第7話

 今日も竹富部長は遅出だった。

 おれはいつも通り午前九時四十分にデスクに着いた。

 早速ログチェックを始めた。

 問題なし。こういう朝は気分も快適だ。毎日がこうであってくれれば、おれの機嫌は上々だ。

 が、いつまでもそういう訳にはいかなかった。

 おれの社内電話がなった。映像制作の出井君からだ。

「はいシステム部の吉岡です」

「映像制作の出井です」

 出井君はおれの一年下の後輩だ。

「はい、お疲れちゃん」

「……やっちゃいました……」

 おれはいたって平静を保った。

「どうしたの?」

「キーボードに、コーラ、零しました」

 まあ、よくある事だ。

「自分のノートPCの?」

「それが……編集室のPCなんです」

 編集室のPCということは、映像制作部で共有しているPCだ。そのPCは実際のところ、映像編集ソフトscenaria専用機だ。キーボードもscenaria専用にカスタマイズされている。

 えらいこっちゃ。あれが壊れると映像制作の業務に大幅な支障がでる。

 おれは慌てて編集室へ駆け込んだ。

 そこには茫然自失の出井君とその脇に件のPCとコカコーラの缶があった。

「ありゃー、やっちゃったね」

「……ごめんなさい……」

「まあ大丈夫っしょ!」

 おれは気落ちしている出井君に気を使って根拠のないポジティブな返事をした。

 まずは状況確認。

 コーラはキーボードと書類を汚したのみでPC本体は無事だ。

 おれはPCをシャットダウンしてキーボードを取り外した。

 そのままキーボードをもって給湯室まで行く。

 シンクに向かってキーボードを逆さにして、零したコーラをふるい落とす。コーラは大した量ではなかった。

 ここからが地味な作業の始まりだ。

 おれはキートップ一つずつを取り外し、元の位置が分かるように左上から順番に並べていった。

 キーボード本体のコーラの侵入具合をみると、メンブレンシートが汚れただけで、その下の配線フィルムには一滴も零れていなかった。

 これはラッキーだ。

 おれはメンブレンシート丸ごと水洗いし、雑巾で拭った。

 あとはキートップ一つ一つを丁寧に洗浄していけばオーケーだ。

 給湯室の入り口で出井君が心配そうにこちらを眺めていた。

「……あの……」

「症状は見たよ。キーボードの表面が汚れただけ。大した事ないよ。一時間もあれば復旧できるから」

「ありがとうございます!」

 おれは給湯室を出て備品棚からガラスクリーナを持ってきた。

 そのガラスクリーナを一面に並べてあるキートップに吹きかけた。

 三分待ってキートップ一つずつを雑巾で拭っていった。結構汚れていた。

 拭いたキートップから順番にキーボード本体に差し込んでいく。ここで注意が必要だ。特注製のキーボードなのでキートップが色分けされ、特殊記号も印刷されているから、普通のPCと同じ感覚でキーを差していくと場所を間違えやすい。もし間違えたら「巻き戻しボタン押したら映像が停止した!」等の余計な不具合の原因になる。

 ここは慎重に丁寧に、しかし手早く作業するのがコツだ。

 全てのキートップを差し終わると、おれは編集室ヘ戻ってキーボードをPCに差し、PCを起動させた。

「ちょっと動作確認をお願い」

 おれは出井君に頼んで動作チェックしてもらった。

「バッチリです! ありがとうございました!」

「無事で何より」

 こんな事をしている間に午前中が終わってしまった。

 竹富部長と相原さんはまだ出社してこない。

 リモートでLlinuxサーバのアクセスログを見ると、零時二十四分にログアウトしていた。

 ありゃー、こりゃ竹富部長も午後出勤だわ。

 こういった昼夜逆転の生活はまるでディレクターのようだった。

 それより終電に間に合ったのだろうか?

 ちゃんと午後から作業できるのだろうか?

