相馬 貴彦 5
気味の悪さを感じつつ、誰も喋らずに中へと進む。
さすがに靴を脱いで入る気にはなれなかった。
隅に置いてあるスリッパやほうき等は元々の家主が使っていたものだろうか。
右側と正面に扉がある。
近い右側のドアを開けてみると、よくわからない部屋だった。
畳敷きの部屋で、6畳分の広さ。
ここにも誰かが置いていったであろう物は畳の上に並べてあるが、家具は何も置かれていない。
押入れのような収納スペースも無い。
「何の部屋なのかな?」
「誰か泊まってくってなったら、ここに布団持ってきて寝てたのかも」
「あー、おばあちゃん家にもこうゆう畳の部屋あった。夏休みとかに遊びに行って、ここで寝なって部屋に案内してくれたら、おばあちゃんが先に布団敷いといてくれてて、何か旅館に来たみたいだった」
懐かしい、と話すうちに少しずつ玄関での緊張が溶けてきたみたいだ。
「家具って、引越した時に持って行ったのかな?」
特に気になる物もないので、早々に部屋を出る。
「物は多いけど、どれが元々あったかはわかんないよね」
「……あ、家具置いて行ってるっぽいっすね」
もう一つのドアを開けた松岡が言う。
全員後に続いて中に入ると、そこはリビングのようだった。奥にはキッチンも見える。
テレビの前にはソファーがあり、キッチン前にはダイニングテーブルと椅子が並べてある。
「家具、住んでた時のまま……って感じだね」
家と同じで、置いてある家具類は年季が入っているようには見えなかった。
普段ならソファーの座面を触り、『まだ温かい』なんてふざけていたかもしれない。
とても、触る気にはなれなかった。
本当に、さっきまで誰かが座っていたかのように、少しだけ沈んでいるように見えるのは、
気のせいに違いないのだから。
「うわっ!」
突然ガチャガチャと何かが落ちる大きな金属音と、谷の悲鳴が聞こえ、心臓が止まるかと思った……
つられて華奈も大きな声で悲鳴をあげる。
慌てて、音のしたキッチンに行くと、相応驚いたのかカメラを手にしたまま微動だにしない谷がいた。
「……なに?どしたの?」
声をかけると、こちらを見たまま動かない。
「…………びっくりしたぁ……マジで。
上の棚何入ってるかなってちょっと開けたら、コレだよ」
どうやら、棚の扉に寄りかかるように中に入っていた食器や調理器具が開けた瞬間落ちてきたらしい。
「コレだよ、じゃないから!ほんとびっくりしたし……こうゆうとこで驚かすのはナシじゃん……」
「いや、わざとじゃないから!まさか落ちてくるなんて思わないって」
本人も死ぬほど驚いただろうし、わざとでないのはわかっていても、文句を言いたくなってしまう。
暗闇で急な物音、しかも心霊スポットで、となれば驚かない人の方がいないだろう。
気を取り直し見て回るが、洗面所とトイレがある小部屋があるだけで特に気になる物はなかった。
あとは、2階のみ。
リビングの一角にある階段へと向かう。
登る途中、自分が一番後ろのはずなのに背後に誰かいる気がした。
振り返っても、当然誰もいなかった。
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