ゆれる
谷 和弘 1
何か、夢を見た気がする。
昨日、正確には今日の朝方に心霊スポットから帰ってきてすぐ寝てしまった。
車の運転が出来るのは自分だけだったので、N県への行き来でだいぶ疲れていたんだろう。
昼頃目が覚め、顔を洗うついでにシャワーを浴びると幾分かスッキリする。
下着だけで部屋へと移動しても、両親共に仕事で出ているので文句を言う人もいないから気にすることもない。
部屋の隅に積んである洗濯物からTシャツを適当に取る。
いい加減、片付けないと。
机に目を向けると、スマホの横に少し破れた紙が置いてある。
栞、だろうか。
縦長の長方形で、全体に色とりどりの花が描かれている。
上部には丸い穴が開けられており、そこに飾り紐でも結んであったのかもしれないが、破れているため今は何もない。
何故かわからないが、俺はこの栞を持ってきてしまった。
あの家で、2階の脱衣所に入った時に目に留まった。
ドライヤーや歯ブラシなど、色々な物がそのままになっている洗面台に、これ1枚だけ置いてあったのだ。
無意識のうちに、手が伸びそうになっていたところで相馬に声をかけられ驚いた。
上手く返答出来ていただろうか。
話しながらも、意識はずっとこの栞にあった。
相馬が離れたのを確認した瞬間手に取り、ポケットにしまっていた。
栞を集める趣味はない。
でも、どうしても惹かれてしまったのだ。
今見ても、どこか惹かれるものがある。
自分の物になって、嬉しさすら感じてしまう。
今更、N県まで戻しに行くなんて無理だしありがたく使わせてもらおう。
通学用のかばんから読みかけの本を取り出し、栞を交換した。
あれ?
不意に何か違和感を感じたが、
特に思い当たることはなかった。
昼食は冷蔵庫にあった昨日の残り物で済ませ、パソコンにスマホで昨日撮ったデータを移行させた。
これまで行った全ての心霊スポットの動画が納められているこのパソコン。
そう思うとやばいパソコンみたいだけど、1度も、投稿動画とかでよく見る白い光みたいなのでさえ、映ったことないんだよなぁ。
もちろん、初めはただ電灯が少なくて暗いだけの、何の言われも無い公園とかだったから映らないのは当然。
でも池町が参加した頃からはネットで調べた本当の心霊スポットに行っている。
ちょっとだけで良いから何か撮れたりしないかな……
『誰か泊まってくって-----夏休みに--案内してくれて----』
少し速度を早めて、撮った映像を確認していく。
家に入っても、相変わらず何かが映っていることは無く、自分たちの騒ぐ声だけが聞こえるだけ。
進めていくと、風呂場の浴槽が映る。
なかなか大きくて綺麗な風呂だったな。
うちの風呂より良さげかも。
浴槽に水が溜まってる、なんて事があったらマジで恐怖だったんだけどなぁ。
……ん?
ちょっとだけ巻き戻して、再生する。
カメラは風呂場の中の物を一つずつ撮ったら、ドアを閉めて脱衣所から廊下へと向かう。
この後は子供部屋に行ったんだったか。
やっぱり。
巻き戻してもう一度、再生する。
手が、映っている。
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