第14話 ポーションの代金
昨夜はかなりの時間、食あたりによる腹痛に苦しまされていたのだが、大分経ってからポーションを飲めば良いのではと気が付いた。試しに飲んでみると赤いポーションでは治らず、駄目元で紫のポーションを飲んだところ、一瞬で腹痛が消え去りすべてを出しきると完治した。それを今朝、起こしに来てくれたポールに話すと、赤は傷用なので病気は治らないと教えてもらった。
「確かに遠方から来た旅人は、その土地に慣れるまでよく腹を壊すって聞くな! でも食あたりぐらいでポーションを飲みまくるとか、どこの貴族のボンボンだよ」
いや~っ、どれが効くかわかんなかったし……。それにノーマルガチャで出した方のポーションだから、勿体ないっていうよりは体調が治って万々歳って感じだけどな。
「……っていうか、普段はここら辺の人たちは腹を壊したら、どうしているんだ?」
「そうだな! 我慢するか、あまりにもひどい場合は『薬師いらず』を濃いめに煎じたもの飲むかな。家にも常備してあるから、次、腹を壊したらポーションなんか飲むなよ! 言えば出してやるからさ」
「ヤクシイラズ?」
「薬師いらずも知らないのか? ポーションの効果も知らないし、もしかして本当に大貴族の箱入り息子か何かなのか?」
どうやらヤクシイラズとは薬草の名前だったようで、薬師に頼まなくても誰でも煎じるだけで効果のある生薬を作れる事から、この辺りでは薬師いらずと呼ばれているらしい。更に薬師泣かせな事にその辺に雑草並みにいくらでも生えているのだという。
「いや、ただの田舎者で物を知らないだけだよ……そうだ、悪いんだけど、ちょっと見てくれないか?」
そこで、ふとノーマルガチャの事を思い出し、手に入れたものをベッドの上に出していく。
「ほ~っ、こんなの物も持ってたのか……どれどれ?」
そう言って一通り、ポールが手にとって見てくれた後、説明をしてくれたのだが、鉱石はすべてマカライトの原石でインゴットは錫ではないかという事だった。マカライトは砕けやすいが、逆に加工はしやすく鮮やかな緑色の縞模様をいかしたアクセサリーや顔料の材料となり、場所によっては高く買い取ってくれるそうだ。そして錫の方は銀の次に価値のある金属らしいのだが、タンブラーを作る時に使えそうなので取っておくことにした。
「ポーションの効果は昨日、言った通りだが、色が若干だが薄いから俺達に売ってくれたポーションよりは等級は低いかもしれないな。それでも一本、大銀貨五枚以上にはなると思うぞ」
「あっ! それなんだけど、昨日のポーションの代金は本当にいらないぞ! 泊めてもらっているわけだし」
っていうか等級が低くて大銀貨五枚って、え~と、五万円ぐらい? 一体、昨日のポーションはいくらになるんだ……?
