第12話
「では、フラウ、貴女に罰を与えます。貴女はこれからも美味しいクッキーを私に作ること、今度は、もう少し見栄えの良いクッキーを作って下さいね。」
僕はカーミラ様とフラウさんのやり取りを見ていて、やはりカーミラ様は優しく、アラベスク公爵家の凄さを思い知った。
僕の腕をいきなり掴んで止めたフラウさんは無礼とされる可能性が高い。
フラウさんは僕の性格をある程度見抜いて、僕が粗暴でいきなり暴力を振るうような人間ではないと分かった上で、敢えて無礼な態度をとり、カーミラ様のために、僕の度量とカーミラ様への愛を測ろうとしたのかもしれないな。
貴族には面子を護る義務があると言っても良い。
だけど、面子を護るために暴力を振るうのは違う。
僕が、
『たかがメイドが・・・』
なんて言って、激昂して、暴力等を振るうことをした場合、いずれそれが領民や部下、家族、そして、カーミラ様自身に振るうことがあるかもしれない。
それをフラウさんは懸念したのだろう。
アラベスク公爵家は王太子とカーミラ様の婚約の件では、失敗したと言っても良い。
婚約破棄の件では、王太子側の有責とした事で、ある程度は挽回したと思うけど、これ以上、婚約関係の事で失敗するわけにはいかないのだ。
だからこそ、フラウさんは自分の解雇をかけてでも、僕を試したのかもしれない。
僕は一人のメイドが自分の進退をかけてでも、主人や家を護るというアラベスク公爵家の絆の強さに凄さを感じたのだ。
例え、フラウさんが解雇になったとしても、カーミラ様はフラウさんの事を生涯面倒を見るつもりだったのだろう。
その覚悟をしているけど、この場では、敢えてクッキーを作るなんて罰を言ってこの場の空気を和ませてくれたのだろうなと思うとカーミラ様はやはり優しいなと思う。
「良いですね。今度はカーミラ様と一緒に僕もそのクッキーを食べてみたいですね。」
フラウさんは頭を下げて、謝りながら、
「申し訳ありませんでした。今度とは言わず、見栄えは悪いですけど、このクッキーも食べていただけると嬉しいです。」
そう言ってくれたので、僕はカーミラ様にことわり、
「では、改めて僕もこのクッキーを食べてもよろしいでしょうか?」
カーミラ様はにっこりと笑い、
「私はラルフロッド様とお会いする時、フラウの作ってくれたクッキーを食べてもらいたいと思っていましたの。どうぞ、ご賞味下さい。」
僕はクッキーを二つ手に取り、
「僕だけ食べていても美味しさが半減しますので、カーミラ様もご一緒に食べましょう。」
そう言って、クッキーを一つ、カーミラ様に手渡した。
カーミラ様は頬を赤らめて受け取り、
「ありがとうございます。」
その姿を見て、フラウさんがなぜか、ハァハァ言って、胸を抑えていたけど、確かに頬を赤らめたカーミラ様は可愛らしいからね。
僕はクッキーを一口食べて、
「うん!確かに美味しいですね!しつこい甘さではなく、優しい甘さですし、サクサクとした軽い感じの食感ですね。僕はこの食感好きですよ!」
僕が、あまりの美味しさにもう一枚クッキーを取って、食べようとしたら、カーミラ様がクスクスと笑ったので、僕は慌てて、
「すみません。このような場で、はしたないですよね。」
と頭を下げると、カーミラ様は首を横に振り、
「いえ、クッキーを頬張るラルフロッド様のお姿が、王太子の誕生会の時の、ケーキを頬張りながら、私を護ってくれた時とそっくりそのままだったので、見ていて嬉しくなりました。」
僕は頭に手を当て、
「いや、少し恥ずかしいですね。もう少し、颯爽としてお助けできれば良かったですね。」
カーミラ様は口元に手を当て、クスクスと笑い、
「いえ、お義姉様と一緒に並んで、ケーキを食べながら、王太子を論破する姿は、あの時の誰よりも颯爽としたお姿でしたよ。でも、確かに颯爽というよりは、お2人共、モグモグされて、可愛らしいという感じが強かったですけどね。」
その事を聞いて、フラウさんが、
「大丈夫です!カーミラ様もラルフロッド様と並んでモグモグされても可愛らしいと思います!いや、むしろもっと人気が出るかもしれません!」
あれ?
