第7話
とても嫌いな音が耳を覆って、無理矢理にでも叩き起こしてくる。起床の象徴だから嫌いなのだ。でも、今日はそれより大事なものが山積みになっていて、それに構うので精一杯になりそうである。とりあえずキッチンへ下り、冷蔵庫を漁って適当なものに齧り付く。ここまで特に考えも何も無く、ただ無心で行っていた。朝の陽に刺されながら水をいくらか飲み、件の者に電話をかける。存外早く繋がった。
「おはよ〜鋼〜!」
「おはよ〜」
「何か用でもある〜?」
「休みだから雑談したくてね〜」
「そっちから誘うなんて珍しい事もあるんだな〜」
「今日が
会話していると話は勝手に広がっていくもので、何故か今の話題が最初考えていた話題を霞ませる程に遠くなっていた。
それよりも大事な話題は今も心の内に留めているばかりで、それがそのままになりそうであった。少しづつ頭が焦り始めて、支離滅裂な事を口走ってしまう、そんな気がした。静かに高鳴る胸を抑えながら話し、ひたすら頭を回す。口は回らない。
「じゃあ一旦終わりにしようかな?」
「もうちょっと話したいけど……」
「鋼もすっかり
「何言ってるんだろうこの人」
「え?」
「話変えるけど悩みとかは無い?」
「…ん〜悩みかぁ〜………どうだろうなぁ〜…………」
咄嗟に紙と鉛筆を取り、話を一言一句逃さない姿勢で臨む。
「……ここ最近、ずっと学校行けてなくて……どうしたら行けるようになるか悩んでるんだけど………」
「学校には行きたいの?」
「楽しいから行きたいんだけど…
「そのグループに所属してる人の名前って何?友達とかに聞いて回ろうかなって」
「……
「なるほど…今までどういうことされた?」
「想像つくことは全部されたよ」
「そっか……家族には話したりしてないの?」
「今まで理由とか何も言わずに籠もってて、なんか申し訳ないなって……」
その後も
「話してくれてありがとう」
「感謝されるような事じゃないと思うんだけど…」
「誰かに言うのも勇気がいる事だからね」
「それもそうだね」
「なんで俺には話してくれたの?」
「………何となくかな」
「どこまでもマイペースだな」
「えへへ〜」
「褒めてないよ」
気づけば太陽は赤々と染まって、空模様すらも太陽だった。偶然少し開いていた窓から入る隙間風は、俺達を気にも留めず過ぎ去る。まさに秋の風だった。
当初の目的は達成した為、相手の眠りそうな声と挨拶を交わし、赤のボタンに触れる。不思議と腹の虫は鳴かず、植木が
他人の投稿を流し見していると、電池が赤くなっていた。電源コードを引っ張ってスマホに
リビングの電灯が辺りに色を与え、明度や彩度に差を作り出す。銀で覆われたキッチンに立ち、昼と夜の作り置きを少しづつ温める。辺りに漂う良い香りが虫を鳴かせる。温まった物に名前は無い。
自由気ままに飯が食べられる環境、これではどうしてもだらけてしまう。でも、ストレスは無い。俺にはこれが合っているように感じた。
リビングの電灯を暗くさせ、明度が分からなくなる。物伝いに自室へ行き、湯気が立つ身体を冷ましながらスマホを見る。その時を見計らったような着信でスマホが揺れる。緑のボタンを押して、電波越しに声を聞く。既に訊きたい事は訊いたはずなのだが。
「これからしばらくはお休みだっけ?」
「そうだね」
「折角だからどこか行きたいな〜」
「良いの?」
「私だって外に出たくない訳じゃないし、鋼なら連れ出してくれそうだからね〜」
「まあ………別にいいけどさ………」
「乗り気じゃないの?」
「仕方なく行くだけだよ」
「つまんないの〜…とりあえず明日ね!」
そう言われて一方的に通話を切られる。集合場所すら言わないのは自分勝手が過ぎるだろう。見立てはついているが。
俺の住む街は、狭いのに100万人都市を掲げていて、狭いのに十分立派な都会であった。それが故に、市民ならではの集合場所が一つあり、見立てではそこに集まりそうである。
とりあえず一区切りはつき、眠りそうな身体を布団に
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