ポルターガイスト……?
「弘明くん、緊急事態だよ! オカルト研究部員の間で、怪奇現象が起きてるんだって」
人の家にやってきて早々に扇風機の前を独占し、「あー」と宇宙人ごっこをする図々しさの権化が、思い出したようにそう切り出した。
「怪奇現象ですか? こっくりさんやってる時に誰かが力入れて演出するみたいな、そういうしょうもない奴じゃなく?」
胡散臭いといったらありゃしない。怪奇現象だとかなんとか言って、内輪できゃっきゃきゃっきゃとはしゃいでるだけじゃないのかとぼくは胡乱な目を向ける。
「うーん。話からすると、ポルターガイスト?」
「それってぼくの理解が正しければ、物が独りでに動いたりするやつですか?」
「そうそう。誰かの仕業っていう線はあるかもだけど、今回は結構マジっぽいかも。実際に怪我した子とかもいるし。ほら、前にわたしが男子部員が休みがちって話したの覚えてる?
「ああ、そういえば」
確かにそんな話を聞いたような、聞かなかったような。
「調べてみたらどうにも休んでる子たちのうち何人かは、そのポルターガイスト(仮)に被害にあってたっぽくて」
「なんですかその(仮)ってのは」
「ほら、あんまり早い段階で原因を断定しちゃんと視野が狭くなっちゃうでしょ?」
「まあそれはたしかに」
「この前、オカルト部の部員で不自然に休んでいる人が増えてるって話したよね? わたし、気になってその子達になにが理由で休んでるのか電話で聴いたんだけど……。確かに弘明くんの言う通り夏休みだからって理由で休んでる人も何人か居たよ。でも、ほとんどがオカルト部に行くなって脅されたって言ってたんだ」
「脅されたって……」
なんじゃそりゃ、って感じだ。そんなことして、一体なんになると言うんだろう。オカルト部を潰したいとか?
幽霊部員のぼくが言うのもなんだが、名前はふざけてるが活動は真面目そのものだ。まあだからこそぼくは幽霊部員になってしまったわけだが。
「内容を聴いたらなんの前触れもなくロッカーが開いて中のものが倒れたとか、後ろから触られたと思って振り向いたら誰もいないとか」
「聞いてる限りじゃ怪我を負う要素が見当たらないんですが」
「ああ、それは一人尻もちついたときに手首を捻挫した子がいただけ」
「自分に向けて倒れてきたとかは」
「ないねー」
ふざけんな。
「そんなのただの偶然ですよ。」
「まあここからが本題。どうにもそういった現象が起きたあと、気づくと眼の前にオカルト部に近づくな。みたいなことが書かれた紙が置いてあったんだって」
「はい、これ実物。回収できたのは三枚だけだけど」と渡されたのは、「オカルト部に近づくな」と新聞の文字を切り出して貼り付けてある、ルーズリーフだった。まるで怪盗の予告状である。こんな目立つものを見逃すとは考え難い。
「誰かのイタズラでしょう。犯人の顔を見た人とかいないんですか」
「それが一人もいないの。どの事件も、その場にいるのは自分一人のはずなのに起こって、気づいたら目の前にオカルト部に近づくなって書いた紙が置いてあったんだって」
「みんなして口裏合わせて怪奇現象を騙ってるんじゃないですか?」
「男の子達、あんまり仲良くないから。口裏合わせるとかはないと思うけどなあ。ほら、わたしのせいで」
妙に説得力のある意見だった。事実、牽制のし合いで、彼女目当ての部員達の仲は険悪だった。
「正直その子達は執拗にべたべた絡もうとしてくるからやめてくれて全然かまわないんだけど、ちょっと部の雰囲気が悪くなっちゃって」
部長はため息をついた。
「部活動ってわけじゃないけど、オカルト部の子たち数人が、少し前に心霊スポットに行ったんだけど」
「ああ、そういえば、参加者を募るチャットがグループチャットで来てましたね」
「そのせいじゃないかっていう子も居たりしてさ。おまえらのせいだ!ってちょっとやな感じになってるって感じ」
「へーそれは大変ですねえ。でもオカルト研究部に入ってるんだから、そういう怪奇現象にあったら狂喜乱舞するもんじゃないんですか」
みんなで真相を解明するぞ! みたいな、そんなノリで。
「実際本気でオカルト好きな子にはそういうスタンスの子もいるんだけど……。ほら、うちの部員、特に男子部員はどっちかっていうと怪異現象とかにはあんまし興味がない子達ばっかだから」
ああ。と僕は納得する。
「オカルトに興味があるというより、部長に興味がある人、多いですもんね」
「なになに嫉妬かなー?」
「いやまったく」
ただ事実を言ったまでである。
「うわあ、心底嫌そうな顔だ。失礼だなあ。もっと良い反応してよ」
「か、勘違いしないでよね! とでも言えば満足でしたか?」
「んー。弘明くんの顔でそれを言うのはちょっとキツいっていうかキモいかも!」
部長はケラケラと笑った。失礼なのはどっちだ。
「まあとにかく、なにが悪いって、心霊スポットに行った子たちっていうのがちゃんとオカルト大好きなまっとうな部員で、その子達を責めてるのが私目当てのまっとうじゃない部員たちってところなんだよね」
部長は額を押さえ、本日二度目のため息をつく。結構堪えているらしい。
「私目当てに入部した男子たちも、最初は色々と使えて便利だったけどうざかったしこれを機にやめてくれればなーって思ってたんだけど、心霊スポットに行って責められた子達の一部が耐えきれずにやめちゃいそうになっててちょっとね」
俺は改めて、グループチャットの履歴を遡り、心霊スポットへの〇〇に参加表明していたメンバーを確認する。
半数以上が知らない名前だった。しかし、目の敵のように部長に近づく男を牽制しあう男子生徒と違い、気を使っていろいろと教えてくれたやさしい部長や、少し話しかけたらオカルト知識について眼をバッキバキに見開いて早口で語り出したクラスメイトの名前もそこにはあった。
「この人たちがやめたら、部は悲惨なことになりそうですね」
「そうなの」
部長目当ての男子に辟易していたぼくがそれでも幽霊部員としてオカルト研究部に在籍していたのは、退部するのが面倒だったというのもあるが、数少ないまともにオカルト部をやっていた人たちの存在が大きかったのだが、その人達がやめるというならぼくもついに退部する時が来たのかもしれない。
「と、いうことでぇ。そこで弘明くんの力を貸してほしいな―って?」
確かに警察犬よろしく、犯人が残しただろう脅迫文から、狼男の鼻をつかって犯人を探すというのもできなくはないだろう。ぼくは少し考えて、そして答えを決めた。
「アカメ、ちょっと出かけてくるから、お留守番よろしくな。まあすぐに帰って来るから」
「あー」
アカメはビシっと敬礼した。
「弘明くんはお願いを聞いてくれる良い子だって、私信じてた!」
部長はうんうんとオーバーに頭を上下に振る。途端に願いを了承したことに対して猛烈な後悔が襲いかかる。けど、やっぱりやめるとは最後まで言わなかった。
オカルト研究部がどうなろうと、近いうちやめようと思っているぼくにはどうせ関係ないわけだけど。短い間だけどやさしくしてくれた部長と、オカルト好きで同好の士を見つけて嬉しそうな同級生に、退部する前にちょっとくらい恩返ししても罰は当たらないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます