吸血鬼の能力検証
それから部長主導で、吸血鬼の検証が始まった。
部長はまずはじめに、アカメの肌を傷つけるのはと戸惑いっていた治癒能力について確かめることにしたらしい。
「安全ピンだから大丈夫だよね……?」
ぼくの構える安全ピンを見て、部長はプルプルと震えながらそんな訳のわからないことを言い出した。安全ピンだろうがなんだろうが、指に刺して安全もクソもない。
「強いて言うなら消毒はちゃんとしましたよ」
「目を閉じてるからプスッと、プスッと行っちゃって」
部長は手で目を覆った。
そんなに怖がるくらいならやめればいいのに、と思わなくもない。
「お願いだから動かないでくださいよ……」
幸いにも恐怖で石のように固まっていた部長が暴れることはなかった。
傷からぷっくりと溢れた血を除菌シートで拭き取ると、そこにはただ真っ白な肌があるだけだった。血が止まっただけかと刺した部分をぎゅーっと搾ってみるも、一滴たりとも血が出てくる様子はなかった。
「ど、どう?」
「傷口……塞がりました」
確かに血は出ていたはずだ。除菌シートについた赤いシミを見ればそれは明らかだった。こんな一瞬で傷が無くなるのは異常だろう。
傷が小さいから一瞬で治癒したのか、もっと大きな傷でも同じなのかは判断に困るところだ。
「吸血鬼は不死不老なんていうけど、さすがにそれを確かめるのはねー……」
結局、吸血鬼の治癒能力についてはそこで行き詰まってしまった。
後日、部長が包丁で指を切った際も、まるで最初から傷なんてなかったみたいに一瞬で治ってしまったと嬉しそうにはしゃいでいた。部長が料理している、という事実にぼくは一番驚愕した。
「ねえ弘明くん」
「なんですか」
部長は自分から声をかけてきたくせに、なにも言わずにぼくの目をじっと見つめる。その目は、赤く光を放っている。
「うーん、ダメかあ」
しばらくして、部長は手を組んで唸った。
「もしかして、ぼくに催眠かけようとしました?」
「妹には効いたんだけどなあ」
まず初めに妹を実験台にするのはやめてさしあげろ。
「一体妹になにをさせたんですか」
「別にたいしたことはなにもさせてないよ。人を悪人みたいに失礼な」
頬を膨らませて可愛いアピールをする前に、なぜ自分が疑われるのか胸に手を当てて考えてほしい。
「ただお姉さまって呼ばせて四つん這いにさせて、人間椅子にしただけなのに」
「最低じゃないですか」
ほら見ろ、やっぱりろくでもないじゃないか。この悪女め。
「催眠中の記憶は催眠を解いたときにあやふやになるみたいだから大丈夫!」
それも妹を実験台にして確かめたことなのだろうか。ケタケタと笑う部長からは、罪悪感の欠片も感じ取れなかった。
もし記憶が残っていたらどうするつもりだったのだろうか。妹さんにはこの最悪な姉を反面教師にして清く正しく育って欲しい。ぼくは切実にそう願った。
「ねえところで弘明くん。幽霊部員やめて部活に参加する気とかない?」
突然そう誘われるも、もはや部活をどのタイミングでやめるかしか考えてないぼくとしては部活に参加する気など毛頭なかった。
「気が向いたら行くようにはしてますけど」
「とか言って、弘明くん夏休みに入ってから一回も部室来てないでしょ!」
勧誘を適当に躱そうとするも、正論で即座に潰された。でもしょうがないじゃないか。ただでさえバイトしている間アカメは家に一人なのだ。バイトはお金を稼ぐためには仕方ないとはいえ、できるだけ他の理由でアカメに寂しい思いはさせたくない。
「別に他にも部員は十分いるから良いじゃないですか」
それこそ部長全肯定マン達がわらわらと。
ぼくの予想に反して、「それがそうでもないんだよねー」と部長は腕を組んで唸った。
どういうことだろう。オカルト部には部長目当ての男子がうじゃうじゃ所属していると記憶していたが、ぼくが幽霊部員になっている間になにかあったのだろうか。
「夏休みに入ってから部活休んでいる人も増えてるの。それも不自然なくらいたくさん。女の子達は特に変わりなく部活に来てるんだけど……なんでだろ」
部長はうーんと首を捻った。
「男子がみんな部長の本性に気づいたんじゃないですか?」
「本性とは失礼な。わたしは裏も表もないピュアな女だよ」
部長はムスッと頬をふくらませる。いったいどの口が言っているのだろう。
「夏休みだし、休みたいのは普通だと思いますけどね」
「でも休んでるのはみんな、弘明くんと違って真面目な子達なのになあ」
ぼくの記憶では男子部員というと大抵は部長とお近づきになろうと入部したお猿さんが多く、真面目とは程遠いと思っていたのだが。
「真面目で忠実で盲目な使いやすい子たちだったのになあ」
「部長。本音、本音もれてますよ」
「あ、ウソウソ。みんなわたしのことを慕ってくれる可愛い子達でーす」
白々しい笑顔でちろりと舌を出す姿に殺意が湧きそうになった。
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