死ぬほどレベルアップな件~死ぬたびにレベルが上がるので積極的にレベル上げしていたら、なぜか身を挺して助けたことになっていた美少女たちが過保護になってて困ってます~
AteRa
序章:入らずの大森林
第1話 転生した件
「おはようございます、
目が覚めると真っ白な空間の中にいた。
目の前には全身を覆うほどの長いピンク髪を煌めかせている女性がいる。
……ふむ。
さっきまで家で最新RPGのレベルカンストRTAを勤しんでいたはずだが。
レベルカンストRTAとは、どれだけ早くレベルをカンストできるかといったタイムを競う競技で、一昨日に永遠のライバル『ぶっちゅー♡の』にタイムを抜かされ、更新してやろうとチャートを組んだところだった。
だというのに、なぜこんなところに?
俺は思わず首を傾げると、目の前の女がドヤ顔でこちらを見てきた。
「ふふっ、さぞ混乱しているところでしょう。でも大丈夫です! 安心してください! なぜなら貴方は今から転生するのですから!」
何が大丈夫なのか。
どこに安心する要素があるのか。
頭のおかしい女に、俺は相手する時間が無駄だと感じ気のない返事をする。
「はあ……」
「知っていますよ! ニッポンのオタクという人種は異世界に転生するのが好きなのですよね? しかもこんな美しいわたしに呼び出され、実は内心嬉しくて小躍りしてるんですよね?」
何やら彼女はオタクというものを勘違いしているみたいなので、俺はやれやれと首を振って説明してあげる。
「はあ……わかってないな、アンタ」
「わ、わかってない、ですって!? 何がわかってないというのです!」
呆れたように肩をすくめていうと、女はいきなり顔を真っ赤にして怒り出した。
もしやこいつ、オタク趣味にも理解ありますよとアピールして自分の優しさを演出してくる姫プ系女子か?
ちょっと煽られただけで簡単に激昂するようなこのプライドの高さは、間違いなく彼女がオタク系女子ではないことを示していた。
真のオタク系女子ならもっと卑屈な態度を取るし、天邪鬼的な持論を振り翳してくるはずだ。
ってことは、やはりオタクのフリをした陽キャ。
そんな女に説明するだけ無駄だと思ったが、オタクというのは持論を振り回してなんぼ。
ここは求められてもいない崇高なオタク論を語ろうじゃないか。
「ふっ……。オタクについてわかってないというのだよ。そもそもオタクには大きく分けて三種類いる。『美少女ペロペロ勢』『技術どやぁぁ勢』『知識こそ至高、ルーツを辿り深淵なる真実へ辿り着くことこそが我が
通常の三倍の速度で説明し終わった俺は、額の汗を拭う。
身勝手な達成感に酔いしれていると、女はポカンとした表情で惚けていた。
「は、はあ……」
気の抜けた返事しか返ってこない。
やはり陽キャ女には早い話題だったか。
そう思って様子を眺めていたら、徐々に表情が抜けていき、そのままドヤ顔に速やかに移行していった。
「……ふふっ、さぞ混乱しているところでしょう。でも大丈夫です! 安心してください! なぜなら貴方は今から転生するのですから!」
先ほどまでの会話は無かったことになったらしい。
しかしこれでも俺はオタクの中でもコミュ力はあるほうだ(オタク内でも醜いマウントの取り合いは存在し、みんな心のどこかでこんなオタクたちよりかは劣ってないと考えているが、陽キャから見ると五十歩百歩であることを本人たちは知らない)。
そして必要最低限のコミュ力がある俺は、女が都合の悪いことをスルーした時にはわざわざ触れないほうがいいという類稀な会話テクニックを持っている。
ちなみにこれはゲームのストーリーで学んだテクニックであり、実践で使うのは初だったりする。
「てか転生って、やっぱり剣と魔法の異世界なのか?」
他のオタクたちでは持ち得ない圧倒的コミュ力でスルーした俺は、さらなる会話テクニック『話題転換』を利用しスムーズに話を繋いでいく。
俺の問いを聞いた女はわざとらしくニヤリと笑みを浮かべ、腕を組んだ。
「ふふふっ、よくぞ聞いてくれました! そう、これから貴方が転生するのは、剣と魔法があり、スキルやステータスの存在する、ハーレムを築くにはとっても都合のいいゲームのような世界なのです!」
俺はその説明を聞いて思わず目を輝かせた。
スキルやステータスだと!
ゲームのような世界だと!
生粋の『技術どやぁぁ勢』であり、自称チャートの鬼、自称冷徹の効率厨でもある俺にとって、とても都合のよさそうな世界じゃないか!
ハーレムを築くって点には全く興味がないが、最速でレベルをカンストさせることには興味がある。
「すっ、素晴らしい世界だ……」
うわ言のように呟いてしまう。
これは夢なのか?
本当にそんな都合のいい世界があっていいのか?
喜びと興奮で手足が震えてくるのがわかる。
「そんなに喜んでもらえるなんて、わたしもとても嬉しくなっちゃいます」
にっこりと慈悲深い笑みを浮かべる女。
いや……女ではない、この人は、この女性は女神様だ!
