第10話 師匠

 オレもギルド長を追いかけるようにすぐに部屋から出たのだが、ギルド長はすでにギルドから出ていくところだった。


「速っ!」


 あれが噂に聞く、動けるデブって奴か……。まあ、オレよりは乗り物に頼らず、足を使って生活をしてきたんだろうし、太っていてもオレより動けて当たり前なのかもしれない。基礎体力が違うんだろうな……。でも、おかげで屋台も出来そうだし、ちゃっちゃと登録を終わらせて帰ろう。そう思い、ロビーまで戻り受付に並ぼうとすると、先程、お茶を持ってきてくれた女性職員に声を掛けられる。


「ソウタさま! どうぞ、あちらの受付にお越しく下さい」


 並んでいる人たちの視線がオレに一斉に集まる中、隣の椅子が置かれている受付へと案内される。みんなが立って受付しているのを見ると、明らかに優遇されていることが分かる。そして椅子に座った所で、丁寧にあいさつをしてくれたこの女性の名前はプリムラさんというそうだ。


「あいつの着ている服みろよ! あれだけで家が一軒、建つぞ」「靴もあれ、ヒッポグリフの皮だろ」「髪が黒いから他国の貴族か?」


 家? マジで? 声がでかい商人たちの話し声が聞こえ、それにより服の本当の価値を知る事となった。そんな高額な物を約束とはいえ、ポンとくれるギルド長は何者なんだ? ギルド長が凄く儲かるとかか?


 疑問は残るが早速、プリムラさんに封筒を渡す。すると中身を読んだ途端に表情が一変する。


「ソウタさま、少々お待ち下さい」


 オレが返事をするとプリムラさんは立ち上がり、後ろの禿げあがった職員に封筒の中身をみせて何やら話し始める。


「お待たせしました。副ギルド長にも確認が取れましたので、銀級の登録証と屋台の許可書を早急にご用意をいたしますので、もうしばらくお待ちください。ここまでで、何かご不明な点などございませんでしょうか?」


「え~と、会費があると聞いたのですが、費用と期限を教えてもらえますか?」


「ソウタさまは銀級からという事なので、年会費が金貨五枚になりますね。期限は次の会費が発生するまでなので、来年の今頃となります」


 えっ! 五十万円? 高くね~か? でも確か金貨は十枚以上持ってたな。


「それって、今、払ってもいいですか?」


「もちろん、構いません。では、こちらにお願いします」


 そう言って差し出された木のプレートに金貨を五枚をのせる。

 

「確かに金貨五枚、お預かりしました」


 すると、いつの間にかプリムラさんの後ろに職員が立っていて、その職員は金貨をプレートごと受け取ると頭を下げて後ろの部屋へと入っていった。


「只今、支払い証明書を作ってまいりますので、少々お待ちください」


 そして、他にも質問はないか聞かれたので、思い切ってギルド長の事も聞いてみる事にする。


「あの~……登録とは関係ないんですが、ギルド長ってもしかして、凄い人なんですか?」


「ソウタさまはお知り合いでは……」


「いえ、今日、初めて会ったんですが、着ている服が珍しかったのか、部屋に連れていかれまして……」


「なるほど……そういう事だったんですね。ギルド長の個人情報を簡単にはお話しできないのですが、誰でも知っている情報でよろしければ……」


「はい、お願いします」


 そして、話を聞くとギルド長は侯爵家の四男で、現在は様々な功績により名誉男爵の称号を手に入れ、今は侯爵家の名前は使わずピエール・ポワレ男爵と名乗っているとの事だった。


「やっぱり、貴族の方だったんですね……」


「そうですね。服飾関係の功績が大きかったと思います。今では王都の流行のほとんどは、ポワレ男爵から作られると言われているぐらいです」


 えっ? あの格好で? 所変わればってやつか……?


「それに仕事も出来ますし、もの凄くモテるんですよ。綺麗な奥様が五人もいますし……」


 ……完敗だす。違った。完敗です。いるんだよな……才能がもの凄くてモテる人って、ギルド長の事は今度から師匠と呼ばせてもらおう……。





 ♦ ♦ ♦ ♦





 あの話を聞いたすぐ後に、銀級の登録証と屋台の許可証、そして支払い証明書を貰い商人ギルドを後にした。登録証は本物の銀製で、小さな穴が開いているのでそこに革ひもを通して首から下げるのが一般的らしい。形は明らかにチケットを小さくした感じで、もしかしたら、あのチケットに影響を受けて作られた物なのかもしれない。そういえばチケットの事、聞けばよかったな。さすがに戻って聞くのは忙しそうだったし迷惑か……。


「ん~……もう、今日はみんなにお土産を買って帰るか……」


 そう思い、帰りがてら良さそうなお店を探していると、女の子が群がっている露店を見つける。その店はアクセサリーを主に扱っているらしく、二人にはちょうど良いかもしれない。


「いらっしゃい! 彼女へのプレゼントかい」


 どうやら、この年配の女性が店主らしい。


「ん~まあ、そんな所です」


 それを聞いた女の子たちがオレを見ながらキャッキャウフフしている中、アクセサリーを見せて貰う。う~ん、指輪やペンダントはちょっと違うし…………おっ! 髪留めか……これぐらいの方が気軽に貰ってくれるかもしれないな。その髪留めを手に取り、店主に値段を聞くと銀貨二枚だという。っていう事は二千円ぐらいか……高くね? でもプレゼントを値切るのもアレだしな……。


「え~と、この蝶のやつって二つないですか? 無い……? う~ん、じゃあ、これとその花のやつください。それと、その革ひもも一本…………あっ!」


「なんだい大きい声出して?」


「い、いえ……その籠に入っている物も、もしかして売り物ですか?」


「そうだね。昔は神々の試練だとか悪戯なんて呼ばれてたみたいけど、今はまとめて溶かして銅製品の材料さ……」


 マジか……オレの知らないチケットを見つけちゃったよ……。

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