甘んじた。
ヒカルが顔を少し赤らめて,一生懸命,ソロバンを練習しているのを見て,志穂は,超楽しくなった。
志穂『このペット,超面白いわ。超可愛いし,顔を赤らめるのもウブでいいわ』
・・・
こんな生活が2週間ほど続いたある日,第2部隊員が,ある少女を誘拐してきた。その少女は処女だった。
第2部隊長は,この成果を禍乱や仁には報告しなかった。もし,報告すれば,折角の処女が奪われてしまうからだ。でも,少女を無理やり犯すと,自殺される可能性がかなり高くなるのも知っている。
もっとも,最近は,寿影組の本部に常駐しているのは,副隊長の仁で,組長の禍乱は,どこに行っているのか,まったくわからない状況だ。風のうわさでは,金策に翻弄しているらしいのだが。
とにかく,第2部隊長は,最近,簿記係として採用されたヒカルを呼びつけた。
ヒカル「第2部隊長,なんでしょうか?」
第2部隊長「おっ,ヒカルか。お前,童貞だったな?」
ヒカル「ええ,まあ,そうですが,,,」
第2部隊長「では,この少女と一晩一緒に過ごして,明日の朝までに,彼女を犯しなさい」
ヒカル「・・・」
その少女は,無理やり犯されてしまうものと思っていたが,意外にも,超かわいい少年と一晩過ごせると聞いて,少しだけ安堵した。この少年となら,自殺しなくてもいいかもしれない,,,
ヒカル「あの,,,断ることは出来ないのでしょうか?」
第2部隊長「俺は,お前のために,こんな貴重な機会をつくってやったんだぞ。感謝しなさい。拒否は許されん!」
これに,志穂が鋭く反応した。志穂は第2部隊長に耳元で囁いた。
志穂「部隊長さん,ヒカルの童貞はわたしがもらうのよ。もうちょっと待ってちょうだい」
バチーーン!
第2部隊長は,志穂の顔を殴った。それは嫉妬とかではない。自分の決定を否定されたからだ。志穂は,もう,まったく権力を持たない,しがない事務屋に成り下がっていることを知らしめるためだ。
第2部隊長「ヒカルはお前のおもちゃではない!」
志穂は,いずれこの男を殺してやると心に決めた。
・・・
その日の夜,ヒカルは誘拐された少女と二人きりになった。少女のほうは,すでに覚悟を決めていた様子だった。だが,ヒカルは違った。
少女「あの,,,ヒカル様?わたしを犯さないのですか? わたし,覚悟はできています」
ヒカル「・・・,ボク,,,愛情が大事だと思うんです。だから,,,あの行為はできません」
少女「・・・,わたしが心配することではないのですが,わたしを犯さないと,ヒカル様が罰せられるのではないですか?」
ヒカル「そんなことにはならないでしょう」
ヒカルは,まだ寿影組のことを十分に理解していなかった。
翌朝,第2分隊長は,ヒカルが少女を犯していないことを知って,罰として,ヒカルを地下の牢獄に入れた。
ヒカルは,なんで少女を犯さないだけで,牢獄にいれられるのか,よく分からなかった。
この決定に,志穂は女性秘書に文句を言った。女性秘書も第2分隊長にヒカルを解放するように依頼したがダメだった。
彼女は,仁にお願いしようかとも思ったが,こんなことで,寿影組の内部に亀裂が走るのもよくないと思ったので,黙っていることにした。
とにもかくにも,第2分隊は,第1分隊とともに寿影組の大事な実行部隊だ。あまり波風を立てないように振る舞うべきだ。
ーーー
ヒカルが,牢獄に入れられた頃,その付近の森林の上空では,いかずちが鳴り始めた。
ゴロゴロ,ピカーー!
ドーーン!
天気がいいのにも関わらず,雷が鳴り,大きな物音が鳴った。
部下A「え? こんな天気なのに,雷が鳴りましたよ。これって,,,?」
第1分隊長「これって,仙器か神器が出現した時に,出現する現象だと伝説で云われている。よし,その場所にいくぞ!」
部下A「でも,かなり山奥ですよ。2,3時間はかかってしまいますよ」
第1分隊長「構わん。行くぞ」
第1分隊は10名ほどからなる。第1分隊は,全員が馬から下りて,馬を管理する隊員2名をその場に残して,残りの隊員8名は,雷の落ちた方向へと歩いていった。
そのいかずちとともに,あるひとりの少女がこの凡界に出現した。
キャー!
その少女は,悲鳴をあげた。その少女は,頭部をしっかりと抱いていた。そうなのだ。その少女の名は水香。そして,彼女が抱いていたのは,魔体の銀次の頭部だった。
ドーーン!
水香は,地表に激突した。水香は霊力が使える。彼女は,自分の周囲に霊力の防御を展開していたので,落下しても外傷はなかった。
水香は,落下したショックで,一瞬,意識が遠のいたが,すぐに意識を取りもどした。
水香「え? ここは?」
水香は,周囲の状況を見た。どこかの森林の中のようだ。このような奇っ怪な現状を経験しても,水香は,まったく動じなかった。だって,これまでの人生経験から比べれば,こんな奇妙な現象,驚くにも値しない。
水香の手には,銀次の頭をしっかりと抱いていた。水香は,銀次に声を掛けたが返事はなかった。霊力のパワーを頭部に流してみた。果たして,銀次は目覚めるだろうか?
