第24話
フラウの母親視点
その日、私は訪れた街の外れにある酒場で、久しぶりに夫と酒を飲む予定だった。
……だった、のだが。
酒場の扉を開けた瞬間、娘ほど年の変わらぬ若い給仕の子が、腕を乱暴に掴まれているのが目に入った。
「なぁに、ちょっと一緒に飲もうぜってだけだろぉ?怖がる必要なんてねぇからよぉ……」
筋肉質だが最近は鍛錬を怠っているのか腹回りがたるんだ男は酔いに任せ、給仕の娘をぐいと引き寄せた。
その横で、回りの酔った男たちは下卑た笑い声を上げている。
私は夫に剣と棍棒を差し出し、軽く息を吸った。
「すまないね。ちょっと先に行くわ。」
夫は仕方ないなと諦めたように棍棒と剣を受け取る。
私が歩みを進めると、給仕の娘と目が合った。
怯え切ったその目は、「助けて」と声より強く訴えていた。
――よし、任せな。
私の口元には獰猛な笑みが浮かんでいただろう。
「おい、アンタら。」
私は酔って給仕の娘の腕を掴んでいる男の背後に立ちながら声をかけた。
「酔って給仕の娘を無理に誘う前に、自分の母親に女の口説き方でも習ってきな。」
男は振り返ると、顔を赤くして怒鳴った。
「なんだテメェは!関係ねぇだろうが!!」
「いやいや、大ありだよ。その給仕の子はうちの娘と同じくらいの歳なんだよ。そんな娘が泣かされてるとあっちゃ、母親としてうちの娘も同じ目に遭っていないか、心配で心配で黙っていられないのさ。」
「はっ、何だそりゃ! 訳が分からねぇ!そんな理由で邪魔するなら……」
男の腕が給仕の娘の手を離し、拳を振り上げた瞬間、
私はその手首を掴み、ひねり上げ、テーブルに叩きつけた。
「痛ぇぇぇぇ!!」
「おっと、まだまだよ。」
続けて私は男の足を蹴り飛ばし、男を転がした。男は気絶したのか動かなくなった。
「良い子だね。赤ちゃんのように寝てな。」
その様子を見た回りの酔った男たちは慌てて立ち上がり、武器に手を伸ばす。
「やれやれ。下品な誘いを止めないと思ったら、どうやらこの寝ているクズと仲間だったみたいだね。」
その言葉を聞いた先頭の男が脅すかのように、声を張り上げる。
「おい!大人しくしな!こっちは数で勝ってるんだぞ!」
「数?あぁ、それなら――」
夫が私に向かって、棍棒を投げてよこす。
「雑魚は何人集まったって雑魚なんだよ。」
私の笑みを見た男達の顔が一斉に青ざめる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そこから先は、特筆するほどのこともない。
一人は棍棒で鼻を砕き、もう一人は打ち下ろした棍棒で肩を砕かれ、、さらに一人は私の蹴りで窓から外へ飛んでいった。
静まり返る酒場。
倒れている男たちを見た給仕の子が、小さく震えながら問う。
「あ、あの……ありがとうございます……!」
私は笑い、彼女の頭を優しく撫でた。
「良いんだよ。人は強さを持つ必要はないけど――弱い立場に置かれた時、手を差し出して助けてと叫ぶ勇気を持つことは大切だよ。」
ふと振り返れば、酒を持って待っている夫がいた。
口元に苦笑を浮かべながら。
「また若い娘を口説いているのか、うちの奥さんは。」
「仕方ないだろ? 目の前で若い娘が泣きそうだったんだ。」
「……まぁ、そうやって弱い人を助けるところが好きになった理由なんだがな。」
夫は照れくさそうに頭を掻き、席に戻る。
私は笑いながらその隣に座った。
「さて、改めて飲むか。今日の晩酌は、勝利の美酒だね。」
頭を下げてお礼を言ってくる給仕の娘を見て、私はふと不安に思う。
「フラウ……、カーミラ様に御迷惑をおかけしてないかな?」
私の様子を見て夫が首を傾げる。
「どうした?急に心配そうな顔をして?」
「ちょっとね。フラウの事がね。」
私の言葉を聞いて、夫は安心させるように肩を叩く。
「それなら大丈夫だろう。カーミラ様が戻ってこられて張り切っていたし、今度、例の事件の時、カーミラ様を助けた御方が御一家でアラベスク公爵家に来られると聞いて張り切っていたからね。」
私はその言葉を聞いて、あの子の性格を思う。
カーミラ様を助けたお相手をあの子が嫌ったとしても、気に入ったとしても、これは心配だね。
少しフラウに釘を刺しに戻るかね。
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