 この二日間の様子では、竹富部長は相原さんとコンビで作業に当たっており、おれは竹富部長の普段の仕事を請け負って竹富部長の作業時間を確保していた。

 つまり、おれは今回の横領事件捜査には蚊帳の外、という訳だ。

 が、竹富部長が出社するまではおれはフリーだ。昨晩の作業の様子をログからトレースしてみた。

 竹富部長か相原さんか判別できないが、どうも二月二十三日の午前六時のポートスキャンの形跡を見付けたらしい。

 うちのLinuxサーバは一般の企業と同様、不必要なサービスを提供するdaemonはそもそもインストールしていない。うちのLinuxサーバの場合、ぱっと思い当たる攻撃に使えそうなdaemonはsshdとftpdぐらいだ。この二つのwell-knownポート以外は閉じている。というかそもそも存在しない。

 今時ポートスキャンをかけるというのは、かなり古い手口だが、それだけに単純で効果的な手段だ。

 おれはps -aufx|lessして現在のLinuxサーバの稼働プロセスをチェックしてみた。

 うん。確かに余計なdaemonはない。とはいえこれでセキュリティが万全とは言えない。クラッカーはいつも斜め上から攻撃してくるものだ。外向きのサーバを動かしている以上、どこからクラッカーが侵入してくるか分かったものではない。その点は竹富部長と相原さんの方が知識と経験があるだろう。

 しかし、たった二つの外向きのサービスしかないのに、犯人はどうやってこの小さな網の目をくぐり抜けたのだろうか。それともやはり内部の人間の犯行か。AS/400のログチェックでは不正送金以外の不審なアクセスログは見付からなかった。まさかあの大IBM様の代理店のWRAPレコード担当者が悪事を働いたとは想像しにくい。もし仮にそうだとしても、複雑に入り組んだDB2で構築されたテーブルの構造をER図なしで操作できるとも考えられない。

 となると、イノダシステムの吉川部長と川崎さんが疑われるのだが、あの二人も同様にDB2に構築されたWRAPレコードのデータベースを理解しているとは思われない。それに二人の専門はAS/400みたいな化石システムではなくLinuxを用いたWebアプリケーションの開発だ。これは予想だが、今回の横領事件の犯人はRPGを習得していないと、そもそも犯行におよべなかっただろう。となるとイノダシステムの線は外れる。

 全くの第三者の攻撃による線もまだ残っている。そういったクラッカーは妙に鼻がきくと聞いた覚えがある。全くのまぐれ当たりで今回の犯行におよんだのかもしれない。

 いっそのこと、Moneroの取引所に問い合わせるというのは……まあ、現実的じゃないな。こういった場合でも匿名性を売りにしているのがMoneroだ。訴訟したところで、のらりくらりと身をかわすだろう。

 やはり内部の人間の犯行か……。疑いたくないなあ。

 良いのか悪いのか、WRAPレコードの社員は所謂「良い人」が多い、と歴代の日邦テレビの出向者が言っていたそうだ。確かにその通り。不仲がない訳ではないが、人間関係はいたって良好だ。

 となると、金にがめつい複数人が共謀しての犯行か? 仲良く悪事を働く、という線もあり得る。しかし、基本的に悪事を働くには少人数で行うのが基本で、一人での犯行が最も理想的だ。複数人での犯行であれば。それだけ秘密が漏れる可能性が増えるし、そもそも分け前が減ってしまう。

 単独犯で今回の犯行が実行できるほどのコンピュータの知識と経験がある人物となると――それはシステム部員と経理部員に絞られてしまう。

 印税管理部もAS/400を使っているが、あの部署は端末からひたすら印税利率を入力するだけの部署だ。AS/400を「使う」までの仕事はしていない。

 関係者は全部で八人だ。

 草野社長・栗原専務・経理部員四名・システム部員二名。この中に犯人がいると推察するのは短絡的だろうか?

 それにしても犯人は三十六億一千万円もの仮想通貨をどうやって洗浄するのだろうか。まさかそのままMoneroで使う訳には行くまい。おれなら低いレートでもっと秘匿性の高い仮想通貨でトレードするかな。

 それで一割二割の損失があったとしても最低で二十九億円相当の暗号通貨が手に入る。

 もし今回の犯行で上手く逃げ切れたとしたら、生涯贅沢して暮らしていくには充分過ぎる金額だ。

 待てよ、ひょっとして今回の事件は、金に困窮しての凶行か?

