黒い人
松岡 祐樹 1
華奈を住んでいるマンション前まで送っていき、駅まで向かう。
マンションまでは終始無言のままだった。
華奈はだいぶ憔悴していて、俺の服をずっと掴んでいた。
このまま2人で居たかったが、華奈は家族と住んでいるので上がり込むわけにもいかない。
別れ際、無理矢理作った笑顔で気をつけて、と声をかけてくれた。
華奈もまだ一緒にいたいと思ってくれてるんだろうか。
でも……
もし華奈が一人暮らしだったとしても、これ以上一緒にいたら余計に怖がらせていたかもしれないから、ここで別れたのが正解だったんだと思う。
今日、大学に向かう途中事故に遭遇した。
バイクが転倒して、俺の前を激しい音をたてながら通り過ぎていったのだ。
俺には被害は無かったが、こんな目の前で事故を目撃したのは初めてだった。
道路の真ん中で運転手がうめいている。
駆け寄り声をかけると、意識ははっきりしていて命に別状は無いようだ。
他に車が走っていなくてよかった。
幸いなことに、救急車を呼んでいる間にパトロール中だった警察も来てくれたので、全てが迅速に進んだと思う。
それだけなら、良かった良かったで済む話。
でも、おかしな事がいくつかある。
事故が起きる前、横断歩道を渡っている途中で足に少しの引っかかりを感じた。
何かと思い足元を見てみると、靴紐が解けていた。
靴紐を踏んだせいで引っかかったように感じたのか?
そう思って、横断歩道を渡りきってから結び直していたら、そこにバイクが走ってきて転倒したのだ。
ガシャンという大きな音がするまで、走ってくるバイクには全く気がついていなかった。
もしも、道路でそのまま靴紐を結んでいたら?
本当に危なかったと思う。
運転手の男性に声をかけた時、
『はねてしまった人は、大丈夫か?』
そう言っていた。
でも、バイクが倒れた時周りには俺以外誰もいなかった。
一応辺りを見渡してみても、倒れている人どころか歩いている人もいない。
混乱しているのか、
『ぶつかった衝撃が……』
『轢いてしまった』
『あれは、子供ぐらいで……』
と、呆然としている。
何度か声をかけると、落ち着いて周りを見る余裕が出来たみたいで勘違いと気づいたようだった。
そして、警察に説明も終わって解放され、大学へと向かうバスに乗っている時。
後方の座席に座っていたら、右の足首に小さな痛みを感じた。
座ったまま右脚を上げて靴下をまくってみると、肌が少し変色している。
それは、
子供の手が足を掴んでいるようにも見えた。
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