頭部だけの銀次の眼がゆっくりと開いた。声帯がないので,念話で話した。
銀次『お? 水香か?』
水香『はい,ご主人様,水香です』
銀次『他に言うことはないのか?』
水香『・・・』
銀次『なぜ,頭だけを奪ったんだ?』
水香『・・・』
銀次『だんまりか,,,まあいい。ここはどこだ?』
水香『・・・』
銀次『わからないか,,,この世界に魔力はあるのか?』
水香『・・・』
銀次『わからないか,,,この状態のままでは,ボクの頭部から魔力が漏れてしまう。1ヶ月と持たないだろう。水香,必要な時以外,ボクを起こすな。首の断面を凍結させなさい。それと,頭部を収納する箱,そうだな,,,樹皮製でリュックを創って,そこにわたしを収納して,常に水香と一緒にいるようにしなさい』
水香『樹皮製のリュック,,,わかりました』
水香は,霊力の触手を伸ばして,近くの樹木に巻き付き,先端を刃にして,樹皮を剥いていった。
銀次『水香,さすがだな。作業しながら聞きなさい。この世界がどんなところなのか,情報を集めなさい。また,魔力を探すこと。もし,ないのなら,,,そうだな,,,水香,お前が愛する相手を探せ。お前がその身を貢ぐに足る男性を見つけなさい』
水香『愛? 愛ってわかりません。でも,この身を貢ぐ男性は見つけます』
銀次『ほほう,やけに積極的な言葉を吐くな。まあいい。わたしの首部を凍結しなさい。必要な時以外,起こすな』
水香『ご主人様,りょうかーい』
水香は,銀次の頭部全体に凍結の霊力を展開して魔力の消耗を抑えた。
樹皮の柔らかい部分を組み合わせて,樹皮を糸状にして,縫い合わせてリュックの形状を作成していった。
2時間ほどかけて樹皮製のリュックを完成させた。水香は,銀次の頭部をそのリュックの中に入れて,それを背負った。
ちょうどその時,水香は,人が歩く音を遠くで聞いた。
水香『誰か,人が来るわ』
水香は,別に警戒することもなく,人が来る方向に向かった。
パシュー! パシュー!
馬が駆ける音の方から,矢が飛んで来た。
その2本の矢は,水香のGカップもの豊満な胸に当たった。胸の服を突き抜いたが,水香の皮膚に突き刺さることはなかった。今の水香の皮膚は,霊力で防御しなくても,弓矢ごときで刺さることはない。
水香『え? 矢に打たれた? わたしを殺する奴がいる?』
水香は,自分が矢の標的にされていることを知った。水香は,矢を振り払って,身を隠す場所を探した。とにかく,人が来る方向から遠ざかって駆けた。
この時の水香は,外見年齢12歳の美少女風で,身長140cm,お尻回り1メートルほどあり,両の乳房が2kgほどのGカップの胸をしていた。その両の乳房は,水香が駆けるのと,連動して,左右前後に揺れた。
キャー!
水香は,ロープの輪に引っかかって,樹木の上にまでつり上げられた。水香の声は,幸いにも小さかった。そのため,矢を射った騎手は,水香の声を聞き取れなかった。
水香の後ろ姿を追っていた第1分隊員は,急に水香を見失った。
第1分隊長「あれ?どこに行った? 矢が当たったはずだ。どこかに手負いで隠れているはずだ! クソ! 日が沈んでしまう。ここまでか!」
部下のひとりが,組長に進言した。
部下A「分隊長,この近くに村がありますから,矢で射貫かれた女を発見次第,連絡してもらうようにしてはどうでしょう」
第1分隊長「そうだな。それに仙器・神器が出現した可能性もある。それも含めて村人に徹底しなさい」
部下A「御意!」
まさに,その時だった。
カーカーカー!
カラスが,宙ぶらりんになっている水香に攻撃を仕掛けてきた。
彼らは,カラスの鳴き声の方を見た。そこには,罠にひっかかっている少女を発見した。
第1分隊長「どうやら,運は我らに味方したようだ」
部下A「村人が設置した罠に引っかかったようです。フフフ,見るからに巨乳の美少女ですぜ。フフフ」
その後,水香は地上に降ろされた。
水香は,ここでは逆らわず,流れに任せることにした。
部下A「あれ? 服に穴が空いているのに,おっぱいに矢が刺さった跡がありませんぜ?」
第1分隊長「そんなの気にしなくていい」
部下B「この少女,かなりの美人ですぜ。おっぱいもめっちゃ大きい。これは上物だ。客をいくらでも呼べますよ」
第1分隊長「たまにこのような上物を確保できるから,乙女狩りは止められない。こんな上物なら,仙器や神器に匹敵する。フフフ」
村の近くにある森林は,村娘がよく山菜採りに来る。それをこっそりと,矢で射って,捕まえるという『乙女狩り』をするのが彼ら,寿影組と呼ばれる盗賊団だ。
水香は罠から解放されたので,謝意を示した。
水香「ありがとうございます。助かりました」
第1分隊長「フフフ,まさか,襲った少女にお礼を言われるとは思わなかった。お前,名はなんという?」
水香「みずか」
第1分隊長「みずか?ふーん? その言葉使い,この辺の娘ではないな? どこから来たんだ?」
水香「わかりません。ここ,どこですか?」
第1分隊長「わからない? お前,俺をバカにしているのか?」
水香「いいえ,ほんとうにわからないんです。わたし,どうやら別の世界から来たみたいです」
第1分隊長「ハハハーー,そうか,それは面白い。確かに,着ている服は異様だ。まあいい。別の世界から来たのなら,住む場所もないのだろう? 俺のところに来なさい。住む場所と食べ物くらいは与えてやろう」
この言葉に,水香は嬉しかった。
水香「はい!行きます! ご主人様!」
水香は,自分に命令を与える者には,『ご主人様』という癖がついていた。
第1分隊長「ご主人様か,,,ハハハ,物わかりのいい少女だ」
水香は,彼らのアジトに行くことにした。水香の背中にはしっかりとリュックが固定されていた。第1分隊長にしても,リュックの存在は気にしなかった。もし,気にしたのなら,もしかしたら,第1分隊長たちは一瞬にして殺されたかもしれない。
