第7話


今日はカーミラ様をあの王太子から助けてくれたラルフロッド様とご両親のハミルトン伯爵及び伯爵夫人と何故かラルフロッド様のお姉様が、このアラベスク公爵家を訪れるとの連絡がきた。


私は家宰のヨーゼフさんから、


「フラウ、貴女はカーミラ様の側付きのメイドとして、ハミルトン伯爵様御一行、特にラルフロッド様には、失礼の無いようにして下さい。」


ヨーゼフさんは私をじろっとした目で見る。


ヨーゼフさんは、5年前、カーミラお嬢様が王太子妃教育のために王都に行かれる時に、私はメイドとしてついていき、王都に着いた時隠れて残ったのだ。


そして、カーミラ様の側付きメイドとして、無理矢理、王城まで付いて行こうとして護衛騎士に止められて、引きづられるようにして帰ってきた事をいまだに覚えているみたい。

多分、私がいざとなったらどんな事をしでかすか分からないから釘を刺しておいたのだろう。


でも、あの時はしょうがないじゃない!

いくら王妃様が、「公平性を保つために」なんて言っても慣れない土地にカーミラ様、お一人なんて、大変じゃない!


変な輩に虐められるかもしれないし、あの王太子、初めて顔を見たけど、カーミラ様だけでなく、メイドの私ですら、あの粘つくような視線で胸を見てきて気持ち悪い!


絶対、あの目は女遊びを好む奴の目よ!

私の母親も


「良いかいフラウ。粘つくようなしつこい視線で身体を見てくる奴は、変態で女好きだから気をつけなさい。」


って言いながら、私のお尻を触ろうとしていた男の腕を捕まえて肩の骨を外していたもの!


でも、私の考えは正しかったわ。

アラベスク公爵様もヨーゼフさんも5年前の判断は間違っていたとおっしゃっていたもの。


私はカーミラ様の事を、初めてお会いした時から、絶対にお幸せにすると誓ったの。


5年前、無理矢理、離されて過ごしてきましたけど、再びお会いした時、カーミラ様は本当に素晴らしいレディとなっていました。


私は、カーミラ様に再会する前はヨーゼフさんに、再び、側付きメイドに選んで下さいと頼んでいましたけど、あまりにカーミラ様が素晴らしかったので、側付きメイドとして勤務するのが心配になったけど、カーミラ様が帰ってこられて、


「フラウ、久しぶりね。また側付きメイドとしてお願いね。」


と言われて、ニッコリと笑っていただけたから、私はもう二度とカーミラ様から離れないと誓ったわ。


だから、私はラルフロッド様に失礼かもしれないけど、試させてもらおうと思う。


だって、母が、


「良いかいフラウ。貴族の男性は、女を装飾品か何かと勘違いしている輩がたまにいるんだ。自分達に張り付かせていたら、それだけで偉いだなんて勘違いしている輩がね!」


なんて言いながら、練習相手の騎士を刃引きした剣で殴り倒していたもの!


私は、カーミラ様がアラベスク公爵様とこっそりとハミルトン伯爵領地に行った時は、ヨーゼフさんから、大人しくしておきなさいと言われて、実家の母に預けられていたので、ラルフロッド様のお顔は拝見していない。


今回の初顔合わせ(カーミラ様達は実際は、初ではないらしいけど)では大人しくしておく約束で側付きメイドとして勤務することができた。


私はヨーゼフさまの計画どおりに庭を案内してからお部屋(応接室)にご案内する。


私は、ラルフロッド様がちゃんと、歩く速度をカーミラ様に合わせるかどうか、階段がある道では、ラルフロッド様が、カーミラ様に配慮するかどうか、そして何より、あの王太子のように粘つく視線でカーミラ様や私を見ないかどうかを確認していた。


短い時間だったけど、私はラルフロッド様の優しさも分かったし、何より、ラルフロッド様に手を預けた時のカーミラ様のあの照れながらの笑顔を見れた時は思わず、拳を握ってしまったわ。


ああ、私に絵心があれば、あの笑顔を絵にするのに!


