第5話

あの満月の夜のことはなんだったんだろう?



私がサラに戻った夜…




次の日には花梨に戻っていた。

花梨に戻れていたことがこれほどまでに嬉しいと感じたことに花梨自身が驚いた。



隆人との生活は花梨にとって未知の世界である。



料理、洗濯、掃除、、、



あげ出したらキリがない家事の一つ一つを少しずつこなしている。




はじめは全然できなかった。

しかし、隆人は一から丁寧に教えてくれた。




教えることは時に面倒に思う時がある。

こんなこともできないのか。

こんなことも知らないのか。


なんでできないんだ



と人はひとを責める。




花梨は料理も洗濯も何もかも知らなかった。

なので一から聞いた。



『聞くのは一時の恥。知らぬは一生の恥』



と言う言葉を知っていたかのように知らないことはなんでも聞いた。




洗濯機の使い方がまず、わからない。

フライパンの使い方がわからない。



この人は一体何をしてきてここまで生きてきたのだろう?



と思う人もいるだろう。



花梨の場合、猫だったのである。




知るわけがない。

猫だったのだからと言い訳をするわけでもなく。


スポンジのようにいろいろ吸収していく。




たためなかった洗濯物がたためるようになる

できなかったフライパンが洗えるようになる



手が荒れたらハンドクリームを塗る



と言う手荒れを心配するようにまでなった。




それはまるで赤ちゃんが成長していくように一日、一日


花梨は成長を見せた。






教え甲斐があるのは隆人であった。




毎日、昨日できなかったことが出来るようになる。




隆人自身、花梨の日々の成長を喜んだ。





はじめは『なんでできないんだろう?』とも思った。





しかし、花梨には学びたいという姿勢があった。





わからないことはその場で質問してその場で解決策をこうじて問題を解決する。





その姿勢に内心応援していた。



_________________________________________


花梨は今日も家事に追われていた。



『まずはお弁当を作らなきゃ』




初めの頃は『お弁当とはなんぞや?』

だったのに。




ただの箱に白い物体を詰めておかずと言う名のものを詰める




謎だった。




箱に詰めるだけでいろいろな食べ物が持ち運べるようになる。



不思議だった。



でもお弁当やらに詰めちゃいけないものもあるみたいで覚えるのに苦労した。




今となっては人間が言う『お弁当』も作れるようになった。



人間界にはレンジにぶちこんでチンしたら温かくなる食材があるようで初めて見た時はびっくりした。





人間界は温かいものを食べるのが日常らしい。

私は熱いもの苦手だけど。




今日も夫を送り出してからコーヒーと言う苦い飲み物を嗜もうかしら?




初めて飲んだ時には苦くてびっくりしたけど飲んでるうちに慣れてきて、飲んだらなんだか家事の疲れが安らぐような気がするし


コーヒーとやらを飲むのは好き!




夫はコーヒーを飲むと『リラックス』出来ると言うからこの気持ちが『リラックス』していると言うんだろう。




私には全部新鮮に映った。

毎朝、カーテンを開けて浴びる日差しも




私が愛していた自由はなくなった気もするけど!



でも私の感じていた自由とはまた違った自由が今はある。



私は夫のことをだんだんと愛してはじめていることに気づいてきたように思う。




これが『愛』なのか?


これが『想う』ってことなのか?




と日々思うけれど。




これが誰かを想うと言うことなのだろうと実感する日々を送っている。



毎朝、「いってらっしゃい」

と言って




「ただいま」



と帰ってきてくれる。



猫の時にあった自由はなくなったのかもしれないけれど心がぽっと暖かくなるのである。





日々、そんな気持ちで過ごしている

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ある世界の片隅で ささらなみ @ponponta3

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