第5話
「紗那はママに似ているの」
「そっくりねって言われるね!」
無邪気な紗那の声に、美沙は微笑む。
「そっくりなのは、見た目だけじゃないの。あのね、ママと紗那には亡くなった人が視えるの。他の人には視えない人が、視えちゃうんだよ」
紗那は理解ができなかったのか、首を傾げた。
「人は死んじゃったら、どうなると思う?」
美沙の問いかけに、紗那は「うーん」と言いながら、考え込んだ。それから、閃いたように「おばけ!」と答えた。
「そう。紗那とママにはおばけが視えるんだけど、生きている人とお化けの区別が難しいの」
「さなも、おばけが視えてるの?」
「そう。でも、これまでおばけだってわかったことある?」
「……ない」
美沙は俯いてしまった紗那の頭を優しく撫でる。
「でもね、これまで会った人の中には、おばけがいたの」
「全然わからないよ」
「そうだよね。じゃあ、幼稚園のお友達の『けんちゃん』のことを思い出して」
「けんちゃん?」
「けんちゃんは、他の子には視えないお友達なの。おばけ、なんだよ」
美沙の言葉に、紗那はムッとした表情を浮かべた。
「違うよ! けんちゃんはいるもん! いつも遊んでるもん!」
「うん、紗那はいつもけんちゃんと遊んでいるよね。でも、思い出してみて。けんちゃん、他の友達と遊んだり、話したりしてる?」
その言葉に、紗那も思い当たることがあったのか、唇を噛んで黙り込んだ。
「どうして、けんちゃんが幼稚園にいるのか、どうして死んでしまったのか、ママにもわからない。でもね、けんちゃんはもうおばけになっていて、視える紗那としか話したり、遊んだりできないんだよ」
紗那は幼いけれど、一生懸命に理解し、受け入れようとしている。
しかし、それは容易なことではなく、心も頭もいっぱいになってしまった。ついに、紗那は美沙に抱き着き、泣き出した。同じく泣きそうな表情を浮かべて、美沙が抱き締める。強く強く。互いにしかわからない、痛みを分け合うように。
悠人は、自分にできることを考えていた。
しかし、何も浮かばない。できることなんてないのかもしれない。そう思っていたが、いつもと変わらないように振舞うことが、唯一できることだと思った。
「紗那とママは仲間なんだよ。パパには視えないから、二人と一緒じゃなくて寂しいな」
悠人は大袈裟に見えるほど、悲しそうな表情を浮かべた。紗那は赤くなった目元を擦り、悠人を不思議そうに見る。
「パパ、寂しいの?」
「うん、パパも仲間に入れてほしいと思ってるよ。でもね、これは誰でも持っている力じゃないんだ。欲しいなと思っても、神様からもらえるわけじゃない」
紗那は眉尻を下げ、俯いた。
「けんちゃんは、きっと嬉しかったと思う。今まで、けんちゃんに気付いた子はいなかったかもしれない。だけど、紗那はけんちゃんと話して、遊んできたんでしょう? 初めてのことで、喜んでいたんだと思うよ」
そう言うと、美沙は紗那の頭を優しく撫で、微笑んだ。
「けんちゃん、喜んでくれた?」
「そうよ」
「さな、みんなと違うの?」
「うん。でもね、ちょこっとだけ、みんなには視えないものが視えるだけ」
「そっかぁ」
紗那は少しずつ納得しようとしている。幼い紗那には難しいことだろう。人の生き死にについて、考えることもなかったはずだ。
悠人も紗那の頭を撫でようとした時、突然、美沙が悲しそうな顔で首を振った。
「なんで……」
俺だって、紗那の頭を撫で、抱き締めてあげたい。そう続けるつもりが、美沙の流れた涙を見て、言葉を呑み込んだ。
「紗那、パパ。二人に大切な話があるの」
美沙の声は異様なほど、緊張している。思い当たることがない紗那と悠人は顔を見合わせてから、美沙に注目した。
「人は死んでしまったら、おばけになる。ママと紗那は視ることも、お話しすることもできる。でもね、おばけのままいるわけにはいかないの。死んでしまったら、お別れをしないといけないんだよ」
美沙の真剣な表情に、悠人も真剣な表情で見つめ返した。
「そうだね。死んでしまった人とはお別れをしないといけないな。視えるからといって、ずっとそのままで居ていいわけじゃない」
「そう。生きている人と死んでしまった人は、同じ世界にはいられないの……パパ、あなたもよ」
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