第3話 遭遇
最後の最後で大当たり? を引き、心強い仲間を手に入れる事ができた。その新たな仲間は瞳は赤く、毛色が真っ黒な、とても大きなオオカミ? の召喚獣だった。名前がないという事だったので、黒漆の濡れたような深く美しい毛色からロイロと名付けた。
「ねえ、ロイロはこれを今すぐに食べたい?」
獲物を指さし、そう聞くとロイロは首を横に振る。どうやら、お腹は空いてないようだ。
「じゃあ、しまっておくね。本当はすぐに血抜きとかした方が良いらしいけど、アイテムボックスは時間経過しないみたいだし」
獲物が目の前から消えて、ロイロも最初は驚いていたが、目の前で獲物を何度か出し入れして説明すると、アイテムボックスの存在もしっかりと理解してくれた。本当にお利口さん過ぎる!
「それじゃあ、出発しようか! …………そうだ! 今、目指しているのが人がいる場所か水が飲める場所なんだけど、もしかして、ロイロなら臭いとかでわかったりする?」
ロイロは鼻をしばらくクンクンさせると、オレの近くまでわざわざ来てから、何故か背中を向けてお座りを始める。えっ! 反抗期? うちの子が? 理由が分からず、その背中をじっと眺めていると、今度はロイロが振り返り、自分の背中を顎で指し示す。
「えっ? どうしたの? あっ! 乗っていいって事?」
おっかなびっくり背中に抱き付くと、ロイロが立ち上がりもの凄い勢いで走り出す。痛かったらごめんと思いながらも、オレはロイロの毛を思いっきり掴んで必死にしがみついた。
♦ ♦ ♦ ♦
出発してから少し経つと、なぜか頭の上を通る枝などの障害物が無くなり、ロイロのスピードも上がり始める。何が起きたのかと目を細めて体を少し起こしてみると、オレたちが道の上を走っている事に気付いた。
「おお、いつの間に……道じゃん! あいたっ! でこに虫が当たった!」
すぐさま、体を起こすのを止め、ロイロの背中にくっつく。一瞬、見た限りだが、その道は車が一台通れるぐらいの道幅で、かなり先まで一直線に続いているようだ。でも、これで少し希望が見えてきたかも……。
そして、その後もロイロの背中にへばりついたまま、しばらく進んでいると、ロイロが急激に速度を落とし始める。
「何か見つけた?」
体を起こしてロイロにそう尋ねると、前の方から悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃあ~~~! ヘルハウンドだ! お頭、逃げやしょう!」
「くそ、盗るのは手に持てるだけにして、女どもは諦めておとりにしろ」
「え~勿体ないですよ」
「あいつは人間の女の肉が好物らしいからな! 死にたきゃ、勝手にしろ! 行くぞ」
「「「へい」」」
「あっ! 待って下せぇ! くそっ! 金も一緒に落としちまった」
「死にたくなかったら、あきらめろ!」
「くそ、くそ、くそ~っ!」
ドドドドと地響きのような音をたて、声の主たちは馬に乗って逃げて行った。会話の内容からして、馬車を襲っていた犯罪集団だったようだ。しかし、ロイロを恐れて逃げてくれたおかげで、女性たちは連れていかれずに済んだので、遭遇できたのは良かったのかもしれない。すぐに馬車まで向かい、ロイロには周辺の警戒をお願いして、オレは急いで地面に転がされている女性たちの下へ向かう。
「大丈夫ですか! 今、縄を解きますから!」
まず一番近くの女性のさるぐつわを外す。すると、すぐさま泣きながら懇願される。
「私たちは後で構いません! どうか父たちを先に……どうか、どうかお願いします」
そう言われて、初めて周りの惨状を確かめる。すると、そこには何人かの男たちが血を流して倒れていた。
「そう言われても一人では手も足りないですし、どれがあなたのご家族かも分かりません。一緒に力を合わせて助けましょう」
「……はい。申し訳ありませんでした」
