第12話 ソフィアのスープ
ポールとコールさんの話では、ギルド長は商人としても一流だし、服飾業界でも多大な功績を収めている為、商人たちからすれば雲の上の存在なのだそうだ。そんなギルド長から直接、声を掛けられ話をして、服までプレゼントされたのだから、それは驚かれるわな……。
「うちの父さんだって話した事なかったんだぞ。すげ~なお前……」
コールさんを引き合いに出されても、イマイチ凄さがわからないのだが、まあ、凄い事だったんだろう。
「何か近いうちに、また会いに行かなきゃいけないんだけどな」
「マジか! なんでだよ?」
興奮気味なポールに下着と靴下の話をする。
「は~~……なるほどな。確かにソウタの着ていた服は、この辺りでは見ない作りだったし、生地も良かったからな」
「ん~まあな……っていうか、みなさん、作るところをずっと見ている気ですか?」
「……確かに料理のレシピはその人の財産だからな。見られると不味いなら我々は家に戻っているが……」
コールさんが勘違いしてそんな事を言いだしたので、一応、誤解を解く為に訂正しておく。
「いえ、そういう意味じゃなくてですね……恥ずかしいというか緊張するので、出来れば見られていない方がいいなと……」
「ああ、そういうことか! ソウタくんは恥ずかしがり屋さんなんだな。じゃあ、我々は中で荷物の片付けの続きをしてるから、出来上がったら声を掛けてくれるかい」
「でも、一人じゃさすがに大変じゃない? あたしも手伝うよ」「あっ…………」
「それも、そうか……それじゃあ、エミリーにソウタくんの手伝いをしてもらって、我々は荷物の片づけの続きをしながら待つとしよう」
みんなはオレとエミリーを残して、家に入っていく。ちょっ! あとは揚げるだけだから、特に手伝いはいらなかったんだけど……。
「……じゃあ、あたしは何をすれば良い?」
「ん~そうだな……じゃあ、タロイモを切ってもらおうかな……あっ! あと、このぐらいの棒が二本くらい欲しいんだけど、お家で売ってる?」
「棒? 多分、あると思うから、タロイモを切ってくるついでに貰ってくるね」
エミリーが棒を取りに行っている間にオレは唐揚げ準備を進めていく。ます鍋に油を入れて、火のついた火鉢もどきの上にのせて、下味の付いた鶏肉に片栗粉をまぶしていく。最初、片栗粉がどこにも売っておらず、小麦粉だけでもいいかなとも思ったのだが、最後に寄ったハーブなどの薬草が売っている店でやっと見つけた。どうやら、こちらの世界では片栗粉は料理に使われておらず、薬として使っているようで、お湯に溶かして飲むと滋養に良いと言われているらしい。
「ソウタ、棒を貰ってきたよ! あとタロイモも切ってきたけど、こんな感じで大丈夫?」
棒、太っ! ん~まあ、使えなくはないか……。
「うん、良い感じ! ありがとう。じゃあ、早速、揚げてみよう」
まず、衣を油に少し落として温度を確認してみる。すると落とした衣は鍋の半分くらいの深さまで沈み、すぐに浮き上がる。
「温度も丁度いいな。油がはねるかもしれないから、あんまり近づかないようにね!」
二本の棒を箸のように使い、肉を油に入れていく。すると、肉がじゅわぁ~っと良い音をたてる。
「へぇ~、棒はそうやって使うんだ! 器用なんだね。それにそんなにいっぺんに油を使うなんて、ソウタってもしかしてお金持ち?」
「いや~普通だと思うけど……」
「ふ~ん……あっ! 良い匂い!」
「あっ! そうだ、ニンニクを入れちゃったんだけど、大丈夫かな? みんな、明日は仕事だし接客するよね?」
「……ああ~口の臭い? 少しなら大丈夫だと思うよ! それにほとんどの冒険者さんは、ニンニクの臭いなんか気にならないぐらい臭いし……」
