相馬 貴彦  7


これで、一通り家の中を見て回った。

変なところはいくつかあったが、いまだに多くの人が噂を信じて祈りに来ているというのなら、まぁ、理解できなくもない。


「どうする?やってみる?」


何となく皆が階段前に集まってきたので聞いてみる。

この家の2階で祈りを捧げ、叶えたい願いを念じると叶う。

その噂を確かめてみるかどうかだ。


「何かお願いしたとして、置いてく物も用意しないとダメなんでしょ?私荷物は車に置いてきちゃったし何も無いよ」


「俺もスマホと財布しか無いわ」


この家の話をしたのはギリギリになってからだったので、誰も事前に用意はしていなかった。

実は俺も、何も用意していない。

正確には持ってくるつもりだった物を忘れてきてしまった。

ここに向かう途中の車で気がついたのだが、今更戻ってくれとは言えない距離まで来てしまっていた。


「言ってる本人がそれじゃあ、どうしようもないな。じゃあ、どうする?これで帰る?」


「えー、それはさすがにないでしょー。谷さん何か無いんすか?」


「スマホと鍵しかない。松岡がスマホ置いてけば?大事でしょ?」


「大事過ぎて絶対置いてけない!」


「華奈のシュシュは?よく付けてるけど大事なやつ?」


言われて、華奈は後ろで結んでいる髪に手を当てた。

グレーのシュシュで髪を結んでいる。

言われてみれば、確かに付けているのをたまに見かけるかもしれない。


「えー?何となく色味が気に入ってるから使ってるけど……私お願いしたい訳じゃないし……」


「良いじゃん、華奈!よく使ってるから条件に当てはまるし。高いやつなの?」


「全然。よく行くお店で売ってるプチプラのやつだけど……えー…………ほんとに、やるの?」


「やろうよ!ちゃんと置いていけば願いが叶うだけだろ?やって損はないって!何だったら、俺も一緒にやるからさ?」


松岡が完全に乗り気になっていた。


「一緒にやるって、何も持ってないんだろ?」


「しょうもない物ならある!」


「ダメでしょ、しょうもない物じゃ」


速攻ツッコミを入れられてもめげる事なく続ける。


「みんな別に本当に叶うなんて思ってないでしょ。試してみて、叶ったらラッキー、叶わなくても所詮ウワサはウワサ、ってだけのことだし」


「それは、そう、だけど……」


「というわけで、華奈、行こう!」


「え⁉︎ちょっ……」


そう言って、松岡は華奈の手を引いて寝室へと入って行ってしまった。


「なんで向こう行っちゃったの?」


「知らんけど、お祈りなら人のいない所で、って感じじゃない?」


ドアも閉めてしまったので、中の様子はわからない。

一体、何を願うんだろうか。

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