フラウさん、最初にあった時となんか印象が違うよね。
カーミラ様は何かを思い出したようで、パンと手を叩き、
「そうですわ!今度、ご一緒にアラベスク公爵領にあるお店を調べてみませんか?ラルフロッド様は我がアラベスク公爵領にはあまり来られたことはないと思います!」
僕はカーミラ様の言葉に頷き、
「はい!良いですね。僕もアラベスク公爵領を見て廻りたかったのです。」
そう告げるとカーミラ様は嬉しそうに、
「ありがとうございます。」
と御礼を言ってくれたけど、少し、モジモジしながら、
「あの・・・、その時は、義姉様は・・その・・・、」
僕はにっこりと笑い、
「大丈夫です。姉には留守番をしてもらいます。せっかくの2人きりですからね。」
僕がそう告げるとカーミラ様は嬉しそうに手を合わせる。
カーミラ様と2人で出かけると姉さんの、「ラルフ君?」というオーラか何かが飛んでくるような気がするけど、兄さんもこの縁はハミルトン伯爵家に取って良縁だって言っていたし、僕もカーミラ様とは今後も付き合って行きたいからね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
以下は、近況ノートにも載せている、10話のサイドストーリーで、軍事訓練をしている時のサリアン様(次期アラベスク公爵当主、カーミラ様の兄)と騎士団長のお話です。
近況ノートよりも皆様の読みやすい場所に載せた方が良いかなと思いましたので、この場に載せました。
いつも応援やレビュー、コメントありがとうございます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サリアンは鬱蒼とした森林地帯の中で、足元に注意しながら、10名の新兵と共に進軍している。
人の手が入っていない森林地帯に特有の昼間でも薄暗く、暑い季節のため気温や湿度が高い状況であり、サリアンや兵士達も集中力を保つのが難しい状態である。
風が吹いたり、獣が通る度に、周囲で音が鳴るので、敵が出てきたと思い、新兵達は全員がそちらを振り向くのだ。
サリアンは心の中でため息をつき、周囲に聞き取られないように新兵達にだけ聞こえる声量で、
「馬鹿者、音がしただけで、全員が音をした方向を見るな。こうした森の進軍時に注意する事は何処から敵がくるか分からないことだ。音がしたからと言って、全員がそちらに注目してしまうと、後ろに隠れた敵に攻撃されるぞ。後、自分達が出す音や匂いで敵に悟られないことにも注意しろ。」
そう、サリアンが新兵達に注意した直後、矢が飛んできて、サリアン達に襲いかかる。
矢は訓練用に先は尖っておらず、柔らかい布に包まれているので、新兵達の鎧を貫くことはないが、手や足の部分に当たるとそれなりに痛い。
サリアンにも数本の矢が襲いかかるが、素早く小剣を抜き、サリアンに襲いかかる矢を全部叩き落とす。
これはサリアンに与えられたスキル、『視力』によるものだ。
これは目が良くなる以外にも動体視力も上がるので、鍛えると相手の動きが一瞬だけゆっくりに視えるようになるのだ。
サリアンはこの視力スキルを使い、全軍を把握することが得意なのだが、この見通しの悪い森林地帯では、視力スキルの能力は半減しているようなものだ。
再び矢が反対方向から飛んでくる。時間差で攻撃することにより、注意を一方に向かすことができ、後の攻撃に対応する事ができないのだ。
その証拠に新兵達は鎧に覆われていない部分に矢が当たり、あまりの痛さに呻いている。
そこに別の方向から無言で、敵が飛び出してくる。
新兵たちは刃引きした剣で散々に打ちのめされ、サリアンも2人の敵に囲まれて、剣で打ち合うも、別方向から新たに敵が押し寄せ、サリアン自身も剣で打ちのめされてしまった。
「サリアン様、まだまだですな。」
騎士団長が倒れたサリアンを見下ろしてダメ出しをする。
「兵達は咄嗟の状況になれば、如何に訓練しようとも、自分の身を守ることに専念してしまうでしょう。それは人なのでしょうがない所もあります。
将たるものとして、どんな時でも指示を出さねばなりません。そのための指揮権です。貴方の命令で軍が動くのです。貴方が指揮を取らねば軍は死んでしまうのです。窮地に至れば、退却するなり、防御するなり、命令を出して下さい。無言で自分や味方の身を守るのは兵士の仕事です。」
騎士団長に諭されて、サリアンは悔しそうに俯く。
その様子を見て、騎士団長は微笑む。
「良いですぞ。サリアン様、悔しがれるのは生きているからです。死んでしまえば、悔しさもその後の成長もありませんからな。」
サリアンは悔しそうに、騎士団長を睨み。
「騎士団長、僕を鍛えてくれ。誰にも負けないように!」
騎士団長はニヤリと笑い、
「良いですぞ。その意気です。」
そう言って、サリアンに向けて手を出す。
サリアンはその手を握り、身体を起こす。
「次は僕が騎士団長を起こしてやるからな。」
騎士団長は声をあげて笑った。
「ハッハッハ、頼もしい限りですな。だが、まだまだひよっこのサリアン様に負ける私ではありませんよ。」
訓練期間中、サリアンを含めて新兵達は何度も倒されたが、その士気は落ちなかったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます