第2話 海流に乗る

 自分の世界や人生をたとえるなら、深海にいる。ライトを当てて進路をとるが、若い頃よりもライトは大きく、明るくなり、随分前に進みやすくなったと感じる。


 だが、やはりこれで良いのかという物足りなさがあった。欲ではなく、薄々と完全体はわかっていながら何かが足りていないと感じ、でもそれを得るために何をしたら良いかがわから

なかった。


 ハルキ文体を意識している時、私は彼が何を表現したくてその言葉や文を書いたのかを一生懸命考える。それは、ライトを四方八方に向けることであり、その過程の中で今までの進路の上10センチのところに海流を見つけた。


 今までの進路も悪くはなかったが、そちらの方が流れが強く、行きたい方向に楽に行けそうだった。ただ、すぐに乗る気にはなれず、少しまごついた。人間とは、そういうものだ。


 色々な後押しがあって、私はその海流に乗ることに決めた。あれほどためらったが、初めてのことではない。今までもそれでうまくいってきた。


 自分を認知すること、ライトを大きく強力にすること、見えないが確実にあるものを認識すること、勇気を出すこと。それらのことを意識的にやってきた。


 幼い頃から、私は”自分の学んだことを誰かに伝えなくてはならない”という定められたものがあった。”誰か”というのがわからず、一時期は子どもたちに、とも思っていたが、限定しなくても良さそうだった。


 学んだことを人に伝えるというのを、時に伝聞として行っていたが、それ自体が相手のためになっている様子はなかった。私の経験、体験、消化されたもの、の方が、まだ良かったらしい。私にとっては、源の方がより正確でパワーがあると思うが、やはりすぐに役に立つかどうかは寿命という観点では大事に思える。


 肉体の限界を超えた後に持ち越すことも悪くはないと思うが、肉体の制限がある中でもこれだけの体験ができると知った方がより感動が大きいのではなかろうか。

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