 となると社内の人間の犯行とは思われない。

 と言うのも、我々は腐っても在京キー局トップの日邦テレビグループの社員だ。コンプライアンスは徹底しているし(これも昔、日邦テレビの社員が散々無茶をした反動だ)、給与も世間並みよりちょっと低いが十億単位の横領を企てるほど金銭面で困窮していない。出世を目指しても部長止まりなのが玉に瑕だが、そういった役職は日邦テレビからの出向組が代々引き継いでいるのは新入社員でも知っている。それが嫌ならさっさと転職するか独立するだろう。それに、その程度の思慮分別のある大人しかWRAPレコードの人事部は採用しない。

 犯人を予想すると、まだ判断材料が足りないのに気付いた。動機は金なのは間違いないが、誰がそんな大それた犯行を冒すのか、どうしてそのリスクを上回るリターンを確信できたのかが分からない。

 そう考えているうち、容疑者の一人、竹富部長が出社してきた。

「おはよう」

「おはようございます。昨晩も遅かったみたいですね」

 竹富部長の笑顔のすぐ裏に疲労の色が見えた。

「ああ。まいったよ。夕べは十二時廻っちゃったし」

「お疲れ様です」

 現場仕事をする部長というのも、うちの会社では珍しい。その点を嫌がらずに引き受けてくれるから竹富部長が信頼される所以でもあるのだ。

「相原さんと一緒に仕事してると、自分の体力のなさを痛感するよ。彼女、まだ若いからバリバリ仕事をこなせるけど、それに付き合うのは正直キツいよ」

 竹富部長にしては珍しく弱音を吐いた。

「私が替わりましょうか」

 竹富部長は急に小声になった。

「そうしてもらえれば山々なんだけど、社長案件だから部長としては目を離せないんだよ」

 なるほど。そういった理由もあって、おれの手を空けさせてくれているのか。

「で、私に普段の業務を一任すると」

「そういう事」

「私も気が気じゃないですよ。こんな大事なんですから」

 竹富部長は人差し指を立てて口元を抑えた。

「今回の『システム保守』の件、誰にも言ってないよね」

 おれも小声になった。

「ええ。ですが噂にはなってるようです」

「何⁉」

 竹富部長には噂が伝わっていなかったのか。

「私が聞いた限りでは見当外れでしたが」

「誰から聞いたの?」

 この点が重要らしい。

「第一営業部の長谷川課長から」

「誰が喋ったんだろう?」

「そこは私にも謎です」

「キーロガーの件は?」

 これも重要案件だ。システム部が社員全員を今回の事件の容疑者扱いをしているとバレたら、システム部の信頼はガタ落ちだ。

「仰っていませんでした。キーロガーの件は誰も気付いていないようです。あ、その件なんですが」

「何?」

「うちの金庫サーバのパスワードが分かりました」

「そんな事しちゃ駄目でしょ」

 金庫サーバとは通販部が使っている受注から発送・売上管理まで一気通貫に管理するシステムだ。この金庫サーバは社内で完全に独立したシステムだ。規模は小さいが曲がりなりにもサーバを立てているのにシステム部の管理外になっている。この状態はサラリーマン的には大間違いなのだが、どういう訳か、竹富部長も含め、現状に誰も文句を言ってこない。駄目サラリーマン的には仕事が増えないので助かると言えば助かるのだが……。

「やれと仰ったのは竹富部長ですが」

「そこまでやれとは言ってない」

「もう既にやっちゃいました」

 法律も倫理も無視し、やれるならやってしまう。これがハッカーの行動原理だ。

「まいったなあ。通販部にパスワードを変更してくれとも言えないし」

「これで通販部に何かしらの不祥事が起これば、我々システム部が第一容疑者ですね」

「堪ったもんじゃないなあ」

 責任回避はサラリーマンの処世術の必須スキルだ。だがおれはそんな事は許さない。

「一緒に死んで下さい。竹富部長」

 竹富部長は苦笑いだ。

 もちろんおれも通販部の売上金に手を出すような馬鹿な真似はしない。あくまでもシステムを守り、安定稼働させるのがおれの仕事だ。それで毎月のサラリーをもらっている、という責任感と自負はある。

