相馬 貴彦 2
目的の場所は、『祈り場』と呼ばれているらしい。
N県のとある場所に建つ2階建ての一軒家。
周りには他に家は建っておらず、錆びついた歯科医院の看板と、その横に並んだ放置自転車を目印に道を曲がると見えてくる。
この家の2階で祈りを捧げ、叶えたい願いを念じると叶う。
その代わり、自分が大事にしている物や、長く使っている物など、何か必ず置いて帰らなければならない。
もしも、置いていかずに帰ってしまったら不幸が訪れる。
そんな噂があるのだそうだ。
自分が聞いた話には願いが叶ったという良い話は1つもなかった。
『病気の完治を願ったが、闘病生活が終わり治った翌日に事故死した』
『恋愛について願ったら、好意を持った相手が次々と不審死する』
そんな祈り方を間違えた人の不幸な噂ばかりだった。
だからこそ、パワースポットではなく心霊スポットとして有名なのかもしれない。
「でもさ、こんな家本当にあったんだね」
離れたところから家の写真を撮っていた池町が戻ってきた。
「私こんな家の噂今まで聞いたことなかったし、検索しても全然出てこないからガセじゃないのって割と疑ってたんだよね。
でも貴彦の行う道走ってたら看板立ってるし、曲がったところ車降りて歩いてきたらほんとに家が一軒だけ建ってるし」
「ガセじゃないって何度も言ったろ。何たって確かな情報筋からのタレコミだからな!」
「なんだよタレコミって……ふふっ……ドラマでも見たのか?」
うるさいな。
別に何となく言ってみただけだし。
昨日見た刑事物の映画の影響とかじゃないし。
「単に地元がこの辺って人から聞いただけだよ。結構有名って言ってたんだけどな」
「あ、もしかしてこの前付き合い始めたって言ってた新しい彼女さん?アラサーOLなんだっけ?」
「その通り! The 清楚系っていうの?お淑やかで綺麗なお姉さんって感じで、俺にはもったいないくらいっていうか、いや、もったいなくても別れたりしないんだけど、とにかく良い彼女なわけよ。俺のこともめっちゃ考えてくれてて、そう、声、声もいいんだよね。あの声でおかえりって言ってくれるのが心地よくて--」
「あー、もういいって!わかりました、わかりました、よかったですねー」
まだ全然翔子さんの良いところ言えてないのに……
まぁでも、人の惚気話ほどつまらないものはないというのもわかる。
自分が逆の立場でも聞かなかったか、聞き流すか。
「その彼女さんは噂知ってるだけ?経験者?」
「んー?経験者らしいよ。大学受験の時に合格出来ますようにって使ってたボールペン置いてきたって言ってた」
「……大学受験って、今その人アラサーなら10年近く前ってことでしょ?そんな前からある噂なの?ってか、そんな前からある家に見えないんだけど……」
そう言われて、全員が家へと目を向ける。
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