第7話 カラフルな市場
城壁付近に到着すると門に向かう行列に並ぶ、どうやら検問を通らないと中には入れないらしい。大丈夫だよね? 格好がこの世界ではちょっと浮いてるかもだけど、特に変なものは持っていないし……。
「ソウタくんは大きな都市は初めてかい?」
「はい、あんな高い城壁も初めて見ました」
父親のコールさんの話では、今から入る街はクーストース辺境伯の治めるマグノリアという都市で、そのまんまマグノリアや領都と呼ぶのが一般的なのだそうだ。それと中に入るには身分証が必要で、ない場合は銀貨五枚かかるそうなので、あの時に突っぱねないで、硬貨の入った革袋を受け取っておいて良かったと胸をなでおろす。
そして、オレたちの順番になると、コールさんが盗賊に襲われた事を衛兵に伝える。すると詳しい話を聞きたいという事で、コールさんとベナさんの二人は城壁の中へと連れていかれてしまった。
「大丈夫ですよ! 何があったか話すだけですから、我々は先に行きましょう」
オレが心配していそうに見えたのか、ポールさんにそう言われ先に進む。検問では目的や出身地について軽く質問され、正直に話すと普通に通された。通行料はというと、ポールさんが自分が払うと譲らなかったので、またしてもお願いする事となった。何か逆に借りを作っている気がして、嫌なんだけど……。
「ソウタさんの故郷は二ホンというのですね。この辺りでは聞かない地名だから、かなりの距離を旅してこられたのでしょう。うらやましい限りだ」
「うらやましいですか?」
「それはそうですよ。盗賊や魔物におびえず自由に旅が出来れば、どれだけ商売の幅が広がる事か……」
「ああ、なるほど……」
確かに護衛をつければそれだけお金もかかるし、運が悪ければ命を落とすのだから気軽には遠出も出来ないか……。
「そこの人はみんな、ソウタさんみたいに髪が黒いの?」
「ん~っ! そうだね、地毛は黒か茶色かな? 染めている人もいるから色んな色の人がいるけどね」
「へ~そうなんだ! そういえばソウタさんて何歳なの?」
「えっ、オレ? 今年で十八だね。みんなは?」
「あたしが十四で、おねえちゃんが十六。お兄ちゃんは少し離れて十九だよ」
「えっ! ポールさんって十九なの? もっと上だと思ってた」
「……普通に傷つくんだが……」
妹たちも爆笑しているが、一応、フォローを入れておく。
「いや、ふ、老けているとかじゃなくて、貫禄があるというかね……うん。なら、ポールさんの方が年上なんだから、これからは敬語は無しにして下さいね」
「…………急には難しいけど、善処する。あと一才も二才も大して変わらないから、俺の事はポールと呼んでくれ。敬語も使わなくて構わない」
「じゃあ、オレはソウタで……よろしくな! ポール!」
「…………ぷっ! おう、よろしくな! ソウタ!」
オレが唐突に敬語をやめた事で、ポールの心のバリアを少しは壊せたようだ。これで少しでも仲良くなれたら良いな……。
「ねえねえ、あたしもソウタって呼びたい! 良い?」
「えっ、エミリーも? どうしようかな? …………まあ、良いよ、ソウタで」
「良かった、断られるかと思った。じゃあ、これからはソウタって呼ぶね」
「はいはい、好きに呼んでね! …………ソフィアもオレの事は好きに呼んでいいからね」
「……はい」
あれ、反応悪っ! もしかして、ソフィアはこういうノリが嫌いなのかもしれない。しばらくお世話になるのに、嫌われたら困るから今後は気を付けよう。
♦ ♦ ♦ ♦
城壁をくぐり最初に見えてきたのはカラフルな野菜が並ぶ市場で、みんなに続いてその中を通って行く。積まれた野菜には木札がのせてあり、その野菜の名前と値段が書かれていた。
キャベツ 1玉 15G(グラブ)
その木札は日本語では書かれてはいなかったが何故か読めた。確かにこの見慣れた野菜はキャベツだけど、何で日本と同じ呼び方なんだ……? そして十五グラブというのが値段だと思うが、残念ながらどの硬貨が何枚必要かが分からなかったのでポールに聞いてみと、銅貨一枚が一グラブだと教えてくれた。
「なるほど、じゃあこれは、銅貨十五枚で買えるのか……」
「なんだ? キャベツが好きなのか? 細かいのがなかったら、大銅貨一枚と銅貨五枚でも買えるぞ」
「あっ! そういうこと?」
さらに詳しく聞くと、
1G 銅貨一枚
10G 大銅貨一枚
100G 銀貨一枚
1000G 大銀貨一枚
10000G 金貨一枚
という事らしい。更に上の硬貨もあるらしいが、今はこれだけ覚えておけば問題ないだろうという事だった。気になるのは文字以外の言葉や名称がほぼ日本語だっていう事なんだけど、不思議なのは今更だからな……。難しく考えないで、分かりやすくて助かるとでも思っておこう。
キャベツってあっちで幾らぐらいだったろう? 仮に百五十円とすると、銅貨が一枚、十円ぐらいか……。ふむふむ。
「お客さん、そのキャベツは新鮮だよ! 買っていってよ」
「ああ、うん! じゃあ、二玉、貰おうかな」
「毎度、それじゃあ、三十Gだね」
「ねえねえ、大銅貨ってどれ?」
「えっ! 見せて、これ、これが大銅貨だよ」
「ありがとう! エミリー。はい! じゃあ大銅貨三枚で」
「毎度~また来てくれよな」
屋台でお好み焼きでも売ろうと思ってたから、先走って買っちゃったけどアイテムボックスは時間経過がないし、まあ、いいか。
「ソウタ、どんだけキャベツが好きなの? あたしも嫌いじゃないけど、さすがにその量は……」
「当たり前だろ! さすがにオレも、この量は一回じゃ食べないよ! っていうか、これは屋台の為の仕入れだから」
「屋台? スープでも売るの?」
「ふっふっふっ! 秘密~! 作った時のお楽しみね!」
「ぶ~! いじわる~。その時は絶対に教えてよね」
エミリーにはそう言ったものの、材料が揃うかは微妙なところだな。小麦は大丈夫だと思うけど、調味料がな……。
「なあ、ポール、よく使う調味料って何がある?」
「調味料? う~ん……塩かな…………」
「…………えっ? 終わり?」
「ん~っ! 胡椒や砂糖は有名ではあるけど、高いからよく使うまではいかないかな……」
「えっ! マジ? ソースとか醤油は?」
「聞いたことないな……」
「えっ! 二人も知らないの? 黒っぽい色の液体の調味料なんだけど……」
「どんな味なんですか?」
「どんな味……? え~と、甘酸っぱくて…………むずっ! 何て説明すればいいんだ?」
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