第9話 勢いで乗り切る!
勢いで押し切ろうと奮い立ったその時。
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおん』
大きい黒犬が再度の雄叫びをあげた。
2回目だけど全然慣れないし、ぞわぞわがする。
思わず足を止めれば、先ほどと同じように無数の小さな黒犬がどこからとも湧いてきた。
数は優劣が入れ替わった。
けど、ここで動揺すれば勝てる物も勝てなくなる!
絶対に負けない!と気合を入れ直して近くの子犬を斬り捨てた。実際には斬ってないけど。
やっぱあのデカいのを叩かないとだめか。
方向転換し、大きいやつを目指そうとするが子犬の数が多すぎる。
大きく剣を振り下ろし、子犬たちを消し去る。
地道だがこうやって敵の数を削っていくしかないのか。地道すぎるけど!
大きい黒犬はそんな私の様子を見ながらも空を仰いだ。
また子犬を呼ぶかのか、とあの奇声に身構えかけて――あれ、違う?
嫌な予感がした。
同時に、私が剣を握りしめて構えると、大きい黒犬の目が私をとらえる。
何が――と考えるより先に、大犬が「ううううう」と歌うような唸り声をあげた。
同時に口を開き、口から青い炎っぽい物を吐き出す。
そういうブレス的なのも使うの!?
こちらに向かってくるブレスをしっかりと見て、手にした剣で薙ぎ払った。
あっけなく青い炎は消え去る。
斬れそうな気がしたけど、炎まで消しちゃうなんてこの剣どうなってんの?
大犬は悔しそうにその場で地団駄を踏んで、もういちど大きく息を吸った。ちょ、待って――!
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおん』
ブレスが通じなくてざまあとか思ってごめん! でも仲間は増やさないで!
懇願しながらも雄叫びの悍ましい感じを耐えきる。
はい! 増えた! 子犬がわらわらやってきちゃったよお!
少しでも数を減らそうと増えた子犬との距離を詰めて、剣を振るう。が、これ結構しんどいかもしれない。
そう考えて少しヒヤッとしたものを覚えた。
負ける気なんてさらさらない。だけど、かなりの消耗戦になる。そのつもりで戦わないと。体力が尽きたらアウトだ。
何にしろ、この数って。とにかく鬱陶しい。
手近にいた子犬に剣をたたきつけるように消滅させる。
まだ一匹。
一歩踏み込んで大きく剣を横に薙ぐ。二匹まとめて消して合計三匹。数は減らしているけど、減ってる気がしない!
でも数は確実に減ってる。
村人のみんなも頑張ってるし、私だってまだまだ行ける!
次の子犬に向かって足を踏み出したその時、村人に飛びかかろうとしていた子犬が横から飛んできた何かに当たり吹っ飛んだ。
なっ――何、今の!?
驚きはしたけど手と足を止めるわけにはいかない。
大きく一歩踏み込んで、子犬を斬りつけ、もう一歩踏み込んでもう一撃を別の子犬に与える。
更に、大犬が再び放ってきた炎のブレスを大きく跳躍しぶった切ると、着地しながらも周囲の子犬を突き刺し、半回転する勢いを使って大きく横に薙いで葬り去っていく。
次から次へと消滅させていく様が虐殺者っぽくってあんまり後味はよくない。でもやらなきゃやられる。
先ほど子犬に当たった何かが、再び近くにいた子犬に飛んできて当たった。
きゃうんと悲鳴を上げて子犬の一匹が消え去る。
今のって、なんか炎の玉みたいだったけど。大きな犬が放つ青い奴じゃなくて、赤い火。温度が低いんだよね、確か。赤い方が。
「みなさん、下がってください」
そんなどうでもいい化学知識を思い出しながら次々と子犬を消す作業を続けていたら、周囲に凛とした声が響き渡った。
声がした方を反射的に見やればケティと同じ白装束の集団の姿があった。
あの白装束って、神殿の人だよね? ひょっとして追ってきた?
逆らうつもりもなく、下がれという指示に従い、ケティの横まで戦線を脱すれば、ケティはケティで何だか顔色が悪かった。
「ケティ?」
ケティが小刻みに震えていることに気づいて声をかけるが、ケティは私の声など耳に入っていない様子である。
神殿の人らしい集団を凝視してるみたいだけど、やっぱり見つかっちゃうのは不味いんだよねえ?
白装束集団の先頭にいた人が何やらぶつぶつと言いながら、地面にとんっと手を打ち付けた。
すると、その人からと大きい黒犬の間に、無数の透明で大きい棘のようなもの勢いよく生えてきて黒小犬たちを突き刺していく。
その棘はまるで道。蛇行した道みたいだ。これも魔法?
「わ、すごい!」
知らず知らずのうちに感嘆の声を上げていた。
辺りに漂うひんやりとした空気。
あの棘は氷の棘なのかも? そんなことを考えている間にも、棘に貫かれた子犬たちが空気に溶けていった。
一拍の間を置いて、氷の棘も掻き消えるように消え失せる。残ったのは大きな黒犬まで続く道。
今ならいける! と反射的にその道へと足を踏み出していた。
「ユ、ユエ!?」
大丈夫、多分やれるでしょ! 驚いたような声をあげるケティに心の中だけで応えて駆け出す。
ケティの魔法のおかげで体が軽い。
瞬く間に大きな黒犬の元へたどり着き、走ってきた勢いを止めることなく、剣を真っ直ぐ構えて身体ごと大犬へと突き刺す。
腕を伸ばし首を突く剣道とは違い、体当たりに近い突きだ。
子犬と同様、剣に触れた瞬間消えていくかと思ったのに、手ごたえがある。
突き刺した剣を引き抜き、もう一度ダメ押しのように剣を振り上げると脳天目掛けて振り下ろした。
まだ足りないのかっ! と次の一撃畳みかけようとした時、ようやく黒犬の体が剣に触れた場所から空気に溶けるように消滅していった。
埃が風に散っていくように、黒犬はあっという間に崩れて消えた。
大きいのがが消えれば子犬たちも静かにその場で消え失せていき――そうして魔物は全ていなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます