第4話 秘匿されている情報

 みんなが一斉に悲鳴を上げると、イノシシは毛を逆立てて、足で地面をひっかき始める。しかし、すぐさま、みんなの後ろからロイロが現れイノシシの首筋に噛み付き、数回振り回して地面に組み伏せるとイノシシはすぐに動かなくなった。強っ! 瞬殺じゃん!


「「ひっ!」」「「…………!」」


「皆さん、落ち着いてください! あの黒いオオカミはわたしの召喚獣です」


「「…………」」


 ロイロは固まっているみんなには目もくれず、くわえていたイノシシをオレの前に置いてお座りをすると、またじっと見つめてくる。(褒めろって事ね……)


「よしよし、偉い偉い! あっ!」


 ロイロの胸の辺りを撫でていた手から、突然、感触が無くなる。ありゃ? もしかして、召喚時間の終了か? 


「あっ! 消えた! あの大きなオオカミは本当に召喚獣だったんですね……。あんなに大きなオオカミをあやつるなんて、ソウタさんは凄い召喚士なんですね」


 一番下の妹がそう言うと、ポールも喋りはじめる。


「確かにソウタさんは俺の知っている召喚士とは大違いだ! ウサギやネコを見世物にして、小遣いを稼いでいるのが召喚士だと思っていたが……」


 どうやら、この世界には召喚士という職業があるみたいだけど、あまり憧れられる職業ではないようだ。でも、今はそんな事よりも、ロイロという護衛がいなくなった事の方が問題だ。


 ロイロが消えた理由には思い当たる節があったので、確認する為にステータス画面を開いてみる。すると、案の定、MPがゼロになっていた。体調的には特に問題はなさそうだけど、多分、これが原因だろう。また襲われたら困るから、ポーションもあるしMPを回復させといた方が良いだろう。


 一応、ポールさんに尋ねてみると、通常のポーションであれば青には魔力回復の効果があり、紫には解毒効果がある事が分かった。もしも、正確な効果を知りたい場合は、ギルドで調べた方が良いとも言われたが、ロイロを呼べるように今すぐ回復したいので、ダメもとで青のポーションを飲むことにする。


「青いポーションを飲んでみます。ポールさんもこれをどうぞ!」


 さっきから、ずっと痛そうだったポールさんにも赤いポーションを渡し、自分は青いポーションを一気に飲み干す。


「まずっ! 何だこれ?」


 ステータス画面を確認するとMPが全快して、何故か最大値が十一に上がっていた。このポーションの効果? ゼロまで使ったから……? まあ、考えたところで、答えは出ないので画面を閉じる。そして、ふとポールさんをみるとまだ飲まずにいたので、再度、すすめる。 


「いや、しかし……。これ程、効果の高いものを二本も買い取るとなると……」


「いえいえ、お金はいいので、飲んでください! それにその体でまた盗賊が戻ってきたら、どうするつもりなんですか? ご家族を守れるんですか?」


「…………ソウタさんのおっしゃる通りです。これはありがたく飲ませていただきます。この御恩は街に着いたら、必ずお返しいたします」


 そう言ってポールは一気にポーションを飲み干すと、体の動きを確認し始める。


「おおお、凄い効き目だ! もう、傷が塞がっているし痛みもない。ソウタさん、本当に、本当にありがとうございます」


 ポールさんは両手でオレの手を握ると頭を下げ感謝し、更には他の家族にもまた、お礼を言われる。そこまで感謝されると逆に気恥ずかしくなり、すぐに話題を変える。


「そ、それよりも散乱した荷物と馬車を何とかしなきゃですね……」


「幸い大事な荷物は前回、すでに運び終えているので、多少、価値がある物だけを拾って、後の物は今回は諦めようと思います」 


 どうやら話を聞くと、この家族は今から行く街に引っ越す為に、何日かに分けて荷物を運んでいたそうだ。そして、不運にもその最終日の今日に、盗賊の襲撃にあってしまったのだという。まあ、馬も盗まれてしまっているし、馬車も倒れているんじゃ、諦めるしかないか…………いや待てよ。


「あの馬車がアイテムボックスに入るか、試してみていいですか?」


「えっ? あんな大きな物が……いや、出来るなら、こちらからお願いしたいぐらいです。ソウタさん、どうかお願いします」


「いやいや、本当に入るかは分からないので、試すだけですよ」


 一応、失敗した時の言い訳をして、馬車をアイテムボックスに入れようと試みる。すると馬車は問題なくアイテムボックスに収まり、一瞬にして目の前から馬車が消える。そして、みんなが驚いている中、更にその馬車を正常な向きで再び取り出してみた。


