松岡 祐樹  2


初め見た時はただ汚れているのかと思った。

でも、少し角度を変えて見ると、足首を握っているような形でついている指の跡が見える。

なんだ、これ…


「……っ⁈」


隣から息を飲むような声が聞こえたのでハッと振り向くと、反対側の座席に座った女性が驚いた顔でこちらを見ている。


見られた。


なんでもないかのように装ってすぐに捲った服を戻す。

思わず隠してしまったが、余計に不自然だったかもしれない。

でも、困惑しているのは俺も同じだ。

窓の反射で少し見える。

女性は、こちらを見ないように真っ直ぐ前を見つめていた。

元々降りる予定だったのか、不気味に思って逃げたのかはわからないが隣の女性は次のバス停で降りていった。


周りの目が無くなったので、また足を上げて手の跡を靴下で擦ってみるが落ちることはなかった。

やっぱり、汚れがついているわけじゃない。


こんなもの一体いつ、と考えると一つしか浮かばない。

右足は、さっき靴紐が解けた方の足だ。

横断歩道で感じたちょっとした引っかかり。

あれは、掴まれた感触だったのだろうか。


少しだけ痛みがする。

鋭い痛みじゃない。

何だか気になってしまう程度の。

嫌でも意識させられる。


ヴヴヴ ヴヴヴ


スマホの通知にハッとする。

無意識に手形と同じように、自分で足首を掴んでいた。


連絡は相馬さんからだった。

文章も無く、動画が添付されているだけ。

何だろうと思い、返事の前に動画を確認してみると一昨日の肝試しの時の映像だった。


短く編集されていて、それぞれの部屋を周っている俺らが映っている。

事故のせいで遅れると華奈に連絡を入れたから、気を利かせて送ってくれたのだろうか?


イヤホンを付けてあらためて再生する。

家の前、和室、リビング、子供部屋に寝室。

5分も無いくらいの短さにまとめられている。


変な家だった。

なんて言ったらいいか。

うまく言葉に出来ないけど、怖いとかではなかった。

不思議?奇妙?

奇妙の方がしっくりくるかも。

やけに生活感があって、泥棒が人の家に忍び込む時はこんな気分なのかも、なんて思ってしまう。

もしも俺らが泥棒だったら、谷さんが食器を落とした時のデカい音でみんな起きちゃって捕まってたな。

というか、谷さんすごい顔で驚いててちょっと笑える。


俺と華奈が願い事しているところも隠れて撮ってたのか。

まさに隠し撮りと言った感じで、隙間からちょっとだけ撮って引っ込んでいる。

華奈は、特にお願いしたいことがないからって漠然と元気に過ごせますようにってお願いをしていた。

そんなんでいいのかって笑ったら、俺のお願いも変わらないって怒られた。

人気者になりたいって、そんなに変かな?






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