祈りの家
相馬 貴彦 1
夏なのに、虫の声が全然聞こえなかった。
その異様な静けさに、ここは本当にやばい所なのでは……
そんな風に感じていたのに、目的な家が見えた途端音が戻ってきた。
この場所は自分が聞いた話から決めた場所だ。いつも、場所決めに関しては他のメンバーに任せているので、初めての今回は知らないうちに緊張していたのかもしれない。
それまでの不安も何処へやら、いつものワクワク感が湧き出てくる。
入ってはいけない場所に入るスリル。
自分はその刺激に取り憑かれてしまっている。
同じ大学の仲間達と一緒に、動画を撮りながら心霊スポットで肝試し。
大学1年目の夏から始めて、もう何ヶ所目だろうか。
最初は自分と谷の2人だけだった。
別に何か共通点があったわけでもないのに、何となく仲良くなって、何となく遊ぶようになった。
肝試しがその遊びのうちの1つ。
心霊スポットでもなんでもない、街灯が少ない道や少し寂れた公園。
夜に行ったら怖い雰囲気がある、そんな気がする場所に行くだけ。
その時の様子をスマホで動画を撮り、大学で見返しているときに、池町に声をかけられた。
ホラー好きな彼女が一緒に行くようになってからは本物の心霊スポットにも行くようになっていった。
翌年には一個下の松岡と、その彼女の華奈が加わって、今では5人で心霊スポットに行くのがお決まりだ。
「……絶対に聞いてくれないんでしょうけど、とりあえず言うだけいいですか?」
歩きながら、消え入りそうな声で華奈がつぶやく。
何が言いたいのか全員わかっているので、笑ってダメダメと流す。
『もう帰りましょうよ』
怖がりな彼女が毎回のように言うものだから、
このやりとりも、もはや入る前のルーティーンだ。
「だって……何かいつもより怖い感じするし……それに、ほら、やけに静か過ぎません?」
ドキッとして思わず動きが止まりそうになる。
同じことを思っていたなんて。
「華奈のいつもよりはあてにならないじゃん。この前蛍光灯が切れかかってるだけの普通の公衆トイレで、いつもの心霊スポットより怖いって騒いでたくせに」
「その瞬間は本当にそう感じてるの!」
心外だとばかりにむくれる彼女を笑って宥める。
そんなに怖いのなら来なければいいのに、と始めのうちは思ったが、欠かさず参加するので仲間はずれも寂しいのかもしれない。
怖さよりも、この仲間内の雰囲気を好んでくれているのだと思うと、純粋に嬉しく感じる。
それに、彼女がこうして自分達よりも怖がってくれているおかげで、少し冷静に、スリルを楽しめている部分があると思う。
ありがたい存在だ。
そんな感謝を伝えたら、彼女は嬉しくないと怒るだろうが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます