第4話
ある夜…
隆人はもうすでに寝ている。
今日は満月である。
綺麗な満月を花梨は見つめていた。
そうすると…
身体がどんどん毛深くなっていく。
肌がみるみる黒くなっていく。
言葉と言うものを発しようとする。
しかし、『にゃー』としか言えない。
私はどうしたんだろう?
鏡を見にいこうとすると自分が四足歩行をしていることに気づく。
あれ?
私はサラに戻ったのだ。
鏡を見るとちゃんとそこには『黒猫』が座っている。
なんだ!
戻れたのか!
隆人との暮らしも楽しかった。
毎朝下手なご飯を食べてくれる。
徐々には昼間の料理番組のおかげで料理を覚えてきた。
隆人とも今日でお別れか。
人間になった時は不安で受け入れるのが怖かったけれど。
人間じゃなくなるのも築いた関係がなくなるのもなんとなく寂しい気がしていた。
明日からは隆人にペットとして飼ってもらいたいと思うくらい隆人との暮らしは楽しかった。
毎日、くだらないことで笑った。
急に人間になったから右も左もわからなかった。
料理も魚は好きだったけど、パンなんてものは初めて口にした。
『美味しかった』
パンってものはこんなに美味しいのか!
と幸せに思った。
明日から隆人が受け入れてくれなかったらまた自由に暮らそう。
そうしよう!私は自由が何よりも好き!
と思っていた。
でも実際は自由よりも大切なものを手に入れていた。
そうだ!今日、最後にベッドで眠ろう!
明日からは床の上かな?
花梨はそっと目を閉じた。
今日が終わることへの恐怖とさまざまな思いを抱えて。
チュンチュン
雀の鳴き声で目が覚める。
ああ、私は黒猫に戻ったんだったよね
ん?
足がある。
「花梨、おはよう」
いつもの隆人の声が聞こえる。
私は黒猫に戻ったんじゃないの?
今日から黒猫としてまた生きていくんじゃなかったの?
私は人間の花梨として『目を覚ました』
いろいろ考えてる暇はない。
今日は平日だ。
隆人を会社へ送り出さねばならない。
急いで身支度を整えて朝食を用意する。
「最近、料理の腕あげたよね」
こんな日も隆人は素直に褒めてくれる。
内心とても嬉しい。
包丁なんて持ったこともなかった
自由をこよなく愛していた私が今主婦として生きている。
「ありがとう。洗濯物何か洗うものある?」
そこにはいつもと変わらない日常があった。
花梨にとってこの主婦としての時間がとても愛おしく大切なものになっていることに気づく。
『昨日、私がサラに戻ったのはなんだったんだろう?』
謎が謎を呼び、今日も家事に奮闘しながら隆人の帰りを待つ。
そんな幸せを噛み締めるようになるとは…
花梨自身も気づかないうちに隆人との絆ができていた。
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