第9話
母と姉について
サーシャが図書室に向かって歩いていると、メイドから、
「今日はマリアベール様は調子が良いとのことなので、お庭で日光浴をしていますよ。」
と教えてもらったので、母であるマリアベールを探すため、サーシャは走って庭に行く。
すると、母のマリアベールと兄のクリスロッドが庭に置いてあるベンチに座って話をしている。
「兄様ばかりズルい!」
サーシャは兄のクリスロッドが、妊婦である母親の大きくなったお腹を撫でているのを見て、自分も撫でてたくなったので、走って近寄った。
「サーシャちゃん、お母様は何処にも行かないから走らなくていいわよ。慌てて走ると転んじゃうわよ。」
マリアベールが自分の大きくなったお腹を娘の突撃から守るためにゆっくり近寄るように伝える。
サーシャは母親の言うことを聞き走るのを止めてゆっくり近寄る。
「お母様、私もお腹撫でても良い?」
サーシャがマリアベールに尋ねるとマリアベールはにっこりと笑い、
「もちろん良いわよ。優しく撫でてね。」
サーシャは兄のクリスロッドと一緒に母親の大きくなったお腹を優しく撫でる。
「赤ちゃん!私はサーシャ、あなたのお姉ちゃんだよ〜!」
サーシャがマリアベールのお腹に向かって話しかけるのを見て、クリスロッドが、
「サーシャはバカだなぁ。赤ちゃんはお母様のお腹の中にいるんだから、話しかけても聞こえるわけないだろ。」
クリスロッドが、サーシャにそう言って嗜めると、サーシャは不満そうに頬を膨らませ、
「えー!もしかしたら、お腹の中にいたって、耳が良かったら聞こえているかもしれないでしょ。ひょっとして一人でお腹の中にいるの寂しがっているかもしれないし。」
サーシャがそうクリスロッドに反論する。
そう言い合う2人の子供を見るマリアベールは優しく微笑み、
「あら、クリスちゃん、お兄さんが、可愛い妹にバカなんて言ってはだめよ。」
マリアベールが、兄のクリスロッドを優しく嗜めると、妹のサーシャはマリアベールが見ていないところでやーいという顔をしたが、マリアベールはサーシャの方を見ないままに、
「サーシャ、女の子がそんな変な顔をしてはだめよ。」
と、嗜めるとサーシャは直ぐにごめんなさいと謝る。。
マリアベールは2人に優しく微笑みかけ、
「2人共、良いかしら?決して人を馬鹿にしてはだめよ。私達は家族なのだから、助け合わないといけないわ。」
そこで、マリアベールは2人の顔を見て、
「2人共、ハミルトン伯爵家の家訓は?もう覚えたかしら?」
クリスロッドとサーシャはせーのと声を合わせて
『領民には敬意を持って慈しみ、仲間には尊敬の念を持って協力し、家族は愛して助け、自分は生きるのを決して諦めない。』
とハミルトン伯爵家の家訓を言った。
マリアベールは拍手をして、
「よくできました。」
と褒めた。
そして、クリスロッドとサーシャを近くに抱き寄せ、
「2人共、ほら、赤ちゃんも貴方達の声が聞こえたみたいよ。」
と、言って、2人にお腹を触らせたすると、お腹の中の赤ちゃんが蹴ったのだろうか?
