第3話 異界への扉

志水という名字の人々が次々と消えるという謎の事件。その真相を追い求めていた阿久津理玖と枝野弥生は、志水家に関する古い伝承や全国で起こっている失踪事件を調べ続けていた。だが、現実的な解決策を見つけるどころか、彼らはさらなる不気味な出来事に巻き込まれていった。


ある夜、理玖は仕事中に再び異様な感覚を覚えた。体の奥から何か冷たいものが這い上がってくるような不安感。そして、病院の廊下が異様に静まり返り、まるで空気そのものが重くなったかのように感じた。


その時、突然、彼の目の前に現れたのは、前回消えた志水という患者だった。だが、彼の姿は以前とは違い、何かおぞましいものに変わっていた。体が半透明で、目はどこか空ろで、虚ろな笑みを浮かべている。


「まさか…お前は…?」理玖は恐怖に声が震えた。


志水は何も言わず、ただ静かに理玖を見つめていた。その目には生気がなく、まるで異界から戻ってきたかのようだった。


「戻ってきたのか…?」理玖は息を呑んだが、次の瞬間、志水の体は再び泡のように崩れ、消え去ってしまった。


「何なんだ…これは…」理玖は茫然としながらも、すぐに弥生に連絡を取った。


「弥生、今、また志水を見た。でも…彼はもう、人間じゃなかった…」理玖は震えながら言葉を絞り出す。


「何が起きているの?」弥生もすぐに病院に駆けつけ、二人は再びこの謎に挑むことを決意した。今や、彼らは何か目に見えない大きな力に巻き込まれていることを確信していた。


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次の日、二人は更なる調査を進める中で、ある古い神社が志水家に深く関わっていることを突き止めた。その神社は、かつて志水家の先祖が「異界との門」を封印するために建立された場所だという。そして、志水家の人々が異界に引き戻される現象は、この封印が弱まったためだとされていた。


「これだ…異界との扉が再び開いてしまったんだ」弥生は古い文献を読みながら、震える声で言った。


「じゃあ、僕たちがその扉を閉じれば、この失踪は止められるってことか…?」理玖は半信半疑ながらも、解決の糸口が見えた気がした。


二人は急いでその神社に向かうことにした。山奥の寂れた場所にひっそりと佇むその神社は、長い年月を経て荒れ果て、誰も訪れることのない場所となっていた。


「ここが…志水家の呪いが始まった場所…」弥生はそう呟きながら、神社の中に足を踏み入れた。


二人は奥へ進むと、祭壇の前に異様な気配を感じた。その空間はまるで異世界とつながっているかのような、不気味な静寂に包まれていた。


「これが…異界との扉…」理玖が手を伸ばすと、空気が震えるような感覚が彼の手に伝わった。


突然、神社全体が揺れ始め、地面が裂けるような音が響いた。空間がねじれるように歪み、異界への扉が完全に開こうとしていた。


「やばい…!」理玖と弥生は一瞬で状況の深刻さを理解した。


その時、再び志水の姿が現れた。だが、今回は彼一人ではなかった。消えたはずの志水家の人々が次々と現れ、その顔は異界のものに変わっていた。彼らは無表情で二人を見つめ、ゆっくりと近づいてくる。


「どうすればいいんだ…?」理玖は絶望的な状況に打ちひしがれた。


「封印を、もう一度…!」弥生は必死に古書の中に記された封印の方法を思い出し、祭壇の前で祈りを捧げた。


異界の扉はどんどん広がっていき、二人を飲み込もうとしていた。だが、弥生の祈りが届いた瞬間、扉は一瞬にして閉じ、異界とのつながりが断ち切られた。


その場には、静けさが戻った。


「これで…終わったのか?」理玖は肩で息をしながら呟いた。


弥生も疲れ果てた表情で頷いた。「もう、志水家の人々が異界に引き戻されることはない…」


異界との扉は閉じられ、志水という名字の人々が消える奇妙な事件は、こうして幕を閉じた。だが、二人の心には、異界の存在を垣間見た恐怖が深く刻み込まれていた。


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志水 白鷺(楓賢) @bosanezaki92

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