谷 和弘  3


N大学。

学業というより、どちらかと言えばスポーツに力を入れているだろうか。

それでも、ここ数年明るい話は出ていない気がする。

ここのクラブ棟に、俺ら5人で使わせてもらっている部屋がある。


クラブとして申請しているわけでは無いのだが、松岡が知り合いと交渉して、使わせてもらえるようになったのだ。

なので、実際は別のクラブの部屋らしい。

ご自由にどうぞ、という話だが今回のようなモニターを使いたいという時ぐらいしか利用していない。


今日の講義は午前で終わりだったので、学食で昼を済ませクラブ室へとやってきた。

他の皆が来るまで持ってきた本を読んで時間をつぶす。


こんなのんびりしてていいんだろうか。

入学した頃は、やりたいことを探すために大学に通うんだ、なんて誤魔化していたが、学年が上がるにつれ、焦りに変わっていく。

やりたい仕事なんて、どうやって見つければいいのかわからない。


他の4人は、大学に入る前からそれぞれ進む道を決めている。

相馬は親と同じ仕事に就くために建築関係を学んで、池町は雑誌の編集。

松岡と華奈ちゃんは、教師を目指しているそうだ。

講義だって滅多に同じにならないし、卒業したら尚更バラバラになるんだろうか。


ネガティブな思考が止まらない。

静かな部屋で読書するのはいつものことなのに。


大してページも進まず、時間だけが過ぎていく。

一度休憩しよう。

立ち上がり、窓の外の木を見ながら身体を伸ばしていく。


ガチャ


「おつかれー」

「お疲れさまです」


池町と華奈ちゃんが部屋に入ってきた。

途中で一緒になったらしい。


「松岡は一緒じゃなかったの?」


「松岡くん今日は学校来てないんです。3限から来るはずだったんですけど、向かってる途中で事故にあったらしくて」


「事故?怪我したの?」


「いや、松岡くんは何でもなかったみたいなんですけど。目の前でバイク事故おきて救急車呼んだり色々大変だったらしいです」


「マジか……まぁ本人に怪我ないなら良かったけど。じゃあ、今日は来ないの?」


「そんなことないです。さっき連絡来て、これから向かうって言ってたからもうちょっとしたら来ると思います」


ガチャ


噂をすれば、と思ったら入ってきたのは相馬だった。


「おつかれ」


「……え?あぁ、お疲れさま」


なんだかぼーっとしている。


「どした?寝不足か?」


「……あぁ……今日早く帰らないとなんだよね……」


「貴彦って、今日バイトの日だっけ?」


「いや、違うけど、うん、早く帰らないと、なんだ……」


変な態度の相馬に、3人で顔を見合わせた。

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