その女性も少し落ち着きを取り戻したので彼女の縄を切り、オレが残り二人のさるぐつわと縄を解く間に、父親の様子を見に行ってもらう。
「本当にありがとうございます」「ありがとうございます」
「いえいえ、それよりも怪我人の手当てを急ぎましょう」
「「はい」」
二人と共に倒れている男性たちにの下へ向かう。どうやら三人の他には兄と父親、そして護衛の二人がいたらしい。護衛の二人は残念ながら息を引き取っていたので、まだ見つかっていない兄と父親をさがして横倒しになっている馬車の向こう側へと向かう。すると、馬車の影から剣を担いで左腕から血を流し、足を引きずるボロボロの男性が姿をあらわす。それを見て二人が声を上げる。
「ポール!」「おにい」
どうやら彼が話に出ていた兄らしい。多分、二人を心配して痛む体で様子を見に来たのだろう。しかし、二人はそんな彼の事などお構いなしに抱き付き、泣きながら無事を喜んでいる。そして彼が馬車の裏を指差し何やら話すと、二人とも大事なことを思い出したかのように、慌てて馬車の裏に駆けていった。
オレもその後を追い、おにいと挨拶を交わす。
「どうも、ソウタと申します。怪我が酷そうですが大丈夫ですか?」
「はは、生きていただけ幸運でした……私は長男のポールと申します。妹から聞きました。盗賊から母と妹たちを救ってくれたそうで、本当にありがとうございました。このお礼は街についたら、必ずさせてただきますので、今はこれでご容赦を……」
お金の入っている革袋を渡されそうになったので、慌てて押し返す。
「いえいえ、そういうのは本当に大丈夫ですから、それよりもお父さまはご無事だったんですか?」
「それが……盗賊どもがポーションを根こそぎ、持って行ってしまったので手立てがなく、後は見守るしか……」
「ポーションですか? 持ってますけど、何色が必要ですか?」
「えっ? 色? 怪我なので赤ですね……」
「どうぞ!」
「えっ? どこからポーションを? はっ! まさか、アイテムボ――」
「――そんな事よりも、早く飲ませた方がいいんじゃないですか?」
「……そうでした余計な詮索を……これは相場の倍で買い取らせていただきます。本当にありがとうございます。ソフィア! これを父さんに!」
ポールは足の痛みを忘れたかのように大声を上げて、馬車の裏に駆けていった。オレもそれを追いかけて馬車の裏にまわると、服の腹の部分が真っ赤に染まった男性が家族に囲まれていた。
「お父さん! よかった」「あなた、よかったわね。本当に……」「よがっだよ~……え~ん」「良かった……」
どうやら、この反応からすると助かったようだ。
「ああ、ソウタさん、あなたのポーションのおかげで父の傷がふさがり、先程、一瞬だけ目を覚ましました。まだ、血を出しすぎてしまったせいもあり、すぐに眠ってしまいましたが顔色も目に見えて良くなりましたし、きっとすぐに回復すると思います。本当にありがとうございました」
その後は家族総出でお礼を言われ、結局、この後はこの家族の家にしばらくお世話になる事になった。
「ところで、情けない話なんですが、私は気を失っていたので見ていなかったのすが、ソウタさんはあの盗賊たちから、どうやって母たちを救ってくれたんですか?」
「え~と、召喚獣に乗って通りかかったら、勝手に逃げて行っただけですね」
「召喚獣に乗って? 母さんたちは見たのか? というか、そもそも乗れるほどの大きさの召喚獣なんて、伝説の類なのでは?」
その質問に三人とも見てないと答えた。だから、盗賊があんなにパニックになっていたのに、三人は平気だったのか……。
「あ、あの、ソ、ソウタさんの召喚獣って後ろにいるそれの事ですか?」
そう言われてオレが振り返ると、そこには見た事もないほどの大きさのイノシシが立っていた。だから、オレは正直に答えた。
「違います」
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