第63話 困ったら妹へとすぐ相談
「……で、デートかぁ。」
部屋に戻り、ベッドに寝転がりながら俺はぼんやりと天井を見つめていた。
水瀬に「土曜日、どこか遊びに行こう」と誘った時は、何とか冷静を装っていたけど、今になってその重みが一気に押し寄せてきた。
「これって……デートだよな。」
今さらながら、その事実に戸惑いを感じる。友達として気軽に遊びに行くのとは違う。
水瀬にとっても、このデートはどう受け取られているのか気になるところだ。
でも、いざデートとなると、どうすればいいのか全く分からない。何を着ていくべきなのか、どんな会話をすればいいのか──。
「……やばい、全然準備できてない。」
焦りが募る中、ふと妹の光莉の存在を思い出した。そうだ、こういう時こそ、頼りになるのは彼女だ。
「光莉、ちょっといいか?」
自分の部屋を出て、光莉の部屋をノックする。
中から「どうしたの?」という声が返ってきたので、俺はドアを開けた。光莉はベッドに寝転びながらスマホをいじっていたが、俺を見ると目を細めた。
「なんか顔が真剣だね。もしかして、例のデートの話?」
俺が驚いた顔をすると、光莉は笑いながらスマホを置いてベッドから起き上がった。
「お兄ちゃんの行動パターン、だいたい読めるんだから。デートのことで悩んでるんでしょ?」
「……まあ、そんなところだ。」
俺は少し照れくさそうに頷きながら、光莉の向かいに座った。
「で、どこに行くの?」
光莉は興味津々に身を乗り出してきた。俺はまだ詳細を決めていなかったので、正直に言った。
「場所はまだ決めてないんだ。とりあえずデートに誘うことはできたんだけど、今になって何を着ればいいのかも分からなくて……」
そう言いながら、俺は服装のことを考え始めた。
普段の服装はそこまで気にしていなかったけど、デートとなるとやっぱり相手に与える印象が違ってくるはずだ。
「なるほどねー。じゃあ、まず服選びから始めようか?」
光莉はそう言って、すぐにクローゼットの方に向かった。
「さすが妹。頼りになるな。」
俺が軽く感謝すると、光莉は得意げに笑った。
「まあね!それじゃあ、まずはいつも着てる服をチェックしよっか。うーん、どれどれ……」
光莉は俺のクローゼットを開け、ざっと服を見渡した。しばらくして、彼女は手を止め、少し渋い顔をした。
「お兄ちゃん、ちょっといつもシンプル過ぎない?デートなら、もうちょっとカジュアルでおしゃれな感じがいいんじゃない?」
そう言いながら、彼女はいくつかの服を手に取って合わせ始めた。
「これなんかどう?白のシャツとジャケットの組み合わせとか。あと、このパンツは……うん、これがいいかな!」
光莉はすぐに服をコーディネートし始め、あれこれと提案してくれる。
俺は少し戸惑いながらも、彼女のセンスに任せることにした。
「これなら、カジュアルだけど、ちゃんと清潔感もあっていい感じだと思う!」
彼女が最終的に選んだコーディネートを見て、俺も悪くないと思った。普段とは少し違うスタイルだけど、確かにデート向きだ。
「いい感じだな。ありがとう、光莉。」
「次は、デートプランだよね。」
光莉は再びベッドに戻りながら、スマホをいじり始めた。
「お兄ちゃん、どこ行くのかは決まってる?」
「いや、それがまだ決まってなくて……どこがいいと思う?」
光莉は少し考えた後、スマホの画面を俺に見せてきた。
「これ、ショッピングモールに新しくできた映画館とかどう?映画なら会話に困ることも少ないし、あとで感想を話したりできるから、お兄ちゃんみたいな恋愛初心者にはいいと思うよ!」
映画か──確かに、会話のきっかけにもなるし、難易度も低そうだ。
「それ、いいかもな。映画見て、その後に軽く食事って感じにしようかな。」
俺は光莉の提案に乗ることにした。映画と食事なら、確かに緊張しすぎずに過ごせそうだ。
「よし、これでデートの準備はほぼ完了だね!」
光莉は満足そうに頷いた。俺も、ようやく少しデートのイメージがつかめてきた。
「ありがとう、光莉。ほんと助かったよ。」
「いいって、家族なんだから当然でしょ。でもさ……」
光莉は少し表情を緩め、俺をじっと見つめた。
「お兄ちゃん、初デートだからってあんまり緊張しすぎないでね。水瀬さんもきっと楽しみにしてると思うから、あんまり気張らずに、自然体でいけばいいんじゃない?」
その言葉に、俺は少しだけ緊張がほぐれた。
「そうだな……自然体でいくよ。」
光莉のアドバイスを胸に、俺はデート当日に向けて気持ちを落ち着けることにした。
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