第2話 広がる恐怖

翌朝、阿久津理玖と枝野弥生は、病院内での不可解な出来事について院長に報告した。志水という患者が突然消えたこと、そしてその瞬間を理玖が目撃したという話。だが、院長は信じられないといった表情を浮かべ、首を横に振った。


「泡のように消えた?そんなバカな話があるか。志水さんが自主的に病院を抜け出したんだろう」と、院長は二人の報告を一蹴した。


「いえ、私たちも信じられませんが、確かに彼は消えました。私も部屋に入って確認しましたが、志水さんの痕跡は何も残っていませんでした」と弥生が落ち着いた声で説明する。


「それでも、そんな不可解な話を警察に持っていくわけにはいかん。混乱を招くだけだ」と、院長はこの件を公にすることを拒んだ。


理玖と弥生はしばらくの間、何もできないままに病院を後にした。だが、二人ともこの奇妙な事件を忘れることはできなかった。志水という名字の人々が全国で消息を絶つという噂は、確かに現実のものだったのだ。


その夜、理玖は帰宅後も不安な気持ちを抱えたまま、インターネットで「志水 消息不明」「志水家の呪い」といったキーワードで情報を探し始めた。検索結果には、全国各地で志水という名字の人々が突然いなくなるという都市伝説が多数出てきた。


「やっぱり、噂は本当だったんだ…」理玖はその事実に恐怖を覚えた。


一方、弥生もまた、志水家に何か秘密があるのではないかと考え、調査を始めていた。彼女は病院の図書室やインターネットを駆使して、志水家についての古い記録や伝承を調べていた。


ある日、彼女は一冊の古書にたどり着く。それは「志水家にまつわる伝承」と題された古びた本で、地方の村に伝わる言い伝えが記されていた。


「志水家はかつて、この世に存在してはならない一族だった。彼らの血筋には、異世界とつながる力が宿っており、その存在は現世のものではない。彼らがこの世に留まることは許されず、時折異界へと引き戻される…」


弥生はこの一節を読んだ瞬間、背筋が凍るのを感じた。


「異界に引き戻される…まさか、本当にそんなことが…」


彼女はすぐに理玖に連絡を取った。二人は再び病院で会い、情報を共有することにした。


「志水家の人々が、異界に引き戻される…」弥生は古書の内容を理玖に伝えた。


「そんな馬鹿げたこと、信じられないけど…でも、現実に彼が消えたのを僕は見たんだ」理玖は困惑しながらも、その可能性を無視することはできなかった。


「それに、この噂、他の病院でも同じような現象が報告されているわ。全国の志水という名字の人々が、同じように消えているの」弥生が見つけた報告書には、志水という名字の患者や住人が謎の失踪を遂げた事例がいくつも載っていた。


「まさか、本当に呪いのようなものが…?」理玖は口を開けて呆然とした。


「呪いというか、異界と現世が交差する場所があるのかもしれない。志水家の人々は、その境界に住んでいて、定期的に引き戻されているんじゃないかしら」と弥生が理論的に説明しようとする。


「じゃあ、これからも志水という名字の人は消え続けるってことか…?」


二人はさらにこの謎を追うべきかどうか考えていたが、次の日、さらなる事件が二人を待っていた。


病院の別の患者、またしても「志水」という名字を持つ人物が突然姿を消したのだ。その瞬間を目撃したわけではなかったが、同じように病室から忽然と姿を消していた。


「もう一人、志水が…?」理玖は呆然とする。


「私たちだけでこの事件を解決するのは無理ね。でも、何が起きているのか、絶対に突き止める必要がある」弥生が強く言い放つ。


二人は次第にこの奇妙な失踪事件に深く巻き込まれていく。志水家にまつわる謎を解き明かすため、さらに調査を進めるが、その先に待っているのは想像を超えた恐怖だった。


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