第35話 新生月影騎士団


 私とメイファスが宮廷工作を頑張っている間、ダンブリンたちは遊んでいたわけではない。

 魔王軍と戦うための戦力を集めてくれていたのである。


 結果、月影騎士団の陣容は大幅に強化された。

 騎士十三人にメイファス親衛隊三十二人に加えて、腕自慢の冒険者が十七人。

 なんと総勢五十名超えだ。


「すごいね!」

「それでも正規軍の一個小隊より少し多いって程度ですが」


 私の感想にフリックが肩をすくめた。

 こいつは仲間集めにまったく寄与していない。ずっと私とメイファスに張り付いていた。


 従者だからね。

 基本的にずっと私たちと一緒にいる。


「そうだけど、ひとりひとりが一騎当千じゃん。ということは六十二人で六万二千人じゃん」

「いや、その計算はおかしい」


 てい、と、軽くつっこまれた。

 こいつ従者のくせに、公的な場じゃないときは普通にツッコミを入れてくるんだぜ。

 しかも周囲も生温かく見守っているだけで、注意喚起のひとつもしないんだ。


 私、元聖女なのにナイガシロにされすぎてるよなー。


「たしかにジルベス様やノルド様、フラン様にバシン様、他の方々も無双の勇者ですが。それでも五百人に囲まれたら負けますよ。全滅です」

「そうなの?」

「結局、数は力ですから」


 面白くもおかしくもない結論だ。

 数が多い方が勝つ。当たり前すぎてつまんないよ。


「ゆーて、相手が五百程度なら、月影の十三人で勝てると思うけどね」


 フリックと反対のことを言って笑うのはブラインだ

 私が小首をかしげると、そのやり方とやらを説明してくれる。

 といっても、あっと驚く妙計とか、そういうものではまったくない。


「何人かを、これ以上ないくらいに残酷に血祭りにあげたら、びびって逃げ出すよ」


 ひどい話である。


 こんな殺され方したくないって思ったら、一気に戦意喪失しちゃうんだってさ。で、そういう恐怖ってあっという間に伝播する。


「人間ってのは命を惜しむからね。周りが全員死んでも自分だけは生きて帰りたいってのが本音。だからいろんな策を仕掛けられる。でも」

「モンスターは違うってことですよね」


「そゆこと。やつらには生物が当然持っているべき恐怖心や生存本能がない」


 多くのモンスターは逃げない。

 圧倒的に不利でも、最後の一匹になっても。


 例外はゴブリンとかコボルドみたいな弱くて徒党を組むタイプのモンスターね。こいつらは簡単に逃げるから。

 で、いままで私たちは、こいつらが逃げるのは弱いからだと思っていたんだよね。


 けど、それは違うんだってことが判明した。


 ゲートってところから、どんどん湧き出していたのよ。


 つまり、母親の胎内から生まれたわけでも、卵から孵ったわけでもない。

 生まれて成長して、ってプロセスがないから、生への執着もない。


「逃げるやつらはこの世界で生まれたもので、逃げないやつらは異世界からやってきたもの。ざっくりとそういう分け方になるんだろうね」

「異なる世界、なんて、想像の外側でしたよ」


 ブラインの言葉に私は両手を広げてみせた。

 べつに知りたくもなかった世界の真相ってやつだね。


 魔王とその配下は、私たちの住んでいる世界とは違うところからやってきた。

 だから平然と人を殺せるし、町も破壊できる。


「ん? スラムの連中だって殺すし壊すよ?」


 こてんとメイファスが小首をかしげた。

 ちょっとわかりにくかったかな。


「戦争とかで、どうして領土を奪い合うと思う? メイ」

「考えたことなかったけど、土地がほしいから?」

「その土地がほしい。それで正解だよ。でもどうしてほしいんだろう?」


 土地そのものに価値があるわけではない。

 そこに人が住み、たとえば作物だったりお金だったり資源だったりを税として徴収できるから価値があるんだ。

 土地が足をはやしてお金を持ってきてくれるわけじゃないからね。


「で、人が住むには生活基盤インフラが必要になるの。街を壊してしまうと人が住めなくなっちゃう。また住めるようにするのにお金がかかるじゃん」

「お金が欲しくて戦争したのに、もっとお金がかかったらたしかに意味ないね!」


 まー、お金だけじゃないんだけどね。

 でも極貧を経験したメイファスにはとってはお金で考えるとわかりやすいから、イデオロギーや宗教に関しては、私は触れないでおいた。


 それに、金銭は侮って良いものじゃない。

 これがあれば世の不幸をいくらかは減らすことができるし、今回だって私のご先祖が四百年間もしっかりと蓄財してくれていたから経済的なピンチを救えたわけだからね。


「ていうかすっごいお金出しちゃったみたいだけど、ユイナの家って大丈夫なの?」

「べつにあげたわけじゃないし、ちゃんと返してもらうから大丈夫。それに、家人って私とフリックだけだし」


 人件費もあんまりかからないのだ。


「いざとなったら、僕が外で働いてお嬢様の食い扶持くらい稼いできますよ」


 どんと胸を張るフリック。


「そんな従者はいない。ただのダンナじゃん。それ」


 すげー呆れた表情で言うメイファスだった。


 ふむ。

 フリックが旦那さんか。


 どうだろう? ありかな? なしかな?


「ユイナも! 審議中みたいな顔をするんじゃなくて!」


 なぜか、聖女さまが半ギレです。

 キレる若者ってやつですかね。


 

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