「えっ! そ、そうなんだ…………おっ! そろそろ、出来たかも! 食べてみようか?」
そう言って、揚げあがった唐揚げを買ってきた大皿にのせて半分に切ってみる。どうやら中まで火は通ているようだ。キッチンペーパーがないから、油がしっかり切れないけど今回は許してもらおう。
「良いの?」
「うん、味見はお手伝いさんの特権だしね! でも熱いから気を付けてね」
「じゃあ、いただきます。アチチ! ハフハフ…………わぁ~こんなの初めて食べたけど、凄く美味し~」
オレも味見をしてみたが、少しにおいが気になるものの、普通に食べれるレベルで最初にしては良く出来た方だと思う。
「大丈夫そうだね! どんどん揚げちゃおう!」
その後も二人で話しながら作っているせいか、時間を持て余すことも無く唐揚げは順調に大皿に積まれていった。
♦ ♦ ♦ ♦
出来上がった唐揚げとタロイモのフライを大皿にのせて、みんなの待っている食卓へ運ぶ。本当はジャガイモが良かったのだが、売っていなかったのでタロイモで代用してみたのだが、普通に美味しかった。
「わぁ~! 美味しそうですね」「この匂いは魚醤かしら?」「ほ~っ! 旨そうだな!」「早く食わしてくれ!」
「少し、味見してみたけど、凄くおいしかったよ」
「ほ~それは楽しみだな」
テーブルの真ん中にはドンと子豚の丸焼きが置かれていて、そのまわりには、果物やパンをのせた籠が置かれていた。かなり豪華だからオレの為に用意してくれたのだろう。
「ソウタはこっち! あたしの隣ね」
「あっ! うん! ありがとう」
「ソウタさん、スープです! お口に合うか、分かりませんが……」
「ありがとう、ソフィアが作ったんだよね? 有難くいただくね」
「ソウタくん、飲み物はワインで良いかい?」
えっ? アルコール? そうか、年齢制限がないのか……。
「えっと……エミリーのそれは何?」
「えっ! あたし? ポスカだけど? えっ? 知らないの?」
どうやらポスカとは酢を水で薄めたもので、それにエミリーはアレンジで蜂蜜を入れて飲むらしい……。ちなみに水はお腹を壊すからおすすめしないと言われた。
「じゃあ、ポスカでお願いします」
そして全員の飲み物が揃い、乾杯するかと思いきや、みんなのオレへの感謝と神へのお祈りの時間が待っていた。オレへの感謝の言葉は失礼にならないように対応し、神への祈りはみんなをまねて目をつぶって聞いた後、ようやくそこで乾杯となった。ポスカの味はというと、まんま、薄めた酢という感じで、今後もこれを水代わりに飲めと言われると、ちょっとオレには無理かもしれない。
「この肉を包んでる茶色いやつは、サクサクしていて初めての食感だな! それを噛むと中から肉汁が溢れる柔らかい肉があらわれると……。これなら毎日、食っても飽きないぞ!」
「このタロイモも上手いぞ! 胡椒もこんなに使って、まるでお貴族さまみたいだな」
どうやら、心配していたオレが作った料理は、みんなの口にもあったようだ。でも胡椒を使っただけでこの反応だったので覚悟はしていたのだが、みんなが用意してくれた料理は塩と素材の旨味を生かした優しい味だった。(塩を使っただけの薄っすい味)
「あ、あのソウタさん、スープはお口に合いましたか?」
「あ、うん! 美味しいかったよ。ありがとう」
「良かった! まだおかわりあるんで、どんどん食べて下さいね」
そう言って、笑顔で手を差し出すソフィアに、オレは断る事なんて出来ず皿を手渡した。そして、戻ってきたソフィアの手元を見て更なる衝撃を受ける。
「はい! ソウタさん、大盛にしておきました」
「あ、ありがとう……」
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