・・・・
馬を置いているところに戻って,そこから馬に揺られること2時間,水香は,寿影組のアジトに着いた。そこで,水香には,特別な部屋が与えられた。そこは,地下室になっていて,地下にある牢獄と同じフロアにある。
水香にとっては,ベッド,トイレ,しかも,食事も揃っている部屋だ。だが,その部屋は,組員でも,お金を払って入る部屋だ。つまり,水香は,その部屋に入ることで,娼婦扱いにされたことになる。
その部屋に入るには,30分で金貨1枚が必要となる。組員にとっては,やや高額な感じがする。それでも,若くて,胸が大きいという噂が立って,行列ができる始末だ。しかも,近隣の村の若者も,そのうわさで水香を抱きに来た。
最初の客が入って来た。水香は,自分が娼婦にされた思った。当然のことだろう。でも,水香にとっては,娼婦の行為をするつもりはまったくない。それに,その客は,水香のためにその身を与えるために来たのだと思っている。
なんとも脳天気な水香だった。
客は,水香に金貨1枚を渡した。水香は,その金貨を樹皮製リュックの中にしまった。もっとも,1週間ごとに水香が受けとったお金は,寿影組が回収することになるのだが,そんなことまでは水香には伝えていなかった。
水香は,意外にも金貨1枚もらったので,少しは娼婦らしいことをしようと思って自分の胸を触らせることにした。
水香は,上半身を脱いで,Gカップの胸を露わにした。その客は,眼をギラギラして,両手で水香の胸を思いっきり掴んだ。
客「すっげーおっぱいだ!こりゃ,触るだけで金貨1枚の価値はある」
客の声は,意外と大きな声なので,同じ階にある牢獄に閉じ込めれている連中にもよく聞こえた。
・・・
3分が経過した。
その客は,意識を失ってその場に倒れた。その後,徐々に年齢を重ねて老人と化して,とうとうミイラ状態になった。その客は,静かに息と心臓の鼓動を止めた。
水香は,ミイラになった遺体にさやしく声をかけた。
水香「わたしに,その身を捧げてくれてありがとう。あなたから受けとった精力や寿命エネルギーは,大事に使わせてもらいます。どうか,成仏してくださいね」
この部屋には,物置部屋が併設してある。水香は,ミイラになった遺体を物置小屋に放り込んだ。
最初の客が来て,30分後にまた別の客が来た。水香は,立っているのが面倒になり,ずーっと横になった。だが,水香のすることに変わりはない。またミイラが一体出来上がった。その繰り返しが夜も休みなく続いた。
第1分隊長や第2分隊長も水香を抱きに来てミイラにされてしまった。
丸1日で48人がミイラになった。5日後,,,240人がミイラにされてしまった。
水香は,奪った精力や寿命エネルギーは胸に蓄える。彼女の胸は,すでに両方で20kgもの重さに変化してしまった。
この頃から,女性秘書は,何かがおかしいことに気がついた。最近,娼婦を抱きに来る客はいるのに,戻ってこないのだ。それに,男性組員が,どんどんと少なくなってしまっている。もうほとんどいない状況だ。
女性秘書は仁に相談した。だが,仁は,この寿影組のことなど,まったく気にしていないので,どうなろうがどうでもいい。彼女は,禍乱に相談しようにも,どこに行ったのかまったく不明だ。
一番影響を受けたのは,牢獄に閉じ込めれている囚人だ。食事を持ってくる組員がいないのだ。すでに,食事を与えられなくなって2日が経過した。
已むなく,女性秘書は,寿影組の各部署をくまなく巡廻することにした。
各部署を廻ったところ,ことごとく男性組員がいなかった。幸い,食事を料理するのは,女性職員が半数いたので,食事に関しては問題なかった。ただ,牢獄に運ぶ組員がいなかった。
女性秘書は,食事を持って,地下室の牢獄に来て,囚人扱いの男たちに食事を渡した。彼女は,彼らを牢から出してやろうと思っても,カギがどこにあるのかもわからない。
囚人A「やっと,食事にありつけますぜ。もう1日遅かったら,飢え死にするところでした」
女性秘書「それは良かったです。わたし,カギのありかがわかりません。あなた方を檻から出す方法がわかりません。なんとか,自分たちで頑張ってください」
囚人たち「・・・」
女性秘書「ところで,何か変わったことはなかったですか?」
その問いに,囚人Aだけが,真面目に答えてあげた。
囚人A「・・・ちょっとおかしなことといえば,ここの通りを,卑猥な顔した連中が30分ごとに通るのですが,戻った連中を見たことはありません」
女性秘書「え?戻ってこない?」
ここに来て,女性秘書はやっと奥の部屋にいる娼婦の女性がこの異常現象に関係していることがわかった。
女性秘書は,奥の部屋の分の食事も持ってきているので,水香の部屋に入った。
水香は,2日間ほど,食事を与えられていないはずだ。それなのに,餓えを訴えるどころか,ますますみずみずしい体になって,生気に満ちあふれていた。
女性秘書「え? あなた,飢えていないのですか? それに,,,そのおっぱい? なんでそんなにおおきい,,,」
水香「わたし,お腹いっぱいです。だって,男性の方々が身を呈して,わたしに自分の精力と寿命エネルギーを与えてくださったのですよ。見て,このおっぱい。こんなに大きくなってしまいました」
今の水香は一糸まとわぬ姿だ。そこに,片方の乳房で10kg,両方で20kgにもなった乳房が垂れていた。
水香の異様な姿は,決して情欲をもたらすようなものではなかった。その姿は,何か化け物のような印象を女性秘書に与えた。
女性秘書「身を呈して精力と寿命エネルギーを与えた? いったいどうやって?」
水香「それは秘密です。それに,女性を殺す趣味はありません」
ダン!
