第8話 ぶっ潰す件

「知らない天井だ……(三回目)」


 俺は夜空を見上げながら呟いた。

 お約束も三回目となるとクドくなってくるな。

 もうやめておくか……?

 いやでも、ここでお約束をやめるのもオタクとしてのプライドが許さない。


「しかし……夜になるまで眠ってしまっていたのか」


 先ほど目を覚ました時は太陽の位置的に昼前くらいだったから、かなりの時間眠ってしまっていたことになる。

 眠すぎて頭が痛い。

 こんな感覚、引きこもっていた時にやることがなさ過ぎて夕方まで惰眠を貪っていた頃以来だ。

 ……いや、つい最近のことだな。

 俺は上半身を起こしてふわぁっと伸びをする。

 どうやらペニカたちは眠っているらしい。

 俺から少し離れたところに毛皮を敷いてその上でペニカとリースは丸まるように眠っていた。


 俺は先ほど彼女たちについていけば強敵に会えるかもしれないと考えたが、やっぱりそれは効率が悪いと思い直していた。

 ペニカたちについて行くくらいなら、一人で行動して手当たり次第魔物や強そうな人間とぶつかった方が効率が良さそうだ。

 そうと決まれば早速行動だ。

 ペニカたちには申し訳ないが、このまま置いて俺は先に行こう――


 そう思い立ち上がった瞬間、俺の心臓にナイフが突き刺さる。


「……いっっってぇ!」


 俺は下を向いて自分の胸を見た。

 うん、ちゃんとナイフが突き刺さってるな。

 だが死なない。

【物理無効】と【毒無効】のせいでHPが一切減らないのだ。

 しかし誰がナイフなんて飛ばしてきたんだろう。

 俺は胸に刺さったナイフを引き抜きながら飛んできた方を見た。

 そこには先ほどの黒ずくめの男たちがいた。

 胸の傷からは血が出てくるが、すぐに巻き戻るように癒えていく。


「なっ……!? B級の魔物ですらも簡単に殺せる毒も塗ってあったんだぞ……!? 何でピンピンしてやがる……ッ!?」


 男たちはそんな俺の様子を見て驚きの声を上げた。

 うん、ペニカたちが起きないようにこいつらを殺す必要があるな。

 彼女たちが起きると絶対俺を引き留めようとしてくるだろうからな。

 そうなったら引き剥がすのが面倒になりそうだ。

 人の頼みを断れない俺は、ペニカたちについてきて欲しいとお願いされたら絶対にダラダラとついていくことになると思う。

 まだ学校に通っていた頃、学級委員の女に『群青君、暇だろうから手伝って?』とお願いされ、俺は一人学級委員の仕事をしていた。

 学級委員でもないし、そもそもその女は何処に行ったという話だが、それはともかく俺はお願い事はなかなか断れない性格なのだ。

 レベリングのためにはペニカたちについて行くことは避けなければならない。


 というわけで、俺は音を立てないように地面を蹴り、一瞬で黒ずくめの男たちに近づいた。


「はっ、速すぎ……ッ!?」


 五人いる男の一人に近づくと、男は驚くように叫んだ。

 しかしその言葉を完全に発しきる前に、俺はナイフを横に薙ぎ彼の喉仏を切り裂いた。

 レベリングに使えない奴を生かしておく価値なんてない。

 それにペニカたちの障害にもなるだろうからな。

 先ほど飯を作ってくれたお礼分の働きぐらいはしてやろう。


「チィッ……!」


 一人殺されたのを見た他の連中は、散り散りになる様に後方に飛んだ。

 う~ん、やっぱりスキル無しで戦うのも面倒だ。

 別に俺は縛りプレイをしたいわけじゃない。

 俺はドMではないからな。

 ステータスと唱え、スキル一覧を素早く開く。

 SPは死ぬほど溜まっているから、スキルは取り放題だった。

 一応、何かレベリングに使えるものはないかとスキル一覧は以前にザッと見ておいたのだ。


++++++++++

・武術スキル

【剣術/SP100】【槍術/SP100】【弓術/SP100】【盾術/SP100】【短剣術/SP100】・・・・・・


・魔術スキル

【火炎魔術/SP150】【雷魔術/SP150】【闇魔術/SP150】【呪術/SP150】・・・・・・


・特殊スキル

【鑑定/SP200】【遠視/SP200】【夜目/SP200】【聴覚向上/SP200】【並行演算/SP200】・・・・・・

++++++++++


 などなど、スキル一覧が現れる。

 俺はその中から、三つスキルを選んで習得した。


 一つは【召喚魔術/SP150】。