我らが効率厨に新しい未知の世界を示してくれるとは!
この女神様は慈悲深い笑みを浮かべたまま、さらに俺を喜ばしてくれた。
「その異世界は貴方に都合のいい世界ですからね。都合のいいスキルを一つ授けたりするのも、まさしく都合のいい展開でしょう」
「おおっ! それはすごい! 本当に都合がいい!」
思わず両手を上げて喜んでしまった。
流石に自分の仕草が子供っぽすぎてすぐに下ろしたが、この喜びは何にも変えられない。
そして俺は一瞬で思考し今自分のやるべきことを纏めると、女神様にいくつかの質問を投げかけてもいいか確認を取ることにした。
ちなみにいつの間にか敬意に溢れ言葉遣いが丁寧になってしまうが、それは仕方がないことだろう。
「ええと……ステータスに関していくつか質問したいんですけど、大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ」
侮蔑の視線で見られがちな効率大好きオタクくんであるこの俺にも慈悲深く接してくれる女神様。
俺の卑しい要求にも寛大な心で頷いてくれた。
ああ、他人にこの趣味を認められ、あまつさえ好きなだけレベルカンストを志すのに都合のいい世界を用意してくれるなんて、そんな幸せがあってもいいのだろうか?
いや、ない(断言)。
だからこそ、この幸せを逃さないように俺は慎重に異世界のステータスを読み解いていく。
「まずは……レベルのカンスト値っていくつでしょうか?」
「レベルのカンストは9999となっているわ」
「なるほど。それじゃあ、9999にするにはどれだけ経験値が必要なんでしょう?」
「うーんと、約十億ってとこかしらね」
十億か。
桁は大きいが、魔物やらを倒した時に入る経験値も大きければ相対的に楽になる。
つまり経験値の総量は魔物から得られる経験値によるのだ。
「それと、魔物の経験値の大まかな平均値なんかも教えてもらえれば……」
「もちろん。平均値でしょ。それはね、ちょっと待ってね……うん、大体100ってところかしら」
ひゃ、百だと……。
百万体の魔物を倒さないとカンストしないわけで、毎日十体の魔物を倒し続けても二七〇年以上かかる。
外れ値もあるだろうし弱い魔物ほど数が多いだろうから、そう順調に経験値が集まるとも思えない。
……それだとカンストを目指すには、もらえるスキルがやっぱり重要になりそうだ。
アイデアとしては、もらえる経験値が増えるスキルとか、逆に必要経験値が減るスキルとかかな。
寿命を延ばしてカンストを目指すのは効率厨ではないし、強力な魔法スキルとかをもらっても絶対どこかで頭打ちになる。
しかしこの女神様がどこまで許してくれるかがわからないのが痛い。
都合のいいスキルを与えると言っているが、例えば経験値を一千万倍するスキルをもらえれば一日でカンストできてしまうし、それは世界のバランス崩壊を招くことになる。
この女神様がどういった意図で俺を転生させるのかがわからない以上、迂闊なことを言って転生を無かったことにされるのが一番まずい。
ってことで、俺は女神様に判断を任せることにした。
「いただきたいスキルが決まりました」
真面目な表情をして俺は言う。
ニコニコと慈悲深い笑みを浮かべ続ける女神様に、俺は堂々と言い放った。
「死ぬほどレベルが上がるスキルが欲しいです!」
そう。
俺はわざと曖昧な表現を使うことで女神様の采配に任せることにしたのだ。
例えば一千万倍の経験値をもらえるスキルが欲しいと言えば、過剰だと判断され欲深さゆえに転生取り消しになってしまうかもしれないが、死ぬほどという曖昧な表現を使うことで女神様の価値観に委ねることとなり、その中で最上の倍値にしてくれるだろう。
これで勝つる。
俺はそう確信していたが、女神様は困ったような表情を浮かべていた。
「……ええと、あの、本当にそれでいいのですか?」
「はい! 問題ありません!」
「そっ、そうですか……。まあそれでいいのなら、わたしは何も言いませんが……」
何やら含むような口調だが、俺の考えに間違いはないはず。
……ないよな?
……うん、ないはず、ないはずだ。
少し不安になるが、俺は自信を持ってもう一度頷いた。
「それで大丈夫です! 何かあっても文句は言いませんよ!」
俺がそこまで言うと、女神様は納得したように再び慈悲深い笑みを浮かべ直した。
「ふふっ、群青空さんには何やら考えがあるようですね。それではそのスキルを与え、転生させますがよろしいですか?」
「はい、お願いします!」
女神様の問いに元気よく頷くと、俺の足元に魔法陣が出現する。
それが発光し始め、俺を眩い光で包み込んでいった。
「それでは群青空さん。都合のいい世界でたくさん女の子を救って、是非ともハーレムを築いていってくださいね」
先ほどとは違った色気のある妖艶な笑みを浮かべた女性のその言葉は、直前に意識が途絶えてしまった俺には届かないのだった。
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