第2話 入学した
数分前にあった入学式というイベントで俺は驚かされた。
あることが聞こえるまではよくある学校の入学式だと思った。
『風紀委員長の挨拶です』と、進行の人が言うまではな。入学式でそんなことが聞こえてくるだなんて想像するわけないだろう。
まあ、一瞬驚いてすぐ受け入れたので驚かされたのはそこではない。
出てきた風紀委員長から目が離せなかったのだ。
艶のある黒髪に切れ長で紫色の瞳。学校指定の制服に風紀と書かれた腕章をつけている人。その人は
『風紀委員長の
と、言ってからトンッと杖で床を打ち壇上から降りて去っていった。
そのたった二言で威圧感は十分与えられた。けれど、怖さとは違うものを俺はあの時感じていた。
懐かしさである。俺はその仕草と容姿を覚えていたのだ。忘れるわけがないのだから。
俺の先輩であり、個性の塊のような風紀委員長だった人を忘れられるわけがない。
俺の周りの人をモデルにしたと言っていたが、まさかあの人もだったとはな。あの人の使っていた杖までも知っていたみたいだしどこで見たのだか。
いや、どこででも見る機会はあったな。風紀を守るために見回りを欠かさない人で、武器である杖を離さない人だったから。
さて、ここらで俺が驚いた話はやめて今の話をしていくことにしよう。
「怖かった……」
「そう?普通だったと思うんだけど」
「あれが普通って基準おかしくない⁈」
今は風紀委員長を見て怖かったって言うソラと話しているところだ。
先生が来るまで同じ中学だった人たちで集まっているという感じだな。ソラとクラスが離れなかったのは幸いだが、それすら妹の采配に思えて少し複雑な気持ちだ。
そんな思考をしていると、教室の戸が開いた。それと同時に出席番号順で決められた席にみんなは座る。
「はーい、遅れてごめんね」
戸を開けて入ってきたその人が言った。
ボサボサの髪で緑色の綺麗な瞳。色々なところに擦り傷はあるけれど、全体的に美男子と捉えられそうな容姿である。
「今日から一年このクラスの担任をする
最後にニコッと笑う。
それだけで何人かの生徒の目はハートになっていた。俺は別の人がチラつくからそんなことにはならなかったのだが。
そう、この人のモデルになったであろう人も知っている。
注意深く歩いていても何かにつまずいてこけてしまう人。先輩の先生に泣かされているところに遭遇して飴を渡したこともある。
接しやすくて子供のようなところもあるけれど頼りになる人だった。
「さてと、早速なんだけど自己紹介してもらってもいいかな?名前だけでいいからね」
そうして自己紹介が始まった。
みんなの顔と名前を一致させていかないとな。これから一年間一緒のクラス。それに全員男子ということもあり関わることも多いだろう。そちらの方が気負うことなく過ごせるのでいいかもしれないけれど。
多分男キャラをいっぱい出したいからという妹の意思なのだろうなあ。
っと、自分の番になったな。
「久保成海。気軽に話しかけてくれると嬉しいです」
席を立って簡潔に済ませる。
あまり言うこともないし、下手なこと言って変な人認定されたくもないからな。無難に済ませるのが一番いいだろう。
自己紹介は続いていって、ソラの番がきたのだがソラは自分の名前で噛んでしまった。
可愛いと聞こえてきたから大丈夫だとは思う。それと、その時にボソッと『そら……』と言っている声がした。どういう意図があってソラの名前を呟いたのかは分からない。
まあ、一度それは置いておくとして一人気になったのがいた。名前は
また友人になれると嬉しいのだけれどなあ。それもあとで考えるとして帰るとするか。今日は自己紹介だけで終わりらしいし。
「ソラ、帰るぞ」
「うん!あっ、ちょっと待ってて」
「ああ」
俺はソラの席にいき声をかけた。
だが、ソラは近くにいた人たちに連絡先を教えてと言われていたみたいだ。それなら素直に待っておく方がいいだろう。新しい友達ができるのはいいことだしな。
大人しく待っていた時、また一人声をかけてきた。というか、俺の肩をつついてきた。
なんだ?と思い振り返ると井口雨だった。
「そのーオレも混ぜてもらっていいか?」
「ん、ソラと連絡先の交換か?いいと思うぞ」
「俺もしたいな」
他の人との交換が終わったソラが会話に入ってくる。井口がニッコリと笑ったと思ったら、すぐに顔を曇らせた。
そして「やっぱり
その言葉はソラには聞こえていなかったようで、何か言ったのかと首を傾げている。
しかし、俺にはバッチリ聞こえていたわけで……空斗という俺の前の名前を呟いたからドキッとした。何故その名前を知っているのだろうか。俺のことだとは限らないけれど。もしかしたら先程の自己紹介の時にそらと呟いていたのも井口だったのだろうか。
いや、だからってなんだという話だしな。
俺のこととして呟いたのであれば考えられるのは一つというところではあるのだが。
「ナル?またなんか考えごと?」
「あーごめんごめん」
「そだ、久保も交換しとこうぜ!」
「おー」
長く考えごとをしていると心配されるから程々にしとくか。そもそも考えなくても本人に聞けばいいことのような気もする……
本人に、お前も転生したのかなんて聞いたら違ったら確実に痛い奴認定されそうなのだが。俺の六割ぐらい当たる勘が大丈夫っていってるから大丈夫だと思うんだよなあ。
「おしっ、これでオッケー!」
「ありがと。なあ、
「二人で話したいってことなら、俺は待っとくからいいよ」
「……分かった。話そうぜ」
井口は俺について教室から出てくれた。
少しだけ歩いて人が周りにいなさそうなのを確認して声を出す。
「ねえ、聞きたいことがあるんだ」
「それはオレもある。先に言っていいか?」
「いいよ」
「もしかしてさ、空斗……なのか?」
当たっているのか不安そうな顔をしながら井口が言う。
そして、それの答えはもちろん
「その空斗が
正解だ。俺だって確信がなければついてきてだなんて言わない。雨井と言った時に少しの動揺が見られたからついてきてほしかったのだ。
「やっぱり、そらだったんだな!また会えて嬉しいぜ!って三峰も空だったか。あいつの顔がそらに似てたから、そらかと思ったんだけどなあ」
「俺も嬉しいよ。えーとさ、ソラの顔が俺に似てるのには事情があるというか……それよりなんで雨井まで転生してるわけ?俺がいなくなってから何があったの⁈」
嬉しそうに笑う雨井、いや、井口に俺は問いかける。ここにいるということは彼も俺がいた世界で亡くなりここでまた生を授かったということだろう。
また親友に会うことができたのは感動して涙が出そうなことだが、それとこれとは別だ。雨井になにがあったのかは俺だって知りたい。
「そら、その話はまた今度すっからさ今日はもう帰ろうぜ。三峰も待ってるしな」
「そうだね」
上手くはぐらかされたような気はするけれど、井口ならきっと話してくれると思うから信じて待つとしよう。
俺もこれまでのことを話さないとだな。
帰ったらまとめておこう。
その後、ソラのところに戻り一緒に歩いて家まで帰ったのだった。
今日のことをまとめるなら、入学式とかつての親友に会ったこと、ぐらいだろう。
明日から何が起こるかまた楽しみだ。
この世界は漫画の世界……そのことも頭に入れしっかり生きていくとするか——
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