 一つは【詠唱省略/SP200】。

 一つは【並行演算/SP200】。


 そして俺のステータスはこうなった。


++++++++++

名 前:群青 空

種 族:人族

称 号:【使命を授かりし転生者】、【妄執に取り憑かれた狂人】


L V:2138

H P:60871

M P:79964


総合戦闘力:7429


S P:5314


・スキル

【召喚魔術Lv10】

【詠唱省略Lv10】

【並行演算Lv10】


・EXスキル

【転生(4/2138)】

【異世界言語理解】


・耐性

【落下無効】

【空腹無効】

【火炎無効】

【物理無効】

【毒無効】

【呪い無効】

【雷属性無効】

【闇属性無効】

【光属性無効】

【死霊属性無効】

++++++++++


 スキルレベルは習得するのに必要なSPの十分の一のSPで1上げられるようになっている。

 だから早速レベル10……マックスまで上げておいた。

 ちなみに俺が今習得したこれらのスキルの効果はこんな感じだ。


【召喚魔術】

説明:魔物を召喚することが出来る魔術スキル。

効果:平伏させた魔物を召喚することが出来る。


【詠唱省略】

説明:詠唱を省略して魔術を行使出来るスキル。

効果:スキルレベルに応じて魔術行使に必要な詠唱が減り、レベル10で完全に無詠唱となる。


【並行演算】

説明:魔術を並行して行使出来るスキル。

効果:スキルレベルに応じた数の魔術を複数並行して行使出来る。レベル10で10個の魔術を並行して行使出来る。


 俺はささっとスキルを習得すると、召喚魔術を4つ使用した。

 召喚するのは以前に【入らずの大森林】で倒したエルダーリッチだ。

 並行演算を使えば、一体しか倒してなくても複数体召喚できるらしい。


 巨大な門が現れる。

 濃厚な死の匂いが周囲に蔓延し始めた。


「なっ、何が起きている……!?」

「何だあの門は……ッ!?」


 男たちが驚く中、その門はぎぎぎっと音を立てながらゆっくりと観音開きに開かれていった。

 紫色の煙が立ち込め、死者の王、この世の死を統べる者、エルダーリッチが門を潜り抜けて登場する。

 カタカタと骨を鳴らし、豪華絢爛なローブを風にはためかせる。

 手に持ったスタッフには、這うように七匹の蛇があしらえられ、その先端には紅色の宝玉が飾られている。


 そして四体のエルダーリッチは同時にスタッフを翳した。

 瞬間、男たちは喉を押さえながら呻き倒れ込んだ。


「が……ッ!? あが……ッ!!」


 声にならない声を上げる。

 どうやらエルダーリッチたちが声を出さないように配慮してくれたらしい。

 優しいところ、あんじゃん。

 そして男たちは簡単に息絶えた。


「よしっ、帰っていいぞ」


 男たちが完全に息絶えたことを確認し、俺がエルダーリッチたちに言うと、彼らはゾロゾロと門の中に帰っていった。

 登場シーンは格好よかったが、帰る時は何かダサいな。

 まあ、そんなことはどうでも良い。

 俺は死体をささっと埋葬すると、いまだ起きていないペニカたちに背を向けて俺は新たなるレベリング相手を求めて旅立つのだった。

 ああ、俺を殺してくれる奴はいないものか……。



   *****



 ペニカたちが目を覚ますと、既にそこにはソラがいなくなっていた。

 最初は川に行って水を飲むか水浴びをしているかと思ったのだが、川にもいない。

 どうやら先に旅立ってしまったみたいだった。


「……ペニカ様」

「そうね。おそらく彼は自分が足手纏いになると思って、私たちの前から姿を消したのだわ」


 リースの言葉にペニカは頷く。

 彼は人のためなら自分の犠牲を厭わない性格をしている。

【無能者】である自分が私たちと一緒にいると足手纏いになると、そう判断したのだろう。

 そのことに気がついていたペニカは、自分の胸の前で拳を握る。


「騎士様……。待っていてください。貴方が住みやすい世界を、私たちが絶対に作ってみせますので。そのためには何としてでも力を手に入れますから、それまで待っていてください」


 決意を新たに、ペニカたちも旅立つ。

 こうして二つのすれ違った思惑が、別々に歩み出すのだった。

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