「相原さんはまだ来てないの」

「今日はまだお見かけしてません」

 竹富部長には意外だったらしい。

「あっそう。まあ、契約上、午後一時からの勤務になってるから、じきに来るか」

 初耳だ。

「え? 午後からの勤務っていう契約なんですか?」

「そう。あれ? 言ってなかったっけ?」

「知りませんでした」

「相原さんの定時は午後一時から午後十時まで。その間に適当なところで一時間休憩。でも実際は仕事に夢中になって休んでないんだけどね。残業の規定はなし」

 超ブラックな契約じゃないか。今の世間で通用する契約とは思われない。それを承知したERテクノロジー社も相原さんも、どういった業態で仕事をしているのか。相原さんはそんな無理な条件で現場を渡り歩いてきたのか?

「残業の規定がないなんておかしくありませんか」

「うん。確かにおかしい。普通ならね。相原さんの職種は特殊だから、残業し放題」

 呆れた。

「酷い契約ですね」

「酷いのはIT業界全体がそうだよ。うちの業界だって未だにそうでしょ。特に相原さんみたいな会社は、そもそも特殊過ぎるから」

 その「特殊」というのはIT業界のように誰もが自由自在にコンピュータを扱える人材ばかりが揃っている、という意味ではなく、企業の表沙汰にはしたくない事故のトラブルシューターである、とすぐに分かった。

「でも竹富部長の元部下の方が立ち上げた会社なんですよね。竹富部長も昔は無茶苦茶な仕事、してたんですか」

「ああ、してた。まあ、昭和の時代と平成の前半の話だよ。今とは労働に対する考え方がまるで違うから」

「聞いた事ありますよ。カタカナで『モーレツ社員』って言うんでしたっけ」

「随分懐かしい言葉、知ってるね」

「うちの親父から聞きました」

 年寄りは昔話を好む。それに乗っかってみたまでだ。

「吉岡君もやってみる?」

「お断りします」

「じゃ、通常業務は全部よろしくね」

 これは竹富部長から信頼されている証なのか、単に面倒くさい仕事は全部部下のおれに押しつけているのか、はたまたその両方なのか、判断がつかない。

「手が足りなくなったらお呼びします」

「すぐ駆けつけられるか、約束できないよ」

「あ、それで思い出しました。今朝のトラブル」

「何があった?」

 竹富部長は「トラブル」というキーワードに敏感だ。

「出井さんが編集機のPCのキーボードにコーラ零しました。その対応で午前中は潰れました」

「復旧できた?」

「できました。幸い、少量のコーラがキーボードにかかっただけでしたので、キーボードの分解洗浄で事なきを得ました」

 明らかに竹富部長の目の色が安堵の色に変わった。

「朝から面倒だったねえ」

「いえいえ。今の竹富部長の業務と比べたら」

「それを言われると頭が痛いよ」

 ここでおれは「犯人の手掛かりが掴めないんですか」という言葉を言い換えた。

「今の仕事、難航してるんですか」

「うん。難航してる」

 ここでまたおれは「社長が区切った一週間という猶予は守れそうですか」という言葉を言い換えた。

「納期、守れそうですか」

「それがまだ見えないんだ」

 こういった仕事は竹富部長のキャリアをしてもそれほど場数を踏んでいないのだろう。だから時間が見えない。コスト計算ができない。つまり相原さんへの、ERテクノロジー社への「工賃」の見積もりができない。

「相原さんというプロが見ても難しいという訳ですか」

「ああ。仕事が仕事だから、ある一点突破で一気に仕事が進むかもしれないし、このまま納期を迎えるかもしれない」

 この言葉を相原さんが聞いたら「それはただの希望的観測です」と言うだろう。昨日の相原さんの言葉で、相原さんは自分で確認した事実以外は信用しない人間だとおれは見て取った。