「そんな訳にはいかないだろう! できるだけ早く支払うつもりではいるから、もう少し待っててくれ」
「う~ん……本当にいいんだけどな……」
まあ、流石に『えっ! いいのか? サンキュー』って言われても嫌だけどさ……。ここの家族全員に言えるけど真面目で本当に良い人たちなんだろうな……。
「え~と、次は軟膏か? ……良くて銀貨三枚ってところかな? 軽い怪我に使えるから一つは売らないで取っておいてもいいかもな。それで最後はこのナイフか! これは良いな! シンプルだけどしっかりとした作りだし、そうだな……売ったとしたら金貨一枚は下らないんじゃないかな?」
「へっ? 金貨? じゅ、十万ってこと? これが?」
「なんだ? 知らなかったのか? 鉄製の道具や武器は庶民にはまだそんなに出回ってないし、まだまだ高額なんだぞ」
日本だったらその十分の一以下の値段で買えそうなナイフだが、そういった理由で高額になるらしい。
「おにぃ、何やってんのよ~! お店の準備、早く手伝ってよ!」
そこに二人の妹があらわれる。
「あっ! 二人とも、ちょうど良かった! 昨日、渡し忘れてたんだけど、プレゼント! はい!」
「えっ! いいの? ありがとう!」「えっ? わ、私にも? いいんですか?」
「いいの、いいの! 人にプレゼントするのがオレの趣味だから、受け取ってもらえるとオレとしても嬉しいよ」
「何、その趣味? お貴族さまみたい! 私たちとしては嬉しいけど! あっ、蝶々だ! お姉ちゃんは?」
本当は今まで人にプレゼントなんか、数えるぐらいしかした事ないけどな……。
「お花! こういうの欲しかったんです。ありがとうございます! 大事にしますね!」
「二人とも喜んでくれたなら良かったよ! そうだ! ポール昨日のトカゲなんだけど……え~と何て名前だっけ? 売りに行こうと思うんだけど、ポールが倒した分はどこに出しとけばいい? 倉庫か?」
「ああ、ロバーか、忘れてたよ! 俺の倒した奴は剣でズタズタにしちまったから、皮は買い叩かれるだろうな……。でも肉や他の素材と合わせれば大銀貨六、七枚ぐらいにはなるかな。ポーション代の返済分として一緒に売って売却代は全部、受け取ってくれて構わないぞ」
えっ? あれ一頭で七万? オレが倒したのが三頭でそれプラス、二人でデカいリーダーも倒したから、三十万近くあの一瞬で稼げたってこと? 屋台をやるのが馬鹿らしくなってきたな。
「それじゃ、倒したロバーはオレが全部貰うから、ポーションの代金はこれでチャラって事でどうだ?」
「いや、それじゃ、全然、ポーションの代金には足りないし」
「もう、いいよ! 細かいことは! 面倒くさい! じゃあ、わかった! 泊めてもらっている間、毎日、この辺りの宿屋と同じだけの料金をポーションの代金から引いていってくれ」
「それは駄目だ、命の恩人から金を取るわけにはいかん」
「ぐぬぬぬ……」
結局、開店の準備もあるという事なので、その話は今日の商売の後に持ち越しとなった。
♦️ ♦️ ♦️ ♦️
どうやらこの地域では朝食を食べる習慣がないようなので、オレも荷車をかりて、早速、魔物を冒険者ギルドに売りに行く事にする。なぜ、商人ギルドではなく冒険者ギルドに売りに行くのかというと、この街には初心者向けのダンジョンあるらしく、そに入るには冒険者ギルドで見習いの身分を卒業しなくては入れないという事だったので、少しでもその評価点の足しになればと考えての事である。まあ、ダンジョンに入るのはもう少し良いスキルを取ったり、基礎値が上がってからの予定だが、いつでも入れるように準備だけはしておくのは損にはならないしね。決してロバーの値段を聞いて儲かりそうと思ったからではない。
という事でロバーの他にもロイロが仕留めてくれた鹿もどきやビッグボアも荷車に載せてきているのだが、明らかに人の目を引いているようで時より話しかけられたりもする。
「すげぇな、兄ちゃん! 有名な冒険者か何かか?」「ロバーじゃねぇか! この数を一人でやったのか?」
すでに何回もされた質問を、嫌な顔ひとつせず答えていく。
「いえ、すぐその先のイデア商会って所のポールってやつと二人でですね」
「イデア商会? ああ、店主が変わった商会か! そんな名前になったんだな」
「そうですね! 今日から開店するそうなんで、良かったら見に行ってやって下さい」
「おう! 仕事帰りにでも寄ってみるわ! 邪魔しちまったな! じゃあな!」
そう言うと、日焼けしたガタイの良い兄ちゃんたちは手を上げて去って行った。せめて泊めてもらっている恩返しにと思い、目立っているのを利用して宣伝をしてはいるのだけど、果たしてクチコミでどのぐらい効果があるんだろう? せめてSNSとまでは言わないからチラシでもあれば……。
異世界でもガチャが引きたい!(仮) 東雲うるま @kemuri0812
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