第5話
今日は僕とカーミラ様の釣書きを貰ってからの初顔合わせだ(実際はもう会っているけどね)。
アラベスク公爵とカーミラ様はこっそりとハミルトン伯爵領まで来ていたので、アラベスク公爵が手紙を出してきて(公爵領から手紙を出したように装った)、ハミルトン伯爵領に行きますと使者(今回の使者はヨーゼフさんの息子さんでサムさんと言うらしい)が手紙を持ってきたら、父はサムさんに向かって、
「いくら我がハミルトン伯爵家に降嫁していただくとはいえ公爵様とそのご令嬢を移動させるわけにはいきませぬ。我々ハミルトン伯爵家側がアラベスク公爵領に行かせていただきます。」
その言葉を聞いた使者のサムさんは少し焦って(アラベスク公爵様とカーミラ様がハミルトン伯爵領に来ていることを知っているのだろう)、
「ハミルトン伯爵様のご意向は承りました。しかし、アラベスク公爵様もカーミラ様もこちらに移動する準備をしていましたので、一度領地に帰り、ハミルトン伯爵様のお言葉を伝えて、迎えいれる準備をいたします。それでよろしいでしょうか?」
ハミルトン伯爵はサムさんの言葉を聞いて、
「おお!確かにサム殿の言うとおりですな。いきなり行って、ご迷惑をおかけするわけにもいかぬ。アラベスク公爵様からのお返事をお待ちいたしますぞ。その間にこちらも移動の準備をいたします。」
サムさんはハミルトン伯爵のお言葉を公爵様にお伝えしますのでと言って、歓待の宴を断って公爵領(実際は公爵が泊まっている宿)、帰っていった。
そんなやり取りがあって僕達はアラベスク公爵領に向かうことになった。
まぁ、アラベスク公爵領まで3日の行程だけど、馬車で行くので、少し大変だと思う。
しかし、伯爵とはいえ、貴族の当主が動くので、手続きや護衛騎士の手配やら先触れの使者の手配などの準備をしなくてはならない。
今回は僕の父であるグリムウェル・ハミルトン伯爵と母のマリアベール・ハミルトン伯爵夫人と僕ことラルフロッド・ハミルトンの3人と(兄と姉は今日はお留守番の予定だ。)護衛の騎士達がアラベスク公爵領まで移動する。
次期当主で、僕の兄のクリスロッドが領地に残るので、領地経営は問題はないのだが、問題といえば、
「何でわだじもいげないの〜」
やはり姉さんだ。
姉さんが泣きながら、父さんと母さんに縋りつこうとして、はっと気付いて、軌道変更して僕に縋りつく。
こういう場合は、両親に泣きつくもんじゃないのかな?
「えへへっ、ラルフ君の匂い〜。」
えっと姉さん、さっきまで泣いていたよね。
母さんがその様子を見て、父さんに話しかける。
「貴方どうする?サーシャも連れて行こうかしら?残したらクリス君が困りそうだわ。」
父さんも困ったように頭を掻いて、
「そうだな。確かにサーシャを残したらクリスロッドも困るだろう。しかし、見合いというか初顔合わせに姉を連れて行くのはどうなんだ?女性の視点から見て、夫となる男が姉を連れてきたらおかしく思われないかな?」
母さんはうーんと首を傾げて、
「そうね〜。ちょっと心配するかもしれないけど、でも、一度、王太子の誕生会で会っているのでしょう。カーミラ様はこちらにお嫁さんとして来てくれて、これから家族となるのだから、サーシャちゃんが行っても問題ないと思うわよ。クリス君は可愛いカーミラ様に会えなくて残念だけどね。」
兄さんは苦笑して、
「母さん、俺は大丈夫だよ。大体、見合い相手の兄とはいえ、未婚の男が、未婚の公爵令嬢に会うのは止めておいた方が良いだろう。それに、片道3日とはいえ、往復や顔合わせを考えたら、1週間以上はかかるから全員で行くのは無理だよ。その間、領地経営を休むわけにも行かないから大丈夫だよ。」
父さんは兄さんの言葉に頷き、