水香は,霊力で女性秘書の後頭部を強打して気絶させた。
水香「ごめんね。あなた,ちょっと面倒くさい性格していると思ったので,気絶させてもらいました」
水香は,女性秘書を奥のミイラを隠している部屋に押し込んだ。1日後には,彼女は意識を取り戻すだろう。
水香は,ここにいれば,なぜか男が金貨1枚を与えてくれて,自分の身を呈して捧げてくれるので,超ハッピーな生活だと思った。
もう,銀次から言われたことなど忘れていた。胸が大きくなって,動きづらくなるのはやむを得ない。でも,ベッドから動く必要もないので,これはこれで天国にいるような生活だ。
隣には,5人ほどの囚人がいた。彼らは,別に罪を犯したわけではない。
娘を誘拐する要領が悪い,ちょっとヘマをした,会議中にくしゃみをした,鼻をかんだ,など,まったくもって,つまらない理由で投獄されていた。
そんな中に,一番年下で,外見上12歳になる少年がいた。ヒカルだ。彼は,娘を犯すのを躊躇ったというくだらない理由で,投獄されてしまった。まったくもって,この盗賊団はどうしようもない連中ばかりだ。
囚人の中で,一番歳上のボス格の男がヒカルに命じた。
ボス「このままでは,俺たち,ほんとうに餓死してしまう。ヒカル,お前,気覇術を習っていたな。この鉄格子,なんとかならんか?」
気覇術とは,気法術の流れを組む武道の一種で,『気』を,水,氷,炎に変質させて体外に放出することを特徴とする。ヒカルの武道の家庭教師が,ヒカルに気覇術を教えていた。
ヒカル「ボク,まだ初級後期になったばかりです。やっと,気を炎に変質させて,体外に放出できるかどうかです。でも,とても,鉄格子をなんとかすることは無理です」
ボス「気を炎にできるなら,気を鉄のように硬くして,拳に纏わすことはできないのか?」
ヒカル「拳を硬くするのは,気覇術の基本です。鉄とまではいきませんが,それに近いレベルなら可能です」
ボス「とにかく,お前が頼りだ。拳を硬くして,鉄格子を叩け。なんとか,折り曲げてみろ」
ヒカル「そうですね。やってみます」
ヒカルは,精神を統一した。体内に気を巡らして,充分に練って,その気を拳に集中させて,鋼鉄のイメージで硬くさせていった。
ダン!ダン!ーー
鉄と鉄がぶつかる大きな音が響いた。ヒカルは,まだ,充分に筋肉がついていない。休み休み,鉄格子を叩いていった。ヒカルの拳から血が流れ出した。
鉄格子を叩いて,2時間後,やっと,ひとりが無理すれば,通り抜けれそうなほどに鉄格子を曲げることができた。
ボス「よし,偉い,よくやった。ヒカルはここでしばらく休んでいなさい。野郎ども,出るぞ」
ボスは,ヒカルを休ませて,残りの4名が牢獄から出た。
彼らが最初にすることは決まっている。隣にいる女性を犯すことだ。
隣の部屋に娼婦がいるのは知っている。ただ,おかしなことに,あの行為の音がいっさいしないことだ。でも,今は,そんなことは気にしない。
ボスたち4名が水香の部屋に入った。そこで,異様に大きな胸をした水香を見た。
ボス「こっ,これはたまげた。こんなおっぱい,見たことがない」
仲間A「おれ,もう我慢できない!」
その言葉に反応して,4名がほぼ同時に水香の体を触った。触るところは,もちろん巨大な胸だ。
ボス「すっげー!大きいのに張りがある!」
仲間B「ほんと,すっげー,乳首も異様にデカいぜ,男のあれと同じくらいの大きさだ!ハハハー」
仲間C「ほんと,ほんと!」
だが,彼らの声は,そこまでだった。彼らは,その状態で意識が朦朧としていき,3分後,その場で倒れてしまった。
4名の男性は,徐々に老人に変わっていき,とうとうミイラ状態になっていった。
水香「4人同時に来るなんて初めてね。でも,お金持ってこなかったわ。どうしてかしら?」
水香は,ちょっと,状況が変わったのかな?と思ったが別に気にせず,4体のミイラを霊力の触手を使って,物置小屋の中に収納した。
・・・
拳の痛みもかなり引いてきたヒカルは,牢獄から出てきた。ヒカルも,隣の部屋に入った。そこには,全裸で,20kg以上にもなる胸をした水香がいた。
ヒカルは,もちろん性欲はある。しかし,愛の行為を伴うものだと思っている。そのため,犯すという発想はない。
ヒカル「お嬢さん? 生きていますか? お腹減っていませんか?」
このように,水香に声をかけたのは,ヒカルが初めてだ。水香は,ヒカルを見て,ちょっと顔を赤らめた。ヒカルは超がつくほどかわいい系のハンサムだった。だから,問われた質問の受け答えも支離滅裂だった。もっとも,水香の思考は,常人とちょっと異なるところがある。
水香「はい,,,生きています。お腹も減っていません」
ヒカル「え? あの,,,元気ですか?」
こんな状況で,『元気』と問うのもおかしな話だ。でも,ヒカルは,水香が休みなしで何百人もの男性に犯され続けたのだろうと勝手に類推した。そのため,『まだ元気ですか?』と聞いた。
水香「はい,元気です」
ヒカルは,水香の返事が,ちょっとおかしいと思った。でも,それよりも,先ほどの囚人たちがいったいどこに行ったのか?