クリスロッドとサーシャの手のひらにポコっとした感じがあった。
クリスロッドはびっくりし、サーシャはおおっという顔をして、驚きながらも、再びお腹をゆっくり撫でる。
「赤ちゃん、私達が大きな声を出したから、驚いたのかな?びっくりさせてごめんね。」
マリアベールは優しく微笑み、
「サーシャちゃん、お腹の赤ちゃんはね。早く優しいお姉さんに会いたいって、お腹を蹴って教えてくれたのよ。」
それを聞いて兄のクリスロッドもお腹に向かって話かける。
「生まれたら、僕と一緒に、剣の稽古をしよう!」
クリスロッドの言葉に、サーシャは、
「だめよ。赤ちゃんは私とお人形で遊ぶのよ!」
マリアベールは言い合う2人の様子を見てニコニコ笑いながら、心の中では、
「この子は、少し苦労するかもしれない。」
マリアベールは『直感』スキル持ちだ。
『直感』スキルは『未来予知』スキルよりは希少性や予想確率は高くないが、比較的簡単に発動する上、高めの確率で当たるので、多くの場面で役に立つとして直感スキル持ちは重宝されるのだ。
自分のお腹の子は、あまり良いスキルは得られないという直感が働いたのだ。
長男のクリスロッドは、『治水』の能力を授かり、長女のサーシャは『剣術』と『格闘術』のスキルを授かっている。
2人共、かなりの有能なスキルを授かったのだ。お腹の子が劣ったスキルを授かれば、周囲の人は、どうしても比較してしまうだろう。
家族である自分達が、スキルなど気にせずに、平等に愛さなければ、お腹の子だけではなく、クリスロッドやサーシャの性格も歪んでしまうかもしれない。
3人共の子供をどこまでも平等に愛そう。
でも、クリスロッドとサーシャは母離れが早く、あまりベタベタすると嫌がると直感が告げているので、愛情表現は控えめにしよう。
お腹の子はなんとなく、大きくなっても、
「仕方ないなぁ」
なんて言いながら、優しくしてくれそうだと直感が告げている。
マリアベールはその直感を嬉しく思いながら、お腹を撫でる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
赤ちゃんの産声を聞いたサーシャは早く赤ちゃんに会いたいとメイドにねだってみたが、お母様と赤ちゃんの無事をお医者様に、診てもらわないと駄目ですとメイドに諭されて、大人しく待っていた。
お腹の赤ちゃんはサーシャの声によく反応してくれて、
サーシャがお腹に向かって、話しかけると、ポコっと蹴って応えてくれているみたいなので、赤ちゃんはサーシャのお気に入りなのだ。
生まれたら、何で遊ぼうかなと考えたり、女の子だったらどの服をあげようとか、男の子だったら結婚してあげようと思っていた。
だって、サーシャがお父さんと結婚するって言ったら、あのいつも怖い顔をしているお父さんが、とても嬉しそうな顔をするから、赤ちゃんもサーシャが結婚するって言えば、笑ってくれるに違いない。
「サーシャ様、お母様と赤ちゃんの診察が終わったようです。」
メイドからそう告げられるとサーシャは急いでマリアベールと赤ちゃんがいる部屋に向かっていった。
部屋の中には、お父様も兄のクリスロッドもいて赤ちゃんを見ていたので、
「私にも赤ちゃんを見せて!」
とねだると、父親のグリムウェルがサーシャを持ち上げて、ベッドに眠る赤ちゃんを見せてくれた。
「可愛い!」
サーシャは思わず、指でぷにぷにのほっぺを触ってみた。
すると赤ちゃんは目を開けてその小さな手でサーシャの指を掴んだのだ。
「ちっちゃいお手々だね!」
サーシャはその手の小ささに驚いたけど、赤ちゃんは構わず、サーシャの指を引っ張って、口に咥えてしまった。
そしてしばらくしたら、指を吸い始めたのだ。
「あらあら、サーシャの指からは母乳はでないわよ。」
マリアベールは笑って、赤ちゃんの頭を優しく撫でる。
サーシャは赤ちゃんの様子を見てすっかり気に入ってしまった。
「赤ちゃん、可愛いね!」
サーシャがそう言ったら、赤ちゃんがちょうど、サーシャに笑いかけてくれたのだ。
「お母様、赤ちゃんの名前は決まったの?」
サーシャがそう聞くと、マリアベールは頷いて、
「えぇ。決まったわ。名前はラルフロッドよ。」
サーシャはラルフロッドのほっぺを指でつつきながら、
「こんにちは。ラルフ君!私はサーシャ!あなたのお姉さんだよ。」
サーシャがそう言うと、ラルフロッドはほっぺをつつかれる感触が楽しいのか、笑顔を浮かべた。
その笑顔を見て、これはもう私のことが好きってことだと思ったサーシャは、
「お父様、お母様、決めたわ!私、ラルフ君と結婚するー!」
サーシャの言葉を聞いた、父のグリムウェルは、
「そんな・・・、この前まではお父様と結婚するって言ってくれていたのに・・・。」
そう呟いて、ガクッと肩を落とした。
「ラルフ君はまだちっちゃいから、私がちゃんと守らないとね。」
ショックを受けた父には一切構わず、サーシャは授かったスキル、「剣術」と「格闘術」を存分に発揮して、その才能を伸ばしていったのである。
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