「確かにな。クリスロッドには申し訳ないが、私がいない間は領地を頼むぞ。」
兄さんは、父さんの言葉にしっかりと頷き、
「父さん。領地は任しておいて、でもサーシャはちゃんと連れて行ってね。」
兄さんが遠い目で、姉さんを見る。
姉さんは相変わらず、僕に抱きついている。
「ラルフ君、アラベスク公爵領ではどんなお菓子があるかな?」
すると母さんも僕の側に来て、
「あら、母さんもラルフちゃんと一緒にお菓子を食べに行きたいわ〜。」
父さんがため息をつき、
「2人共、何を言っているのだ。顔合わせに行くのに、ラルフを我々が引っ張ってはいかんだろう。アラベスク公爵領にいる間はラルフはカーミラ様と過ごすに決まっているだろう!」
母さんと姉さんがえ〜って顔をする。
兄さんは次期当主の顔付きになり、2人に言い聞かせる。
「良いですか、母さん、サーシャ。今回はラルフや我がハミルトン伯爵家にとってまたとない良縁です。邪魔をしないようにお願いします。」
2人共、頬を膨らませて不満気だけど、僕を困らせることはしないみたいなので、僕の顔を見て、
「は〜い!」
「邪魔しませ〜ん。」
と言ってえへへっと笑っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
出発前、そんなやり取りがあったけど、母さんや姉さんはちゃんとすれば、伯爵夫人や伯爵令嬢として、人目を引く美貌なので、アラベスク公爵領に到着したら、立派な貴族としての礼儀作法をしてみせた。
アラベスク公爵や公爵夫人と共に、カーミラ様が部屋に入ってくると、僕達は一斉に椅子から立ち上がり、頭を下げる。
すると、アラベスク公爵は笑いながら、
「いやいや、ハミルトン伯爵、我々アラベスク公爵家側から釣書きを送りつけて、婚約の話を持ち出したのです。そんなに畏まらないでくだされ。」
すると、公爵夫人も、
「そうですよ。それにラルフロッドさんが、あの時、なんの見返りも期待せずに、カーミラを助けてくれて、私達はとても感謝しています。それにあの時は、そこにいるサーシャさんもカーミラを助けてくれたのでしょう。わざわざ、こちらに来てくれたのは、私達にお礼を言う機会をくれたのでしょう。ありがとうございます。」
公爵夫人が綺麗なお辞儀をするので、父さんと母さんが少し焦りながらもとりなす。
「いえいえ公爵様も公爵夫人も気を使わないでください。何ら否のない女性を護るのは、貴族として当然の事です。息子は当たり前のことをしただけです。」
父さんが謙遜する。
「いやいや、ハミルトン伯爵、昨今はその当たり前のことができる貴族は少なくなった。ラルフロッド君は素晴らしい。カーミラもそんなところに惹かれたのでしょう。」
アラベスク公爵がカーミラ様の方を見ると、カーミラ様は頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯く。
うん。可愛い。
横では姉さんも、
「可愛い・・・。けど、ラルフ君は渡さない。だけど、可愛い・・・。」
と呟いていた。
僕達は家族同士で会話した後、父さんはアラベスク公爵とヨーゼフさんでお酒を酌み交わすことになり、母さんと姉さんは公爵夫人とのお茶会、僕とカーミラ様は公爵家の庭を見た後、部屋で話をすることになった。
「メイドさんとかもいるから、2人きりではないからね。」
僕は姉さんにはそう言っておいた。
言っていないととこっちに来かねないからね。
僕は少し安心して、カーミラ様を庭にエスコートする(僕は庭までの通路は知らないけど、僕達の前にはメイドさんがいて道案内はしてくれている)。
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