水香「あの,,,さきほど4人ほどここに来たと思うのですが,彼らはどうしましたか?」
水香は,この少年は,どうやら自分の身を呈するために来たのではないと思った。でも,ミイラにしたことは,言わないほうがいい。
水香「わたしの体を見て,異様に思ったのか,すぐにどこかに去っていきました」
この言葉に,ヒカルは,ちょっとおかしいと思った。こんな少女をそのまま放っておくような連中ではないはずだ。でも,そう言われた以上,どうしようもない。
ヒカル「そうですか。あの,,,わたし,ヒカルといいます。あなたは?」
水香「水香」
ヒカル「水香さんですね。ここには,もう看守がいません。料理を運んで来る人もいません。ここに居ては,飢え死にしてしまいます。ここから一緒に出ませんか?」
水香「もうここには,誰も来ないのですか?」
ヒカル「はい,もう来ないと思います」
天国のような生活は終わってしまったのだと思った。水香は,ヒカルと一緒に行くことにした。どうやら,それしかないようだ。
水香「はい,ご主人様」
その言葉を聞いて,ヒカルはクスクスと笑った。
ヒカル「ご主人様はないです。ヒカルと呼んでください。それに,裸のままではまずいです。服を来てください」
水香「はい,,,ヒカル,,,様」
水香は,シーツを破いてサラシ代わりにして,ズボンを穿いた。月本国から持ってきた上着は,小さすぎて着れなかった。そこで,床に脱ぎ捨てられていた男物の服を適当に拾ってそれを羽織った。
水香は,服を着ながら,ふと,ヒカルが自分の体に性的な情欲を持っていないのではないかと感じた。他の連中は,皆,情欲をして,自らの身を呈して捧げたのに,ヒカルはどうもそうではないようだ。
水香「ヒカル様,,,あなたは,わたしを犯さないのですか?」
ヒカル「あなたの体は,胸もすごく大きいし,お尻も大きくて,誰もが抱きたくなる体だと思います。でも,わたしは,愛情があって,初めて,愛の行為をするものだと思います。水香さんは,どう思いますか?」
水香「愛情? それって,なんですか?」
ヒカル「え? え? 愛情って,それ,,,相手を好きになること,つまり,えーと,相手のしてほしいことをしてあげること。相手の成りたいことを支えてあげることじゃないですか?」
水香「では,ヒカル様は,何がしたいのですか? 何になりたいのですか?」
ヒカル「え? ボク? えーと,ボクは,,,そうだな,今は,盗賊団の組員ですが,こんな待遇を受けるなら,もう盗賊団にはなりたくないと思っています。
なので,一生懸命『気』の訓練して,中級レベルになって,城主様の軍隊に入隊したいと思います」
水香「つまり,ヒカル様は,城主様の軍隊に入りたいのですね?」
ヒカル「そうなればいいなと思っています」
水香「では,どうして城主様にお願いしないのですか?」
ヒカル「え?だって,城主様とは面識がないし,ボク,まだ,強くないし,,,」
ヒカルは,立華から,城主は,建前上の父親だと知らされている。実際の父親ではないようだ。でも,そんなことは言う必要はない。
水香「ヒカル様,では,わたしが城主様と面識を持ちます。城主様には,どこで会えますか?」
ヒカル「え? それって,お城に行けば会えるかもしれないけど,,,」
水香「ヒカル様,では,お城にいきましょう」
ヒカル「・・・」
盗賊団がおかしなことになってしまった以上,どのみち,ヒカルは,城下町に行こうと思っている。そこで,何でもいいから仕事を見つけないと餓死してしまう。
ヒカルは,食道に行って,賄いをしている女性組員に弁当を作ってもらって,馬を一頭盗んだ。今の寿影組では,馬を管理している連中もいない。
ヒカルは,水香を馬に乗せて30kmほど離れている城下町まで移動することにした。水香は樹皮製リュックを背負うことは忘れなかった。
水香は馬に揺られながら,自分の20kg以上にもなる胸を思いっきりヒカルに押しつけて,この地域の事情を聞いた。
水香「わたし,ずーっと遠い国からここに来ました。この辺の地域の事情がわかりません。少し教えてもらえませんか?」
ヒカル「ぼくもあまりよくわからないんです。でも,この地域で一番偉いのは,城主様です。護衛隊や軍隊もあります。城主様は,軍隊を密かに増強して,この国を統一したいと思っているようです。最も,どの城主も同じことを考えていると思います」
