第11話 驚くような事

 帰りがけにふらっと寄ったアクセサリーの露店で、結構な数の銅製のチケットを見つけた。出来るだけ欲しい気持ちを悟られないように、さりげなく、そのチケットを手に取って書かれている文字を読んでみる。するとチケットにはノーマルチケット書かれていて、裏面にはレアチケットと同じく説明が書かれていた。


 ♦ ♦



 ノーマルチケットは1枚で1回、ノーマルガチャが引けるアイテムです。

 また、10枚をまとめて使うと11連ガチャが引けます。


 ランダムで基本スキル、ステータス値UP、アイテムのどれかが当たります。




 ♦ ♦


 やばっ! このチケット、結構、凄いのでは……。


「ここに書かれている文字を読める人っているんですか?」


「私が子供の頃はそこに書かれている文字を解読出来たら、爵位と莫大な報奨金がもらえるなんて言われていたからね。その時にえらい学者さまがこぞって研究していたみたいだから、偉い方々の中には読める人もいるんじゃないかねぇ。けど、今は価値がないと分かったのか誰も見向きもしないし、それは新米冒険者がたまに売りに来たのを、可哀そうだから買ってあげているだけで、どこに売っても大した金にはならないよ」


 あれ? 転売するとでも思われてる? 純粋に欲しいのだが……。今後も買うためには、それなりの言い訳が必要だな……。


「これをこれぐらいの板に加工してくれる所ってないですかね?」


「ん~っ……鍛冶屋ならどこでもやってくれるんじゃないかい? 私は数がたまったら鍛冶屋に売りに行くだけだから、詳しくは知らないけど……そんな大きな板にして、どうするつもりなんだい?」


「いえ、鍋とかタンブラー……は通じないか、え~とコップとかを作ろうかと思って……」


「へ~あんた、職人だったのかい……鏡は作れないのかい?」


「あ~銅鏡か……。研磨する道具があれば、作れるかもです」


「作れるのかい? なら、うちにも卸しておくれよ! あんた、名前は?」


「ソウタです」


「ソウタだね! 覚えたよ! 私は大抵、ここで店を開いてるから、いつでも持ってきておくれ」


「まだ、半人前なんで売れるものが作れるかどうか……でも、作ってみようかな」


「そうだよ! 若い者はどんどん挑戦していきな!」


「そうですね……それじゃあ、その銅のやつも全部、貰っていこうかな……」


「全部? え~と、二十二枚だから銀貨二枚と大銅貨二枚になるけど、本当に良いのかい?」


「はい、髪留めと革ひもと一緒にお願いします」


「え~と、銀貨六枚と大銅貨三枚だけど……でも、そうだね。今日は特別に銀貨六枚でいいよ」


「えっ! 良いんですか……ありがとうございます」


「良いんだよ……鏡以外にも面白い物を作ったら持ってきて見せておくれ!」


「わかりました。それじゃ、また~」


 代金を支払い、喜びを隠しつつ足早に露店を後にする。それにしても、我ながら今の流れは上手かった気がする。金属工芸の体験教室で鍛金を習ったのを思い出して、適当に買う口実にしてみたのだが、カモフラージュにもなるし銅板で何か作るのも面白いかもしれない。教室は何気に二回行っていて、その時は中華鍋とタンブラーを作ったのだが、鏡も意外と作れそうな気がする。


 そうだ、帰り道に鍛冶屋があったらよってみるか……チケットが残ってるかもだし。そう思い、注意深く看板を探しながら帰ったのものの、結局、鍛冶屋は見つからず、小麦などの食べ物関係を買いまくってから帰路についた。



 


 ♦ ♦ ♦ ♦





「おっ! 戻ったか! 遅いから迎えに行こうかと思ってたとこだよ! ん? 服を買ってきたのか? って、おい、その服の素材って」


 戻るとすでに帰っていたポールから声をかけられる。馬車で何かをやっていたようだ。


「ああ、うん! 遅くなってごめん。 服については後で話すよ! 色々あったんだ……でも、登録は出来たよ」 


「おお、それなら良かった。部屋に案内するから、少し休憩するといい」


「うん、ありがとう。でも、ちょっと、やりたいことがあるんだ。この辺でちょっと、料理していいか?」


「ん? それは別に構わないが、屋台の料理の練習か?」


「いや、オレの故郷の料理を作って、みんなに食べてもらおうと思って」


「なら、中で作ったらどうだ?」


「いや、片付けるのが面倒だし、自分の道具で作ればアイテムボックスにしまうだけだから、ここでいいよ。あっ! でも、火だけは欲しいかな」


「わかった、ちょっと待ってろ!」


 ポールが火種を取りに行っている間に、先程、買ってきた大き目の陶器に灰と木炭をいれて火鉢がわりにして、鶏肉にも下味をつけておく。魚醤というあまりなじみがない調味料で少し不安だが、試しになめた感じではそんなに臭いも気にならなかったし、大丈夫だとは思う。


 しばらくすると、何故か家族そろってぞろぞろとあらわれる。どうやら、ご両親も帰って来ていたようだ。


「ソウタ、何作るの?」


 エミリーが手を振りながら駆け寄ってきて、腕にしがみつく。


「か、唐揚げっていうんだけど、知ってる?」


「カラアゲ? 聞いたことない。みんなは?」 


 みんなもどうやら知らないらしい。


「ソウタ、火をつけとくぞ」


「あっ! お願い」 


「んっ! ソウタくん、その服は!」


 さすが商人だけあって、コールさんも気付いてしまったようだ。


「いや~ギルド長とお話ししまして、貰っちゃいました」


「「「えっ?」」」「うそっ!」


 このみんなの反応で、やっぱり、驚くような事だったんだと、今更ながらに気が付いた。

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