相馬 貴彦  8


しばらくすると、2人が戻ってきた。

ほんの数分か。

華奈は結んでいた髪が解けている。

シュシュを置いてきたのだろう。


「何をお願いしたの?」


「えっと、わたしは……」


話そうとした華奈を松岡が遮った。


「ダメダメ!こうゆうのは、他の人に言っちゃったら叶わないもんです。内緒ですよ」


信じてないのに、そうゆうことはちゃんとするんだな。

それも迷信だと思うけど。


「じゃあ、見て回ったし、やることやったし、帰る?もうやることないでしょ。」


気づけばもう深夜1時を過ぎている。

思ったより家の中に居たようだ。


変なことは、あった。

でも、それが心霊現象かと言われたらそうじゃない。

心霊スポットに、廃墟に来たはずなのに、人の家にお邪魔しているかのような、変な感覚。


もう帰るだけとなったら、皆足取りも軽く感じる。

どこかもう一度見る、といったこともなくさっさと家を出ていく。

相変わらず、玄関の靴は何故だか気持ち悪いが。


最後に、家をバックに全員で記念写真を撮った。

ビデオと写真、後日見るのが楽しみだ。


松岡と華奈に、願い事はなにか3人で問いただしながら車へと戻る。

華奈も教える気は無くなってしまったみたいで、笑ってかわしてしまう。


途中、後ろから声が聞こえた気がした。

他の誰も、気付いた様子はなかった。




--------ーー--ーーーーーーーーー


同日 AM4:27


自分の部屋に着いたのは、だいぶ遅くなってしまった。しばらくしたら朝日が昇ってしまうだろう。


玄関を開け、ただいまと声をかけると奥からおかえりと彼女の声が聞こえる。

こんな時間なのにまだ起きていてくれたのか、物音で目を覚ましてしまったのか。

電気はついていないので、起こしてしまったのだろう。


「仁美さん、起こしちゃった?ごめんね」


……………ろ


「瑞季さんに教えてもらったところ、行ってきたよ。あの家すごいね。怖いっていうか変なとこだったよ」


……し……ろ


「すごい綺麗になってたけど、あれって来た人が掃除してるのかな?莉奈さんがいたときってどうだった?」


…い……に……えろ


「谷が撮ったやつ一緒に見る?みんなにも紹介したいし」


……………かえろ…


「なんだったら、今日も一緒に来てもよかったのに。みんな別に何も言わなかったと思うよ?」


……いっしょに………


あれ?

なんで、俺玄関に立ってるんだろ

真っ暗だし

帰ってきて、話をして

だれと?

いや、彼女と話してたら

えっと、名前

名前、何だっけ…?



いっしょに かえろう



耳元で声が聞こえる。

あの家を出た時に聞いた声と、同じ声だ










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