水香「お城って,どれくらいあるの?」
ヒカル「8城です」
水香「8城ですか,,,その中で,一番強そうなのはどこですか?」
ヒカル「たぶん,この国の中央にある菊峰城だと思います。その城主は,実質,この国の国王のようなものです。他の7つの城主は,恭順の意を示していますが,内心,戦力を蓄えて,この国を統一したいと思っているはずです」
水香「じゃあ,今は,戦国時代のような感じですか?」
ヒカル「ちょっと違います。まだ,戦争は起きていません。戦争するには剣,槍,弓矢などの武器がたくさん必要だし,お金もいっぱいかかります。特に,S級クラスの武道家を,将軍として招きいれるのに,かなりのお金がかかってしまうと聞いています」
水香「S級クラスの武道家?」
ヒカル「はい,そうです。この地域では,気覇術が普及しています。気覇宗で生まれた武術です。農村でも気覇術を学ぶことができます。そこで初級レベルまで学ぶことができます。でも,中級レベル以上を目指すとなると,個人では修得できません。
気覇宗に行って,そこで本格的に修行することになります。上級レベルになれば,軍隊に入っても,すぐに小隊長か,中隊長クラスになれます。上級レベルでも,上級の中期以上になれば,将軍も夢ではありません。
S級は別格です。もし,S級になれば,将軍にも簡単になれますし,場合によって,城をひとつ攻め落とすほどの力があります。城主にだって成れる可能性があります」
水香「ヒカル様は,どうして,気覇宗に行かないのですか?」
ヒカル「・・・,母親から,男は仕事をするべきだと云われました。それに,世の中,何でもお金なんです。気覇宗に入るには,金貨200枚が必要です」
水香「お金を支払わないで入る方法はないのですか?」
ヒカル「あるにはあるらしいです」
水香「どんな方法ですか?」
ヒカル「峰主様に,,,峰主って,宗主の次に偉い人ですが,峰主様に,美人の女性をあてがうのが有効だと聞いています。家族で長男を入宗させるために,彼の妹を献上したという話はよく聞く話です」
ヒカル「あっ,村が見えてきました。ちょっと,食事休憩しましょう。路銀もそこそこありますから,いっぱい食べていいですよ」
水香「はい,ヒカル様」
水香がいた部屋では,衣服が多く脱ぎ捨てられていた。その中には,小銭も少なからずあった。ヒカルは,そのお金をかき集めたので,多少のお金はあった。
食事休憩といっても,きちんとした建物はなく,雨を凌げる屋根があるだけで,道端で,椅子と机を並べているだけだ。
ヒカルは,馬の手綱を近くの樹木に縛りつけて,水香を連れて,適当に椅子に座った。メニューは,饅頭,餃子,麺類くらいしかなかった。
ヒカル「饅頭4個,餃子10個,うどん2杯おくれ」
店主「あいよ」
近くに座っている客が,噂話をしていた。
「おい,聞いたか? 近くの村の男連中が,神隠しにあったんだってよ」
「おお,聞いた聞いた。なんでも,巨乳美女を抱きに,寿影組に行ったらしい。でも,それっきり帰ってこなかったってよ」
「そうそう,村の男連中50人近くが蒸発してしまったんだからな。村長がパニクってしまって,城主様に原因を調べるように訴えたらしいぜ?」
そんな噂話を聞いて,その原因が水香にあることをヒカルはうすうす知っている。でも,ヒカルは,水香にその原因を聞くことはしなかった。聞いてはいけないと思った。
噂話をよそに,ヒカルは申し訳なさそうに水香に言った。
ヒカル「ここでは,美味しいご馳走はないようです。城下町に着いたら,美味しい料理屋で,ご馳走してあげましょう」
水香「わたし,ヒカル様と一緒なら,どんな料理でもいいです。あの,,,ヒカル様,ヒカル様の望むことなら,どんなことだってできます。だから,わたしのご主人様になってください」
水香は,思い切って,自分がヒカルの奴隷になりたいという意味合いの言葉を吐いてみた。
すると,近くにいたひとりの男が水香に声をかけた。
「おいおい,あまり人前で変なことしゃべってもらっては困るな,え? お嬢ちゃんよ。その男の性奴隷になりたいのか? だったら,俺たちの性奴隷にしてやるよ。肉便器にだってしてやるぜ。ちょっと,裏の路地に来てもらうか?」
4人組のヤクザ風の男たちの一人が,水香の襟を掴んで,引っ張り出すところだった。
バチーーン!
