第5話 恐竜?
ロイロの再召喚にはおそらくクールダウンが必要らしく、護衛もいない今の状況でポールの家族と一緒に歩いて街に向かう事になった。なので、武器ぐらいはないと不安だったので、出発前に弓矢の試し打ちをさせてもらう。
「おお、凄い意匠の弓ですな……」
まあ、激レアだからね……。そう思いながらも的に集中する為に、ポールさんの事は無視をして弓を引き絞る。そして、みんなが見守るプレッシャーの中、放った矢は狙った木に当たり、その大木を大きく揺らす。はっ? 普通は矢が刺さったぐらいで、こんなに揺れないよな……。もしかしたら、今のはこの弓の特殊効果だったのかもしれない。
ステータス画面を開くとMPが一減っていたので、使えない程ではないがMPの最大値が低いオレには、まだ早すぎる武器だったようだ。まあ、確かにレベル一で激レアは流石に早いか……。ポールさんたちも矢の威力には驚いていたが、弓のおかげとは思っていないようで、オレの株は勝手に上がっていく。
「お待たせしました。では、出発しましょう」
矢を回収してみんなの下に戻り、シーツにのせた彼らの父親をみんなで持ち上げ、出発する。
「ソウタさんにも、一緒に運んでもらってしまって、本当に申し訳ありません」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから、気にしないでください。そうだ……ポールさんとはお互いに自己紹介をしたんですが、みなさんとはまだでしたね。ソウタです。よろしくお願いします」
ここで、やっと全員の名前を知る事となった。父親がコール、母親がべナ、長女がソフィア、次女がエミリ―というそうで、辛うじて全員の名前を覚えられた……と思う。
次女はお喋りが好きなようで、オレの隣でずっと質問したり、家族の話を聞かせてくれてた。それに比べて、長女の方は恥ずかしがり屋のようで、こちらをチラチラみてはいるが、自分からは話に入ってくるタイプではないようだ。
「ソウタさんの髪は黒いけど、どこから来たんですか?」
「ん~なんて言ったらいいかな……凄く遠い場所だから多分、みなさんは知らないと思うんだけど……」
「ふ~ん……そうなんだ! 奥さんとか彼女はいるんですか?」
「エミリー! いい加減にしなさい。人の事を詮索するのはやめなさいって、いつも言っているでしょ。ソウタさんもごめんなさいね」
「は~い……」
「いえいえ、大丈夫です」
母親のべナさんが止めてくれたおかげで、どこから来たのかはうやむやにできたが、今後の為に言い訳は考えておいた方が良いかも知れない。
「あっ! それならソウタさんはこの辺の人じゃないんだよね。ならマグノリアに着いたら、あたしが案内してあげるね」
マグノリア? 多分、今からいく街の事かな……。
「ん~じゃあ、その時はお願いね! でも、仕事を見つける方が先かな……」
「ソウタさんはどこかのギルドに登録をしているんですか?」
ポールさんにそう聞かれ、登録をしていない事を伝えると、冒険者ギルドか商人ギルドに行くことを勧められた。冒険者ギルドでは主に魔物の討伐や、魔物がいる場所での採取や採掘などの依頼を受ける事ができ、商人ギルドでは商売の許可や、さまざまな商売関係の手続きがしてもらえるのだという。
「ん~なら、商人ギルドがいいかな」
危険な目にあうよりは屋台で何かを売ってお金を貯めて、そのお金でチケットを買い集めてスキルをゲットするのが一番、良さそう。それで強くなったら冒険者をやってもいいだろうし……。
「ソウタさんは何か売れそうな見込みのある物をお持ちで?」
ポールさんにそう聞かれ、素直に答える。
「いえ、多少、料理が出来るので、簡単な屋台から始めようかと……」
「なるほど……実は我が家は商売をやってまして、言っていただければ大体の物は手に入りますので、必要なものがあればご用意しますので、何でもおっしゃって下さい」
「あっ! そうなんですね! じゃあ、その時はお願いします」
話を聞くと、食品から洋服まで何でも取り扱っている雑貨屋的な商店をやっているそうだ。前の店が手狭になったのが、引っ越しをする理由だったらしい。って事は結構、儲かっていたのかもしれない。そんな所にお世話になれるなんて、かなりラッキーだったかもしれない。娘たちも可愛いし。
そんな事を考えていると、突然、草むらから体高一メートルほどの二足歩行のトカゲが現れ、楽しい気持ちが一気に吹き飛ぶ。
「えっ? 恐竜?」
その短い前足には鋭い鉤爪がついていて、昔みた恐竜図鑑の中の恐竜のミニチュア版のようだ。
「ロバ―です。こいつらは群れで狩りをするので他にもいるはずです」
打ち合わせ通りに父親を降ろし、アイテムボックスから取り出した槍を女性陣に渡してオレも弓を構える。すると、ロバーが空に口を向け鳴き声を上げ、新たに三匹のロバーが姿を現す。
ポールさんは最初の一匹と戦闘を始めていて、オレの後ろには女性陣が父親を守るように陣取っている。という事はオレが三匹……。とりあえず、弓を引き絞り先頭にいる一匹に向けて弓を放つ。すると見事に胸に当たり、ロバーが吹き飛ぶ。やはり、この弓にはノックバック的な効果が付いているのかもしれない。
吹き飛ばされたロバーは倒れたものの、まだ生きており器用に体を揺らして立ち上がった。それでも前足が短いので、立ち上がるのはそんなに得意ではないようだ。転ばせた後、槍とかで刺せればワンチャン……。でも女性陣にやらせる訳にはいかないし、ナイフで止めを刺しに行くとしても、あのでかい口と鉤爪がちょっと怖いか。とりあえず、もう一撃と弓を引き絞ると、今度はロバーたちは正面に立たないように動き始める。もう学習したって事? 頭良すぎんか?
「くそっ! 動きすぎ!」
放った矢は、外れて明後日の方向に消えていく。弓は優れていてもオレの腕前が……。
「あっ! 良い事、思いついた」
今度はロバー本体ではなく足元を狙い、矢を放つ。するとその衝撃で狙い通りに三匹が地面にひっくり返る。そして起きるのにもたついている所に、さらに弓を放っていく。さすがに動かれなければ当てることができたので、次々に命中させていく。
矢を当てると吹き飛んでしまうので、そこだけがちょっとだけ大変だったが、終わってみれば、起き上がられたら足元に撃ってまた転ばせて、当たる距離まで近づいて撃つだけの、簡単なお仕事だった。後ろを振り返るとポールさんも、どうやら倒せたようだ。オレも矢を回収して、倒したロバーもアイテムボックスに入れてみんなの下に戻る。
「ソウタさんは弓の腕前も凄いんですね」「うんうん、凄かった!」
ポールとエミリーが駆けつけ、弓の腕前を褒められたが、すべて弓のおかげなので複雑な気持ちになる。よく見るとソフィアも混ざりたさそうに二人の後ろに立っていたので、声をかけようと思ったのだが、褒めてもらう為に呼ぶのもなんだし……。何て声をかけるのがベストか悩んでいたのだが、ソフィアの方をみてオレは咄嗟に走り出し大声で叫んだ。
「ソフィア!」
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