第5話 レベルが上がらない件
「ふぉぉおおおお! レベルがッ、上がっているッ!」
ブレスの業火に身を焦がし、上がっていくレベルに恋い焦がれながら、俺はそう叫んだ。
瞬く間に消し炭にされた俺は、すぐに光に包まれて復活する。
もちろん死ぬほど痛いのだが、それこそがレベルアップの実感だと思えば全然耐えられた。
「もう一度、もう一度頼むッ!」
かれこれ二週間は同じ生活を送っているだろうか。
ブレスに焼かれ、爪に切り裂かれ、相当レベルが上がっていた。
ドラゴンも睡眠を取るらしいので、寝ずにずっとは出来なかったが、まあまあ満足のいく生活ができていると思う。
「もう我、ブレス出したくない……」
俺が更なるブレスを所望すると、ドラゴンは心底疲れた様子でそう呟いた。
だがそれは困る。
せっかく調子よくレベル上げができていたのだ。
いちいち崖上に登り直す必要もないので、このレベリングは効率が良く、かなり短期間でレベルが上がっていっている。
ここで止められたら、俺はこの溢れんばかりの衝動を抑えられなくなるかもしれない。
「ちょ、頼むって! もう少し、もう少しだけだから!」
「さっきももう少しって言ってたやろがい! はあ……やっぱり関わるべきじゃなかったのだ。だが、自ら死ににくるような奴をどう追い返せば良いのやら……誰か我に教えてくれないか……」
心の底からウンザリしたような声を出すドラゴン。
途中からモソモソしてて聞き取りにくかったが、いずれにせよ働かせすぎたかもしれない。
俺にだって多少は人の心はある。
いくらレベリング第一主義者だとしても、これ以上は迷惑はかけられないか。
「……むう、わかった。それじゃあ少しばかり休憩を取るか」
「本当か!? それはすっっごく助かるぞッ!」
渋々俺がそう言うと、ドラゴンは俯き加減の顔を上げ、いきなり瞳をキラキラさせ始めた。
……この様子なら、まだいけるんじゃないか?
ほんの少しそう思ってしまったが、まあ先ほどのウンザリした様子も本気っぽかったし仕方ないか。
俺はドラゴンのブレスで削れまくった地面に腰を下ろし、周辺の情報収集を始めた。
「てかこの辺りにレベル上げに良さそうなスポットってあるか?」
「ふむ、レベル上げスポットか……。この辺りであれば、溶岩湖と毒沼、雷獣の住処とかがあるな」
おお!
溶岩湖に毒沼か!
それは確かにレベル上げしやすそうだ!
しかも雷獣とな!
思わず目を輝かせると、ドラゴンは俺に一つ提案してきた。
「もし我に今後一切ブレスを所望しないと誓ってくれるのであれば、我の背に乗せて運んでやってもいいぞ」
「マジで!?」
この森、広すぎると思ってたところなんだよな。
各スポットに移動していくのでさえ相当時間が掛かりそうなところを、ひとっ飛び出来るのであれば……。
かなりの時間短縮になりそうではある。
それでもブレスの威力は何にも耐えがたいものなのだが……さてどうしたものか。
++++++++++
名 前:群青 空
種 族:人族
称 号:【使命を授かりし転生者】、【妄執に取り憑かれた狂人】
L V:531
H P:14786
M P:19894
総合戦闘力:1853
S P:1593
・スキル
なし
・EXスキル
【転生(22/531)】
【異世界言語理解】
・耐性
【落下無効】
【空腹無効】
【火炎耐性LV9】
【物理耐性LV9】
++++++++++
どうやらドラゴンブレスは火炎属性みたいで、火炎耐性がみるみる上がっていっている。
そしてふと思ったのだが、火炎属性であれば、もしかすると溶岩湖でブレスの代用が出来るかもしれない。
まあ俺の上がりまくっている防御力を溶岩湖が貫通してくれないと意味ないので、賭けにはなるのだが。
う〜む、悩みどころだ。
ここでブレスを諦めて足を手に入れるか、安全にブレスで焼き尽くしてもらうか。
結局は溶岩の威力に掛かっているってことか……。
腕を組んでしばし考え、俺は決断した。
「ヨシ、決めた! もうブレスは頼まないから、その代わりその背中に乗せてくれ!」
「おおっ! 本当か! 本当にもうブレスは吐かなくていいのか!」
俺の言葉にドラゴンは嬉しそうに大声を上げる。
こうして利害が一致した俺らは、この【入らずの大森林】を飛び回り、ひたすらにレベルを上げまくるのだった。
*****
「ああッ、レベルが、レベルが上げられない……ッ!」
あれから半年後。
俺はエルダーリッチの死霊魔法を受けながらも膝をついて絶望していた。
溶岩湖を泳ぎ回り、毒沼に沈み続け、雷獣の雷に打たれ、竜巻に巻き込まれ……。
様々な方法でレベル上げを行ってきたが、流石に頭打ちを感じまくっていた。
++++++++++
名 前:群青 空
種 族:人族
称 号:【使命を授かりし転生者】、【妄執に取り憑かれた狂人】
L V:2138
H P:60871
M P:79964
総合戦闘力:7429
S P:6414
・スキル
なし
・EXスキル
【転生(4/2138)】
【異世界言語理解】
・耐性
【落下無効】
【空腹無効】
【火炎無効】
【物理無効】
【毒無効】
【呪い無効】
【雷属性無効】
【闇属性無効】
【光属性無効】
【死霊属性無効】
++++++++++
とうとう最後の砦だった死霊属性耐性も見事カンストし、無効となってしまった。
これ以上、どうやって俺にダメージを与えろと?
防御力も上がりまくってるから、生半可な攻撃じゃ一切通らないし。
試しにこの間雷獣を殴ってみたところ、スキルがなくてもワンパンで倒せたのだが、入ってきた経験値は1000だった。
流石にこれには俺も驚いたね。
あんなに大きくて強そうなのでも経験値1000って。
こちとら1レベ上げるのに10万近くかかるんやぞ!
あんなのがこの世界にゴロゴロいるとは思えんし、リソースが足りないリソースが!
ゲームバランス崩壊ってレベルじゃねぇぞ!
カンストさせる気あるのかゴラァ!
「ああもう……本当にどうすればいいんだ……」
膝をつき、打ちひしがれていると、ドラゴンがエルダーリッチをブレスで吹き飛ばしながら慰めてきた。
「……まあまあ、そう落ち込むでない。もしかすると森から出れば他にも色々あるかもしれぬ。人間は知恵もあるし、成長が早い。我でも知らない魔法を作り上げている可能性だってある。我は久方この森から出ていないからな。旅をしてみるのもありやもしれぬぞ。……そして一生この森に帰ってこないでほしい」
最後は声が小さくてなんて言ったのか聞き取れなかったが、確かにドラゴンの言うとおりかもしれない。
この森で引きこもり続けても頭打ちは免れない。
それに人間の成長力は前世の進んだ科学を見ていればよくわかる。
彼らが新しい属性の魔法を作り上げている可能性だって大いにあるのだ。
「そうだな、そうだよな……! いつまでも落ち込んでいたって仕方がないよな! ヨシ決めた! ドラゴンくん、早速俺を森の外まで運んでくれ!」
「おおっ! ようやく人里に行ってくれるか! ああ、ようやく解放される! ——うむ、すぐに運んでやろう、今すぐに運んでやろう! 一生戻ってくるなよ! 絶対だぞ!」
そうして何故かノリノリのドラゴンの背に乗り、俺は転生して初めて、この【入らずの大森林】から出ることとなるのだった。
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