ヒカルは,口で言ってもダメだと思ったので,回し蹴りで水香の襟を掴んだ男を蹴り飛ばした。
それを見た仲間たちのボスが,ヒカルに声をかけた。
ボス「おめえ,武道を習っているのか?」
ヒカル「少々たしなんでいます。ここで恥をかきたくなかったら,さっさとここから去ってください」
ボス「ほほう,大きく出たな。ちょっと顔貸せ」
ボスは,裏の路地の方に移動した。ヒカルは,曲がりなりにも気覇術の初級後期レベルだ。こんな田舎町では,強者の部類に入る。ごろつき5,6人だろうが,ヒカルの敵では無い。
ボスは,部下たちに命じた。
ボス「お前たちは,手を出すな。お前たちでは,この小僧は倒せない」
部下たちは,後方に下がって観戦することにした。
ボス「小僧,お前,中級レベルに達しているのか?」
ヒカル「いえ,まだ初級後期になったばかりです」
ボス「ほほぉ,その年齢で,よく修行してきたな。関心関心。どうだ? お前,俺の部下にならないか? 幹部クラスにしてやるぞ。俺は,これから,仲間を増やして新しく盗賊団を作る。一緒にやらねえか?」
ヒカル「もう盗賊団には入りません。いいことひとつもありませんでした。村娘をかっさらって,娼婦にするだけの仕事なんて,夢がありません」
もっとも,ヒカルの場合は,簿記の仕事がメインで,元組長の愛人にセクハラを受けていたのだが,,,
ボス「まあ,それが盗賊団の仕事だからな。まあいい。では,勝負といこう。俺は,こう見えてもやさしい男だ。俺が勝っても,お前の命までは取らねえ。だが,そこの巨乳娘は貰っていく。それが盗賊団の仕事だろう?」
ヒカルは,水香をみた。
ヒカル「水香さん,わたしが負けたらごめんなさい」
水香「ヒカル様,大丈夫です。わたし,すでに汚された身ですから,気にしないでください」
ヒカルは,確かに,水香のいうことももっともだと思った。それに,男どもを神隠しにさせることができるようだ。ヒカルが心配するようなことではない。
ヒカルは,ボスに軽く一礼して,気覇術の構えを取った。
ボス「はやり気覇術か。では,わたしも構えることにする」
ボスも,気覇術の構えを取った。
ヒカル「その気迫,あなたは,上級レベルですね?」
ボス「さすがだな。確かに上級だ。でも,まだ前期だ。俺は,いずれS級を目指す。盗賊団を大きくして,いずれどこかの城を攻め落とす。俺について来れば,城の軍隊の大将にだってなれるぞ。もう一度言う,俺の部下にならないか?」
この誘いに,ヒカルは心が揺れた。ここで無理に戦っても,負けるのは間違いない。水香は彼らに連れて行かれてしまう。でも,ここで,彼の部下になれば,少なくとも水香を守れるのではないか?
ヒカル「あの,もしあなたの部下になれば,彼女に手を出さないと約束してくれますか?」
ボスは,水香を見た。その豊満な体,男を誘う体,手を出さないという選択肢はない。
ボス「それは無理だ。その少女は金になる。金の卵だ。そのおっぱいは,娼館の看板花魁にだってなれる。ほっとくことは出来ない」
ヒカル「わかりました。では,叶わないまでも,全力でいきます」
ヒカルは,全身の気を拳に集中して鉄並みの強度に変えた。そして,これまで練習をしてきた,蹴りと突きの連続技をボスに放った。
ボスは,ヒカルの攻撃を躱し,両手にバレーボール大の炎を出して,ヒカルに向けて放った。
その炎はヒカルの服に着弾した。一般人なら,そこで悲惨な状況になっただろう。だが,ヒカルは違った。すぐに服を脱ぎ捨てて,全裸になった。全身に気を纏って,炎の熱から体を守った。
ボス「ほほぉ,冷静な判断だ。さすがは初級後期レベルだ。その程度の炎攻撃では倒せないか」
ボスは,炎などの攻撃技では倒せないと判断した。ならば,自己最高の1.3倍速で,敵を倒す!
ボスは,体全体を鉄の強度に変えて,1.3倍速でヒカルを襲った。
ダーン!
ボスの回し蹴りがヒカルの腹部を強打した。ヒカルは,数メートルほど吹き飛ばされた。
ヒカルは,腹部にも気を巡らして守ったが,ボスの攻撃を完全に防御することができずに,投げ飛ばされた。
ゲホッ,ゲホッ!
ヒカルは,お腹を支えて,胃がひんまがったような感覚に囚われて,その場で意識を失った。
水香は,ヒカルのところに駆け寄った。
ヒカルは,命に別状はないようだ。水香にとって,ヒカルはペットのようなものだ。ペットを虐められては,水香もほっておくことはできない。
水香は,ボスのところに来て,体を投げ出して,ボスの手を胸元の谷間から自分の胸に導いた。
水香「どうです? 気持ちいいですか?」
ボス「お前はものわかりがいいな」
水香「はい,ボスはもうわたしの餌ですから」
ボス「餌?なんだそれ?」
ボスは意識を失ってその場に倒れた。もし,霊力を観ることができたなら,ボスの体全体に霊力で覆われているのがわかっただろう。ボスは,みるみると歳をかさねていき,老人になって,さらにミイラ化してしまった。骨と皮だけの存在になった。
それを見ていた仲間の3名は,彼女が妖怪だと判断,すぐに逃げだした。
ダン!ダン!ダン!
だが,水香の能力を見た者には死を与えると決めている。
彼らの脚が霊力の触手によって巻かれてしまい,ついには,霊力によって覆われた。その後,徐々に歳を重ねていき,とうとうミイラになってしまった。
水香は,彼らの服や財布を回収して,ミイラを発火させた。
ボアーー!
