谷 和弘  2


廊下側から、真っ白い手が伸びてくる。

ドア枠へと手が掛かり、そこから壁を這うように少し中へと入ってきている。


カメラは気づかず部屋を出ていき、話し声のする寝室に一度カメラを向け、子供部屋へと廊下を歩いていく。

廊下が映ったタイミングで、そこには誰もいなかった。


タイミング的にも、廊下に出る直前に映っているため、誰かがイタズラで手を出して、すぐに別の部屋に隠れた、というのも難しいだろう。


ということは、これは?


その後な映像には、特に何も映っていなかった。

最初から通常速度でも見返してみたが、他には何も無かった。


何度も確認して、理解が追いついてくると一気に興奮してくる。


撮ったんだ。

ついに、撮った。


撮れたら面白いと言いつつ、心霊写真や動画が撮れるとは、心の底では信じていなかった。

子供の頃はテレビでやっている心霊特番なんかで一喜一憂していたのに、ネットには作られた物が大量で、本物なんてあるのかと歳を重ねるにつれ思うようになっていた。

なのに、これだ。

自分が撮ったんだから疑いようがない。

何度再生してもそこに手はあるし、何かと見間違えているわけでもない。


怖さなんて微塵も感じなかった。

心臓の鼓動がだいぶ早い。


傍に置いてあるスマホに手を伸ばし、他の皆にも動画を--

いや、せっかくなら集まって見ようか。


『明日、どこかのタイミングで全員集まれる?

撮った映像みんなで確認してほしい』


一斉に全員に送ると何人かはすぐに既読が付き、返信がくる。

午後の講義を皆あまり取っていないので、予定は合いそうだ。


ノートパソコンで見せてもいいが、どうせならクラブ室のテレビで見よう。


詳しいことは言わないでいいだろう。

俺と同じく、他の奴らも見たら怖がるというより興奮すると思う。

事前に言うより、直接見てもらった方が興奮の度合いも違うだろう。

まぁ、華奈ちゃんは怖がるか。

それはいつものことだしいいや。


つい、笑ってしまう。

すごく可愛らしい子なのに、いつもみんなからいじられて怒っているイメージが強くなってしまった。

とても良い子なのは間違いない。

よく付き合えたな。

松岡には勿体無いぞ。

前世でどんだけ徳積んだんだ。

とりあえず、松岡にだけ個別に変なスタンプ送っておこう。


気づけば、外は暗くなっていた。


1日動画を見てるだけで終わっちゃったな。

でも、変な充実感がある。

明日見せた時の反応が楽しみだ。



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これは、夢か。


知らない家。


鈴の音。


後ろで、影が揺れている。










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