第3話 感覚を言語化する

 食べ物の美味しさを鮮明に表現できる人ではない。そういう人が羨ましかった。


 夫とワイン祭りに行く。たくさん試飲ができて、運転する夫の代わりに私が試飲をして、どのワインが飲みたいかを決めることになった。


 解説や目盛表記を見ながら、自分の感覚を言語化した後、好みを伝え、これからの予定と兼ね合わせて提案をする。


 私のコミュニケーションのフォーマットは、大体そのようになっている。現状報告、私見、提案。


 小説の場合は、①内容・作者の意図の把握、②作品に対する感想、③個人の感想、④個人の人生への昇華。


 ①②は、作者へのリスペクト。


 ③を許す作品から、作品として強いと思う。


 感想にとどまらない④の作品は貴重だ。


 作者と総合的に関われるカクヨムは特殊で、作品だけでなく関わり合いにより補完、相乗効果で④を得ることができる。


 話はワインに戻るが、普段そんなにワインなど飲まない私だから、5,000円台のものすら高いと思う。それが100円で試飲できたので3,000円台のものと飲み比べをすることにした。


 5,000円の方が複雑だ。香りと味と風味と、口に含んだときの最初の印象と余韻もまた違う。一口飲み込むまでの変化の細やかさ。たしかに、変化が一種類のものよりは面白い。


 この複雑さを、毎度ブランドに相応しい出来栄えで出すのが生業。どうやっているのか。


 一人で作るわけではないだろうから、様々な要素を細分化し、言語や数字に転換するだろう。その時にワイン言語群が生まれて、それを共通語にして追究するのではないか。


 ワイン言語群から入るのはどうか。味覚に関心が薄い私が、このワインがどーたらこーたらというのを聞いて、それが自分の味覚のどの状態を指しているかを探る。


 それは、とても面白かった。


 言語の習得は、理解の過程を明確にする。私にとって、ワインが好きか詳しいかはどうでもよく、目の前のものが何であって、なぜ評価されているかが知りたい。私はそういう人だ。


 そして私が一番高く関心を持っているのが人間である。人間の面白さを感じたときの楽しさに勝るものはいまだ無い。たくさんの記憶が薄れ、曖昧になり、消えていっても、ここぞという時に思い出されるのは、人間のエピソードであり、言葉だ。

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