「その時はどうするんです?」

「納期の二日前に白旗を揚げる」

 五日目までの作業で犯人の手掛かりが掴めなければ草野社長と栗原専務へ中間報告するという事だ。竹富部長も覚悟はできているのだろう。

「こう言っては失礼かも知れませんが、竹富部長らしくないですね」

 竹富部長は笑った。

「そうでもないよ。無理なものは早めに無理だと報告するのも部下の仕事だよ。サラリーマンの基本の報連相ね。知ってるでしょ?」

 おれは笑いながら頷いた

「納期を達成するために土日出勤も?」

「ああ。ある」

「相原さんも?」

「もちろん。一週間のド短期決戦だから休んでる暇はないよ」

 一週間は百六十八時間。最大でもそれ以上の相原さんのコストはかからない。なるほど。竹富部長が「数百万。最大でも一千万以下」とコストを見積もったのは、あながち偶然の一致ではないようだ。

「昔はよくあったそうですね。土日出勤」

「ああそうか、吉岡君の世代は知らないか。ごく普通にあったよ。土曜日は『半ドン』っていって、午前中のみの勤務だったんだよ。休みの日でも接待ゴルフでよく週末を潰したし」

 今の竹富部長からゴルフという言葉が出てくるとは思わなかった。竹富部長はシステム畑一筋・コンピュータ命の人とばかり思い込んでいたからだ。当時は恐らく竹富部長は社長をやっていた頃と思われる。当時はゴルフ接待も毎週のようにやっていたのだろう。

「それって社長業の時の話ですか」

「そう。当時はゴルフ場とパーティーで仕事が取れる時代だったからね」

「時代ですねー」

 バブル期の話かな?

「今じゃ考えられないでしょ? 優秀な営業マンほど週末は忙しかったんだよ」

「レコード業界だったら土日祝日はお店が一番忙しい時ですから店周りはありませんもんね」

「その代わりライブだのイベント出演のアテンドで忙しいでしょ」

 すっかり忘れていた。ディレクターと営業マンはお店の店長やスタッフを連れてアーティストのライブやイベントへ招待しているのだ。担当のお客さんが行くのだから、当然営業マンもついていく。そして土日が潰れる。繁忙のあまり代休が取れずに、その分の心身へのストレスが溜まる。営業マンの辛いところだ。

「そう言われればそうですよね」

「吉岡君はまだ経験がないだろうけど、システム部だって何かあれば会社の営業日以外の日に仕事が入るでしょ。サーバのバグパッチ適用とか」

 確かにそんな日もあった。が、忘れるほどの頻度でしかなかった。

「竹富部長、あんまり無理しないでくださいね。私も残業しないといけない気になりますし、部長が休出してるのに部下が休暇が取れてると、なんか申し訳ないですし」

 竹富部長は笑った。

「そんなこと言ってられるのは今のうちだけだよ。いずれ吉岡君もそういう立場になるから、休める時はしっかり休みなよ」

「恐縮です」

 その時、フロアから出る人と入れ違いに相原さんが入室してきた。

「おはようございます」

 竹富部長が出迎えた。

「おはようございます。でもこれからは入室する時、私の社用スマホに電話一本いれてね」

「失礼しました。つい面倒なもので……」

「まあ、確かにこの時間帯ならしょっちゅう人の出入りがあるから仕方ないけど、一応このフロアも関係者以外立ち入り禁止だから」

「申し訳ありません。以後、注意します」

 全然申し訳なさそうに見えない。相原さんはハッカーだ。この程度の事ならこれからも平気でやりそうだ。

「まあ、いいや。早速だけど昨日続きからお願いします」

「こちらこそお願いします」

 竹富部長と相原さんは静かにサーバルームに入っていった。

 おれはそれを見届けると自席に戻って自社サーバ関連のドキュメント類の改稿を始めた。

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