第2話 勘違いされてた件
「知らない天井だ……」
目が覚め、木々の葉の隙間から見える青空を眺めながらそう呟いた。
オタクたるもの、最低限お約束を踏襲するのはマナーである。
転生して最初にこの言葉を発さないのは、スパゲッティを豪快に啜ってタレを撒き散らしながら食べるのと同じくらいマナー違反だ。
ほら、確か青空天井って言葉もあったはずだし、状況的に間違いではない……はず。
……うん、問題ない。
どんな意味なのかはもちろん知らないが、おそらく青空の下に転生した時でもお約束を守れるように作られた言葉なのだろう。
とと、最低限のマナーは守ったので、早速ステータスの確認といこう。
周囲の確認をまずすべきなのだろうが、この俺がステータスの欲求に勝てるわけがない。
そんな自制心を持っているのなら、俺はニートなんかになってなかったはずだ。
他人に甘く、自分にはもっと甘く、欲望と好奇心の赴くままに生き続ける。
それが俺の人生のモットーだ、説教やお小言は受け付けん。
たまにふと我に返って自分の人生を後悔してるんだから、それで許して欲しいところだ。
まあそんな俺の同人誌よりも薄いモットーはどうでもよくて、今は女神様(仮)から頂いたステータスとスキルの確認をせねば。
さて、こういう時はステータスと口にすれば、大抵は目の前に半透明のウィンドウが現れるはず。
「ステータス! ──おおっ、本当に現れた!」
俺が意気揚々と唱えると、思った通りステータスの記載されたウィンドウが現れた。
転生チートによるその圧倒的ステータスの値を眺めながら俺は唸っていた。
ふむ、なるほど、流石は転生チートだ、これはすごい……かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
……いや、すごくないかも。
うん、やっぱりどう考えてもすごくなさそう。
他の人のステータスがわからないから比較対象がなくて、この値がすごいかどうかもわからないが、どこからどう見ても、何度確認してみても、別に優れた点はなさそうに思える。
++++++++++
名 前:群青 空
種 族:人族
称 号:【使命を授かりし転生者】
L V:1
H P:27
M P:31
総合戦闘力:7
S P:0
・スキル
なし
・EXスキル
【転生(0/1)】
【異世界言語理解】
・耐性
なし
++++++++++
ま、まあ、ステータス値はこの際どうでもいい。
もしかしたら成長率がすごい系で、将来が楽しみ系男子かもしれないし。
どうせレベルが上がればステータス値も上がるわけだし。
最初から無敵ステータスでどんな魔物でもワンパンとか、やっぱりつまらないと思うし。
ともかく、各項目についてもう少し詳細に見ていこう。
どうやらウィンドウの項目の部分とタップすると詳細画面が現れるっぽいからな。
【使命を授かりし転生者】
説明:神々に連なる者から使命を授かって転生してきた者に与えられる称号。
効果:使命に関するイベント発生時、関連するステータス項目が通常の十倍となる。
じゅ、十倍!?
それはすごい。
これぞまさしく転生チート。
……って、そういえば使命ってなんだ?
あの女神様に何かして欲しいって頼まれたっけ?
うーん……全く思い出せん!
まあ、俺が思い出せないってことは、使命は伝えられていないのだろう。
そうなると伝え忘れた女神様が悪いので、俺は悪くない。
使命については今は考えないようにしよう、うん、それがいい。
さて、続いて気になるのはEXスキルの欄だな。
異世界言語理解はわかるが、この転生ってなんだろう。
もしかしてこれが『死ぬほどレベルが上がるスキル』なのだろうか?
ともかく詳細を確かめてみよう。
【転生(0/1)】
説明:死ねば死ぬほどレベルが上がるスキル。
効果1:死ぬたびに死亡回数がカウントされ、それが規定回数を超えると強制的にレベルアップが行われる。
効果2:このスキルがある限り、スキル所有者の死亡が確認される同時に復活が行われる。
……ん?
……んん??
思わず目を擦って説明欄を見直すが、記載内容は変わらず。
ウィンドウがバクったのかと思って一旦閉じて開き直すが、それでも変わらず。
うーん、なんか思ってたの違う……。
こう、経験値百倍! 敵を倒せば即レベルアップ!
みたいな単純明快なのを求めたつもりなんだが……。
なんでこう、物騒なスキルになってしまったのか。
先ほど女神様と交わした会話を思い返してみる。
『死ぬほどレベルが上がるスキルが欲しいです!』
ふむ……死ぬほど、死ぬほどね……。
なるほど……さっぱり意味がわから──
……はっ!? もしかして!
死ぬほどって言葉を、女神様は『ものすごく』って意味で捉えなかったのでは!?
そのまま言葉通り、『死ねば死ぬほど』って意味で捉えてしまったのでは!?
だからスキルの説明が『死ねば死ぬほどレベルが上がるスキル』になっているのでは!?
な、なんてこったい……。
確かにスキルを決めた時に女神様が困惑していた気がするが。
意思疎通って難しいなぁ……(遠い目)。
しかし落ち込んでいる場合ではない。
よくよく説明を読んでみると、規定回数死ねば強制的にレベルアップが行われると書いてある。
つまりレベルアップするのに経験値が必要ないということだ。
この世界の魔物の平均経験値が100だとすると、レベルカンストはかなり遠い。
この規定回数にもよるが、ちまちま魔物を探して狩り続けるよりかはよっぽど楽なのでは?
そう考えると少しばかりの経験値アップよりも圧倒的に効率が良さそうである。
「よしっ! そうなれば早速試してみるしかない!」
俺は意気揚々とステータス画面を閉じ、辺りを見渡す。
そこでようやく自分の置かれている現状を確認し、思わず眉を顰めて腕を組んでしまった。
「うむ! 辺り一面森の中! どこへ向かえばいいんだ!」
魔物の気配もないし、そもそも生物の気配すらない。
右も左も、前も後ろも、ただひたすらに森が広がっているだけ。
スキルを確かめることもできなさそうなほど、何にもない。
だがこういうのは考えても仕方がないのだ。
情報が足りなくてどこの方面も同じに見えるなら、考えるだけ無駄だということ。
学校でも塾でもイジメられ、家にも居場所がなくて人生の路頭に迷った時も、結局考えるだけ無駄だった。
だから直感を信じ、一歩踏み出すことが大事なのだ。
……まあ、そうやって一歩踏み出した人生の先には、ヒキニート(母親特効:強)が待っていたわけだが。
「さて、いざゆかん!」
そうして俺は右手に進んだ。
決してどこぞのク◯タ族の生き残りの法則が頭の隅に掠めたわけではない。
これは俺の直感だ、俺の選択なんだ。
そう信じながら歩き出して一時間半後、高さ60メートルはありそうな断崖絶壁にたどり着くのだった。
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