第3話
「良いアイデアとはどんなアイデアでしょうか?」
姉が思わず、カーミラ様に問いかける。
これは貴族的にはまずいかな?
自分が相手の思考に追いついていない事を晒している。
貴族として、ハミルトン伯爵家もしくは僕が、アラベスク公爵家に弱みを見せると良いアイデアとやらと引き換えに何を要求されるか分からない。
もちろん、カーミラ様の良いアイデアとやらが、貴族令嬢にありがちな現実を見ていない砂糖漬けのように甘ったるいアイデアなら問題ない。
僕やハミルトン伯爵である父が頭を下げて、いつものように口先で、
『流石は◯◯様、知恵の神、ミネル様の申し子でしょうか?このハミルトンには、あなた様のようなアイデアは一生、かかっても思い付きません!』
と言って、自分の頭を参りましたって感じで撫でれば良いのだ。
僕達、ハミルトン伯爵家の人間はどんな戦いにも負けないように教育される。
勝つようにではなくて負けないようにだ。負けないためならどんなに蔑まれようとも気にしない。
ハミルトン伯爵家が負けると言うことは、伯爵家の領民が苦労してしまうと言うことになる。
ハミルトン伯爵家の家訓は、
『領民には敬意を持って慈しみ、仲間には尊敬の念を持って協力し、家族は愛して助け、自分は生きるのを決して諦めない。』
というものだからこそ、ハミルトン伯爵家は領民・仲間・家族を見捨てない。
もちろん、領地を護るために領民から兵を募ることもあり、領民にも生命をかけて戦ってもらうこともある。
だからこそ、領民を護るために、決して負けないために、普段から外交で他の領主や他国ともやり取りをして、言質を取られないように、飄々として生き抜くのがハミルトン伯爵家だ。
姉さんは僕が絡むと直情的になるから、さっきは姉さんがカーミラ様のアイデアが聞きたくて、問いかけて、少し弱みを見せてしまったけど、まだ大丈夫、アラベスク公爵家に言質を取られてはいない。
僕はそんな事を考えていた。
しかし、カーミラ様は、姉さんの言葉を聞いて、ニッコリと笑顔を浮かべ、隣に座っているアラベスク公爵もにこやかに笑う。
「義姉様、聞いてください!あの騒動の時、私は横目でラルフロッド様の様子を見ていたのですが、ケーキを食べながら、何かを手帳に書き付けていらっしゃいましたね。」
僕はカーミラ様の笑顔に思わず、
頷き、
「えぇ、僕は今まで、食べたお菓子、料理や訪れた町の名物や名所や名勝などを簡単な絵を描いて、特徴や料理やお菓子だったら味などを手帳に書き付けています。」
今まで家族でも、姉さんにしか言っていない手帳の事をうっかり正直に話してしまった。
僕は内心、不味いなって思ったけど、カーミラ様は、
「やっぱり!」
なんて、言って、良い笑顔で頷くから僕も、まぁ趣味のことだし特に弱みでもないかな、なんて思って、心を落ち着かせた。
「ラルフロッド様の手帳の記述、特にお菓子や料理の記述はハミルトン伯爵領内だけですか?それとも、今まで訪れた土地でも記述はされていますか?」
僕は、カーミラ様の質問に、
「手帳の記述に関しては領内以外の店、名勝、名所も記述しています。後、カーミラ様も目撃されたと思いますけど、王族の誕生会などに呼ばれた時には、その時の料理長の料理なども記述していますよ」
と答えると、カーミラ様が良かったと言って手を合わせる。
その仕草に、可愛らしいと思う自分がいることに気付く。
「私は約5年前から王太子妃教育を受けていました。その時、周りに集まる貴族の皆さんを見ていましたけど、皆さん、普段は領地に居て領地を運営するのに一生懸命でした。たまに仕事や記念の行事で王都にくる時に、新しい情報に触れて領地に戻りたいと思っているのか、普段から王都にいる私に色々聞いてきました。商人の方にも何度もお会いしましたけど、商人の方も色々新しい情報を教えていただきましたけど、それ以上に私が外交で訪れた外国や会った人の話しを聞きたがりました。つまりは、貴族や商人などは新しい情報に飢えていると言っても良いでしょう。領民の方はあまり、領地外には出ませんけど、名勝や名所の話を聞くのは喜んでいると聞いています。」
カーミラ様はそこで紅茶を一口飲み、話を続ける。
「ラルフロッド様の手帳の記述を更に詳細にし、挿絵などを付けるなどして、料理・お菓子などの紹介本ということで、販売してはいかがでしょうか?さらに紹介本はそれぞれの町や王都ごとに分けて作成したら、その土地に行く人は購入しやすいのではないかと思います。」
僕と姉さんは興味津々で聞いているのが分かるのであろう。
カーミラ様は笑顔を浮かべて続ける。
「領民の方には持ち運びしやすく値段も安くするために、簡単な装丁で小冊子といった感じで売り出し、貴族や裕福な商人には本の装丁を変え、豪華な見栄えの本とて売り出したら良いかと思います。また将来的にラルフロッド様の紹介本が人気が出たら、その店を調べて紹介本に記載する代わりに、紹介料を受け取るのも良いかもしれません。最初は王都やハミルトン伯爵領地の紹介本を出して様子をみたら良いかと思います。後、紹介する店にも紹介しても大丈夫かと尋ねる必要もあるかと、最初は紹介料は取らず、ラルフロッド様の紹介本が人気が出たら紹介料を出してもらいたいと持ちかけるのが良いと思います。」
カーミラ様はスラスラとアイデアを話してくれる。僕は関心してカーミラ様をみていると、
「ラルフロッド様にそんなに見られると恥ずかしくなってしまいます。」
その言葉な僕も恥ずかしくなり、
「すみません。カーミラ様のアイデアがとても良いと思ったので熱心に聞きすぎてカーミラ様のお顔を見過ぎてしまいました。」
カーミラ様は僕の言葉に嬉しそうに、
「あの・・・、私、王太子妃候補の時に、人に会うとほとんど容姿や服装でしか褒められたことがなかったので、ラルフロッド様に考え褒められたらとても嬉しいです。後、恥ずかしながら、私、甘い食べ物はあまり得意ではなくて、ラルフロッド様にケーキを半分食べていただけるととても嬉しいのですが・・・。」
そう言って、ケーキを差し出してくれるカーミラ様を可愛く思っていると横から姉さんが、
「カーミラ様のケーキは私が取り分けるね。ラルフ君は、このケーキも紹介出来るように手帳に記載しなよ。ほら、いつものとおり絵も描くんでしょ。」
そう言って、僕を促す、僕は姉さんの言葉に頷き、前にいるアラベスク公爵とカーミラ様に一言断りをいれる。
「アラベスク公爵様、今から手帳とペンを取り出しても良いでしょうか?後、カーミラ様がフォークをつけたものを頂くことになりますので大変申し訳ないのです。」
アラベスク公爵はにこやかに頷き、
「娘が出したアイデアを早速、実行してくれようとしているのだろう。逆に私が頭を下げる方だよ。ありがとう。」
こうして僕達はアラベスク公爵とカーミラ様との最初の懇談を行った。
後から、この事を聞いた僕の父や母、兄はとても嬉しがった。
ハミルトン伯爵家は家族愛に溢れており、僕のスキルを知ってなお、僕と結婚しようとしてくれるカーミラ様に好感度はかなり高い状況なのである。
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