「おお、アイテムボックスにこんな使い方が……。私たちだけでは起こせそうになかった馬車が、いとも簡単に……。しかも、あの大きさの馬車が入るアイテムボックスとは……」


「どうやら入りそうです。散乱した荷物は馬車に入れてくれれば、私がアイテムボックスにまとめて入れて運びます。そうだ! 馬車をロイロに引いてもらうのも、良いかも……」


 そう思い、ロイロを召喚しようとしたのものの、ロイロが姿を現さないどころか、召喚陣すら出現しなかった。えっ! もしかしたら、ロイロ側にもクールダウンの時間が必要とか? 少し焦っているオレに、ポールさんが遠慮がちに話しかけてくる。


「あのソウタさん……! ご厚意で言ってくれているのは重々承知しているんですが、あなたの能力は街では余り大っぴらにしない方が良いかもしれません」


 ……やっぱり? 何となくそんな気はしてたけど……。


「馬車が入るほどのアイテムボックスなんて、貴族さまや犯罪組織からすれば、喉から手が出るほど欲しいスキルです。もしも、そんなスキルが使えると知られれば、奴隷にしてででも欲しがる人間も現れるはずです」


「なるほど……召喚獣もですか?」


 この二つが使えないとなると、ただの村人以下なんですが……。


「……知られないに越したことはないかと。一応、召喚獣や従魔は冒険者ギルドへの登録が推奨されてはいますが、登録しても余りメリットがないので、ほとんど、されていないのが現状のようです」 


 なるほど、義務ではなく、出来るならしてね的な感じか……。


「まあ、それは後で考えるとして、とりあえず荷物を集めましょう」


「そ、そうですね! 母さんは父さんの様子を見ててくれ、オレたちは荷物を集めてくる」


「分かったわ! お願いね!」


 その後は落ちていた荷物をすべて拾い、箱馬車の天井にロープで固定する。護衛の二人の遺体は馬車の中に積み込み、盗賊の遺体は装備や持ち物をはぎ取り、森に投げ捨てた。


「兄さん、向こうにお金が入った革袋が落ちていたんだけど……」


「我々の物ではないな? おそらく盗賊が落としていったものだろう。これはソウタさんが受取って下さい」 


「えっ? いや、盗賊が持っていた矢を少しもらえれば、それで……」


 そこから受け取れない、受け取ってもらわないと困るのやり取りが続き、結局、オレがそのお金とすべての矢を受け取る事で決着がついた。だってしつこいんだもん……。ポールさんとしては、助けてもらってばかりで、何も返していないのが本当に嫌だったらしく、どうしても何かを渡したかったようだ。まあ、この受け取ったお金で、後でこの家族に何かプレゼントすれば良いか……。


 一連のやり取りが終わり、積み忘れがないか確認した後、馬車をアイテムボックスにしまい、最後にロイロが倒したイノシシもアイテムボックスにしまう。


「それにしても大きなイノシシだったな」


「イノシシ? ソウタさんの故郷ではそう呼んでいるんですか?」


 ポールさんの話では、この辺りではデカいイノシシをビッグボアと呼んでいて、一応、体内に魔石を持つ、れっきとした魔物なのだという。魔石とか魔物とか、どんどんファンタジー色が強まっていくな……という事は……。


「もしかして、ポールさんも魔法が使えたりするんですか?」


「……いいえ。たまにオークションに出品されていますが、とんでもない金額になりますからね。ですから、平民の我々には到底、手が出るものではありませんので……」


 おお! やっぱり魔法があるんだ……。ん? お金があれば買えるものなの?


「えっ? 買えるんですか?」


 どうやら魔法はスキルオーブの状態で、売りに出ている事があるようだ。しかし、貴族や豪商がほとんど競り落とすので、一般市民にはチャンスはないのだという。


「スキルオーブも自分たちで、手に入れる事が出来たら良いんですが、その方法も秘匿されていますからね。一説には強い魔物を倒すと出るなんて話もありますが、倒せない人間には確認しようがありませんし……」


 えっ! ガチャじゃないの? それが秘匿されているって事? そうか……使い方が分からなかったら、チケットもただの貴金属扱いだろうし、それを買い集めればガチャが引き放題ってこと~? それいいな? これは秘匿している貴族とやらに便乗しよう。

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