私はカーミラ様達をお部屋にご案内したら、素早くお茶とお菓子をお出しした。


カーミラ様は昔はあまり甘い物をお食べにならなかったけど、こちらに帰ってきてからは、少しだけど、お菓子をお食べになるようになった。


私はカーミラ様がお菓子を食べてこなかったので、お菓子を作るのがあまり上手くない。


最近はお菓子作りを母に教わって、味は良くなってきたのだが、形がまだ歪になる。


私は今回は買った物か、料理長のお菓子を出そうとしたのだけど、カーミラ様が、

「ラルフロッド様とお会いする時はフラウの作ったお菓子が食べたいわ。」


と言われたので、私はカーミラ様一番気に入ってくれているクッキーを焼いて、お出ししたのだ。


やはり、形は歪だったけど、

ラルフロッド様は形が悪いと笑わずに、


「カーミラ様、そのフラウさんのお手製のクッキー、興味深いですね。僕も食べてみても良いですか?」


なんて言ってくれた。

私は嬉しくなったのだけど、

母が言っていた言葉が頭に過ぎった。


「良いかいフラウ。男の心を捕まえるには胃袋を掴むんだよ。」


と言って、母は大きな肉を焼いて父に出していた。

その時、父は嬉しそうに肉を頬張り、母に思いっきり愛を伝えていたのだ。

ラルフロッド様に私のお菓子を食べさせるわけにはいかない。

確かラルフロッド様はお菓子が好きだったはずだ。


そう思った瞬間、私は思わず、ラルフロッド様の手を掴んでしまった。


私はカーミラ様の、


「フラウ!何をするのです!ラルフロッド様に無礼は許しませんよ!」


私はその言葉を聞いて、カーミラ様の幸せを願っていたのに、なんて事をしてしまったのだろうショックを受けていた。


内心は泣き崩れたいけど、そんな事はできないので、できるだけ表情を崩さないように、


母から教わった言葉を告げる。


「私は母から、男性の心を掴んで離さない秘訣は胃袋を掴むことだと聞いて成長してきました。つまり、私の美味しいクッキーを食べてしまったら、ラルフロッド様は私を愛してしまうことになってしまいます!そんなの私には耐えられません!」


と言ったら、自然に涙が出てきた。

カーミラ様は私を優しい目で見て、


「フラウ、大丈夫です。ラルフロッド様はあの王太子とは違います。無節操に女性に手を出す人ではありません。」


あぁ、カーミラ様はどこまでもラルフロッド様を信頼しているのだろう。

私は恐らく解雇される。

だけど、ラルフロッド様には、このカーミラ様の信頼に応えてもらいたい。

私はラルフロッド様を見る。 

ラルフロッド様、貴方はカーミラ様のこの信頼にどう応える?


すると、ラルフロッド様は


「大丈夫ですよ。僕はカーミラ様の事を好ましく思っているので、フラウさんのクッキーを食べても心を動かせられることはありません。」


と言ってくれた。

でもこの場合は、「好ましく」よりも「愛している」と言ってほしかった。

でも、私が聞きたかった言葉は聞いたので、ラルフロッド様とカーミラ様に頭を下げ、


「無様な姿を見せてすみません。またラルフロッド様には手を掴むなどの無礼を働き申し訳ありません。カーミラ様、私はラルフロッド様に無礼な行いをしてしまいました。どうか、罰を与えて下さい。最悪、解雇でも問題ありません。」


と告げた。

すると、ラルフロッド様が、


「僕はフラウさんが無礼な行いをしたとは思っていませんので、気にしないで下さい。その上で、カーミラ様が思うようにして下さい。」


とおっしゃってくれた。

そのラルフロッド様の言葉を聞いて、カーミラ様が頷き、


「では、フラウ、貴女に罰を与えます。貴女はこれからも美味しいクッキーを私に作ること、今度は、もう少し見栄えの良いクッキーを作って下さいね。」


そう言って、ニッコリ笑っていただいた。

私はその笑顔を見て、死ぬまでカーミラ様にお仕えしようと心に決めたのだ。

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