乾燥しているので良く燃えた。黒炭の骸骨4体が残った。水香は,付近の土を被せて,すぐに発見できないようにした。
水香『どうやら,この地域では,強者になりそうなのは,S級の気覇術を使う連中くらいかな? でも,慎重に行動しましょう』
水香は,また,大量にエネルギーを吸収したので,胸がまた大きくなってしまった。もう25kgにも達してしまったのだが,もう気にするのもやめにした。
どこかで,思いっきり,霊力を使いまくりたい。でも,彼女に命令を与えるであろうヒカルは,まだ,何もわかっていない。
水香「ヒカル様,ヒカル様,どうですか? まだ痛みますか?」
ヒカルは,目を覚ました。腹部が少々痛むが,かなり収まったようだ。
ヒカル「あれ? 連中は?」
水香「用事があるとかで,どっかに行ってしまいました」
ヒカルは,絶対ウソだと思った。連中が水香をほっておくことは絶対にない。
水香「これ,服です。適当に着てください」
ヒカルは,その服を見た。それは,奴らが着ていた服だ。いったい,どう理解すればいいのか? 裸で逃げた? いや,それはない。殺された? じゃあ,遺体は? 周囲を見ても遺体はない。 ここで,ヒカルは考えるのは止めた。とにかく,この水香,もしかして相当やばいやつかもしれないと思った。
ヒカル「あっ,ありがとう。着させてもらう」
ヒカルは,服を着ながら,ヒカルの胸の膨らみを見た。また,一段と大きくなっているようだ。サラシの帯がさらに細くなって,伸びた状態になった。だが,ヒカルは,そのことについては質問しなかった。
ヒカルは水香に支えられて,食事をとる場所に戻り,先ほど注文した料理を食べ始めた。
水香「わたし,食事しなくてもいいので,わたしの分も食べてください」
ヒカル「え? いいの?」
水香「はい,ほんとうにお腹いっぱいなんです」
ヒカルは,疑問に思ったものの,お腹がかなり空いていたので,水香の分も平らげてしまった。
付近にいた客は,皆,どこかに去っていった。とばっちりを喰うのを避けるためだ。
ヒカルは,食事を取った後,再び,馬に乗って,城下町を目指すことにした。
ヒカルと水香が去ったのを見て,料理屋の主人と妻は,やっと,一息をついた。彼らは,部屋の隙間から,彼らのやりとを一部始終見ていた。
主人「おい,どうする? あの少女,人食い妖怪だぞ。城主様に報告するか?」
妻「報告しても,信じてくれないわよ。自衛団や軍隊に言ったって,信じてもらえないわ。でも,匿名で,こんなことありましたって,報告したらどう?いたずらと思われても,似たようなことが起きたら,関連づけると思うわ」
主人「それもそうだな。よし,匿名でのご意見書箱があったはずだ。そこに投函しよう。ところで,あの骸骨の遺体,そのままにしておくのか?」
妻「ここにあるの,まずいわね。夜を待って,もっと深く掘って埋め直しましょう」
主人「そうするしかないか」
妻は,文字の読み書きができた。趣味で,日頃から読み書きの練習をしている。ちょうど,覚えたての文字で,文章を作成したいと思っていた頃だ。彼女は,時間をかけて,文章を何度も推敲して作文した。
♦ー♦ー♦
城主様
匿名で失礼します。あまりに信じられない出来事を目撃しましたので,報告します。
私たちは,『人食い妖怪』を見てしまいました。
彼女は,外見が12歳くらい,身長140cm前後の少女で,胸が異様に大きいです。
彼女は,男性に抱きついて,男性の手を自分の胸に当てました。しばらくして男性は意識を失って倒れました。その後,徐々に老化していって,とうとうミイラになってしまいました。その後,火で焼かれてしまい。骸骨だけが残りました。人食い妖怪は,4名の若者を骸骨にしました。
その後,人食い妖怪は,「ヒカル」と名乗る12歳くらいの少年と一緒に,馬に乗って旅に出ました。
この話は,ほんとうにあった話です。信じてもらえないかもしれませんが,取り急ぎ報告をさせていただきます。
匿名希望者
♦ー♦ー♦
妻は,この文章に満足して,しっかりと封をして,手紙を配達する飛脚問屋に出向いた。
妻は,手紙を城下町まで送るのは初めてなので,いくらお金がかかるのかも分からない。
妻「この手紙,城下町のご意見箱まで届けてほしいのだけど?」
番頭「銀貨5枚ってところかな」
妻「ええ? そこまでかかるのですか?」
番頭「最近,手紙を送る仕事が減っているんだよ。城主同士の戦いが緊迫していてね。そろそろ本格的な戦争が起きるって話だ。城下町からこんな田舎に住居を構える連中も,徐々に多くなってきている。世の中,何が起こるかわからねえしな」
妻「そうなんですか。銀貨5枚,了解しました。よろしくお願いします」
妻は,その金額を支払って戻っていった。
番頭は,ニヤッとした。銀貨5枚(5千円相当)は,ボロ儲けだ。実質,銀貨1枚でも充分にやっていける。
番頭は,その手紙を開封して中身を確認した。
番頭「えええーー!!」
番頭は,ビックリ仰天してしまった。
番頭の頭の中で,ほぼすべてが繋がった。
この飛脚問屋は,簡単な手紙の場合は,伝書鳩を使って,費用を安く抑える工夫をしている。万一,手紙が無くなってもいいように,番頭が,軽い紙に手紙の内容を写して,小さなに筒の中に入れて,その筒を鳩の脚に括り付けるようにしている。オリジナルの手紙は,1年間ほど保管するというシステムをとっている。
先ほどの妻の手紙以外にも,ご意見書箱に送ってほしいという内容の手紙が多数来ている。
『夫が,失踪しました。寿影組という盗賊団に行くと言って,それっきりです。どうやら,胸の大きい若い美女が手に入ったとかで,彼女を一目見ようと出向いたようです。この村の男たちは,ほぼすべて,寿影組に出向いて失踪してしまいました。どうか,お取り調べをお願いします』
番頭は,もう,伝書鳩とか,飛脚で飛ばすという次元でないことを理解した。だって,隣村の男ども50人近くが行方不明になっている状況だ。しかもその犯人がどうやら,12歳の巨乳美少女の姿をした『人食い妖怪』らしいということもわかった。
番頭は,山のようになった依頼の手紙をリュック形式のカバンに入れて,お伴を連れて,馬を飛ばして城下町に急いだ。
ーーー
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